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【ひとこと作品紹介】死掛人J

hitokoto_img第8回

死掛人J

執筆者:Ken

Kenさんによる単行本未収録作品発掘シリーズ。
今回の主人公は、兵器に関する高い知識と技量を持ち、迅速な判断で敵の裏をかく戦闘のプロ。
作中では自衛隊幹部だった過去があり五か国語が堪能、ジェット機の操縦までできる元傭兵であることが描かれるものの、その正体については謎が多く任務のためには殺しもいとわない非情な男、九塔。
そこに彼と関わることになったヒロインが登場し、激しい紛争地帯の中でギリギリまで命を懸けた人間ドラマが展開するスーパーアクションの傑作。
【作品名】
死掛人J

【掲載誌】
1993年(月刊コミックトム9月号、12月号)
全2話掲載、各話読み切り
第2話副題「バルカンの調べ」

【第1話あらすじ】
舞台はセルビア共和国(ヨーロッパのバルカン半島南東に位置する国)。
日本からの経済援助団体会議に出席するため、大臣がホテルの一室で待機中。
その大臣のボディガードで主人公の九塔(くどう)と大臣の女性秘書がいる。女性には名前が無い。
九塔は海外で傭兵をしていた経験を活かしての今回の任務。
ふと九塔が窓際で外の様子を確認していると、上の階から隙間を伝って大量の血が流れていることに気がつく。
読者には上の部屋で裸にされ斬殺された死体の山を見ることができるが、実は九塔はその現場を見ていない。
危険を察知して逃げることを優先、トラックの荷台に潜り込んで既に移動中だった。
荷台の中で大臣が問う。
「なぜ見に行かないで裸ってわかる?」
この台詞で九塔は現場を見ていないことを読者は知る。
「服を着たままなら、血は服が吸うから、そう多くは床に流れない」
瞬間的に異常事態が起きていることを見抜いたのだ。傭兵で培った直観だ。
読者にも九塔の優秀さが瞬時に理解できる展開だ。
望月作品には時々読者に「あれ?」と考えさせるカットが出現する。
そこには幾つもの意図が隠されている。

話を戻す。トラックが急停止したので理由を聞くと、ここからはイスラム圏だから行きたくないと運転手は言う。
歩くしかない。
大臣・九塔・女性の一行は歩き続け山小屋に逃げ込む。
そこへ敵の兵士が何人も襲ってきたが、あっという間に全員の首の骨を折って対応する。
しかし間髪入れずに敵のヘリが追いかけて来る。
苦労して逃げた先は最初のホテルがあった町。
今度は飛行機を盗んで逃げようと計画する。
九塔は飛行機を操縦できるのだ。
やっとジェット機を手に入れたのだが、何と二人乗り。
女性を置いて行くしか選択肢は無い。
女性は状況を悟ったらしく告白を始める。

この大臣は女性の父親を騙し女性の身体を要求し、地獄の毎日だったと言う。
実態はどうしようも無い政治家だったのだ。
だが九塔は本来の仕事は大臣を警護すること、任務を全うするため大臣を連れて行くと言う。
無慈悲にも女性は戦乱の中に置いてきぼり。
ジェット機に乗り込み飛び出すと、すぐに敵のヘリが熱源ミサイルを撃って追いかけて来る。
一方、ジェット機には対抗できる武器を積んでいない。
それをかわすことはできないのだ。
万事休す。
そんななか「なんで私がこんな目に?話が違う」と叫ぶ。
どうやら大臣はセルビア共和国の敵国と組んで裏取引をしていたらしい。
それなのに自分を攻撃する事に怒っている様子。
日本に帰れば奇跡の生還として英雄になれることを利用し、何人もの罪の無い市民を犠牲にしたのだった。
「脱出できるだけの高度を取れ!」大臣は命令する。
コックを引けば、座席ごとジェット機の外側に飛び出してミサイルから逃げられる。
九塔の合図で大臣はコックを引く。
飛び出した先はガソリンスタンド。
大臣はブッ飛んでスタンドに直撃、さらにその衝撃で引火。
その炎を目がけて熱源ミサイルが飛び込み爆発。
ついにジェット機は難を逃れることができた。
この策以外にはミサイルから逃れられなかっただろう。
「地獄へのお供までは仕事のうちじゃねえ!」
残され途方に暮れている女性のところに九塔がやって来た。
「後ろの席は無い。乗り心地は悪いが我慢しろ」
二人は無事に異国の地から脱出することができた。

【作品解説】
本作品は潮出版社『月刊コミックトム』に全2話が発表された。
単行本未収録作品。
2話に共通しているのは九塔(くどう)と女性秘書が登場すること、それ以外は独立した物語である。
当時この月刊誌には松本零士先生や諸星大二郎先生らの連載物が中心の中で、ゲストコミックとして「巨匠が描くハードアクション」のキャッチフレーズをつけて発表されたものである。
なお2話とも1993年発表だが9月と12月で微妙に間隔を空けて掲載された。

ところで『死掛人J』という奇妙なタイトルに目を引いた人は多いと思われる。
そこでその由来を推理してみた。
まず「J」について、望月作品には『秘密探偵JA』『優しい鷲JJ』『Jドール』という「J」が含まれる作品があり、主人公の名前由来が多いのだが、九塔なのでそうではないようだ。
日本の大臣を警護する任務だったため、日本代表の意味でJapanのJを示すというのが妥当な線だろうか。
次に「死掛人」について、その昔「必殺仕掛人」という時代劇があり、それをもじったのかとも想像したが、仕掛人は暗殺者、こちらはボディガードなので違うようだ。
ヒントはないかと掲載誌の編集後記的な箇所を入念に確認してみたが見つからなかった。
引っ張っておいて申し訳ないが、タイトルの由来を明らかにすることはできず、ちょっぴり残念である。




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2020 年 5 月 7 日   固定リンク   |   トラックバック(0)


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