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作品紹介

第18回

学園シャンプー

執筆者:   2010 年 1 月 2 日

漫画本来の楽しさを、「これでもか」と詰め込んだ娯楽作の快作『学園シャンプー』。笑いあり、アクションあり、夢と冒険とちょっぴりお色気も加えてSF仕立て。読むでしょ!

望月先生の作品には、どれもこれも思い入れがあって「これ」っていう一押しなんてないんですよ。どれもが等しく私の思いの中にあって。
もちろん漫画界の金字塔的存在の『ワイルド7』は抜きん出ていることは間違いないのですが、私なんかが「ワイルド7」を語るなんてのはおこがましく、さりとて『秘密探偵JA』を語るのもこれまた滅相もない。
では何を語りましょうか、となった時、ちょっとマイナーかもしれない、でもメジャーという意味不明な思い込み位置付けを勝手に設定、考えたのが『学園シャンプー』です。

うーん、本当のところ実は何をどう書いていいのか、全然判ってないんです。テーマも決まってないんです。たとえ決めていたとしても難しいことなんて書けませんし、そもそも判りません。私にとって漫画は面白いか面白くないかの二者択一で、望月先生の漫画はそれのどれをとっても面白いってことを伝えるしか出来ないんです。勢いだけで書いてるんです。漫画のアレコレ、詳しいことも判りません。判らないから書けません。判んないけど面白けりゃいいんです。楽しけりゃOKなんです。
とにかく私が面白いと言っているんです。だからお奨め、読んでみてちょ!と上から目線でお話しするしかないんです。
いいんです、強気に出ても。だってハズレないんですから(笑)。
私 思うにこの「プチ超能力SFアドベンチャーアクション学園漫画」(長いねドーモ)読まなきゃ損するぞ! そんな漫画です。

というか、単に私がこの作品、好きなんですね。
だって面白いじゃないですか、理屈抜きに面白いじゃないですか。
ちょっと間の抜けたトリオ漫才を、SFとサスペンスとアクションと学園物まで混ぜこぜにしたブイヤベース漫画なんですよ。
一粒で二度美味しい・・・・どころじゃないでしょ、三度も四度も美味しく味わえるなんて、まー、なんて贅沢な食卓なんでしょ。
好き嫌いは言っちゃダメ、喰わず嫌いは一生の損ですよ、食べましょ食べましょ、満腹になるまで食べましょ。っていう漫画。

ちょっと情けない貧相エスパー「総ちゃん(白川総司)」。思惑とは一切関係なく、ことごとく逆目逆目と進んでいく総ちゃんの日常、本人は嫌々なのか享受するマゾッ気体質なのか、なんとも情けなく強運な主人公を快演。
博識なのか無責任なのか、言うことは凄いけど口先だけのアイドルヲタクの喋る猫、ボテネコ。猫に見えるが本当は古代ミュー大陸人(?)の子孫(らしい)。これがまた西田敏行ばりの存在感を見せてくれ、このボケ合戦に横から正論を、正面からツッコミを山之内一豊の妻かと見紛う尻の叩きっぷり、カカア天下成長進行型少女『トモちゃん』。
この3キャラクターのトリオ漫才が、古都京都を舞台に吉本新喜劇級のズッコケ、体験させてくれます。

能力を発揮する時には、親指しゃぶりをしなければ出来ないとか、地上から50cmしか浮遊できないとか、プチ超能力というのがこんなに笑いを誘うものなんてことは考えたこともなかったですよね。
実際どんな些細な超能力であっても、目の当たりにすると「オワー!」って感じになると思うんですけど、それを逆手に取って笑いに変えてしまうなんて面白過ぎです。
ほーら、読みたくなって来たでしょう?(笑)
そこに学園ドラマあり、荒法師だ悪十字だと不良グループの抗争あり、合間にスーパー強盗に巻き込まれ、教師にまで広がりをみせる麻薬事件が横たわるって、もうジェットコースターなみです、面白さとスピード感。
物語のラストなんて行くところまで行っちゃうんですから。
主人公たち御一行様搭乗の修学旅行バスが、こともあろうにパラレルワールドに落っこちてしまいます。迷い込んじゃいます。どうなっちゃうんですか、このお話し。
いやいや、満腹様でございます。

そこでちょっと考えて思うのですが、この時期 望月先生の作品ってSFとか学園がらみの作品が多かったような気がするのです。
高校生が試験や入試を気にしながら、国家任務に飛び回る「優しい鷲JJ」。
船が脱出不能の密室少年院となる「四つ葉のマック」。
そして「サムライ教師ボギー」など。SFでは「誇代史」や「伝鬼」。
丁度、気分的にそのようなジャンルを描きたかっただけだったのかもしれませんが、これって一つ描いている内に次々にネタやアイデアが湧いてきて、「捨てるには勿体ない、じゃ別に一本描くか」「このネタはこっちの作品じゃ使えないけど、あっちには使えるぞ」みたいな感じだったのかなぁ、なんて勝手に想像しています。

