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作品紹介

第62回

黒い闘魂

執筆者:   2014 年 3 月 7 日

日本一読み切り作が多いと思われる望月三起也先生。その中から初期の良作にスポットをあてた今回。未読の方の欲求を刺激します。

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『黒い闘魂』の作品紹介をします。

「異色戦記アクション」というキャプ
ションがあり、戦記物ですが「異色」
と謳われている様に、少し変わった
シチュエーションの漫画です。

内容は独立を目指す反政府ゲリラの
グループと、政府軍との抗争を描いた
ものです。
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ki03前半は反政府ゲリラが政府軍に捉えられた部分が描かれて
あり、後半はこのゲリラの中に酒(ワイン)の商人が紛れ混ん
でいてその商人を反政府ゲリラグループの隊長が逃がす事ki02が描かれています。

(←本編の主人公はこの商人です。)

そして最後は実際に逃がせおおせたかどうかはぼやかしたままになっており、この辺りは望月先生が読者の想像にお任せするという内容で終わってます。

物語の最初は時代と場所は明確にされていませんでしたが、反政府ゲリラの隊長はクーフィーヤとイカールを身にまとっている事から場所は中東かな?と思いました。しかし物語の最後で場所はアフリカである事が記されています。確かにアフリカもそういう民族衣装はあるのですが、日本人としてステレオタイプ的な思考になりがちでが、やはり中東のイメージだと思いました。

ki05主人公の商人(岩木)がワインを売りにいくというのも
相手がお金持ちというイメージに合います。

そして前半部分での面白いエピソード・・・捕らえられた岩木が政府軍から暴行を受けた後、介抱してくれていたゲリラグループの前で「イスパノスイザで大脱走するところなんだが・・・」と口走るのですが実はその直前、岩木が気絶していた時に脱走計画の話をしていたので、それを聞かれたのでは?と警戒されます。

しかし直後に「日本で映画を観た時のエピソードだ」と言うのを聞きホッと一安心。ゲリラグループ達は脱走の
事を主人公が政府軍に告げ口するのではないかと危惧したんですね。

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ところで「イスパノスイザで大脱走」ですが、戦争映画に詳しい方ならピンとくると思います、私は1969年のイギリスの映画「空軍大戦略」の事を思い出しました。

この映画は同年の9月に公開されています。そして本作品は同年の11月に少年画報社より発売された別冊少年キングに掲載されています。勿論、私の勝手な想像ですがこの映画を観られた望月先生がその場面に印象を受け、本作品の中にこの場面を入れられたのかな?と思いました。

ki08後半はゲリラの隊長がこの岩木を救いたいと思い・・・というより、素人が仲間といれば足手まといになるので飛行機で脱出させようとします。仲間のゲリラは別ルートで脱走、それが「イスパノスイザで大脱走」の話に繋がります。しかし政府軍の攻勢の前に決定打がありません。ここで隊長は岩木に商売物のワインを火炎瓶(アルコール濃度が高いもの)にしてそれで政府軍に打撃を与えようと進言します。

しかし岩木はこのワインを売ったお金で儲けて酒屋をやるのが目的だと、その進言をはねつけます。

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隊長は「国の独立と酒屋、どちらが大切なんだ!」と問う場面がありますが、最終的には「人それぞれに理想がある。その理想がたとえちっぽけなものであっても命をかけることにかわりはない・・・」と言います。

この部分が本編の白眉であると思いました。

しかし、少年向けの雑誌の内容なので致し方ないですがワインに火をつけて火炎瓶とは少し無理がある様に思いました。(本作でもアルコール度数が高いワインと敢えて記されてますが)もっとも少年誌が舞台ですのでそれに違和感を覚える読者も当時あまりいなかったかもしれません。

もし私だったらこの最高潮の部分はこうしたいですね(お遊びなのでお許しあれ!)

隊長が、酒を火炎瓶にしたいので差し出せ!と岩木に迫ります。岩木はワインしかないのでダメだと突っぱねます。その時、敵軍がすぐ近くまで迫ってきます。隊長は再度岩木に迫ります。切羽詰まった岩木は、「実は自分用(商売物ではない)のお酒がある」と言います。隊長がそれはなんだ?と尋ねるとそれはスピリタスでした。

ご存じの方もいらっしゃると思うのですが、スピリタスは世界で一番アルコール度数が高いお酒です。アルコール度数は95度~96度くらいあります、私も好きで時々ストレートでチビチビやります。これだけアルコール度数が高いので当然引火性も強く酒場で飲む場合には喫煙とかも御法度である程です。そのスピリタスに火をつけて敵の戦闘機を撃墜します。隊長と岩木は高笑いで、最後のオチに隊長が「もうないのか?」と岩木に尋ねると「もう一本ある」といい、それを二人で飲みながら最後は酔っ払い飛行するシーンで終わらせたいですね(笑)

勿論この場合は前半で隊長も岩木もお酒が大好きであるというそれなりの伏線は必要であると思いますが・・・。

本作品は全31ページの短編ながら望月作品のエッセンスが盛り込まれた良作だと思います。エッセンスとは、「大きな勢力に対抗するエネルギー」、「テンポの良いストーリー」、「ダイナミックな戦闘シーン」等です。

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黒い闘魂
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1969年 別冊少年キング(少年画報社)11月号読切全31頁

1971年 コミックメイト(若木書房)怪傑アイアン併録
(9月25日初版発行)

2000年 漫画文庫(ホーム社)秘密探偵JA/13巻併録
(7月23日初版発行)

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望月先生のコメント
【望月三起也先生より】
今度は“酒”のプロ的解説ですか?
以前、建設学的解説もありましたが、切り口は色々あっていい、読んでいて楽しい。
私にはスピリタスなんて酒の名前すら初耳。なんたって一滴、目薬のようにウーロン茶へ垂らされても椅子から立ち上がれなくなるほどの酔いが襲い掛かってくる。って、くらいの下戸。下戸ランキング上位にくること間違いなしってくらい。酒屋の前を通ったら、臭いだけで酔い始め、二件目の酒屋の前では多分、腰砕けで座り込んでるでしょう。って、くらい。
もっとも下戸でも酔っ払いを描くのは上手って話はよく聞きます。冷静に観察できるからだそうで、水島(新司)さんの『あぶさん』がいい例かも。水島さんも見事な下戸なんですね。
私の場合、そもそもが冷静に酔っ払いを見るなんていう、そういう場所へ出掛ける機会がないですから、酒に関して無知なんですねぇ。
それなのに、田辺、土山とかアスカ・・・・・ うちの弟子すじは、なぜか皆酒に強い。変ですねぇ。

で、ありまして、百人に一人くらいしか知らないイスパノスイザなんてマニアックな飛行機は登場させても“酒”=“ワイン”って、我ながら情けない。
しかも「こうしたらどうでしょう?」ってストーリーを作ってくださったなかのさん、いいねぇ。描き直すチャンスがあったら、一遍その方向でやってみようかって気になる。 オチまでつけてくれるって、原作者か、あんた?
本当、読者はこうやってそれぞれ楽しみが深いって羨ましい。と同時に、そこまで読み込んでくれる熱さに頭が下がります。
ジュースで乾杯!!

でも、今見るとヘタな絵だね。恥ずかしい。



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