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作品紹介

第3回

突撃ラーメン

執筆者:   2008 年 10 月 1 日

グルメ漫画とは一味違う異色作の登場です。さて望月三起也の手により今回の「突撃ラーメン」はいかに料理されたのでしょうか?

今回は少し目先を変えて、戦記物などではないものを。ということで‥‥‥ yazy氏曰く、「日本初、いや世界初の格闘系料理漫画」『突撃ラーメン』と相成った。言われて納得、確かに。である。

1970年少年ジャンプ(集英社)第9号から第22号まで連載されたこの『突撃ラーメン』。格闘系どころか「食漫画」としても多分世界初だったのではないだろうか。ビッグ錠氏の「包丁人味平」が同少年ジャンプ誌上で注目を浴びたのが1973年だということを考えると、それはほぼ間違いないと思うのだがどうだろう。

今やTV界でも一週間の内に「食番組」及び「食をテーマとしたコーナー」のある番組など、各局必ず複数が存在する。特にこの作品のタイトルにもある『ラーメン』は、番組テーマとすると、必ず高視聴率の獲れるドル箱テーマだという。現在のこの状況を考えると、師のその先進性の素晴らしさに、ただただ驚く。‥‥‥のだが、いや、師の麺好きは知る人ぞ知るので、ただラーメンが好きだったということだけだった?(笑)。

連載第一回目は、スタートからいきなり旧ドイツ軍の「ユンカースJu88」が登場し、主人公はこれまた旧ドイツが誇ったサブマシンガン「シュマイザーMP38(40?)」を持ってカッコいいところを決めてくれる。アレアレ?どこがラーメンなの?何の事はない、主人公の当初の職業が映画俳優、つまりは映画の撮影シーンだったという思わせぶりなスタート。

また、この連載時のジャンプ編集部の作戦も素晴らしい。初々尽くしの連載でありながら、連載第三回目には巻頭カラーをぶちかます。これまた「ラーメン」なのに日露戦争(?)。そう冒頭いきなり日露戦争最前線における望月アクションと望月テイストたっぷりのド迫力構図のグラビアカラーなものだから、我々読者は驚くやら嬉しいやら、やんややんやの喝采だったのだ。が、カラーグラビアページというものは当時、一般におおよそ一ヶ月以上前に決定、作家に通達される。その掲載二~三週間ほど前には完成稿は初ゲラとなっている訳だ。なぜならグラビアページは他の単色ページとは別に組版(集版)されて印刷される。その後の校正も綿密に行われるために単色ページとは同時に出稿できない。一ヶ月以上前といえば連載スタート以前である。まだこの新連載がどう読者に受け入れられるか、全く未知数の時点で編集部は第三回目を巻頭カラーと決定していた訳だ。

これは非常に珍しいパターンだと私は思う。初回に巻頭カラーで読者を惹き付ける手法は腐るほど(笑)使われるが、第三回目というのはどういった意図が編集部にあったのだろう。どういった経緯でこの変則掲載となったのかは判らないが、先生は見事に期待に応えている。第一回初登場で人気投票第三位、第二回目には同二位、そしてこの第三回目で一位を獲得している。私たち読者の期待にも応えたことを数字が証明している。以後、連載終了まで人気上位を譲ることはなかった。

物語のあらましはこうだ。

鮎沢 錦は売れっ子の映画俳優。その祖父が命を賭けて会得した中華の味を引き継ぐ父の思いに反してその三代目となることに反抗している。父が店舗も持たず屋台を曳くことに気恥ずかしさがあり、またそういう父を軽蔑さえしていた。

そんなある日、父が焼死した。ある中華料理コンテストに出場した父は見事優勝したが、審査委員のトップである世界的中華料理人「竜玉師」にその味を認めて貰えなかった。いや、それ以前に味見さえして貰えなかった。それを知った錦は父の死は半ば自殺に近いが、その原因は竜玉師にあり。と竜玉師に対しての復讐に燃える。同じ土俵で、料理の世界で復習を遂げることを心に決め、ここから錦の過酷な料理修行が始まる。

錦は竜玉師に勝てるのか‥‥‥ その復讐は成るのか‥‥‥。

これは親と子、父と息子のドラマである。料理という衣を纏った父と子の親子愛のドラマである。どんなに反抗する息子であろうとも、息子の一挙手一投足を見守る父。父の死後、ひとり河原で通夜を営む錦の慟哭。哀しみが紙面から溢れ読者の涙を誘う。人気俳優の座をあっさりと捨てて父の復讐のみに生きると誓う息子。それは計らずも父の願った三代目襲名。

先生お得意の“情”ものであるが、読者はしっかりと今回も感情移入させられてしまう。悔しいけどね。(笑)でも悔しいけど嬉しい‥‥‥ 読者は「M」的要素たっぷりだからだ。(笑)どこからこんな発想が‥‥‥ と思うようなプロットが次々に出てくるのだが、その総てが錦にとって辛く苦しい状況となっているのだから、私ァ決して先生の作中人物にはなりたくない。しかし読者はこういったエピソードの積み重ねが行われれば行われるほど、志を完遂したときの主人公に拍手喝采を贈ることになる。それにしても先生にかかるとラーメンの修行も大変な命がけ人生となってしまう。(笑)

