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作品紹介

第70回

バサラ戦車隊

執筆者:   2015 年 1 月 4 日

新年は満州を舞台にソ連兵に立ち向かう「男」たちのドラマで幕開け!eddy-sさんも、本作のもう一人の主役「八九式中戦車」への思いは、また特別なようです

Bsr02忘れもしない2010年8月13日(金)『月刊望月三起也』の掲示板。

そこに望月先生の「新作劇画登場か????」と投稿がありました。
それが今回ご紹介する『バサラ戦車隊』です。

ほどなく事務局から正式に発表があって、『月刊アーマーモデリング』9月号から連載開始となりました。

発売当日に書店に駆け込んで速攻で購入したのは言うまでもありません。それからは毎月の発売日が待ち遠しかったです。

舞台は1945年8月15日の終戦直後の動乱の満州、まもなくソ連軍が侵攻して来ると言われている中、日本への帰国を望む一般市民を差し置いて自身の命を守る為、我先に脱出列車に乗ろうとする日本帝国軍人たち。

Bsr09一人でソ連軍を迎え撃つと発言した成田少尉は『バサラ戦車隊』を含む10名足らずで、ソ連軍と戦う羽目になる。さらに馬賊も敵に回す羽目になり、ますます戦局は不利な状況に・・・。精鋭ソ連軍『BT-7』の戦車編隊を迎え撃つには『八九式中戦車』と小火器では戦力が違いすぎる。果たして『バサラ戦車隊』はソ連軍を迎撃し無事日本へ帰れるのか?

私が知る限り『特殊空挺部隊 雷神 RAIJING』から実に11年振りの望月先生のミリタリー物の新作だったと思います。男同士の友情、儚く切ない男と女の関係、そして「バサラ」的な男の生き様とは?・・・などなど見どころが満載です。

主人公の「司馬(しば)ちゃん」は、『ワイルド7』の「飛葉(ひば)ちゃん」に名前も顔もそっくりです。しかもクライマックスで『ワイルド7』ファンがニヤリとするシーンが用意されています。

また『八九式中戦車』の戦車長の顔と性格は何となく『ワイルド7』の「オヤブン」に雰囲気が似ており、何かと親分肌で戦車兵からは何故か「車長(シャチョウ)」ではなくイントネーションが「社長(シャチョー)」と呼ばれています。

Bsr05・・・さて、今回の究極のウエポンは、誰がなんと言おうと『八九式中戦車』でしょう。

望月先生は本作を書くにあたり事前に『八九式中戦車』の取材を、土浦にある「陸上自衛隊土浦武器学校」に出向かれて、実際に『八九式中戦車』を触られたと書かれておられましたが、私も『バサラ戦車隊』が連載中の2010年10月16日に『土浦武器学校58周年記念行事』に行ってきました。早朝5時起きで常磐線の急行で一路「土浦」に向い、バスを乗り継いで武器学校の正門に着いたのが8:45。既に開場されていて、会場はものすごい黒山の人だかりでした。

お目当ての『八九式中戦車』のお披露目は12:30とパンフレットに書かれていたので、すっかり安心して敷地内に展示してある自衛隊の退役戦車を呑気に写真撮っていたら、今まで聞いた事もない異音?キャタピラ音?がアスファルトの上を走行しているような異常音が校舎の方からしてくるじゃありませんか!

Bsr06まさか!まだ15分前なのに!?と思いながら慌てて音のする方へ猛ダッシュで向かいました。案の定『八九式中戦車』が保管庫から出て走行している音でした。

12:30に保管庫から出るのではなく、12:30から展示開始だったわけで、当然その前に移動すると考えが及ばなかったのが悔やまれました。

慌てて動画を撮ろうとしたのですが、時すでに遅し、展示場所に落ち着いてうまく撮れませんでした。

ガァーン!!また来年来て撮るしかないか・・・。

Bsr07仕方がないので、せめて写真だけでも一杯撮ろうと試みましたが、ファンで溢れかえっていて中々ちゃんとした写真が撮れません。
何とか色々な角度から納得のいくカットを時間をかけてカメラに収め、大満足で土浦を後にしました。

敵対するソ連軍の『BT-7』は、連載当時タミヤから1/35のプラモデルがちょうど発売されたばかりで、望月先生がすぐ3個は購入したいと『月刊アーマーモデリング』でおっしゃっておられたので、「出た!お得意の必殺速攻作品登場技だ!」と思いましたね。(笑)

重鉄板で作られた『BT-7』と、いかに対峙したかは本編を読んでからのお楽しみ。

Bsr08そして今回は太平洋戦争のお話だし、どうせ男中心の話だろうと思い、全然期待していなかったのですが、連載2回目のラストで、これは?もしかして?と次回以降の展開に期待出来るシーンがありました。いやぁ、この展開はありえない事も無いなと妙に納得しました。さすが望月先生、ファン心理をよく分かっていらっしゃいます!ヒロインの「乙美」はさしずめ「イコちゃん」で、ソ連軍の女将校「ソーニャ」は、ユキかな?などと勝手に妄想しながら読んでいました。

ところで、「バサラ」という言葉はてっきり望月先生の造語で『サハラ戦車隊』(注釈1)の単なるダジャレかと思っていたら、日本に昔からあった言葉だったんですね。最近まで知りませんでした。(汗)
「バサラ」とは、日本の鎌倉時代のあとの南北朝時代の社会風潮や文化的流行をあらわす言葉で、実際に当時の流行語として用いられたそうです。漢字で書くと「婆娑羅(ばさら)」で、もともと派手な格好で遠慮をせずに振舞う者達のイメージに類似していた為この名が定着したそうで、後の戦国時代の下克上の風潮の起源になったそうです。まさに『バサラ戦車隊』にピッタリの言葉でした。

