月刊望月三起也タイトル画像
作品紹介

第22回

はだしの巨人

執筆者:   2010 年 7 月 7 日

商人を目指す少年の物語・・・で収まらないのが、例によって望月作品の魅力。今作も個性豊かなキャラクターたちが繰り広げるアクションとアイデア満載の一大冒険活劇になってます。

「未開の地アフリカ」・・・・ その昔この言葉に大いなる魅力を感じていた者も多くいたのではないだろうか。それは現在も同様なのかもしれないが、昨今は紛争や飢餓に関する報道が多く、以前とは受け止め方に多少の違いが出て来ているようにも思える。
それでも私には「未開の地アフリカ」に馳せる根本的な憧れがある。
地平線が見て取れる広大な大地とその境を作る空、生い茂るジャングルに息づく生命、ここに野望を抱えた日本人を投入したらどんな冒険をしてくれるだろうか? それを見事に具現化した作品が『はだしの巨人』だった。

1972年週刊少年チャンピオン(秋田書店)第43号より連載が開始されたこの『はだしの巨人』は、秋田書店初の週刊漫画誌で、師にとっても同誌初の連載作となった。
「冒険物を描いてください!」編集部のそういった要請で始まったというこの作品は例の如く師お決まり(?)のカラーグラビアで初回をスタートする。

まだ見ぬ大地で一旗上げようと小さなクルーザーで日本を出奔しアフリカへ向おうとする「旗 九郎」。それにくっついてくる謎の人物「畑 権太」。九郎との出会いから官憲からの逃亡をアフリカへと発想、実行し現地アフリカで行動を共にすることとなる「荒神」。しかし辿り着いた先ドーコ共和国を含む周辺一体は殖民支配からの独立に絡んだ紛争が激化する直前だった。行き場を失い無一文で見知らぬ土地での彷徨を余儀なくされる九郎らだが、持ち前の機転と精神力で危機を脱することができるのか?命にも係わる状況を好転させることができるのか?当初の目的、一攫千金の夢はなるのか? 湾口にそびえる巨像「はだしの巨人」は見守っている・・・・

物語冒頭はこの後物語を展開する三人の男達が邂逅するエピソードから始まる。
アフリカという遠い大地で一旗挙げようと悪戦苦闘するというのが基本プロットなのだが、望月三起也という作家に掛かるとこれがとんでもない形になってしまう。
大体がはなから奇妙、荒神に関しては過激派リーダー(今で言えばテロリストのリーダー)として公権に追われる身、そこからの逃亡として国外脱出はまァ頷ける。が、なんと彼は現役高校生なのだ、凄い。その彼にアフリカという逃亡先のヒントを授けることとなる主人公九郎の設定たるや、荒神よりは若く見えるし年齢は全く不詳だし・・・・ 妹がいて野望である大商人となって、その妹を自家用機で呼び寄せるってことが語られるくらいで、その発端はムニャムニャ・・・・ である。
権太に至っては、冒頭どころか最後までムニャムニャ・・・・ である(笑)。
亡き娘の初恋の男の子が「九郎」という名前だったというだけで九郎にくっついてアフリカ汲んだりまで来てしまう。九郎の姓は「旗」、権太の娘の相手は「山下」だっていうのにね(爆)、娘の相手だったって信じて疑わないのだ。本人が否定しているのにねぇ。
こんな曖昧な理由で初対面の人物と命を賭けての冒険に出掛けるんだねぇ、面白い。

そう、こういったある意味ハチャメチャさが一種謎を作り、物語の覆面となって読者を引っ張る麻薬と化する。その絶妙なさじ加減が望月三起也なのだ。まさに名シェフ、名マエストロ。

そんな名シェフが隠し味どころか、メインの添えとして出してきたのが前述の「畑 権太」なるキャラクター。
全く意味不明に九郎に着いて行ってしまう、見た目、思考、行動とすべてが????な男。だからこそこの男の破天荒さやトンチンカンが異常なまでの魅力を撒き散らし読者を飽きさせない。「いないだろ、こんなヤツ!」的キャラクターを大真面目に演じさせる。よって奇妙と奇妙が相殺し合ってなんだか変に受け入れてしまう。
あれ? これを受け入れてる私らもかなり奇妙なのかもしれない(笑)。

