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作品紹介

第57回

リングの薔薇

執筆者:   2013 年 9 月 8 日

ライトを浴び大勢の観客の前で闘う華やかな女子プロレスの世界を舞台にしながら、勝利を目指すスポーツものの定石とは一線を画した望月マンガの真骨頂がここにある!

r019【まえがき】
●今回は、1978年に「ヤングコミック」にて連載されておりました『リングの薔薇』(以下「本作」と略記)を紹介させていただきます。

当時は全日本女子プロレスの「ビューティーペア」が一世を風靡していた頃。マキ上田選手とジャッキー佐藤選手の試合や歌をテレビでご覧になられていた方も多かったのではないでしょうか。

本作が発表されたのはまさしくその只中。ブーム漫画の一つと言ってしまえばそれまでなんですが、望月先生のフィルターを通ることで、女子プロレスのドラマがどのように描かれるのでしょうか…?

プロレスが好きで、望月先生の作品も好き…とあっては、これは私にとって見逃すわけには行きません!

大変面白く、時にホロリとさせられながら拝読させていただきましたが、勢い余ってこのコーナーまで書かせていただくことになってしまいました…乱文ではございますが、お付き合いいただけましたら幸いに存じます。
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【主要登場キャラクター】・・・画像左より
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●アロハ大江姉妹
プロローグに登場。世界タッグ選手権保持者。相対するタッグチーム、ザ・チーズケーキに反則攻撃をしかける。

●ザ・チーズケーキ
プロローグに登場。アロハ大江姉妹と対戦するタッグチーム。試合開始早々、アロハ大江姉妹の反則攻撃を受け、ケーキこと関恵子選手は重傷を負わされ、再起不能に。

●関 花子
本作の主人公。アロハ大江姉妹の反則攻撃に憤りを覚え、復讐を試みるも失敗。その時の失敗を契機にニュージャパン女子プロレスの門を叩き、悪役レスラー、ザ・イヤリングとして活躍することとなる。

●リンダ
花子のよき先輩レスラーであり、タッグパートナー。本来は映画スター志望で、女子プロレスをそのステップとして考えるため、純粋なファイトを志向する花子と度々衝突するが、じつはものすごく情に熱い女性。

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●去 田兵衛
ニュージャパン女子プロレスの社長であり、リングアナウンサー。元銀行員で、お金の計算に強いひと。

●木常 勢一
ニュージャパン女子プロレスの専務であり、レフェリーとマネージャーも兼務。時に厳しい現実を花子やリンダに突きつける事もあるが、その実二人のことをとても信頼している。

●花子の両親
「ROUND1 ザ・イヤリング」に登場。花子のデビュー戦を一目見ようと会場に足を運んだものの、リングに立つ娘の姿を目の当たりにして、何を思ったか…

●学生さん
「ROUND2 蒼きヘボの血」街でチンピラに絡まれているところを花子とリンダに助けられたことから花子と知り合うことに。医師を目指すものの、貧乏で学費の支払いにも事欠くため、花子から援助を受けるが…

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●黒真珠
ニュージャパン女子プロレス所属のタッグチーム。役回りはベビーフェースながら、先輩風を必要以上に吹かせまくり、宿舎で賭け事に興じるイヤな先輩レスラー。

●トラックの運ちゃん
「ROUND3 祭りだワッショイ」に登場。試合会場へと急ぐ花子のためにと、仕事も放りだし、交通違反も厭わずに尽力する、心優しいお兄さん。

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●マサオくん
「ROUND3 祭りだワッショイ」に登場。花子の幼馴染の少年。地元のお祭りで、神輿をかつぐ花子をみるのを楽しみにしているが、不治の病にかかり、余命2日と宣告されてしまう。

●クイーン・リマ(本名:阿部川 木奈子)
「ROUND2 蒼きヘボの血」「ROUND4 ウエディング・マッチ」に登場。ニュージャパン女子プロレスの女王として君臨するが、自身の体力の限界という現実を突きつけられてしまう。

●田抜山
「ROUND1 ザ・イヤリング」「ROUND4 ウェディング・マッチ」に登場。元大関で、ニュージャパン女子プロレスのトレーナー。密かにリマへ思いを寄せているものの、どうにもそれを打ち明けられない…
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【あらすじ】
本作は、プロローグを含む全4話から成っています。以下に、各エピソードのあらすじと、個人的に気になったひとコマをご紹介していきます。

●プロローグ(「ROUND1 ザ・イヤリング」に内包されています)
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ハワイの黒クモ「アロハ大江姉妹」と、人気タッグチーム「ザ・チーズケーキ」とのタッグマッチ。試合開始早々のアロハ大江姉妹の反則技により、再起不能の大怪我を負わされた、「ケーキ」こと関恵子選手。そのやり方に憤った本作の主人公、関花子!恵子選手の復讐を遂げるべく、硫酸入りの瓶を隠し持って空港行きの車に乗ろうとする大江姉妹に襲いかかるものの、あえなく返り討ちに…