さて、ここで残念なお知らせがあります。土浦武器学校に保管されている『八九式中戦車』ですが、東日本大震災後、一般公開が自粛されています。震災地の復興が進み、いつの日かまた年一回の周年行事で公開される事を切望します。

(注釈1)
サハラ戦車隊・・・ハンフリー・ボガード主演の1943年製作のアメリカ映画。
本編には本物の「M3リー戦車」が使用された。
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Bsr01
バサラ戦車隊


2010年9月号~2011年11月号(5月号抜け)

『月刊アーマーモデリング』(大日本絵画)連載計14回


2012年 大日本絵画 『バサラ戦車隊』 (1月9日初版発行)




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望月先生のコメント
【望月三起也先生より】
そうなんです、ハンフリー・ボガード主演『サハラ戦車隊』・・・・ ボギーです。
中学生の時、1日中映画館の暗い席で手はスケッチブックの上、映画観ながらスケッチ、三面図作ってたってほどこの映画のもうひとつの主人公『リー戦車(M3中戦車)』、大好きで。
その頃はミリタリー関係の本などはほとんどなく、こうして本物が登場する映画を観て自分で参考資料を作るしかなかったのですよ。
しかし映画も本物使用は極わずかで、アメリカ軍戦車はわりとリアルですが、ドイツ軍戦車はほとんどアメリカ軍戦車に鉤十字(ハーケンクロイツ。ナチス・ドイツが採用したドイツ民族運動のシンボルマーク)をペンキで描いたって代物。恐ろしいいい加減さ。

本物志向になったのはスティーブン・スピルバーグ監督登場辺りからでしょうか、あの人も戦車ヲタクなんだと想像できます。『プライベート・ライアン』の細かいグッズに至るまでの凝り性、マニアを嬉しがらせてくれました。
ただし、この映画に於けるドイツ軍戦車も、キャタピラはソ連(現ロシア)戦車『T型』のもの。上にドイツのタイガー戦車風の構造物作って乗せてましたっけ。
新しいところで『フューリー』(デビッド・エア監督、ブラッド・ピット主演)ですね。この映画の戦車は博物館から借り出したって話ですけど、いやァ、リアルな姿、戦車ファン大喜び。ただし活劇シーン、撃ちつ撃たれつするシーンはCGでしたが、本物が傷つかないよう、大事に撮ってたンだと判ります。

いかん、バサラ戦車隊の話がえらく反れてます。これだからヲタクは困ると言われる前に話を戻して、と・・・・・
そう、映画サハラ戦車隊をモジったタイトルだとお判りですね。さらにはeddy-sさんの読み通り、『バサラ』は日本の戦国時代の粋な野郎どものことなんですよ。それを型に嵌った軍隊から飛び出した兵隊たちってことで好きな映画のオマージュでもあるわけで、しかも嬉しいことに登場させた戦車、“暗闇でスケッチ”ではなくて、なんと特別に自衛隊武器学校の許可で動いているところ撮影できるわ、乗って走りまわれるわで、もうマニア喜ぶ企画!!
これで原稿料もらえるって、申し訳ないくらいでしたねぇ。

それにしても戦車の中は狭い。椅子の座り心地悪い。外を見る窓小さい・・・・・
走りまわる度、あちこちへ頭をぶつけるわ、肘ぶつけるわ。ほんの10分でもう弱音を吐く私。とても戦車兵にはなれません。
でも、この辛さ、嬉しかったンですよねぇ。「オレ、八九式に乗っちゃった。走り回っちゃった!」ってね。困ったヲタクでしょ。
そういう八九式への愛情みたいなもの、主人公たちも共有してるって作品で、勝手にストーリーが出来てくる。そういう楽しいものに出会うのは、人生の中でそう多くはない。その1本がこれなんです。そこんとこ読み切るeddy-sさんも唯モンじゃないね。
そのとおり、飛葉ちゃん、オヤブンですよ。

また間がいいっていうか、当時タミヤからライバルのソ連軍戦車『BT-7』のプラモデルが発売中で、これを作り、あらゆる角度から眺め、カッコいい構図作りに大変役に立ってくれました。
図面や写真では想像に限りがありますが、プラモのいいところは思いがけないカッコいい構図を発見できるところなんで。ただし、細部まで信用してスケッチすると痛い目に会ったっていうのが40年くらい前。なにしろ車輪なんて本物とまったく違う。恥ずかしいながら、それをそのままスケッチしてた時代もありました。
今のタミヤ製プラモデルは凄い!リアル!参考作りの組み立てのはずが、汚し塗装にまで時間を掛けて、えらく仕事の足を引っ張られたって困った出来の良さってあるんですね。アーマーモデリング誌の特別付録だった八九式も勿論、拘って作りましたよ。これもいい出来。
プラモデルの進歩、ホント凄いねぇ。

唯一、私流というか人間味の表現はソーニャってソ連将校。このキャラクター、構想では主人公と共通の過去を持ち、エピソードを色々用意してあったのですが、使う前に紙面が終わり、いずれ続編を描く機会があればと思ってます。
なんたって実は、色っぽいおネェさん登場させないと男臭さが生きて来ないンですよ。しるこに塩昆布ですかね。

それにしても私、戦車好きなんですねェ。敵のソ連戦車も拘ってもう共演者扱いの舞台ってほどのマニアックなもの描かせてくれた編集部に感謝です。


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