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作品紹介

第59回

帰ってきたガンマン

執筆者:   2013 年 12 月 7 日

「あの男が帰ってくる!」 もうそれだけで狂喜乱舞した思春期を思い出し、似合わない甘酸っぱい感傷に浸る編集の私ですが、なにか?

tittleコミックに限らず映画やTVドラマなどでも、人気シリーズではよく本編の後日談・番外編が描かれることがあります。
数多くのヒット作を世に送り出してきた望月作品も例外ではなく、「ワイルド7」であれば「優しい鷲」「ROSEⅤ」があり、「ムサシ」なら以前このコーナーでも取り上げられた「大追跡」といった具合です。
あるいは「サムライ教師ボギー」の頼近先生や、「へい、お町!!」に登場した節忠庵のあの親子のその後が描かれた作品など、ヒットシリーズにはいくつもの読切番外編が存在します。
今回はそんな中から、とびきりの一編を取り上げてみたいと思います。

ただ、これら番外編の中には、タイトルで堂々と「××外伝」とうたわずに『どこかの街で地元の争いに巻き込まれた見知らぬ男が、予想もつかない実力を発揮して事件解決に多大な貢献をして、最後に去っていく場面で素性を聞かれたときに初めて名前を明かし、実は我々が愛したあのキャラクターだった、と判明する』といった作品があり、ある意味大オチとして外伝であること自体が伏せられているので、ファンがその存在に気付いてないケースがあります。
また、これらはいずれも本編の連載終了後に読切作品として発表され、シリーズ単行本に収録されることがないため、ますます出会うことが難しい作品となっています。

★読切番外編
タイトル 掲載誌 収録 オリジナル
(連載期間)
大追跡 1969 64 デラックス少年サンデー 若木書房「突撃ラーメン」(2)
双葉社「突撃ラーメン」(2)
ホーム社「秘密探偵JA」(13)
ムサシ
(1962~1963)
帰ってきた
ガンマン
1971 33 別冊少年キング 双葉社DX版「バラの戦士」(3)
少年画報社「HALMAN」(2)
ぶんか社「秘密探偵JA」(9)
秘密探偵JA
(1965~1969)
ワイルド7外伝
優しい鷲
1980 50 週刊少年キング 少年画報社「優しい鷲JJ」(7)
徳間書店「新ワイルド7」(1)
ぶんか社「新ワイルド7」(1)
ワイルド7
(1969~1979)
サムライ教師
外伝
アラブ嵐ボギー
1982 31 週刊プレイボーイ 東京三世社「マッド・ドッグ」
徳間書店「新ワイルド7」総集編(4)
サムライ教師ボギー
(1981)
佃島トラべル 1993 32 ビッグゴールド へい、お町!!
(1975~1977)
ROSE V
(ロゼ サンク)
2001 50 別冊ヤングジャンプ ぶんか社「ロゼ・サンク」 ワイルド7
(1969~1979)

そんな中で本作は、近年(2009年)ぶんか社文庫版「秘密探偵JA」の最終章(Final Mission:これについては後述)として、初めてシリーズの一本として単行本に収録され、また「キリン」の作者として知られる東本昌平パーソナルマガジン「HALMAN」(2009年)Vol.2では、「幻のエピソード」といったうたい文句で大々的にこのエピソードを紹介、全ページをCG彩色で新たなバージョンとして復刻するといった試みが行われ、ようやく「帰ってきたガンマン」を「秘密探偵JA」と関連付けて読むことができるようになってきました。