そしてもう一つ面白く共通部分ってあると思うんです。
主人公以外で主人公を喰ってしまいかねない滅法強くてカッコいいキャラクターなんてのが設定されているのです。それも不思議に謎多き奴だったりしちゃってますから、月光仮面かスーパーマン「あら、素敵」なのです。(古くてすみません)
「四つ葉のマック」の死田くんだったり、「JJ」のヒロ、この「学園シャンプー」では第七騎兵。
実在の米陸軍第七騎兵隊は、リトルビッグホーンの戦いでネイティブアメリカン、スー族、シャイアン族連合軍に敗れて指揮官カスター将軍以下、全滅したらしいですがこちらの第七騎兵はしぶとく生き残るカッコいい奴です。
例のトリオ漫才の中にポンと嵌め込まれているだけに、そのニヒリズムが際立つハードボイルドがまたいいんです。映画やテレビだったら主演の俳優さん怒っちゃいそうです。先生が以前コラムで書いていらした宍戸錠さんみたいですね、主人公と並ぶ人気者。
でも逆にトリオ漫才の3人もアホ臭さ満載で際立つんですけどね。

漫画だから成り立つこの奇想天外の面白さ。漫画の持つ醍醐味だと思います。全ての展開がまったく読めませんでした。きっと新宿の母にだって先は読めません。私が読めなくたって何の不思議もないんです。
「俺も読めなかったんだよ」なんて先生が言ってたら唖然ですけど、まさか。。。ですよねー。
私が読める訳がありません。
先生といえば望月先生、学校の校長役で自己出演されていました。
カツ丼代にお布施を盗ってました(笑)。

最期に私が一番大受けしたところと言えば、イースター島モアイの謎解きです。
ジャンケンしてあっち向いてホイ。それを超能力使って一斉にモアイを念力であっち向いてホイをしていたミュー大陸人。だからモアイはみんな同じ方向を向いているんですって。アホくさ(笑)メチャメチャ噴出してしまいました。

望月先生の作品としてはこの「学園シャンプー」は異質の類かもしれませんが、漫画本来の面白さ満載で私は好きです。機会があればまたこんな楽しめる漫画を世に送り出してくれると嬉しいですね。

『学園シャンプー』
週刊少年キング(少年画報社)1981年第48号~1982年5月14日号第22号
ただし未完で終結。後単行本化にあたり加筆、完結させた。
ヒットコミックス(少年画報社)1982年初版刊行


望月先生のコメント
【望月三起也先生より】
「猿の惑星」があるなら『猫の惑星』があってもいい。 と小生、考えたのがこの作品。
夢を見るのがマンガ、別の世界へ遊びに出掛けることで現実のもやもやした気分、忘れる。そういう方向で思いっきり不思議を描いてみたのです。
確かに私の作品、リアリティを重んじる方向が多い。それだけにタマにはこういうモノ創る作業って本人も別世界味わえて、それは楽しいものなんです。
そう、猫だけに“タマ”にはってね。
モデルはうちのデブ猫の『ボテ』。ボテっとしてるからボテなんです。

我が家はなぜか猫が絶えず居ついてる。
買うということはしないのですが、捨てられた子猫が一晩中鳴いてると、かわいそうだからと家族が連れてきてそのまま居つくパターンが多い。時には13年も居つくのもいたり、個性も色々だけにモデルにするのは楽。
今、同居しているのも2匹共捨て猫、飼えばもう家族、かわいいもんです。
が、猫は焼きもち焼き、私は一度噛まれました。
外の野良猫に餌をやると勘違いしたらしく、噛まれ方が派手で牙の痕がクッキリ。
足首噛まれたんですが、一秒間は離さなかった。当然血まみれ。
でも大したことはないと思っていたところ、翌日足が腫れてしまい近所のお医者さんに行く破目に。
お医者さんが言うには、猫は歯を磨きませんから当然バイキン持ってるんですと、
妙に納得しました。

まァ そういう訳で、身近なペットというより同居人、見て表情が何となく読めるようになると、こいつ今こう思ってるな?とか「フン、こんな餌飽きた。たまには刺身くらい出したらどうだ」なんて猫の心の内読むのが楽しくなるわけで、その辺りからネタになり、重要登場人物じゃなくて重要主役クラス猫が出来上がったわけです。



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コメント/トラックバック

  • sillazman :
    アクション漫画の巨匠なんて形容されることの多い先生ですが、この手の作品イイですよねぇ。
    個人的には、誰がどう作っても納得出来そうもない「ワイルド7」の実写化なんて企画よりも
    こういった作品をドラマ化したほうが、よっぽど当たると思うんですけどねぇ…。
  • kowZow :
    言われてみればそうですね。
    ワイルド7や秘密探偵JAを動かすとなると、かなりの資金も必要でしょうし、
    その完成度についてもコアなファンの喧々諤々が起こること必至だと思いますが、
    この作品などは最適な映像化候補かもしれませんね。
    言われるように、内容的にもバラエティに富んでいて、面白い映像化が想像できます。
    でも考えると、やっぱりお金は掛かりそうですけど(笑)
  • sillazman :
    プチ超能力といえば、昨年「曲がれ!スプーン」なんてのが微妙な興行だったようですが、
    これなら、どこぞの大手アイドル事務所から無理やり主役を推されても許せそうですし、
    脚本とCG次第で、それなりの予算で楽しめそうな気がするんですけどねぇ。

    マァ、時代劇なら「ダンダラ新撰組」刑事モノなら「Oh!刑事パイ」なんてのが、
    お勧めかなァって思ってます。

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