このような晴れの場で私の投稿が掲載される‥‥‥、どうしたものかとオロオロしている次第の私。何者かと申しますと、現在『藪犬小夏』という名で仕事をしておりますしがない漫画描きです。
初めて望月先生の作品と出会ったのは、今から13年ほど前。当時交際していた彼氏が、私の家にでかい紙袋を持ってやってきました。
「なにこれ、漫画?」
「ウン、読め」
「読めって…」
などと言いながらテーブルの上に載せられたのは、随分古びたコミックスで、背表紙の上部に正面を向いたカエルのマークがついたものでした。
当時の私はどちらかというと少女マンガや、もしくは綺麗な絵の少年漫画が好きな方で、正直最初は「読めって言われてもぉ‥‥‥」と困惑した事を覚えています。結局読め読めとうるさい野郎に押し切られる形で読み始めたのですが、読み始めるとこれがまた、今更ここで言うのもはばかられる感想なのですが「面白い」ンですね。全体に潜む躍動感、匂いを感じる程にリアルで魅力的なキャラクター達。ある意味物凄いカルチャーショックでした。
次の巻を奪い取るようにしながら三日がかりで全巻読んだのですが、当時手に入る状態にあったのは元祖ワイルドの最終章「魔像の十字路」まで。つまり真夏に「ユキ」が降り、ワイルド7が壊滅するところまでで、「続きは無いのか続きはぁっ!!!」と、彼氏の首を締め上げ、揺さぶって歯噛みした事を今でも鮮やかに思い出します。(こんな彼女はどうなのか?)
通常なら、漫画を読んで「面白かったなあ」で終わるところなのですが、そこがこの作品の凄さで、この「月刊 望月三起也」で今この文章を読んでいらっしゃる方々の多くと同じく、私もまず「バイクに乗りたい!!」とムラムラと思い始めました。そして思っただけでなく、衝動買いも同然に中古バイク店でHONDAのNS-1(ガンダムみたいなカラーリングでレーサータイプの50ccバイクですね。普通免許しか持ってなかったので「50」に甘んじていました‥‥)を購入。今までに乗ったことも無いミッションタイプのバイクを乗り回すまでになった上、更にモデルガンショップに入り浸り、家の中はミリタリーマニアの男子テイストのインテリアになってしまう、という事態に。そして極め付けが、当時飼い始めた二羽のインコの名前を「世界」と「八百」と名づけてしまうという無軌道ぶり。一体何を考えていたのかと現在推察するも、やっぱり「ワイルド7」が好きで仕方がなかったんだろうなあと、あの当時の己の頭の悪さ(現在も決して良くは無い)に半笑いになる次第です。
当時、TVゲームが好きで、漫画を描くのも好きだった私は同人誌などの活動もしてましたが、どこにでもいるオタク寄りの女子だった筈の私をそこまでさせたのは、言うまでも無く「ワイルド7」の影響で、更に言うなら飛葉ちゃんに心底惚れてしまった事が大きな要因でした。あの当時の私は一言で言うなれば、「どうかしていた」状態であり、今現在でも充分どうかしている私なのですが、「若さ」と書いて「暴走」と読む、という状態を体現しておったのです。
それにしても、私を含めた多くの人をそこまで惚れさせる、『飛葉大陸』という男の魅力は一言で語りつくせるものではありません。
若いくせしてなんだかやけにニヒル。しかしその実は意外に熱血漢な上に正義感の強い彼。かと思えば悪人に対しては徹底した冷徹ぶりを見せ、窮地の際の頭の回転の早さと、ピンチの時に見せる強さは半端でない。とにかくカッコいいんですな、飛葉ちゃんは。
しかし、女子から見た飛葉ちゃんの「モテポイント」はそれだけでは無いんです。女子視線から見ると、完全無欠のヒーローには魅力をあまり感じないもので、普段は強く頼れるヒーローがふとした時に見せる弱さや脆さ、そういうものに激しく惹かれるんですね。飛葉ちゃんもまた、そういう弱い面を併せ持つ男。
「親兄弟なんか関係ねえ」みたいなポーズを取りながらも、本当は母親の事、兄の事が気にかかって仕方がない。また仲間の事を何より大切に思い、その為なら命を賭けるような事だってする、そういった「ウェットな部分」があってこそ、強さ、カッコよさが際立つのだと思います。ていうか今風に言うなれば「萌える」んですね(笑)
うっかり萌えてしまった余りに、自費で便箋など作ってしまった私なのですが、さすがに同人誌までは作れませんでした…なぜなら画力が追いつかないから…。
ていうか今見るとヒドイ出来ですよ、このビンセン‥‥‥。
その後になって続編や、外伝的な「飛葉」などを読める機会に恵まれ、元祖からかなり年月のたった飛葉ちゃん(胆石持ちで冴えない暮らしをしている…)の姿を拝見したりしたのですが、それでもやはり飛葉ちゃんは飛葉ちゃん、どんな状態になっても輝きは失せていないんですよね。魂は曇らない、とでも言いましょうか。
ワイルド7はシリーズ通してどの作品も濃くて面白く、大好きなのですが、やっぱり一番好きなのは初期メンバーなんです。それ故、前半にチャーシュー、世界が死んだときもかなりショックだったんですが、最終章で八百、ヘボピー、オヤブン、両国が次々と死んでいく辺りは読んでて辛かったなあ‥‥‥。
職業柄かつ好きな事もあって漫画はこれまで沢山読んできているのですが、こうまで引き込まれる作品を読んだのは、後にも先にもワイルド7だけではないかな、と思えます。お世辞じゃなく本当に。
