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作品紹介

第61回

メコンの鷹

執筆者:   2014 年 2 月 7 日

闘いの中に身を置いてきた男が、苦悩に耐え抜いた末、ついにその鋭い牙をむいて敵に挑んだ結末は……クールで悲しさも漂う傑作短編です。

「外人部隊」という言葉を初めて知ったのは望月先生の『夜明けのマッキー』でした。お金で雇われて戦場に赴く「傭兵」。そんなヒトが本当にいるのだと知った当時中学生だったワタクシ。以前JUNさんが作品紹介をしていますので内容は割愛しますが、この『夜明けのマッキー』が望月先生のファンになる「きっかけ」を作ってくれました。

「外人部隊」「傭兵」「戦場カメラマン」・・・そんなキーワードの単語にその当時は過敏に反応していました。戦場カメラマンの沢田教一氏の事を書いた小説や新谷かおる(※)先生の『エリア88』を読んだのもこの頃だったと思います。今回ご紹介します『メコンの鷹』も同じ様な「臭い」を醸し出しており、望月先生の作品というのも相まって飛びついた次第で御座います。初出は秋田書店『プレイコミック』。1979年12月13日号掲載の読切、全35頁だった様です。その後、朝日ソノラマのサンコミックスで同名タイトルの新書版が雑誌掲載から4年後に発行されました。


さて、作品冒頭・・・

クリーニング屋を経営している主人公の「幸太」がリンチを受けているシーンから始まるのですが、一介のクリーニング屋には似つかわしくない眼光の鋭い男。本気を出せば悪漢達を叩き伏せるだけの実力はありそうなのにグッと耐えている様子・・・。

その理由は最後まで読むと分かるのですが、望月先生の作品の根底にあるテーマ。忍耐、義理人情、男気、勧善懲悪・・・全てがこの作品には込められています。それに加えてガンアクション!

スカッとすること間違いなしですが、最後は憂いと哀愁、それと遣る瀬なさまで感じさせる「望月節」炸裂の一編
です。・・・ン?それじゃストーリーがよく分からないですって?承知しました。では少しご紹介いたします。

リンチを受けていた幸太、預かり物の衣類をメチャクチャにされ意気消沈の所へ銭湯に出掛けていた奥方「お糸」が帰宅。当然に警察を呼ぼうとするのですがそれを静止する幸太にピン!とくるお糸。


幸太には弟の「藤二郎」というのがいるのですが、コチラは堅気ではなくヤクザ。どうやらその「とばっちり」を受けていた様です。藤二郎の弱点は堅気のアニキ。幸太も弟の藤二郎に心配させたくないという気持ちからの行動。両親には幼い頃に死に別れ、幸太が親代わりとなって小さい弟の面倒を見ていたという背景から兄弟の絆はかなり強いモノと思われます。

・・・場面は変わってスポーツジム。

冒頭に出てきた悪漢達が雇い主であるボスとの会話で作品のタイトルになっている『メコンの鷹』というのがその悪漢達、グループの名称だというのが分かります。悪者が主人公!?実はこれが伏線・・・そして「メコン」とは?

東南アジアを流れる数多くの支流がある河川。中国、ミャンマー、ラオス、タイ、カンボジア、ベトナムを通って南シナ海に抜ける・・・そんな所で「鷹」と呼ばれていた連中がヤクザのボスのボディガード!?

そのスポーツジムへ単身、お糸の電話で経緯を知り敵地へ乗り込んできた藤二郎。正に一触即発で部隊は・・・イヤ、舞台は再びクリーニング屋へ。


怒りの幸太。

心配を掛けさせたくなかった弟に事の一部始終を伝えてしまったお糸に離縁。忠告を守らなかったのがいけないとお糸も素直に従う。こんな亭主関白のヒト今の時代にゃいませんぜ!と、笑ってはいけない。このシーンから幸太の優しさが読み取れない様じゃ望月ファンじゃありません。(しかし、三菱マークの入った風呂敷には笑ってしまいました!)







・・・クリーニング屋、夜。

ヤケ酒中の幸太(そのシーンはありませんが)の元に入り口
の扉を叩く音が・・・。お糸が帰って来たのか!と、罵声を浴
びせながら扉を開けると、そこにはズタボロになった藤二郎が!!


