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作品紹介

第73回

『狂い犬/マッドドッグ』VS『Jドール』

執筆者:   2015 年 4 月 5 日

ともに青年誌連載のヒット作品。
この二作を比較しながら、大人も憧れるハードボイルド・ヒーロー像について考えてみようと思います。

mj001r1960年代を代表するヒーローの『狂い犬/マッドドッグ』と、1980年代を代表する『Jドール』。どちらも望月先生が創造した漫画の主人公です。

あっ!1970年代のヒーローと言えば誰がなんといっても『ワイルド7』の飛葉ちゃんですけどね!

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今回は『狂い犬/マッドドッグ』と『Jドール』の二つの作品にスポットを当てて、時代背景も織り交ぜ
ながら時代と共に変化していったヒーロー像についてご紹介したいと思います。

二つの作品は・・・

●青年誌掲載でダンディズム溢れる大人の魅力満載の一話完結シリーズもの。
●主役は望月作品としては珍しい大口径銃を扱う孤高のプロフェッショナル。
●時代とともに変貌していった男らしさの表現や、周囲のキャラ:敵役・家族の扱い。
●使用銃も「リボルバー」と「オートマチック」のように異なる部分も目につきます。

mj002それではまず『狂い犬/マッドドッグ』からご紹介します。
(これより以下『マッドドッグ』表記)

少年画報社で1968年に創刊されたアダルト向け漫画雑誌『ヤングコミック』に掲載されたのが『マッドドッグ』です。1968年という年は、1960年に始まった「ベトナム戦争」が長引き、ドルの乱発でドルショックが起き、アメリカ全体がおかしくなりかけていた時代でもあり、街には無気力化したヒッピーの若者達が「サイケデリック」という訳のわからないブームに乗り、もてはやされた時代。

当然日本にもその波は押し寄せ、街にはヒッピーが屯(たむろ)し、漫画界ではこの「サイケ」を題材にした作品がいくつも発表されていました。そんな時代に登場したのが『マッドドッグ』でした。舞台はアメリカ。日本人でありながら探偵業を「おまんま」のネタにしている男、弱きを助け強きを挫(くじ)く昔ながらの男らしさの匂いをプンプンさせています。

当時ハリウッドでは、マイアミを舞台にした「フランク・シナトラ」が私立探偵「トニー・ローム」に扮した映画『セメントの女』などに代表されるハードボイルド物が作られていました。元々小説界では「レイモンド・チャンドラー」が1939年に発表した「フィリップ・マーロウ」シリーズがロングセラーで広く知れ渡っていましたので、紙面の主人公たちがスクリーンで活躍する映画にさぞかしファンは喜んだことでしょう。

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その迫力を漫画の世界で表現したのが『マッドドッグ』といっても過言ではありません。ハードボイルドあり、アダルト向けのお色気ありと当時のサラリーマンを中心とした購買層に十分アピールしていたと思います。

愛銃は「S&W M19 357マグナム」。クマを一撃で倒す破壊力のある357マグナムを発射出来る銃です。アニメ『ルパン三世』の次元大介の愛銃として有名ですが、次元が使用しているのは4インチ、『マッドドッグ』は2.5インチか3インチのカスタムフレームを使用していると思われます。

原作を読み直すと、必ずしも2.5インチとは見えないカットが数箇所あります。そこで今回も『旭工房』さんにお願いして4インチを3.5インチにしてもらいました。(画像参照)

mj004一方、『Jドール』が登場したのは1980年。掲載誌は『ヤングコミック』と同じ少年画報社発行の『グッドコミック』。長かったベトナム戦争も1975年に終わり、一つの時代の終わりを告げていました。

世間では「シラケ時代」と呼ばれ、オイルショック(石油危機)で物価は上がり経済は混乱していました。そのベトナム戦争でコードネーム『Jドール』という呼び名の傭兵部隊が存在していた・・・。と、いうのが物語の設定です。

ベトナム戦争終結後は国籍を消され、家族とも会うことも出来ず、日本政府の影の部隊として活躍する『Jドール』の、いつ終わるともわからない殺しの任務を遂行していく孤高のヒーローの物語です。使用する愛銃は「44オートマグ」。

1970年から「オートマグ・コーポレーション」によって一般発売された世界初のマグナム弾を使用する自動拳銃で、当時とても話題になりました。

高校時代にクラスメートがMGCの「44オートマグ」を購入したのを触らせて貰った事がありますが、どうしても不格好に思えて、私は「クリント・イーストウッド」主演の「ダーティーハリー」が使用していた「S&W M29 44マグナム」のリボルバーの方が格好良く見えました。

余談ですが、「クリント・イーストウッド」主演の大ヒットシリーズ『ダーティーハリー4』で特製「44オートマグ」が使用されました。使用された44オートマグは8.5インチのプロップガン仕様で「クリント-2」と呼ばれました。ちなみに「クリント-1」は実銃で、イーストウッドご本人がプレゼントされて所有されているそうです。

mj005その後「オートマグ」は色々なトラブルが続き「オートジャム」という不名誉な称号を与えられて実銃はいつの間にか姿を消しました…。あれから35年経って、こうして望月作品で久々に改めてみると、オートマグも結構「趣(おもむき)」があります。

そう言えば『ワイルド7/ガラスの城』でも一度登場し、『続・新ワイルド7/魔都ベガスを撃て』では、飛葉がサイレンサー付きの特製オートマグを使用したこともありましたね。そうこう言いながら原稿を書いているうちに、だんだん気持ちが高ぶってきて、無性にオートマグが欲しくなり、ついにネットで衝動買いしてしまいました、あはは。

もちろんMGCのオートマグを・・・。

ここで少し、ほぼ同時期に少年誌で発表されていた作品との違いに気がつきました。

少年キングに連載されていた『秘密探偵JA』と『ワイルド7』の主人公、「飛鳥次郎」と「飛葉大陸」の使用していた銃は共に「コルトウッズマン」22口径の小口径拳銃でした。もしかして望月先生は、少年誌の主人公は小口径拳銃、青年誌の主人公は大口径拳銃と区別されていたのでしょうか?

