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コラム:言いたい放題

第36回

こころに愁雨が

執筆者:   2011 年 9 月 1 日

ここんとこ、また心の中に雨が降るといった状態が続いています。

親友、森 孝慈(※)さんのあまりにあっけないあの世への旅立ち方、同じく松田直樹(※)選手。こちらまだ現役ですよ。
ラモス瑠偉のおかみさんには、フェジョアーダってブラジルの豆料理、ラモ家でご馳走になった思い出が・・・・・
特に森さんの場合、彼が一年間ドイツへサッカー留学をしていたころ、借りた家が夫婦で使うには部屋数が多くて、「空き部屋、使ってもいいよ」って言ってくれたのをこれ幸いと、何週間か転がり込んで居候を決め込んだことも。
いい男なんです、優しさがある。
でも一方、皮肉の名人。先輩相手でも気に入らないと平気で皮肉をかます。

どう優しいかと言えば、見え見えってところが全然ない。
ある時、三菱重工サッカー部OB数人と銀座のクラブへ行きました。森にとってはお馴染みの店、私は初めて、良くあることです。ですが、私に色紙の依頼が店からあったのです。実は私、遊んでいる時でも色紙を出されるととたんに仕事モードに入り、リラックスできなくなるんです。
色紙の依頼、ファンからなら有難い、でも店はお金を払って来てくれる客に負担をかけちゃいけないと私は考えるのです。俳優やスポーツ選手なら名前のみ、つまりまさにサインだけで済む。俳優に演技してくれ、サッカー選手にPK見せてくれとは頼みませんよね。絵描きはサインだけじゃ喜ばれません、大概「絵」です、飛葉です。
これじゃ仕事でしょ、お金を払って仕事をしているっておかしいでしょ。そこんところ理解してもらえないと気分が悪くなって当たり前ですよね。

ワァワァ大声で騒いでいたのがとたんに静まる。しかも10枚もどっと色紙を渡されたンです。仕方なく一枚、描きましたよ。
それを隣で見ていた森、「俺だって絵は巧いんだぞ」と、残りの色紙をさっさと取ってマーカー構えるや、サラサラと悪戯書きを始めるじゃないですか、なんと残り9枚全部にですよ。
酔った勢いと見せかけ、店側も苦笑、怒れませんよ。

これ、これなんです、優しさって。
私が本当は色紙を描きたくないのを判ってくれているんです。空気、読めるんです。だから敢えて私に描かせないため、悪役を買って出る。
これが“男”の優しさってもんなんです。

本当に世の中皮肉、どうしていい男から先にあの世に行っちまうんだろ、残念。
別の世界へ行っても、一本筋を通してるんだろうなァと、冥福を祈るばかりです。




※森 孝慈
広島県福山市生まれ。
1967年、日本サッカーリーグ(JSL)の三菱重工(現浦和レッドダイヤモンズ)に入団。杉山隆一、横山謙三らと共に主力選手として活躍。日本代表としても多くのゲームに出場、1967年のメキシコオリンピック銅メダル獲得に貢献した。
「浦和レッドダイヤモンズの父」「浦和レッズ生みの親」とも称され、チーム監督および日本代表監督と歴任する。
2011年7月17日、腎盂がんのため死去。


※松田直樹
群馬県桐生市生まれ。
長く横浜マリノスの主力選手として活躍。ルーキーシーズンであった1995年、DFとして開幕スタメンに抜擢。1998年以降はチームの顔として存在していた。U-16日本代表に招集されて以来、各世代の日本代表に選出され、1996年のアトランタオリンピック、2000年のシドニーオリンピックと代表として選出。年齢制限のあるサッカーのオリンピック代表としては珍しい2大会連続出場選手となっている。

2011年8月12日、急性心筋梗塞にため死去。34歳の若さだった。

※ラモス瑠偉夫人、初音さん
1984年、当時サッカー日本リーグ(JFL)読売クラブの選手として来日していたラモス ルイ氏と結婚。
肝っ玉かあさんと知られていた初音婦人だったが、2011年8月19日、転移性肝がんのため死去。52歳。





心よりのご冥福をお祈りいたします・・・・・




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