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望月マニ也

第14回

あの現場を訪ねて(西急 仲戸駅)

執筆者:   2009 年 3 月 2 日

あの事件現場は実在した!! 今回は地元横浜を舞台にsillazman
さんが実際にその足で取材をした異色のロケ地探訪レポートです。新たな視点でワイルドの世界観を楽しんでください。

あの現場を訪ねて(西急 仲戸駅)


毎朝新聞の一面に「暴走トレーラー、仲戸駅構内で炎上」の見出しが躍って、35年あまり経ちますが、子供心にあの時の衝撃は忘れることが出来ません。

神話財団の闇を暴いたあの事件の現場を訪ねてみました。

単に歳月だけでなく、ワイルドがらみの事件は、修復の際に以前の建物をリニューアルすることも多いのでしょう、現在まで事件の現場が残っていること自体、稀だと思うのですが、西急線の仲戸駅は、数少ない貴重なケースといえましょう。
     

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3年ほど前に、駅前の再開発で向かいのJRと高架上の西急のホームが繋がれたため、若干、雰囲気が変わっていますが、紛れもなく、あの現場です。
信号の後ろに見える建物は、新設された改札。左にちらっと見えるのはエレベーター。丁度、高架を暴走するトレーラーを追って、ユキが飛び込んだライン上に設置されています。

     

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切符売り場は券売機、西急独特の電車を模した箱型の改札も当然のように自動改札機へと変わっています。
改札の奥に例のポスターが張ってあるのも何かのご縁でしょうか。
ちなみに、外観だけを見ると肉玉鉄道の「仲本戸駅」 (下記参照) ともそっくりです。

     

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出口の下のグレーの部分は駅構内のエレベーター。昔は売店でした。
踊り場へ駆け上るユキのドカに「あんた困るよ、キップ買って」と叫んだ駅員さんも、もう定年を迎えていることでしょう。

 

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あの事件のせいか、ホームに張り出した屋根を支える支柱が新設されています。
ホームの幅は思っていたよりも、ずっと狭く、途中から、さらに狭くなっています。
ここを炎上するトレーラーと並走して、全開で駆け抜けたのですから、改めて、ユキのバイクの技量の高さに舌を巻きます。

  

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現場に立ってみて驚くのが、その射程距離、殆どありません、目の前です。
相手が走っているとはいえ、この距離で発砲するとは…
度胸の良さにも肝の据わり方にも脱帽です。おそらく、助手席の元次郎ともしっかりと目があっていたのではないでしょうか。

  

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最初のアングルから右へパンして、高架の下を通って、小さく青いワーゲンが停まっている場所に注目。暴走する元次郎のトレーラーに手を焼いた特捜の菊川刑事が、助っ人を頼みに飛び込んだ停車中のセブンレーラー。
まさに、その場所です。

   

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
<事務局>     以下同
一連の画像は、以前別のサイトにsillazmanさんが投稿されたもの。
映画やドラマのロケ先を訪ねてみるのと似た楽しみ方で、なかなか面白い着眼点。
横浜在住と言うことなので、別のシーンもご存知では?という期待と、現存する風景が無くなる前にという
思いで連絡してみました。

   
<シラズマン>   以下同
こんにちは、「シラズマン」と申します。
HN(ハンドルネーム)は地獄の神話の水族館のシーンから拝借しました。
どうぞ、よろしくお願い致します。

―――「地獄の神話」のクライマックス、西急「仲戸駅」とありますが…実際には?
そうです。京浜急行線の「仲木戸駅」です。


―――「仲木戸駅」と判っていても、実際に写真に納めて、あたかも実際にあった出来事のようなコメントを付けるというのは、なかなかにマニアックですよ。
望月先生の作品というと、ガンとメカニックの描写がリアルということで定評がありますが、場面の設定や背景の書き込みもリアルというか、遊び心満載で楽しいですから、地の利もあってワイルド7の活躍が実際に起こった出来事だったらと、妄想を広げた結果があの投稿となった訳です。