次に各キャラクターの設定の違いを比較しみましょう。

『マッドドッグ』は、頭に血がのぼると前後の見境がなくすぐ手が出てしまう単細胞の性格で、部類の女好き。しかし義理人情には厚く、悪を憎む気持ちは人一倍強い。たとえ相手が絶世の美女だとしても悪党とわかると容赦せず、非情に引き金を引く・・・・。

mj007『Jドール』の方は、常に仕事に対して沈着冷静ながら、趣味=女と言わんばかりにすぐ関係を持ってしまうが、義理人情には厚く仲間を大切にする男気のある性格。

時代が変わっても、いつの時代も男は女に弱い生き物なんだなと実感させるシーンの連続でした。

敵役も『マッドドッグ』の時代は、「ギャングのボス」「不良グループ」「悪徳警官」「大富豪のマダム」「女性ローラーチーム」「富豪の未亡人」「中近東の富豪」「マッドサイエンティスト」「殺し屋」「ウーマンパワー団体」「元軍人」「詐欺師」etc・・・と、時代を感じさせる割と個人レベルの悪党が敵役だった感がありますが、『Jドール』の時代は、米ソの関係も冷戦時代から微妙になりかけていた時で、当然ストーリーに登場する敵も個人レベルではなく国家レベルの敵が多くなってスケールアップしてきた気がします。

mj008家庭環境の設定も『マッドドッグ』はチョンガー(独身)で、お気楽に気のみ気のままにやりたい放題でしたが、「Jドール」は既婚者で娘が一人いるという設定で絶えず家族の事を思いながら任務を遂行するというそれまでのヒーロー像とはちょっと違う異色の物でした。

『Jドール』の単行本に望月先生が、「J・P・ベルモント」が三度笠をかぶったらこんな感じかなというイメージで描かれたとおっしゃられておられます。

ストーリー全体のイメージも、1960年代は正義と悪の描き方がはっきりしていて『マッドドッグ』はどちらかというと「ハッピーエンド」で終わる回が割と多かったように感じますが、『Jドール』は「アンハッピーエンド」で終わる話がほとんどで、1980年代はアンチヒーロー全盛期で、チョイ悪なのに正義の味方だったり、いい人ぶっていた奴が実は悪者だったりと、本当の悪が誰かがはっきりしない物が受けた時代です。

・・・ただ時代は変わり、生活様式や銃器等が進化し続けても人々が求めるヒーロー像はいつの時代も変わらないという事ですね。

★追記★
現在『Jドール』の方は、電子書籍・eBookJapanで購読する事が出来ます!
http://www.ebookjapan.jp/ebj/book/60013923.html

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望月先生のコメント
【望月三起也先生より】
成人もの、児童ものって区別があった時代。というか、描き手である私の方が意識していたのかも・・・・ ってのがマッドドッグ・シリーズ。
編集部から「青年誌だから色っぽい女性を登場させて欲しい」なんて注文もあって考えましたよ。それまで、「清く、正しく、美しく」、これがヒーローって像、一途にやってきて変に色気描いたらファンが嫌がるのではないか?そう思って望月三起也ではない『マイク・ハスラー』なんてペンネーム使用となったわけ。
それをグラビアで対談なんて仕込みまでやって訳の判らない変装メイクで写真撮ったり・・・・・ どこがハーフなんだ? バレバレでしたがね。
まァ、半分それを楽しんでバカやったって部分もありますが、その“ノリ”って部分は新しいシチュエーションで描く楽しさ、未知への旅でしたねぇ
少年誌では(当時)描いてはいけないお色気シーン、描いていてノリノリ。一日のページ数こなすのが早いこと、早いこと。ほとんど趣味です。と、いうより仕事を忘れてます。

元々マイク・ハマーやフィリップ・マーローなんて探偵小説が好きで、一度は自分で個性ある探偵を創り出してみたいって願望もあったから、本来調理者のはずが半分以上は喰いに回ってるといった方がいいほどの楽しさ。またそれまで少女ですら描くのは苦手で“女”が描けなかったンですが、こういうストーリーに女は欠かせない。描いていくうち以外にも「色っぽい」とファンから言われるようになり、ビッグコミック(小学館)の『ビタミンI』や『うるとらSHE』シリーズと共に「女が描ける」って評判になったのがこの時期だったです。

拳銃の357マグナムですが、大事なのはこの手のキャラクターにはこれが似合うってのがあるんです。マッドドッグが22口径と小口径じゃ冴えない。目一杯“男”を売る見栄っ張りには“これ”ですよ。
同じマグナムでもオートマチックはいけません。探偵屋にはリボルバーが似合うンです。で、同じ大口径でもJドールにはオートマチックの44オートマグを持たせました。
マッドドッグのジョージ・牧がおっちょこちょいで街のあんちゃん風なら、Jドールの方は歳もイってるし苦労した大人ですから、拳銃はこういった重さを感じさせる方がいいわけなんです。が、実銃の44オートマグは弾丸が素直に出てくれない、故障の多い銃って話しでしたが、私にとっては自分が撃つわけじゃない、描くわけだからフォルムとしてカッコ良けりゃいいンです。

Jドール、お話の方は少々湿っぽい話で大人向きと言われ、中年層向きだったかも。マッドドッグと比べると光と影かな。
絵面的に小道具に「人形」を使ったのは自分なりの工夫だと思ってますが、今見返すと、かなり地味なお話でしたねぇ。


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