例によって物語はテンポよくスピーディーに展開していく。非常に気持ちがいいのだが、実は最後まで解かれることのない大きな謎が残ったままなのだ。主人公錦には毒が効かない。錦だけでなくどうやら代々鮎沢家は解毒体質らしいのだが、その理由なり謎を知っている父が物語途中に於いて逝ってしまったことにより、完全に封印されてしまった‥‥‥ 残念。ここは各々読者が想像力をもって補ってみよう。投稿歓迎である。(笑)

また物語序盤に於いて登場する俳優錦のライバル「ターベ」と「バイキン」なるキャラクター。実はこのお二人、先生のお弟子さんである。ターベは「戦国自衛隊」などのヒットを持つ「田辺節雄」氏であり、バイキンは「喜友名長慶」氏がモデルである。念のため記しておくが、お二人とも劇中に出てくるキャラクターのような酷い性格の方々ではない。偉大な先輩たちである。

最後となったが、付け加えておこう。

この『突撃ラーメン』に昨今のようなレシピ付グルメ漫画を期待してはいけない。望月マンガなのだ。ラーメン付アクション・エンターテイメントだ。読んで、飲み砕いて味わってみよう。

それは絶品のフルコースとなっている。



望月先生のコメント
【望月三起也先生より】

今は亡き長野編集長に、
「子供等の好きな食べ物をテーマにしたらウケると思う。やってみない?」
と、すすめられて始まったのです。

この長野さん、私の恩人の一人であり、私の中では、この世界の名編集長三人のうちの一人です。
そもそも、画報でデビューした私ですが、集英社、少年ブックへと引っ張ってくれた人で、戦闘機物語シリーズから、ケネディナイツ、さらにジャンプで突撃ラーメンと、常に私の知らない可能性を見付けて引っ張り出してくれた人です。
この方の名セリフ、未だに座右の銘としています。
それは、

「マンガとは、真っ白な紙に真っ赤な情熱をぶつけるもの」

いいですねぇ。ストーリー云々、キャラがどうの、というのは小せえな。 未だに、これを自分の姿勢として作品づくりに取り組んでるわけです。

で、そのラーメンマンガにトライしたのですが、それまでの私は活劇モノなら得意、タテひざ30分で一本のアイデアが出るというタイプでしたが、さァ困った。メン好きの私ですが、それまでに少年マンガで“食モノ”なんてない。参考にもしようがない。
今でこそ味モノは色々ありますが、何事も最初、開拓者は苦労があるもの。悩みましたよ。ミソ、ショーユ、塩バター、どういう味にするか、出来上ったのが自分の得意技の活劇味だったわけです。だから、最初の回はドイツ軍仕立て、ユンカースをナルトがわりに並べたわけ。

その後も、スープはロシア風ボルシチで、日露戦争の絵を浮かべたりでした。
その中でも、隠し味は人間味、感動。親を失った主人公の悲しみを、「静」ではなく「動」で表現するとか、今までになく新鮮な味にトライの連続でした。それは頭、悩ませましたよ。新しいことを次々、生み出していかなくてはならないわけで、現地取材は私のモットーですから、もちろん調理場へ潜入!!プリンスホテルです。
巨大さにびっくり。同時にシェフの方々に苦労話を聞き、下からの出世コースのランクを聞き出し、洗い方、煮方、包丁方等がそれです。新鮮でしたね。
当然、カメラマンの方にナベ、カマ、ズンドー、食器の配置等押さえてもらい、その部分はヘタなTVドラマよりリアルに出来上がったと自負してます。

欠点は?

あるんですねぇ。自慢じゃないけど、私、伏線張るのがストーリー造りの上で欠かせない。それがあとで、こう使われるのかと、読者をおどろかせるのが狙いですけど、これが次々アイデア出していくと、ちりばめておいた伏線とか謎を、忘れてることがしばしば。こっちの方が面白いと、別な案が出るとストーリーがそっちへいって、本道から脇道に、いつかそれてるんです。
でも、邪道かも知れませんが、カッチリした構成より意表をついた展開の方が読者を喜ばせると思うと、いつか道が変わる。って事は、張っておいた伏線、使えず、ほっぽりぱなし。申し訳ありません。
この突撃ラーメンでも、「毒」に強い主人公が、なぜ毒に強いかって伏線、未解決のまま終わってしまったのですよ。ゴメンなさい。よくあることで。
ワイルド7でも、しばしばこの手の伏線未解決やってます。なかには、そういうところ見つけて喜んでる読者にも出会います。ひや汗ものですね。

ま、それでも“食モノ”マンガを初めて描いたってところは、自慢していいんでしょうか。
長野さんのアイデアマンぶり、いまでも色々アドバイスされた事、お世話になってます。

名編集あって、漫画家があるのです。


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