連載当時だが私の友人など毎週読後の感想(?)で、「あのシーンが・・・・」「このシーンが・・・・」などと語るのは決まってこの権太のエピソードであったり、ポーズや表情であったほど、それほどこのキャラクターの存在は強烈だった。
またこのキャラクターの造作は当時前代未聞の亜シンメトリーな造りで、その顔だけでも一度見たら忘れようもないもの。
この時期あたりからだろうか、このタイプのキャラクターは望月漫画のレギュラーとしての定位置を確保するのだ。

さて権太ネタばかりじゃイカンぞと、話しは「はだしの巨人」。
これがまた凄まじいばかりのアクションの連続なのだ。兵器マニアなどにはたまらない一編、陸海空と精密に描かれるそれらは、絵を見ているだけでも楽しめるだろう。
モデルとなった国はどうやら今回ワールドカップが開催される南アフリカのようで、その昔「アパルトヘイト」と呼ばれた人種隔離政策が施行されていたころを思わせる状況の中、政府と反政府の紛争に巻き込まれ、毎日のように想定外のアクシデントが九郎たちに降りかかってくる。それも命の危機だからたまったものじゃない。金なし家なし味方なしの状況を九郎の機転がなんとか命を繋ぎとめ金を作り出していく。
このプロセスがたまらなく面白い、典型的なサクセスストーリーを望月流アクションの中で魅せていく。
誰を信用していいのか判らず、大勢の人々が日々血を流し、裏切りが横行する物語の中、人を疑うことをしない九郎の性格に清々しい思いで救われる。望月漫画の底辺である「正義」が凄まじいエンターテイメントの中で描かれていく。

大商人を目指す九郎の機転のひとつに食器作りがある。
なんと紛争で撃墜された戦闘機、その戦闘機が墜落炎上、まだ熱いうちに装板を引っ剥がして皿などに形成して売ってしまおうという奇想天外なもの。
実際にそれが出来るかどうかは問題ではない、そのアイデアが秀逸なのだ。面白くて愛読仲間と唸ったものだ。
また実はダイナマイト、本体は粘土状のもので、まさに粘土のように形成でき、それに雷管を設置することで爆発させることが出来るなどを教わった。(ワイルド7でも同様な描写があったね 笑)
しかし描かれていた爆薬はどうやら「C4」と呼ばれるもののようで、正確にはTNTダイナマイトでこのような使い方はできないらしい。ちょっと早い「重箱のスミコーナー」だが、先生の描写のおかげで詳しくなるきっかけになったのだ(笑)。

遠い見果てぬ大地と空の下で、主人公が追い求める夢と希望満載のストーリーは、冒険物というカテゴリーの中にあっても、いや冒険物だからこそ、師の基本姿勢である「決して諦めない」「決して投げ出さない」が強く息づき読む者をぐいぐいと引っ張っていく。
ファンならばコレクションに加えなければ情けないことになりかねないぞ。

ところでファンの皆さんはお気づきだろうか?
この作品の主人公「九郎」に淡い想いを寄せ、九郎もまた同様の感情を抱く可憐なキャラクター、警察署長の娘。残念なことに物語中盤にて命を落としてしまい九郎とはプラトニックな関係のままだったが、その娘の名は「エンジェル」。ファンの方ならばここで誘発されるものがあるだろう。
そう『新ワイルド7』にてメンバーの一人として登場するフランス-アフリカンのハーフ娘『エンジェル』を。
見た目は同一人物かと見紛い、私はここに何らかの因果関係を推察していたのだ。

考えてみてば「新ワイルド7」には『赤毛のクインメリー』の「クロス」や『ワイルド7』の「世界」(兄との設定)など望月作品の中にあって印象的なキャラクターのリメイク・キャスティングが行われていた関係もあって、当然の如くエンジェルも・・・・ と。

