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【ひとこと作品紹介】われらが百合子センセイ

hitokoto_img第17回

われらが百合子センセイ

執筆者:Ken

今回Kenさんが紹介する単行本未収録作は珍しい初期の女性向け作品。
学園中の男たちが振り向く絶世の美少女が担任のセンセイに!
ただしそんな彼女にはトンデモナイ破壊力の悩みがあるので要注意。
【作品名】
われらが百合子センセイ

【掲載誌】
「美しい十代」(学習研究社)
1966年4月号~7月号連載(全4回)
各話読み切り

【単行本】
未収録

【ページ数】
全20ページ(各話5ページ)

【あらすじ】
颯爽と学校の中を歩いている女性。
その美少女ぶりに男子高校生たちは転校生かと色めきたつが、実は新しい担任の先生だった。
名前は「岡百合子」。

「どーも私は若く見られて困ります。
これでも今年大学を卒業したんですよ」
他の先生たちからも人気が高く、放課後、一緒に帰りましょうとの誘いがたくさんあったものの、誘いは全て丁重にお断り。
百合子センセイはひとりで帰るのが好き。
でも帰宅中、すぐに不良連中が近寄ってきた。
センセイは絡まれて危機一髪となるが、次の瞬間、不良連中は全員気を失っていた。

なんと百合子センセイはショックを受けるとクシャミが自然に出てしまうという病気の持ち主。
しかもその威力は半端ないレベル。
クシャミの勢いで不良連中は気を失ってしまったので、彼女は運よく危機を逃れることができた。

ところがこのクシャミパワーを発するきっかけはショックを受けたときばかりでは無い。
好きな人から告白されたときでも出てしまうという厄介なもの。

ある日、柔道部の顧問をしている体格の良い嵐先生は百合子センセイのことが気になっていた。
彼は外見に似合わず、気が弱いので告白することができない。
一方、彼女のことが大好きなライバル先生は猛アタックを重ねていた。
でも百合子センセイは嵐先生のことが大好き。
お互いのことが好きなのに口には出せない昔ながらの奥ゆかしい仲。

そんなとき、高校教師だけが参加する対抗競技会が開催された。
百合子センセイは得意の卓球で勝ち進む。
その決勝戦に勝てば優勝となる直前の休憩中に、ライバル先生が冷たい飲み物とおしぼりを差し入れして猛アタック。
彼女はわずかによろめきそうになる。
それを見ていた嵐先生は我慢ができずにスピーカー越しに「好きです!」と告白。
その瞬間、好きな人からの告白によって例のクシャミパワーが発動。

競技会場全体が破滅的に壊れてしまい、決勝戦どころでは無くなってしまう。
でも百合子センセイは
「嬉しい。優勝よりずっと…」
と呟いた。
さてこの恋愛の続きはいったい?


【作品解説】
本作品は学習研究社の「美しい十代」での発表、この出版社では初めての掲載となる。
ターゲットユーザは10代後半の女性向けなので恋愛ものが中心。
だが10代後半と言っても、この時代は結婚を視野に入れた今よりずっと大人の考えを持つ女性たち。
この雑誌は読み物中心でグラビアも少ないという珍しい形態。
同時期に連載されていた漫画は、みつはしちかこ先生のチッチとサリーでお馴染みの『小さな恋のものがたり』のみ。
もちろん直球レベルの恋愛作品。
参考までにこの作品は「美しい十代」の掲載から始まり、複数の雑誌をわたりながら52年も続いた長寿漫画。

全てが恋愛もので構成された雑誌の中で『われらが百合子センセイ』の連載が始まったのであるが、そのハードルは極めて高かったと推測する。
望月先生ご自身もコメントされているように「女性を描くのは不得意だったから」という理由でデビュー作品ではほとんど女性キャラの登場が無かったほど。
それにも関わらず、出版社からのリクエストとして「大人の女性の主人公で恋愛がメイン」という条件がついたことは容易に想像できる。

(ここからは妄想モード)
この注文に望月先生は大いに悩んだ。
初めての出版社からの依頼であれば、断るわけにもいかない。
引き受けるために閃いたアイデアは2つ。
これまで『ひまわりっ子』(1964年)や『死をよぶ山』(同・未収録)といった、少女を主人公に描いた作品はあるものの、大人の女性主人公ものは全く無い。
これに対する1つめのアイデアとして、身体は大人、でも顔は子供らしい美少女というキャラを考えついたこと。
「どーも私は若く見られて困ります」の台詞が輝く。
2つめは恋愛要素を盛り込みつつ、でも恋愛ものは苦手なので、クシャミパワーという秘密兵器を生み出したこと。
好きな人からの告白でも発してしまうため、本格的な恋愛に発展しづらい状況を狙ったもの。
この2つのアイデアで注文を乗り切れるはずと望月先生は考えた。
(妄想モード終わり)
実際、全4話が掲載されたのであるが、あらすじで紹介したのは前半の2話のみ。
ここまでは王道の恋愛路線だった。
ところが後半の2話では恋愛関係の話は全く登場しない。
学校にユーレイが出るという事件や、生徒の誘拐事件をセンセイが探偵となって解決してしまうという展開で完結する。
得意のクシャミパワーを使用することなく解決してしまうところはご愛嬌。
すなわち後半は全く恋愛要素が無いのである。

総合的に見れば、おそらく出版社のリクエストに応えていないように思われるが、結果として本作品によって学習研究社とのパイプが強くなったのである。
本作品の発表の翌年から同社の学習誌「中学一年コース」に『サン学園のトラ』(1967年)、『探偵ハードのサブ』(1968年)、『トラとオオカミ』(1969年)、『ガキ先生』(1971年・未収録)が連続して連載が決まったこと。
さらに学習誌のライバル社となる旺文社の「中二時代」にも『鉄血二代』(1972年・未収録)や『ゆりっぺ先生大激突』(1973年・未収録)の連載が順調に決まっていったのである。

このように女性誌で大人の女性主人公を発表できたことで、新しい出版社との縁を通じて、望月作品の読者を広く開拓することができたと思われる。
ただ百合子センセイは身体が大人でも顔は子供らしい美少女。
皆さんがご存知の通り、この後の望月先生お得意のお色気たっぷりのキャラの登場でさらに一層の読者拡大が進んでいくのである。

余談だが本作品のセンセイの名は「岡百合子
『ひまわりっ子』の主人公の名は「中田ユリ
上記の『ゆりっぺ先生大激突』の名は「白浜ゆり子」。
奇妙にも名前が似ているのは単なる偶然の一致だろうか。



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2025 年 5 月 4 日   固定リンク   |   トラックバック(1)


コメント/トラックバック

  • 西園寺ちーむ :
     まさに核爆発の衝撃波なみですね。
    ・・・と言うより、
    「何々波ぁ~っ!」と言う近代に多過ぎる漫画の元祖になりますかね。
    技としての○○波だと別かもしれないけど、広い意味では、
    まさに先見の・・・(?)ですね。
     御邪魔ん坊でした。

コメント


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