「くやしかったらリングの上で仇をうちな」

足蹴にされながら吐き捨てられたそのセリフこそ、花子がプロレスラーとして歩んでいくためのゴングが鳴った瞬間なのです…リングに置かれた巨大なデコレーションケーキから飛び出す、ザ・チーズケーキ。すごく華やかで、インパクト抜群のシーンではありますが、体中に油とか付いちゃって反則取られるんではないかと…

●ROUND1「ザ・イヤリング」
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ニュージャパン女子プロレスの門を叩き、養成機関を経ていよいよ今夜、先輩レスラーリンダとのタッグでデビュー戦に臨む花子。生まれ故郷での試合とあって、晴れの姿を両親に見せるんだ!とばかりにリンダから化粧を習い、見違える程キレイになったものの、マネージャーからあまりにも残酷な一言がつげられる…

主な登場人物の紹介エピソードで、決して多くないスタッフが知恵をこらして興行をきりまわして行く様子や、花子と相棒リンダのプロレス観の違い、いくら頑張っても上からいとも簡単に一蹴されてしまう哀しさが描かれていて、見どころいっぱいのエピソードです。

リングでの華やかな姿を両親に見せたい花子。その熱意と、つい口が滑って花子の心を傷つけてしまったかも…という負い目から出た、リンダのひとこと。タッグチームとして気持ちがつながる瞬間というのはこういうものなのかも知れませんねぇ…

●ROUND2「蒼きヘボの血」
r016街でチンピラに絡まれているのを助けたことから知り合うことになった、とある学生。彼の存在は、レスラーとしての壁にぶつかり、辞めたいとさえ考える花子の心を癒せる数少ないファンの一人でもあった。苦学しながら医師の道を目指す彼の力になれるなら、と、日々の厳しい試合をこなしながら内職まで始める花子。 どうにかこうにか彼の学費を捻出できたものの、それを彼に渡すよう花子から託された先輩レスラーのちょっとした出来心によって、事態は思わぬ方向へ…

花子の底抜けの優しさと、結局はそれがもとで招くことになった悲劇。試合でボロクソに痛めつけられている先輩レスラーに一矢報いる…という痛快な展開ながらも、その裏で怒りのぶつけどころを結局先輩に向けざるをえない、花子の胸中も垣間見える一編です。先輩レスラーの自宅に単身でカチコミをかけたものの、2対1であっという間にねじ伏せられる花子。このコマを見て、先輩だからっていくらなんでもそこまでやるか?とちょっと驚いたのですが…(笑)

●ROUND3「祭りだワッショイ」
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ザ・イヤリングとして初めてのTVマッチに喜ぶリンダと花子。前祝いとばかりに食事を楽しむ彼女たちのところへ、花子の郷里の幼なじみ、マサオくんが病をえて余命幾ばくもないとの突然の知らせが!祭りで勇ましく神輿をかつぐ花子を見るのを楽しみにしている…というマサオくんのもとに大急ぎで駆けつける花子。しかし、今日のTVマッチは将来映画スターとしての活躍を夢見るパートナー、リンダにとっての将来がかかっているとも言える重要な試合のため、自分の都合だけで穴を開けるわけにも行かない…と思い悩む花子はやむなく郷里へ帰るのを諦めてしまうが…

リンダを気遣いながらも、病床のマサオくんにひとめだけでも顔を見せてあげたい花子、それを意気に感じて交通違反も厭わず協力するトラックドライバーや白バイ警官たち、花子の誠実さを信じ、決してカードを変えようとしないマネージャー…優しいというよりはむしろ愚直で、今の時代にはコントのように取られかねない気もしますが、こういう気持ちは絶対に失いたくない、と強く思わせる一編です。

道中の列車が事故に遭ってしまい、やむなく試合会場へ戻ることにした花子。祭りに出られない代わりにせめてテレビで、と、用意していた法被を着て試合に臨むザ・イヤリング。これをテレビで観たマサオくんはどれほど喜んだことでしょうか。泣かせるひとコマです。

●ROUND4「ウェディング・マッチ」
r009ニュージャパン女子プロレスの女王、クイーン・リマ。後輩レスラーたちの高い壁として君臨する彼女は、ほかの選手たちと一緒に練習することもなく、巡業中毎晩トレーナーのタヌさんを伴って呑みに出かけるやりたい放題ぶり!いったい彼女はどうやって強さを維持しているのか? 呑みにいくにしてもどうしてタヌさんと?夜中、買い物から帰る途中で偶然リマとタヌさんの公園での密会を目撃してしまった花子とリンダ。二人の秘密を知ってしまった花子とリンダのとった行動とは…?

