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作品紹介

第52回

騒世紀

執筆者:   2013 年 3 月 7 日

現在の女子サッカー人気の陰にはこの作品があった……かどうかは別として、古くから応援して支えてきた望月先生らしいサッカー愛に満ちたコメディ傑作

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まだ、「プロサッカーリーグ(=Jリーグ)」もなく、ましてや女性がサッカーをやるなんて誰も想像だにしなかった1970年代後半に、我らが望月先生が描かれた「女子サッカー部」がある女子学園を舞台にした漫画。

それがこれからご紹介する「騒世紀」です。
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場所は多摩川沿いの上流に構える中高一体型女子学園「聖メリー・ゴーランド学院」。(よみうりランドのパロディ?)

勉学にスポーツに青春を賭ける若き乙女たちのサッカー純愛物語!?

しかぁ~し、ただのスポーツ根性漫画じゃ面白くない。

そこはそれ、望月漫画がお好きな方なら十分お分かりだと思いますが、お話はそう簡単に一筋縄では行きません。男子禁制の女の園、何が飛び出すかは読んでからのお楽しみ。もちろん読者サービスも満点。なんたって連載されていたのが女性向けの雑誌の「週刊明星」ですから・・・。

それにしても「女子サッカーリーグ」もなく、ましてや「なでしこJAPAN」もいなかった時代に、女子サッカーを題材にした漫画を描こうなんてさすが望月先生、すごいです!

先見の明があるとしか言い様がありません!
今回改めて読み直して驚いたのですが、舞台は中等部だったのですね、私はずっと高等部の話だと勘違いしていました。描かれたのが約30年前、設定が中学生というと当時13~15歳だったとして、そのままサッカーを続けていれば、さしずめ今なら「なでしこJAPAN」で大活躍したことでしょう。あくまで漫画の中でのお話ですが・・・(笑)

それとまさかとは思いますが、この漫画を読んだ当時のお母さんの中に自分の娘をサッカー選手にしようと思ったりした人も、もしかしたらいたりして・・・。(まさかね)

さて物語は、音大に進学する為に学費を稼ぐつもりで女子サッカー部のコーチに軽い気持ちで応募してきた主人公「夏目真沙子」。着任早々、生徒と先生達の常識ハズレな態度に圧倒される・・・。生徒たちの親は全国長者番付で百番以内のスーパーリッチな家庭の子女ばかり。もし貧乏人だとわかると馬鹿にされる可能性があると教頭に釘を刺される・・・。

しかも過去にサッカー部のコーチの10人が行方不明や発狂、病院送りになっていたりすると聞かされる・・・!?

一方、生徒が生徒なら教える先生方も猛者ばかりで得体の知れない先生方ばかり・・・。






自分の趣味で学校をヨーロッパの古城仕立てに作った学院長、職員室で堂々とプラモデルを組み立てている教頭、カスタムのモデルガンを弄っている体育教師(これが麻沙子の恋人「冬木達也!」)、ピラニアを美味と軽々と平らげる舎監、本物の人骨で標本模型を作るのが趣味の理事長、アイパッチした芸能人に似た教師・・・etc。

さらに麻沙子にはサッカー部の監督で彼女の恋人の「冬木達也」との関係が、もし生徒たちにバレてしまうと大変な事になると・・・!

麻沙子に待ち構える数々の難題や事件の数々を乗り越えはたして二人は見事ゴールイン出来るのか・・・?


連載当時に、はたしてこれは日本の学校のお話なのか?と、何度か雑誌を覗き見した時はあまりの過激な描写にそう思いましたが、現代日本では、これ以上の事が発生しているのが現実・・・。この内容は普通に見えてテレビ・新聞等のニュースを見る方がよっぽど過激です・・・。

さて、毎度お馴染みのチェックですが、今回も満載です。

まずは、ミリタリー関係ですと、サッカー部のトレーニング用のアイテムとして登場するのが、「ランドローバー」。それもただの車じゃない。なんとバズーカ砲を搭載してます。内戦でも始めるのか!とパッと見思いますが、そこはそれ、ちゃんと考えられてます。これなんとサッカーボールを発射するバズーカなんです。よく考案されたものです。

生徒達が着ているサッカーウェアの背中のロゴは「Cöln」(ドイツ語のケルンの旧表記、1900年から1919年まで使用されていたもの、現在表記は「Köln」)です。さらにスポーツバッグも「PUMA」(プーマ)とどちらもドイツ製。サッカーファンの望月先生ならではの、こだわりですね!