「何もないよ・・・・」
この言葉の後は先生お得意の豪快な笑顔、「はだしの巨人の中でのキャラクターが、エンジェルっていうのなんて忘れてたよ」と続く。先生らしいと言えばそうなのだが、なんとも拍子抜け。
関連性を想像し、思考で遊んでいた私だが、これは奇跡の偶然だったようだ(笑)

ところでこの「はだしの巨人」、なんでも望月先生愛読の小説からヒントを得たものだそうなのだが、その愛読書はいったい何という本なのでしょう?知りたいですよねぇ、みなさん。

『はだしの巨人』
1972年 週刊少年チャンピオン(秋田書店)43号~1973年13号

1973年  チャンピオンコミックス(秋田書店)
1986年  サンワイドコミックス(朝日ソノラマ)

2010.7 JUN記


望月先生のコメント
【望月三起也先生より】
何度も言うようですけど、私は前しか見ない性格。クルマの運転もバックは苦手、車庫入れで毎度位置がズレているってありさまですから、どんな思いで描いたのやら。 ただアフリカってところは何故か好きで、行ったことはないのですが何度か舞台に使っています。 小説でもA・ヘミングウェイの『キリマンジャロの雪』なんか読むと、高い山には雪も降るし、昼間は太陽の熱でクルマのボンネットの上でタマゴ焼きができ、夜になると砂地が凍るという温度差。そういう日本との違いが何かロマンを作りやすいからだと思います。

今その南アフリカでサッカー・ワールドカップ真っ最中、TV中継を観ていて、そのあたりお判りでしょ。
高地の試合では長袖を着ているし、観客の中にはコートを羽織ってる人さえいる。アフリカは熱い(暑い)と思い込んでいる人、考え改めて視野が広がるでしょう。 ワールドカップの良さのひとつなんです。
って、おっとっと・・・・・・
話しはそれます、この話題、別コラムで。



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コメント/トラックバック

  • ぐりゅーん・へるつ :
    「はだしの巨人」面白いですよね。まず簡潔なタイトルに惹かれます。

    望月作品には「アフリカ」と「北海道」がよく登場しますね。先生にとって、ともに「大西部」を思わせる「大地」なのではないでしょうか?

    主人公の3人組、魅力的ですよね。この3人は「ゲッターチーム」の3人に強い影響を与えていると思います。「荒神」はかなりそのまんまな気が...。

    ストーリーがどんどん転んでいきますよね。ヨットでアフリカで目指すわけですが、通常の作家の作品ならアフリカに到達するまでに何巻か要するはずなのに、2ページくらいで着いてしまいますね(笑)。乗員がいきなり1名増えたのに、食料とかの都合はどうなったのでしょう...。そういうことは後ろ向きの発想ということなんでしょうね。

    畑権太、最高ですよね。主人公の熱血サポーター。謎だらけですが、こういうキャラクターがいないとストーリーがズンズン進みませんものね。
  • JUN :
    > ぐりゅーん・へるつ さん
    私の友人でね、エラクこの作品がお気に入りってのがいたんです。
    まァ 私も好きなんですけどね。
    彼が毎週々読後感想談を聴かせるんですよ、私らも読んでいるのに(笑)
    おかげで作品内容よりも、彼の記憶の方が鮮烈化してしまっているっていう本末転倒状態(笑)。

    「アフリカ」と「北海道」が舞台ですか?
    それらの土地が舞台の作品に思い入れが強いからそう感じてるんじゃなかっぺか?(笑)
    言われてみれば、他の作家に比べたら多いかもねしれないけど、
    他の先生方がハッキリと土地の舞台設定を見せてくれていないのかも(笑)。

    > 乗員がいきなり1名増えた‥‥‥ 食料とかの都合‥‥‥
    そんなことよりも早く読者を楽しませたい! ってところなんでしょうねぇ(爆)
    いや、『自分が楽しみたい!』 かも(大爆)