――― 実際、「仲木戸駅」はどんな駅なのですか?訪ねてみて、いかがでした?
横浜から2つ目の各駅しか停まらない小さな駅です。向かいのJR東神奈川駅は、ターミナル・ステーションでもあるし、乗降客も多いのですが、仲木戸駅は利用客も少ないと思います。おそらく、コミックでモデルになるなんてことは、金輪際、無い駅ですよ。ただ、実際にホームの先頭で目の前を通過する列車を、元次郎の装甲トレーラーにみたててみると、言葉になりませんでした。


――― 熱心な鉄道マニアと思われたのでは?
それなら、良いですね。いい大人がホームの端で、カメラとコミックを抱えて立ち竦んでいるのですから、立派な不審者です。


―――さて、それで、本日お持ちいただいた写真というのは?
はい、改めて「仲木戸駅」を西急「仲戸駅」に見立てて、「地獄の神話」のクライマックスシーンをご一緒にトレースしていこうという趣向です。まずは、大破、炎上した装甲トレーラーが高架から崩れ落ちていくシーン。


     

――― 崩れ落ちていったと思われる「仲戸駅」から一つ目の陸橋ですね。意外に小さな陸橋ですね。民家も近くて消火に向かう緊急車両も大変そうな場所ですね。
ロケーションとしては、この陸橋なのですが、作画のモデルになったのは、仲木戸駅のホーム下のこちらの陸橋だろうと思われます。



――― 本当だ!新しく補修された様子があるものの、絵柄としては、こちらのようですね。
ただ、ユキがホームの先端で仕留めたわけですから、ホームの下というのは…
そこは、望月ファンの十八番、脳内補填をしながら、ストーリーを遡ってみましょう。ユキは線路に乗り入れた装甲トレーラーを追って、高架下の道を並走してきた訳ですが、こちらが実際の京急線沿いの道路の写真です。2枚とも品川方面に向かってのカットです。


     

――― 段々、その気になってきますね。ただ、高架下に商店が入れるようなところではないのですね。
そうですね。京急線だと戸部駅、東横線だと中目黒駅あたりには、今でも高架下に店舗や倉庫がありますから、作画のイメージはそちらなのでしょう。で、600M程で装甲トレーラーが線路に乗り入れたと思われる踏切になります。


     

――― こちらも凄いですねぇ。
およそ、大型車両が進入できるような踏切ではありませんね。踏切に繋がる道は生活道路じゃあないですか。
コミックのカットと違う部分もありますが、あの数ページの追走劇を実際に仲木戸駅からここまで、歩いてみることが出来る。これって、ウキウキしませんか。


――― 確かに、この踏切に至るまでのシーンを想像すると、コミックにはありませんでしたが、家の2・3軒は踏み潰していそうですね。
踏切から先は、線路沿いに京急「神奈川駅」、青木橋という陸橋まで続いて、国道15号線へ出ます。神話社長がアラブ石油王国の大臣を出迎えたのが、横浜港の大桟橋国際客船ターミナルだとすると、セブンレーラーと装甲トレーラーのバトルが始まったのは、当時は単なる倉庫群だった、現在の赤レンガパーク・横浜ワールドポーターズ周辺だと思っています。


――― え、コスモワールドっていう遊園地に観覧車があったりして、今は観光地ですよね。もっとも、その観覧車も望月先生、ロゼ・サンクで一度、倒壊させていますけど。
観覧車は二代目なんでしょうね。ワールドポーターズからJR桜木町駅に向かうと運河に架かった橋に、昔の貨物の引込み線の線路の一部がオブジェとして残っています。桜木町駅の東側は貨物専用の駅があって、一大拠点になっていましたから、ユキが追跡を始めたのは、そのあたりでないかと。


――― 貨物列車を盾にして、逃走を図る装甲トレーラーを追って、飛び出すシーンですね。草波さんが冷や汗をかいた。
港湾部の倉庫群を突っ切って桜木町駅、そのまま1号線を北上、青木橋の袂から京急線、もとい西急線沿いに仲戸駅までの約5kmというのが、元次郎の逃走ルートだと踏んでいます。
詳しい地図


     

――― お話を聞いていると、どこまでがフィクションか、区別がつかなくなりそうですね。本当に仲戸駅に思えてくる。
場面設定や背景も、ガンやメカニックに負けず劣らずでしょう。最初の投稿にも、ちらっと書きましたが、「仲木戸駅」ワイルド7では大活躍なんですよ。