その気になるストーリーは
★抜く手も見せぬ早射ちに、消える人影二つ三つ。夕日の町に口笛流れ、なつかしい人が帰ってきた!!(雑誌掲載時コピーより)

s004ゲレンデのある雪山のホテルに、昔は地元では有名な悪童として鼻つまみ者だった神谷大八という男が、海道一の大親分となり子分たちを引き連れて帰ってくるところからこの話は始まります。
その羽振りの良さから歓迎ムードの村人たちでしたが、やがて敵対する骨太一家が襲ってくることを知ると一転、皆が子分らとともに大八を置いて逃げ出してしまいます。
そんな中でただ一人、謎の少(青?)年だけがロビーに残り、助っ人を申し出るのです。
とはいえ、相手は殴り込みにかけては向かうところ敵なしの凶悪なプロ集団。
しかもホテルの外では、今も着々とその数を増やしながら、襲撃のチャンスを狙っている状態です。
果たして二人は、この骨太一家の猛攻をしのいで、絶体絶命のピンチを乗り切ることができるのか……運命やいかに!?


★主な登場人物
C01C02C04C05C06C07
神谷大八子分ゴンジ駐在骨太一家謎の少年少年と同室の娘


お馴染みのキャラクターのその後の姿が描かれるのは、ファンにとってはたまらない番外編ならではのポイントです。
連載中と変わらない部分にホッとすると同時に、変化や成長を感じさせてくれるところを見つけると、きっと連載終了後もさまざまなハードなミッションを続けていたんだろうという想像に掻き立てられます。
s002本作では、見た目と誠実そうな雰囲気は変わらないものの、以前に比べて人を喰ったような飄々とした口ぶりが、なんとなく余裕を感じさせてくれます。

また、ホテルに残った理由を尋ねられたときには、清く正しく「世の中金ばかりで動いてるあんたのそういうところが大っきらいでね」と前置きをした上で、少々照れ隠し気味にその理由を告げるのですが、これが非常にカッコイイ!
もう個人的には、望月全作品を通じても一二を争うくらい印象的で、実に素晴らしいセリフです。

あんたは気まぐれでやった金でも……
もらうほうにとって…人生がかわるくらいに役にたつこともある!


s003確かに、誰かのためを思ってとってくれた行動ほど、嬉しいことはないですし、非常にありがたいものに違いありません。
でも長い人生の中には、元々相手がそんなつもりはなかったような些細なことであっても、思わぬところで誰かの役に立ったり、人生に影響を与えてしまうようなことだってあるものです。

そういうことでも立派に感謝に値するということを、サラリと言ってのけます。
そしてこのセリフを例えば、現在全力で取り組んでいることに成果が出せなくて凹んでるような人に、エールを送る意味で伝えたくなる、そんな名言のように思えてくるのです。

いやぁ、ホント次郎も大人になったなァ。


さて、この作品の変わった楽しみ方として、ラストカットの使われ方があります。
冒頭でも書いているように、作中に登場する謎の少年の正体が明らかになると同時に本作は幕を閉じるわけですが、その明かし方が収録されているものごとに若干異なり、編集者の苦労がうかがえるというわけです。
01_別冊キング02_双葉バラの戦士
まず、初出となった「別冊少年キング」の場合は、まさしくサプライズエンディングとばかりに第17話 帰ってきたガンマン(おわり)の上には秘密探偵JAのタイトルが掲げられ、正編の1エピソードとして成立する扉絵のような堂々としたものになっています。そして単行本に初めて収められた双葉社DX版の「バラの戦士」(3)の中では、併載された他の作品と同様に独立した短編として楽しめるようにタイトルは外され、シンプルに帰ってきたガンマン 完となり、以後この形式が引き継がれていくことになります。
03_HALMAN04_ぶんか社JA
「HALMAN」も双葉社と同じパターンですが、全編のカラーに加えて復刻版らしくハシラのコピーなども雑誌掲載時を忠実に再現した凝ったものになっています。
あえてタイトルは配していませんが、冒頭に1P「秘密探偵JA」の解説記事が掲載されています。
さらに、同時期に発刊されたぶんか社文庫版「秘密探偵JA」(9)になるとFinal Mission 「帰ってきたガンマン」編 完となっています。
これは恐らく、唯一の未収録エピソードを初めて本編と一緒に収録したことの強調と、このシリーズが各エピソードに「MISSION ××」の通し番号を付けて刊行したため、「週刊少年キング」に掲載された15作に、これまで単行本に収録されてきた「別冊少年キング」掲載の「紅の海」、そして同じく「別冊少年キング」で掲載したスピンオフ作品「スペード・ワン」を含んだ結果、どうしても本作が元々の第17話にはならなくなってしまったため、というのが理由ではないでしょうか?
こうしてラストページを並べてしまうのは、作品紹介としていかがなものか?少々ルール違反のような気もしますが、未読の方も心配はご無用!です。