    ‥‥‥で「ゲッターチーム」ってなんざんしょ? ゲッターロボ?
    ごめんなさ~い、私 昔からアニメを観ることがほとんどないンです。
    実は漫画もほとんど見ないンです、とんでもない奴なんです(苦笑)
  • ぐりゅーん・へるつ :
    JUNさん
    石川賢さんの「ゲッターロボ」です。アニメの原作コミックですが、過激です。メンバーのひとり「神隼人」は高校生ですが、反体制活動家で大臣暗殺を計画。ビビって離脱しようとした学生に制裁を加え、顔面を剥いだりします。

    続編に「ゲッターロボG」という作品があるのですが、この隼人と早乙女博士が「地獄の神話」のVONの事件とまったく同じシチュエーションに陥るエピソードがあります。

    草波は巻き込まれた店内の客に「何も触れるな」と命令しますが、隼人は巻き込まれた市民に警告せず、成り行きを観察するのです。「敵の手の内を知りたい」とかいって(笑)。人類のためには早乙女博士だけ救えれば良いということで。

    ほかにダイナミックプロ作品では、「まいるど7」というバイク族一家を主人公としたギャグ漫画や、「無頼・ザ・キッド」という作品では「26年式拳銃の2丁拳銃のガンマン」(悪役)が出てきたりします。

    メンバーの中に望月作品が好きな人がいるのでしょう。
  • JUN :
    > ぐりゅーん・へるつ さん
    へぇ~、そうなんだ~? 知らなんだなァ(笑)。

    望月先生と永井(豪)先生は懇意の仲ですし、そのダイナミックプロとも深い仲ですので、その交流において望月先生が多大なリスペクトの対象になっているというのは当然の如く‥‥‥ の話ですよねぇ。
    というか、業界内で望月先生をリスペクトしていない人ってのがいない、一般ウケよりも業界ウケの方が凄いンじゃないでしょうかねぇ(爆 先生ごめんなさ~い!)。
    「描く人には解かる」って凄さがあって。

    天才「石川賢」、やってくれていたんですねぇ、知らなかったなァ。
    ホント私、漫画を読まない、そんな時間があったら活字書籍を読んでる、映画を観てる(苦笑)
    望月先生を知ることで漫画にのめり込んだ一時期を除いて、殆んど読むことがない。
    それは現在も一緒で、漫画に関連しているからってことで「どんな漫画が‥‥‥」「漫画の‥‥‥」などなどの質問を受けることがあっても、ハハハ 答えられない(笑)

    そうそう故石川賢さん、石川県出身だからなんていうデマが飛んでいた時期がありましたねぇ、笑えます(笑)
    『魔獣戦線』でしたっけ?(例の如くムニャムニャ 苦笑)「マンガ少年」に連載していたもので、天使(ミカエル)と悪魔(デーモン)が兄弟として現世に降誕して‥‥‥ っていう作品、あれ好きだったなァ。
  • 山梨の稲妻 :
    山梨の稲妻です今晩はJUNさん
     今回は裸足の巨人ですかなつかしい本ですね。
    私も読みたいですよ。昔の作品ですがマシーンハヤブサという少年ジャンプに連載されていたんですがどこかで
    単行本になつてませんかね。もしかしたら完全に幻の作品になつているのかもしれませんね。 
  • JUN :
    こんばんは、山梨の稲妻さん。

    『マシンハヤブサ』は1976年、TVアニメ企画と同時進行で月刊別冊少年ジャンプに連載されたものですね。
    単行本は1986年、大都社(スターコミックス)から出版されています。
    当然の如くすでに廃刊ですが、例に漏れず古書なら入手可能、
    ネットオークションなどではちょくちょく見掛けますから、根気良くチャンスを狙ってください(笑)。
  • 山梨の稲妻 :
    こんにちはJUNさん。山梨の稲妻です早速コメントの返事ありがとうございます。
    ネットオークションなどで根気よく探してみます。見っけたらもう一度読みたいと思います。 

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