本作の最終エピソードですが、ROUND2でほんの2コマ程度の登場ながらも存在感抜群の女王、クイーン・リマの主役回です。プロレスに限らず、どのスポーツにもかならずある「世代交代」を軸に、王者としてのプライドと厳しい現実、業界への危機感、後輩への思いやり、好意を寄せてくれているトレーナー、タヌさんの気持ちを知りながらも素直になれない自分…レスラーとしての自分と、女性としての自分との間に翻弄される、リマの姿が描かれています。

この回のザ・イヤリングは、リマの最後の花道をかざることに徹していますが、次のニュージャパン女子プロレスを背負って立つバトンを渡すシーンも用意されているので、二人の未来を予感させる、素晴らしい物語のクロージングとなっているように思います。意識はすれども、お互いの気持ちを打ち明けられないタヌさんと女王リマ。ザ・イヤリングの粋なはからいで、思わずリマの顔はほころびます。リングの女王としての重圧から解き放たれ、一人の女性に戻った瞬間のひとコマです。
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【あとがき】

このジャンルのマンガはヒーローものの延長線上として描かれる事が多そうなイメージがありましたので、そのあたりどのように望月先生は料理されるんだろう?というのが気になっていたんですが、試合の様子や、対戦前の選手同士の駆け引きなどはあまり描かれていません。

物足りなさを感じる向きもあるかもしれませんが、ひたすらに優しく真っ直ぐな花子と、彼女に関わる数々の人たちとの交流を読み進めて行くうちに割とそのあたり、どうでも良くなってきます。最終回でとても大事な試合を任されているのを見れば、そうした交流を経た花子が周りから信頼され、見えてはいないながらもレスラーとしても成長し続けているんだなぁ…というのが読み取れます。

女王リマの引退で物語は閉められましたが、この後の花子とリンダはいかに女子レスラーとしての花道を歩んでいくのでしょうか? ヒールの頂点としてのし上がっていくのか?はたまたベビーフェイスに転向して大人気アイドルレスラーとして花開くのか?はたまた、タッグチームを解消し、良きライバルとしてリングの上で死闘を繰り広げていくのか?それともそれとも…?

妄想は尽きませんが、これは本作を読んだ人たちに与えられた特権なのでしょう。「ザ・イヤリングの未来は君たちでいい感じに考えてくれよ。」と、望月先生がわれわれに仕掛けたアングルだったりして(笑)

ではでは…長くなってしまいましたが、最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。

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リングの薔薇


1978年 ヤングコミック(少年画報社)
(7月12日号 新連載)

1983年 サンコミックス(朝日ソノラマ)全1巻
(8月1日初版発行/J&B併録)

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お待ちしております。
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望月先生のコメント
【望月三起也先生より】
長く絵描きやってると、「今」に飽きてくる。
この先、こういうものもやってみたい、あれもこれもが出てくるのです。そういう意味で凄いのは「ゴルゴ13」や「こちら葛飾区亀有公園前派出所」。よくまァ情熱が続く。
「こちら葛飾区亀有公園前派出所」の作者、秋本治くんにそういうこと、聞いたことがあります。すると答えは、「だから別の短編、読み切りもの、忙しくても描いてるんです」ですって。
でも私、別バージョンの漫画を見たのですが、ソバ好きが、たまにウドンに替えたってくらいの印象。それでも本人は違うキャラクターを描けて新鮮さを感じられるンでしょうね。
私の場合、ソバから一気にメキシコのトルティーヤ食う、またはトルコのシシカバブ・・・・・  そういう取っ付き方しないと新鮮さを感じないンですねぇ。だから短編のSFだったり、学園ものだったり、時代劇、戦争ものと色々と楽しむわけなんですが、こういうスタイルの漫画家は結構編集さん泣かせのようで。
だろうね、担当さんは「ウケてなんぼ」と編集長に尻を叩かれているのですから。それを“ウケ”より自分の“趣味”で描いちゃう漫画家と組まされちゃたまんないわけだ。でも世の中、100%ウケるって作品、コンピュータだってはじき出せないんです。だから担当さん、意に沿わなくてもつき合う。

何度も言ってますが、『ワイルド7』は7人の編集部員が全員反対、ただ一人編集長だけがトライさせてくれたって作品なんです。良く言えば、そのくらい新鮮だった。悪く言えば、それまでタブーとされ少年誌ではやらないこと、ウケないパターンばかり挑戦しちゃったんですから。
多分あれ(ワイルド7)が評判悪くて、1年で打ち切りになってたら、私今頃こういう文も書いてないし、月刊望月三起也も存在してないよね。(事務局注:いいえ、そんなことはありません。事実、現編集中の私は『秘密探偵JA』で先生の作品にはまりました。)
って、新しいことへ挑戦の連続の人生。そのひとつが女子プロレス。

実は私プロレスって、子供の頃当時の人気レスラー「力道山」を見て、最初はヒーローとし夢中でしたが、1年も経たないうちにショーアップされた試合内容に飽きてしまったというガキだったのです。ですから、さらにショーアップされた女子プロレスを取り上げて描こうって、どういうわけ? と、思うでしょ。そこはやっぱり友情ものなんです。二世部隊シリーズやワイルド7も底を流れるものは『友情』なんです。私にとって永遠のテーマなんです。
人を信じたい、友ならお互い背中を守る!!
新選組を描いてもテーマは友情なんです。
ですから、女性は描きこなせない、下手だと思っていたのに、いつのまにか、「色っぺぇですなァ」なんて評価され、色っぺぇ友情ものにトライしたってのがこの一編なんです。



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