乗り込んだ先で『メコンの鷹』にやられたのは容易に推測できます。

幸太に会って安心したのかアニキのその腕の中で息絶えてし
まう、その日はクリスマス。結構なプレゼントを貰ったままで済
む訳がなく、幸太の復讐が今静かに始まる・・・。





読んでいくにつれ主人公の、本当の『男』というのは、かくあるべきというのが読み取れます。望月先生の漫画の多くの主人公には共通してこの『本物の男』テイストが練り込まれていますが、これに読者は憧れ、惹かれるのではないでしょうか?

どの様に生きればこんな『男』になれるのか?憧れるばかりで、真似でも容易には出来ないンですけどね。

やはり冒頭で感じた「眼光の鋭い男」は伊達じゃありませんでした。顔を変え、生き方を変えても身体に染み付いた感覚というのは変え様が無いという事でしょう。

「能ある鷹は爪を隠す」と言いますが、一旦その隠れていた爪が突出した時、人はこうも変わるモノかと。

緻密な計画と計算、『メコンの鷹』といえど幸太の敵ではありませんでした。何故なら彼こそが・・・。

ある映画の冒頭にこういうのがありました。

戦闘での高揚感はときに激しい中毒となる
~ Chris Hedges ~


最後のシーンは幸太が再び戻るであろう彼の地を意味しているのではないのでしょうか?

war is a drug・・・全てを失った彼の安住の地はそこにあるのかも知れません。

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●発行:朝日ソノラマ・サンコミックス

昭和58年2月18日初版発行

●収録作品

★メコンの鷹

★猫は地獄で笑う

砂漠の狐

★探偵ロク/石頭の決闘

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(※)新谷かおる
「ファントム無頼」「エリア88」「ふたり鷹」など多くのヒット作品で知られる新谷かおる先生も、望月先生の特集が組まれた「COMIC BOX」1985年8月号の中で、小学5・6年の頃にまだデビュー間もない望月マンガと出会って以来ずーっと読み続けてきたとラブコールを送る程の熱烈なファンの様です。公式サイト→『八十八夜』
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望月先生のコメント
【望月三起也先生より】
メコン河・・・・・ 
ベトナム戦争(1960~1975)中、『ブラウンウォーター・ネービー』と呼ばれた米軍部隊があったのです。メコンはベトナムを代表する川で、その川は茶色く濁っているところからこの部隊にブラウンウォーター・ネービーの名が付いたンですね。
でも傭兵はベトナム戦争には投入されていないはず・・・・・ 公式記録ではね。一般に傭兵活躍の場は紛争地なんです。
南ベトナム対北ベトナムの戦争に米軍はアドバイザーって形での参加だったのが、次第に本格的に軍の介入、最終的に爆撃機まで投入するアメリカ対北ベトナムの構図になってしまいましたが、傭兵が多くの戦場へ登場するのは、やはりアフリカでしょうね。
国として介入するのは都合が悪いって場合や、(アフリカの)当事者国が戦いの専門家を必要とする場合、ヨーロッパやアメリカから旧軍人を雇い入れるってシステム。これは漫画の素材として『夜明けのマッキー』で扱いました。

この『メコンの鷹』では傭兵という風に描いていますが、本当のところベトナムには傭兵はいなかったというのが事実。ですが、まったくいなかったのか?といえば言い切れないのです。
実は米兵がベトナムへ送られるのを嫌がるし、米国内では反戦運動も広がるしって風潮だったため、正規の軍の他に特別な隊を創設していたという“噂”もあるのです。俗に言うところの『コマンド部隊』です。
この部隊、通常の基地内業務などは一切せず、もっぱら危険な作戦にのみ投入される部隊で、給料は他の正式部隊より高かったと言われ、実のところ傭兵部隊に近かったと思われます。
その辺りの匂いをメコンの鷹ではイメージして描いたってわけ。

まったくの嘘を描くのが漫画だとしたら、私の場合は漫画って呼べないかも。少しは本当・・・・・ つまり“かもね”“あるかもね”を創作したい訳なんです。と言って、まったくの嘘を描かない訳でもないけれど、例えばSF風の短編なんかはそうかも。『学園シャンプー』も、そういった作品かな。
でも、どこか自分の中で「ひょっとしたら事実はこうかも」って、思ってる訳ですよ。だから100%の嘘じゃなくて、内20%は「これが真実」な実録ものなんです。



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