さて肝心のサッカーシーンですが、動きがまるでW杯の「なでしこJAPAN」のパス攻撃を沸騰させる俊敏なパスワークの数々。
サッカーはリズムとこの漫画で語られていますが、正にその通りだと思います。
選手同士のテンポが合わなきゃボールをパスしても受け取れず、すぐボールを相手チームに取られてゴールすることは出来ない。

日頃からいかにチーム内の選手同士がコミュニケーションを築けて、相手を信じてプレーが出来るか、信頼関係が築かれてからこそ初めて勝つことに専念できて試合に集中出来るもの。別にサッカーに限らずどのスポーツでも言える事だとは思いますが、特にサッカーはそれが観ている側にも伝わってきてしまうスポーツであると私は確信します。
もう一つピアノの演奏シーンが後半出てきますが、登場する演奏記号を簡単にご説明。私は学生時代、音楽が大の苦手だったので楽譜がほとんど読めませんでしたが、このシーンはそんな私でも記号の意味がよくわかりましたねぇ~。(苦笑)

表記 読み方 意味 備考
    Andante         アンダンテ         歩くような速さで         「歩くような」は雰囲気。    
    Accelerando         アッチェレランド         だんだん速く              
    Vivace         ヴィヴァーチェ         活発に              
    Fortissimo         フォルティッシモ         きわめて強く              
    Animato         アニマート         元気に速く              
    Feroce         フェローチェ         荒々しく         野性的に興奮して。    


最後に、今でこそ女子サッカーが持て囃されていますが、まだサッカーがプロ化していない時代に、サッカーの活性化の為にビートたけし氏、明石家さんま氏達と共に芸能人サッカーチーム「ザ・ミイラ」を結成され、さらに私設女子サッカーチームを結成され女子サッカーの発展にも貢献された望月先生。


昨今の「なでしこジャパン」の活躍の影に望月先生達の縁の下の力持ち的活躍があった事を私は声を大にして言いたい!


現在でも「ザ・ミイラ」の監督兼選手として活躍されておられる望月先生、これからも日本のサッカーの発展に寄与して頂きたい!

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『騒世紀』

1982年 プレイボーイコミックス(集英社)
全2巻/7月25日初版発行


1986年 サンワイドコミックス(朝日ソノラマ)
全1巻/9月20日初版発行


『eBookJapan』でも購読可能です。コチラまで。

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月刊望月三起也ではみなさんからの投稿をお待ちしています。
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また掲載された方には、望月先生書き下ろし特製ポストカードをプレゼント!


是非、月刊望月三起也事務局までメールを送ってください。
お待ちしております。
info@wild7.jp
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望月先生のコメント
【望月三起也先生より】
「週刊明星(集英社)連載だったのかァ」 と、
今さらでしょうが、雑誌にはそれぞれコンセプトがあり、ウケるものがあるわけで、今にして思えば『プレイボーイ(集英社)』ならドンピシャだ。単行本を見返してそう思いましたよ。
だいたい女性誌というのは、三角関係とかドロドロしたSEXものがいいと言われていたのは事実ですが、私には描けません。ドロドロォって濁ったものは苦手、スープもコンソメ一本だァね! って性格ですから、明るく爽やか路線になっちまうんですねぇ。
ただ希望として、サッカー好きが一人でも増えて欲しいっていう、儚い望みはありました。

当時からドイツなどでは街中の壁面に女子サッカーの試合告知ポスターが貼られたりして、女子サッカー、かなり盛んだったのですよ。私も頼まれて女子チームを持たされ、マイナーなリーグなど細々とやっておりました。
そんな時代でしたから、「今は世界ってレベルじゃなくても、いづれワールドカップで日本が優勝」 って、30年後を夢見ていたわけで。
サッカー好きの女子を増やし、そんなスポーツウーマンが男子サッカーマンと結婚すれば、その素晴らしいDNAで日本代表も強くなるはず・・・・・ と。
だから、作品はウケなくとも、かなりのサッカー漫画を手を替え品を替え描いていたものです。
まさに今、なでしこジャパンが開花して嬉しい限り、爪の先ほどの影響がどっかに出ていてくれたら嬉しいンだけどね。

eddy-sさんご指摘の『Cöln(ケルン)』。「C」が今は「K」。
「C」を使っていたのは19年間だけだったって、凄いね。なんと博識。ついでに言えば、オーデコロンのコロンは、このCöln(ケルン)のことで、このケルンの地で生産発売された『ケルンの水』ってのが世界で最初のオーデコロンなんだってね。

私としては、奥寺康彦選手が日本人として最初にスカウトされたチームが、ドイツ、ブンデスリーガ『1.FCケルン』だったんでイメージが良いってことで、作中に使ったわけなんですが。



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  • 西園寺ちーむ :
    >私は学生時代、音楽が大の苦手だったので楽譜がほとんど読めませんでした

     私も音楽の時間は、歌を唱う事やレコードを聴くのは好きなのですが…あと「あ」「え」「い」「お」「あ」「う」とかの口の開け方とか発声云々とかはいいんですが、楽器を弾くとか他もからっきし駄目で苦痛でしかありませんでした。
     最初っから脱線しました。
     兎に角望月先生の作品はどれにしろ尋常じゃなく、そもそも漫画自体が尋常じゃ面白くないわけですが、なんとなくっちゅうか他とは違う尋常じゃない思考…ではあるのに、なんとなく日常茶飯事っちゅうか常識はずれじゃなく当たり前の常識も踏まえられてる。
    奇異な作品だらけ気がして、いまだに魅了されっぱなしで、netではなんとなく読めないので、(ワイルド7・野獣伝説以降等は保存してて読めるのですが)古本で読むしかありません。
     騒世記のコメントではなくなりましたが、こういう類いの作品群も重版出来ないもんですかね。まぁ読む方は少ないでしょうけども。
     前人未到な独り言でした。

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