――― この場面は、判りました。「運命の七星」ですね。肉鉄王国へ取り残されたユキが脱出を図る場面。駅で見張っていたガードマンが、若作りの女性をユキと間違えて、鉄道での脱出を断念するシーン。雨に煙る駅のカットが正しく「仲本戸駅」。
(上に戻る)

最終章「魔像の十字路」にもあります。駅前の再開発でJR東神奈川と高架で繋がって、下が自転車置き場になったり、交番の位置が変わったりしていますので、ちょっと判りづらいかもしれませんが、一億白智の軽井沢の別荘へ、飛葉、八百、両国、オヤブン、ヘボピーの5人で、長寿庵という蕎麦屋から出動するシーン、「仲木所駅」となっています。で、実際に京急線のガードを潜ると、国道15号線へ出ます。左折して、直ぐに東神奈川ランプ、首都高速横浜羽田線への進入路です。


     

――― 本当だ。見開き、上下2コマ。
八百「目的地は?」
飛葉「軽井沢!! 3時間で突っ走れ!!」
オヤブン「きついぜ…」
って、ところですね…。でも、仮に、横浜~軽井沢間を3時間というのは、どうなんでしょう。微妙な感じですね。
コミックスの初版が1978年3月、連載時は1977年の夏頃としてチェックしてみました。すると77年の8月に首都高5号線、つまり、池袋から高島平までが開通しているのです。あの頃だと、横羽線に乗った時点で、関越自動車道は使わないと思うのですが、こちらは練馬ICから東松山ICまでしか開通していませんでした。とすると、相当にきついですよ。


――― そこまで、チェックすると、ちょっとした昭和史の一コマですね。
そうです。ぶんか社さんから、全巻が復刻されましたが、今、読み返してみると、当時のなにげない日常の記憶などと相俟って、昔は見えなかったものが、見えてきます。ある意味、私にとっては「三丁目のなんとか」よりも、昭和の風俗、風景が詰まっています。


――― それもこれも、先生を始めとした、当時のかえるプロのスタッフの方たちが、丁寧に描き込んだ賜物ということですね。
はい、その通りです。ちなみに、首都高方面へ左折しないで、直進すると、瑞穂埠頭の米軍施設へ出ます。瀕死の世界が自らの腕に刻んだNP(ノース・ピア)の文字、コンクリート・ゲリラの舞台となったところです。


     


     

――― 話題が尽きませんねぇ。ダメだ、キリがないや。この人は…。
そのお話は、また機会があればということで、本日はどうも、有難うございました。sillazmanさんでした。




望月先生のコメント
【望月三起也先生より】

凄い!! おどろいた。

なんとねえ、バック(背景)に使った場所を特定しちまうなんてね。

あくまでフィクションの世界ですが、私、リアルにこだわる。
ま、映画のロケと同じように、本物を撮って、そこでどうアクションつけるか、
これが発想を広げてくれるんです。
空想の世界ですが、広げすぎるのはウソになる。
ありそうだな、と思ってもらわないと読者はシラけるわけですよ。
という私の姿勢ですが、そのネタ元をおさえ、わざわざ探査してくるとは、マニアックです。
特定した事も、「どうして判ったの?」と聞いてみたいくらい。
しかもストーリーの中の車の動きやコースまで地図を持ち出して説明してるところは、
もう探偵も裸足で逃げ出す一流ですね。
警察か検事局の方でしょうかって、疑ってしまうよ、ホント。

でも、こういう深ヨミって、うれしいですね。
作品を二重、三重に楽しんでくれてるわけで、一回読んで、ポイとゴミ箱へ捨てる作品でなくてよかった。

実は私も、その傾向あるんです。
国内では、新選組マニアとして、京都の八木邸まで足をのばしました。
新選組が最初に屯所を構えた前川邸の前にあり、芹沢鴨暗殺の舞台となったところです。
そこを訪ね、当時のままの屋敷の間取りを目の前にし、庭から、こう入っていって二間抜けて、
寝ている芹沢を刺殺したのかぁと、一応、史実とされているその夜の行動をなぞって、
今踏んでいる自分の足跡の百年前には近藤、土方の足跡があったんだろうなぁと思ったりする
ところが、マニアなんですねえ。
興味のない人から見たらバッカじゃないかと思われるところだね。
と、これはマニアの自分で、漫画描く時はシチュエーション変えて、
沖田と鴨の一騎打ちの方がいいのじゃないか、などと造り変えますから、
取材して間取りも板壁の具合もおさえておきますが、必ずしも史実通りには描きません。
史実と言っても、誰かの聞き書きだったりするわけで、絶対に本当、
つまり“実”かどうか判らないわけで、自分なりの解釈が許されると思うからです。