その後なんだかんだの後にバイクで事故に巻き込まれて怪我をした為、親に「バイク、ダメ!ゼッタイ!」と禁止されてしまい、バイクからは足を洗ったのですが、バイクを覚えたこと、ミリタリーマニアの友人たちと語らったこと…それらを後悔する事は今でもありません。むしろその時期にワイルド7にハマった事は、今の私に少なからずのプラス要素を与えてくれたように思います。
飛葉ちゃんをはじめとして、草波さん率いるワイルド7のメンバーの面々に教えてもらったのは、「諦めない」「負けるな」などのポジティブな考え方で、それは今の私が生きる上での礎となっているように思えます。泥に塗れても顔を上げろ!的な考え方を貫くのは並大抵な事ではなく、飛葉ちゃん達は勿論漫画の中のキャラクターだからこそそれを貫ける訳ですが、それこそが漫画から得られるカタルシス、旨みだと思うのです。
読んだ人の心に何かを残す、考え方を変える程の影響を与える、そんな漫画は決して多くはありません。そう考えると、影響を受けすぎてバカをやった過去を含めて、「ワイルド7」に出会えた事が、いかに幸運だったか、と思えます。
いつか自分もそういう風に、「読んでよかった」と思われるような作品を作る漫画家になりたいなあと、デカイ目標を抱いてはいるのですが、まだまだ精進が必要。ですが、飛葉ちゃん達に教わった通り、決して諦めたりはしないつもりです。
ここ近年になって「ワイルド7」も様々な形で復刊し、続編や外伝的な作品も手軽に手に入るようになってきました。文庫版で買い直した「ワイルド7」を、女友達に読ませたところ「うわっ、何コレ面白い!」とドップリはまってくれた様子で、最近では物を投げて寄越しながら「ココナッツゲームだ!」などと言ったりするようになりました。モテからは程遠い感じの女子に仕上がってしまいそうな予感ですが、それを見ながら満足げに微笑む私。
モテるモテないはともかく、今現在、こういう世の中だからこそ、色んな世代の人に読んで欲しいと思います。
そして是非、影響を受けて欲しいなあと願う次第です。
そうしたらきっと、今まで見えなかったものが見えるようになってくるんじゃないかな、と思うのですが、いかがでしょう。
頭の悪い文章で失礼致しました!
2009.02
藪犬小夏
インコの名前に世界と八百ですか。
いいねえ、うれしいねえ。
私もかつて我が愛犬にペレと名付け、今の愛犬はバティストゥータです。
同じファン心理ですねぇ。
バイクで事故に巻き込まれたのは、同情できます。どうしても乗りたい!!わかります。
私、バイク事故はありませんが、若い頃自動二輪の免許もないのに走らせて、無免許で一回、
スピード違反で一回、お世話になってます。
事故ではないのですが、400ccのバイクで、山の方でクロスカントリーもどきやってコケまして、
新車キズだらけにしたことがあります。
これは、ホンダというメーカーの宣伝パンフの撮影で、表紙は見事に乗りこなしてるような、
飛葉もどきで写ってます。
本当は、まぁギャグやってたんですが、しまらない話で、
その後ホンダから二度とお呼びが掛かりません。
本人は、こんな具合でいつもカッコいいことにトライするのですが、結果は無惨。
これを成功させるのが、キャラクター達なのです。
飛葉はじめ、登場人物のギャグや情けない部分は、ほとんど私のキャラクターそのままなんです。
女の子にモテるヒーロー、やっぱり私の理想ですねぇ。
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2009/05/09 at 2:04 AM
当時は一読者でしかなかった私が、こうしてコメントを頂ける事になる…なんだか不思議な巡り合わせと言うかなんというか、感慨深いです。
本当に、ワイルド7のおかげで、という事が私の人生には多くて、望月先生には頭が上がらない思いです。バイクに乗りたい!と思ったのもモデルガンを集めたりしたのも影響あっての事で、それらの経験をする事ができたのは間違いなくワイルドのおかげですから…
カッコいいキャラクターも、とぼけた味わいのキャラクターも、望月先生の描かれるキャラには愛情と魅力がいっぱいで大好きです!これからも頑張って下さい!応援してます〜!
2012/05/28 at 11:24 AM
藪犬先生をたどって、ここに参りました。
二次元の初恋は、「牛若丸」でしたが、二次元のセカンドラブは、もう、ゼッタイに、飛葉ちゃんです。
あっ!マッキーかも・・・いや、二世部隊の彼かも・・・
(酷い・・・途中までしか、名前が思い出せない・・・)
弟(故人)からの強い薦めで、先生の漫画を読み始めました。
今でこそ、少年・青年漫画を読む女の子は、珍しくもありませんが、昭和40年代では、そんな女の子は、皆無。
先生のページを切り取って、(単行本は、別にあるので)ぬりえをして、下敷きにはさんでいたのは、全学年でも、私だけでした。
ベルばらとか、ガラスの仮面とか、アイドルでした。
およそのみなさんは。
藪犬先生、ありがとう。
いいページに、導いてくださって。
戦国も、お好きという藪先生と、連絡を取りたいです。
わずかですが、ギャランティも発生しそうな武将さまのところをご紹介できるかもしれません。
想い出は、尽きませんが、手放してしまった、望月先生のご本を買いにいくため、失礼します。