s001初掲載から時が経ち、本編と一緒に公開されることで種明かしになってしまった部分を差し引いても、今回取り上げた「帰ってきたガンマン」は、往年のJAファンなら思わず「お帰りなさい」と言いたくなるような、そしてアクションの切れ味や謎解きに冴えまくった読切短編としても読み応えのある見逃せない作品ですので、ご安心ください。

もちろん、お気に入りの作品として何度も読み返したくなることは間違いありません。
お奨めの一編です。





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望月先生のコメント
【望月三起也先生より】
今と違って大昔は短編というのが好まれていたのですね。
長編と違い短いページの中にきっちり話を収める“技”モノで、ページ数気にせず活劇シーンを先延ばしにしていたら、逆に描けないその苦労、トライが作家として苦しくもあり面白くもあるのです。
ですから、長編より制作時間は掛かるのです。長編の二倍は掛かってる。その作業内容が「ストーリー」と「コマワリ」どう縮めて・・・・・ しかもテーマは大きく、小さくならず、さらにラストにはアッと言わせるオチで完成されて、それが短編の良さなんです。
だから依頼されると喜んじゃって、断ったことがない。長編とはまったく違う楽しさ味わえるンですねぇ。

そんな中でこういう楽しさの見つけ方を読者の方から貰ったりすると、
「判ってくれてる、この人。短編の良さ、魅力はそこなんだよ!」と、声を大にして言いたいですねぇ。
それもかつて創作の主人公がヒット作になり、読者が覚えていてくれて初めて使えるエピソード。だから『第○○話』なんて括りも使ったりする洒落を楽しんでるわけ。そういうところ見抜いてくれるのも嬉しい! 実はそこが“読者”から“ファン”、この違いなんです。
さらにyazyくんらしく、セリフの人生訓のような捉え方まで深く読んでくれる人、嬉しいねぇ。苦労した甲斐があるってもんだ。

今はそういう意味で短編という舞台が各誌とも見掛けないないなァ、そういう時代じゃないンだろうか?
だからある意味ワイルド7の短編という形の連載・・・・・ なんてヘンな言い方だけど、『W7』であり、『ワイルド7 R』なんですねぇ。
ということで、これから来年には『ワイルド7 R』の続編にも取り掛かり、先延ばしになっている映画の原作も先に“描いちゃおう”かと実業之日本社・山田さんと話したりしています。

それにしても、こんなにも『秘密探偵JA』『ワイルド7』関係の短編があったなんて、自分で驚いてます。よく調べ出したもんだ、さすがyazyくん、ただモンじゃないね。



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  • ぐりゅーん・へるつ :
    ウッズマンで西部劇。構えがシングルアクション・リボルバーのそれ。このセンスがカッコいい!

    JAの「恐怖の暗殺団」編に「最前線」の元二世部隊員たちが出て来ますが、これも最高のファンサービスでしたね。
    ミッキーの戦後が詳細でないのは、ファンとしては色々妄想できてありがたいです。

    http://grunherz.cocolog-nifty.com/wild7fc/2009/01/ja-2bed.html
  • yazy :
    > ぐりゅーん・へるつさん
    ■「ガンマン」というタイトルがまさしく作品を象徴していてセンスの良さを感じます。

    JA「恐怖の暗殺団」は、時代を超えて本来なら融合しない二作の夢の競演が「最前線」の中では描かれない後日談として実現したのは嬉しいエピソードですね。

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