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【ひとこと作品紹介】二世部隊物語【勇者】

hitokoto_img第14回

二世部隊物語【勇者】

執筆者:Ken

好評!Kenさんによる単行本未収録作品のご紹介。

ミッキー熊本をはじめとする日系アメリカ兵たち第442連隊による苦難と活躍を描いた『二世部隊物語』。
読切が中心の作品群をまとめ「最前線」のタイトルでこれまでに何度も単行本化されてきた人気シリーズである。
さらに、2001年にはホーム社より他の作品とあわせ二世部隊モノの決定版ともいえる文庫コミック「二世部隊物語(THE 442ND REGIMENTAL COMBAT TEAM + THE 100TH INFANTRY BATTALION)」が刊行されているが、シリーズ中にはまだいずれの単行本にも収録されていないエピソードが存在する……
シリーズの複雑な関係性についても詳しく解説していきます。



【作品名】
二世部隊物語【勇者】

【掲載誌】
「別冊少年キング」(少年画報社)1966年4月号読み切り

【単行本】
未収録

【ページ数】
25ページ

【あらすじ】
1944年のベルギーの地で連合軍はドイツ軍の強力な戦車に手を焼いていた。
それをくいとめるためガソリン補給基地を潰す作戦を実行中。
その作戦にミッキー・熊本軍曹が二世部隊の新兵40名を引き連れて参加。
だが指揮官の大尉は二世部隊を嫌っており、「わが中隊の白人だけで基地を潰す」と言う始末。
憤慨したミッキーは解散命令を発令。
でも新兵たちはその場にいた有名人の黒人大リーガー・バットン投手を見つけ、サインをもらって大はしゃぎ。
なんとミッキー自身も彼の大ファンだったのでサインをもらえて誰よりも喜んでいた。

そのとき味方の第一小隊が全滅したとの知らせ。
大尉はしぶしぶ新兵たちを救援に向かわせた。
ところがバットンだけは一緒に向かおうとしない。
尋ねてみると左腕に痺れを感じると言う。
でもミッキーは不審に思い、問いただしたところ仮病だったことが判明。
バットンは自身の左腕を使って苦労して手に入れたスターの地位を手放したくなかったというのが理由だった。
ところがちょうどそのとき、敵機からの爆撃を受けて本当に左腕を負傷してしまう。
医者からは無理に動かしたら、二度と使えなくなると念押しされた。

負傷した彼をミッキーが車で病院に連れて行く道中、バットンが闘いよりも野球を優先したいとの発言を受けて怒り爆発。
「惨めな思いをしているのは黒人だけではない。日本人二世も惨めな思いから抜け出すために命をかけて闘っているんだ」
ミッキーは彼のファンだったことを後悔。
彼に見切りをつけ、バットンをひとりで病院に向かわせた。
その足でミッキーは新兵チームに合流、二世部隊の活躍によって形成が逆転するほどの勢いだった。

ところがあと少しというところで問題が発生。
目的の核心となる敵の建物まであと10メートルほどの位置まで攻めて来ていたが、ちょうど手榴弾が届かない位置。
ここを破壊すれば勝利を得られるため、ミッキーたちは最後の力を振り絞って肉弾戦を仕掛け、本当に死ぬ気で建物に侵入しようと決断。
まさにそのとき病院に向かったはずのバットンがその場に現れた。
「マウンドの勇者が戦場でも二世に負けないところを見てくれ」
そう言って負傷した左腕を使い、投手としての強肩のパワーを出し切り、振り絞って投げた手榴弾でついに建物を破壊することができた。
これにより作戦は大成功をおさめる。

自分勝手な行動にカツを入れてくれたミッキーとバットンは再び友情を取り戻すことができた。

【作品解説】
ミッキー・熊本が主役もしくは準主役となる『二世部隊物語』は全15作品(下記一覧表参照)。
初出の『最前線』では伍長だが、そのラストで軍曹に昇格。
シリーズ作品の中で今回紹介の『二世部隊物語【勇者】』(項番4)以外は単行本に収録されたが、本作品のみ未収録となっていたもの。
次に関連する豆知識を紹介したい。

(豆知識1)
『最前線』がシリーズの第1作で「少年画報」に連載。
以降は「別冊少年キング」に掲載され、読み切りもしくは2回連載で発表された。

(豆知識2)
タイトルに『二世部隊物語』が付くのは『将軍』(項番3)から。
3作目で同じ主人公でのシリーズ化を想定し始めたものと推定。
ちなみに『死の砂』(項番7)に『二世部隊物語』が付かないのはスピンオフ作品だから。
この作品の主人公は「リー・一郎太」で、ミッキーはチョイ役で登場する。

