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【ひとこと作品紹介】戦場のメダル

hitokoto_img第15回

戦場のメダル

執筆者:Ken

単行本未収録の作品をKenさんが紹介。
デビュー年に発表された3作目となる読切で、ついにファン待望の戦争マンガが登場。

☆これは、戦場でめぐりあったふたりの少年の哀しい物語である。
【作品名】
戦場のメダル

【掲載誌】
「少年クラブ」(講談社)
1960年夏休み増刊号読み切り

【単行本】
未収録

【ページ数】
9ページ

【あらすじ】
時代は第二次世界大戦の末期、場所はソ連と満州国の国境あたり。
主人公の山岡少年兵は女性看護師をサイドカー(側車付二輪車)に乗せて走っていた。
彼の任務は病院へ貴重なクスリを運ぶこと。

途中で日本の軍人に呼び止められた。
山岡はこの軍人から昼間はソ連兵に見つかってしまうので、夜まで待てとの忠告を受ける。
ちなみに山岡の胸にはメダルを半分に割って作られたペンダントが光っていた。

そろそろ山岡は出発しようとしたとき、軍人から拳銃を突きつけられ、「ソ連のスパイめ」と言われてしまう。
証拠はこれだと突きつけられたのは山岡の持っていたペンダント。
それはソ連製だった。
いつの間にか落としてしまったらしい。
「これは音楽コンクールで、ソ連に行ってもらったものですよ」
その昔、平和だった時代に手に入れたもので、同じコンクールで競ったソ連の少年に友情の印として半分あげたもの。
軍人は疑いを持ったままだったが、ちょうどそのときソ連軍の戦車隊が攻めてきた。
やり過ごそうとしたが、瓶に入った貴重なクスリが戦車隊の前に転がってしまう。

そのクスリは何百人もの命を救える非常に大切なもの。
女性看護師が命をかけて拾いに行き、クスリは手に入ったものの敵兵に見つかってしまう。
だがその軍人は彼女を見捨てて逃げようとする。
山岡に銃を突きつけ、運転は任せて、自分は側車の方に乗り込む。
ところが山岡には強い使命感があるので、軍人の言うことを守らず、「いさぎよく戦ってください」と言いながら、持っていた手榴弾で運よく戦車をやっつけることができた。
山岡も軍人もこの調子でサイドカーを駆使して戦うことを決意。
一方で看護師にクスリを病院に届けるよう指示した。
小回りが効くので、うまく1台ずつ戦車をやっつけていく。

残り1台になったとき、敵の戦車に撃たれ、サイドカーは粉々。
なんとか最後の力を振り絞ってその戦車もやっつけたが、山岡は息を引き取ってしまう。
そのとき戦車から降りてきたソ連軍の負傷兵が山岡の元に近づいてきた。
彼は山岡の近くにあったメダルに気が付き、「あっ」と叫ぶ。
持っていた自分のメダルを取り出し、重ねるとピタリとひとつに。
「山岡くん、君だったのか。天国でまた会おう」

【作品解説】
本作品は1960年に発表され、デビュー作『特だねを追え』と同じ掲載年であり、3番目の作品となる。
こうした背景もあって主人公の山岡の風貌は『特だね』の主人公とかなり似ている。
さらに『文藝別冊 望月三起也』(河出書房新社刊)の中で紹介されているデビュー前の未発表習作『50で爆発する』や『鉄腕探偵スペード・ワン』に登場する主人公とも同様に風貌が似ている。
初の連載作品となる『ムサシ』(1962年)で望月作品らしい主人公の雰囲気が固まってくるのであるが、このように習作時代から描き慣れた主人公のイメージに接することができる点で注目に値する。

さてこの作品は「戦争もの」に分類される。
サイドカーを駆使して多数の戦車をやっつける物語であり、乗り物を利用したアクション作品。
『特だね』でもジープを駆使したスピーディな展開が見どころだった。
望月先生が心の底から描きたかった「テーマの原点」がこれらのデビュー当時の作品に見ることができるのである。

ところで望月作品といえば、男性主人公によるアクションストーリーを思い浮かべるが、ここで女性キャラについて述べてみたい。
この女性キャラ、初期作品では全くと言っていいほど見かけることが無いのに、ある時点から純情な女の子が登場するようになり、さらにある時点から魅力的で色気たっぷりの女性が主要なキャラとして位置付けられるように変化していくのはご存知の通り。

ここである問いが生じることだろう。
どの作品から女性キャラが登場したのだろうか。それはどんな女性なのだろうか。
すなわち『望月作品の中で最初に登場するのはどのような女性だったのか?』
そんな素朴な問いが浮かびあがってくるのではないだろうか。

とても興味ある問いに対する答え。実はこの『戦場のメダル』に登場する看護師が望月作品初の女性キャラなのである。

『特だね』や先に紹介したデビュー前の未発表習作にも女性の登場は無い。
ちなみにデビュー2作目となる『拳銃キッド』(未収録)にも登場しないため、3作目にして初めて女性キャラのお披露目となった。
全9ページの作品なので登場回数は少ないものの、1度だけ顔がアップになる場面がある。
看護師の設定なので素朴な女性であり、名前も無いが、望月先生が初めて発表作品の中で描いた女性。
当時の女性キャラに対する想いがほんのり伝わってくる貴重なカットと言えるだろう。

デビュー当時、女性キャラの登場が無かったのは、望月先生ご自身もコメントされているように、それまで「女性を描くのは不得意だったから」とのこと。
そんななか本作品発表から数年後には早くも女性主人公が登場する。
単行本に収録されたこともある「りぼん」掲載の『ひまわりっ子』(1964年)を初めとして、「別冊マーガレット」掲載の『死をよぶ山』(同・未収録)、「美しい十代」掲載の『われらが百合子センセイ』(1966年・未収録)といった作品が間を置かずに発表されたのである。
これらが少女誌・女性誌という世界で発表されたことがとても興味深い。
不得意ポイントを克服してさらに魅力ある作品領域の拡大につながっていったのである。

このように『戦場のメダル』で登場した初の女性キャラが望月作品の「もうひとつの原点」であり、「テーマの原点」と合わせて本作品は初期の中でも貴重な存在と言える。


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2024 年 5 月 8 日   固定リンク   |   トラックバック(0)


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