海外でも、「レマゲン鉄橋」まで行ったりしてます。
これも映画になったりもしたドイツ軍と米軍のライン川挟んでの攻防戦の舞台です。
ここを舞台に、一本読み切りを描きたくて行ったわけですが、これも作品の為としたらアシが出る、
赤字ですね。
それだけではなく、自分の中の歴史の場に立って見たいというマニア心が多いのですよ。
したがって、ライン川の両岸から多くの写真を撮り、と簡単じゃないんですよ、これが。
なにしろ向こう岸へ渡るには何キロも上流へ列車で移動しないと橋が無いんですから。
実は、ドイツでは次の戦争に備えて、ライン川を防衛線と想定し、橋の数を制限しているとも
聞きました。
だから、このレマゲン鉄橋は、第二次大戦で破壊されたまま、再現は戦略的にやらないというハナシ。

本当かねえ。
その為に、戦闘のあった頃の風景とほとんど変わってないところが、マニアとしてはうれしかったですねえ。

私の描くものは、そういう意味で現地取材、けっこう多いから、好きな読者の方々の中には、
このシーンは現実には・・・と、足で見る楽しみの方も少なくないのでしょうが、
今回のように見事にネタ元ばれしたのは初めて。

びっくりしたなぁ モウ!!



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  • ぐりゅーん・へるつ :
    こういう読み方、スキです(笑)
    私も横浜ですが、「これ京急の駅だよナァ」と思ったものの具体的な駅名は分かりませんでした。
    ロケーションしていないと描けないシーンだと思っていたので、ロケ地の謎が解けて嬉しいです。

    横浜市民として鉄道がらみのネタをひとつ提供します。
    秘熊の潜水艦の通路は横浜市営地下鉄の中止路線を使っている...という話が出て来ますが、当時の地元民の印象として「路線がコロコロ変わった」「開通までやたら時間がかかった」というのがあり、ワイルドを読んだ時に「これはあり得る!」と思った記憶があります。個人的な話ですが、ウチの近所に出来るはずだった(そう信じられていた)駅が遠方に変更になってしまったのが非常に悔しく、今でも駅まで歩く際「秘熊の陰謀のせいだ!」と怒りが込み上げてきます(笑)。先生がこのネタを使ったのも何となく分かる気がします。
  • RYU :
    本日「西急中戸駅」いや「京急仲木戸駅」に行ってきました。

    といっても、仕事帰りに乗り換えに使いました。
    じつは「仲木戸駅」に着いてから、「あ、この駅、きのう『月刊望月三起也』で見たとこじゃ~!」と思い出しました。

    ホームの上から、まさかユキが上って来ないよな・・
    なんて、考えていました。(あるわけないか!)

    あの駅員が定年退職なら、ユキは何歳だ?
  • sillazman :
    望月先生

    思いもよらぬ評価をいただき、大変嬉しく思います。
    タネを明かせば、昔、国道沿いに10年近く住んでいましたので、
    毎朝、ガードをくぐって、東神奈川駅を通勤に使っておりました。
    今、思えば、再開発が入る前の「仲木戸駅」を写真に納めておかなかったことが、ただただ悔やまれます。

    コメント、ありがとうございました!!


    ・ぐりゅーん・へるつさま
    ロケ地の謎、解けて良かったですね。

    ・RYUさま
    ユキの場合は、ワイルドデビューの歳でさえ、読者によって様々だと思いますよ。
    アンケートをとると、多分、10歳近い幅がでるのではないですか。
  • だみあん :
    家内の実家が岸根公園にあったときに、首都高から仲木戸駅、東神奈川駅経由で車で送って行ってました。
    やっぱりあそこでしたか。
    通過する度に、似てるよなぁって思ってました。

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