(豆知識3)
単行本(注)の第3巻目には『戦場』(1965年「別冊少年キング」8月号掲載)が収録されているが、これは主人公が「ジャン」であり、『二世部隊物語』では無いのでこのシリーズには含まない。
(注)ホーム社刊漫画文庫など

(豆知識4)
タイトルに『二世部隊物語』が付く作品として『死者の4日間―二世部隊物語―』(1996年)が存在するが主人公が別人のため、このシリーズには含まない。
なお『GIジョー 悪一番隊』『白い罠』『愛と青春の百大隊』もテーマは似ているものの、同様に主人公が別人のため、このシリーズには含まない。

(豆知識5)
同一主人公が活躍する作品では『ワイルド7』シリーズ(1969年~2015年)がなんと言っても長期掲載期間のトップに位置するシリーズ。
実に足掛け47年であり別格なもの。
その次が『二世部隊物語』であり、掲載期間は1963年から1971年まで足掛け9年の長期間にわたる。
望月作品の中では2番目となる超ロングシリーズであると同時に、5種類の単行本が刊行されたことからもその人気の高さが見て取れるレベル。

■二世部隊物語作品一覧表
項番初出時タイトル初出誌初出時期
最前線少年画報1963年10月~翌年8月
突撃別冊少年キング1965年11月
二世部隊物語【将軍】別冊少年キング1966年2月
二世部隊物語【勇者】別冊少年キング1966年4月
二世部隊物語【脱走】別冊少年キング1966年8月
二世部隊物語【反撃】別冊少年キング1966年11月
死の砂別冊少年キング1967年2月
二世部隊物語【殺し屋】別冊少年キング1967年4月
二世部隊物語【流血の丘】別冊少年キング1968年1月
10二世部隊物語【いぬ】別冊少年キング1968年6月
11二世部隊物語【迎撃】別冊少年キング1969年5月
12二世部隊物語【落とし穴】別冊少年キング1969年8月
13二世部隊物語【鬼軍曹】別冊少年キング1970年2月~3月
14二世部隊物語【約束】別冊少年キング1970年9月
15二世部隊物語【大地を裂く】別冊少年キング1971年2月

これらの知識をふまえた上で気になる点を述べてみたい。
『二世部隊物語』は望月作品の中でも超ロングシリーズになるほど人気があったにも関わらず、唯一『勇者』だけが単行本に収録されなかったのはなぜか?

最初に当時の単行本化における慣習について触れてみたい。
実は当時、単行本化の際に収録ページ数を調整する目的でカットする場合があった。
例えば貴重な連載時の表紙を外してしまうことや途中のページさえもカットすることがよくあった。
今回はそのようなページ単位のものではなく作品単位の除外ではあるが、調整が目的であれば、(豆知識3)で紹介したようにシリーズ作品では無い『戦場』をあえて収録する必要が無かったはず。

とすれば除外理由は内容で判断されたと想定するのが一般的な考えで、可能性の高い理由としてはバットンが黒人であること。
現在では主役が黒人という作品はよくあるパターンだが、当時はセンシティブな対象として捉えられていた。
だが掲載年の近い『ケネディ騎士団』でも黒人が何人も登場するところをみると、どうやらその理由は確定的とは言い難い。
そもそもバットンはタイトル由来の『勇者』当人を示しているほどの中心人物。
特に本作品でも「大尉は二世部隊を嫌っていた」の発言が示すとおり、「白人対有色人種の構図」が存在することは明らか。
肌の色が異なるバットンは明確な理由をもって登場していたのである。
ゆえに除外する理由は考えづらい。

他の理由についても思い浮かぶものが無い。
余程の特殊事情があったものと推察される。
ということで引っ張っておいて申し訳ないが、単行本未収録の理由を明らかにすることはできなかった。
これも望月作品の七不思議のひとつとなっている。

締めくくりとして望月先生が『二世部隊物語』を描くきっかけとなった思い出話を紹介したい。

『最前線』はアメコミから始まっちゃってる所がある。
中学の頃、神田の本屋さんにいっちゃあアメコミの10セント本っていうのを集めてたわけ。
その中に、最前線物、軍隊物っていうのがあってね。
絵の資料として、ポーズのかっこよさってのはずいぶん参考にできたね。
いろんなものを読んでいるうち二世部隊物語って言うのが引っかかってきて、ハワイの観光団が来た時に押しかけて聞くとかしてね。
観光団のほとんどの人が知らなかったけどね。
もともと情報魔の所があるのね。
資料魔っていうか、それがないとなかなか取りかかれないというか。
取材が半分以上、ネームが半分以上、描くのはそれこそ3割も費やせばいいだろうという感覚だから。

(「少年画報大全」少年画報社2001年8月15日刊より引用)



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2023 年 12 月 6 日   固定リンク   |   トラックバック(0)


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