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作品紹介

第19回

タイガー陸戦隊

執筆者:   2010 年 2 月 1 日

第二次大戦中の中国を舞台にはみ出し者部隊が活躍する戦記アクション! この作品がまだ幼かったあるファンの心をわしづかみにした理由とは?

1960〜70年代。男の子の兄弟のいる家に遊びに行くと、必ずと言っていいほど望月先生の単行本があった。カバーはなく、摩滅したページの状況から兄弟間、友人間でハードに読み継がれて来たものと思われる。そのような状況だから、この時期に少年・少女だった人に「初めて読んだ望月作品は何ですか?」と尋ねても答えるのは難しいだろう。なぜなら、物心ついた時すでに望月作品がまわりに有ったはずだからだ。

このような質問なら答えられるだろう。「初めて漫画家・望月三起也の名を意識した作品、あなたのファースト・インパクト作品は何ですか?」その問いに対する私の答えが、本作「タイガー陸戦隊」である。私が本作を初めて読んだのは小5の頃、友人宅。単行本はまさに上記のような状況だった。

本作のジャンルは「戦記マンガ」である。当時は、現在とは比較にならないほど第二次世界大戦モノの情報が子供が目にするメディア(書籍、マンガ、テレビ)に溢れていた。プラモデルもそうだ。そうした中、私もミリタリー好きの少年となっていたが、本作の内容には非常に強い衝撃を受け、「望月三起也」の名が心に深く刻まれた。痛快無比のアクションに心を奪われただけではなく、これまでに読んできた「戦記モノ」には描かれていない、戦争のダークサイドがテーマとして描かれていたからである。

さて、本作の内容に入ろう。

時代は第二次大戦末期、舞台は中国大陸。敗色濃厚となった日本軍は形勢逆転を図るべく秘密兵器を開発、海路・空路を使って中国の関東軍に送った。この輸送任務の責任者が、主人公のひとり関建男海軍中佐である。
追撃機との激しい空中戦を切り抜け、現地部隊に秘密兵器を引き渡した関中佐の一行。彼の任務はここで完了となるのだが、関中佐は自らの信念に基づいた独自の「輸送任務」を開始する。夜半、引き渡した秘密兵器を密かに運び出し、トウモロコシに偽装して軍用トラックに積み込んだのだ。
秘密兵器の正体は悲惨な毒ガス兵器であり、この非人道的な兵器の使用を認められない関中佐は軍を裏切ることを決意、中国大陸のど真ん中から陸路で海岸まで秘密裏に運び、沖合に投棄しようというのだ。


タイガー陸戦隊 メインキャラクターこの関中佐の個人的な「作戦」に、最初は知らずに巻き込まれ、後に同志となって護衛役となるのが、海軍陸戦隊タイガー別動隊、通称「タイガー陸戦隊」の面々である。隊長の長門慎吾、巨漢の「牧師」、アイパッチの「海賊」、理知的な「チャボ」、マント姿の「スーパーマン」の5名。陸戦隊とは「海軍の中の陸軍」で、地上戦の専門部隊だ。彼らが海軍所属であることはストーリー上の意味がある。陸軍である関東軍の支配を受けず、関中佐が指揮下に置くことが出来るからだ。

「タイガー陸戦隊」のメンバーは軍服も着ないし、愛称で呼び合うような(外見も)個性的な連中だ。いずれも軍隊のはみ出し者たちだが、隊長の長門を中心に固い絆で結ばれている。また中国大陸での戦いに熟知したスペシャリストであり、強兵だ。関東軍の支配下にない彼らは「抗日ゲリラハンター」の腕を買われ、「傭兵」のような立場で生活していたのである。

非エリートのはみ出し者たちと、海軍のエリートである関中佐がぶつかり合いながらお互いを理解し合い、「戦い」の目的を共有し、ひとつのチームになっていく過程が本作の大きな見どころの一つである。また、この関係はエリート警察官・草波勝と元悪党のワイルド7メンバーの関係になぞらえることができ、本作をグループヒーローものの歴史的傑作「ワイルド7」の原型と見ることも可能と思われる。(ワイルド7の約1年前にスタートし、4ヶ月前に終了した作品である)

この物語の展開は、関中佐と副官の中尉(気弱)、そしてタイガー陸戦隊の5名の計7名が秘密兵器を積載した軍用トラックに同乗し、様々な敵の追撃をかわしながら大陸を横断する、というものである。物語のパターンとしては「脱出行」であり、これは「ワイルド7」の「千金のロード」や「秘密探偵JA」の「脱走列車」(スケールが巨大だが)や、「愛と青春の100大隊〜アフリカ戦線レスキュー編」などにも通ずる、先生お得意の展開のひとつである。西部劇の傑作「駅馬車」もこのパターンだが、先生はこの映画のシナリオを入手して研究なさったそうであり、上記作品のスリリングな展開にその成果が現れていると思う。また、本作はこうした作品の性格から「戦記マンガ」というよりも、「はだしの巨人」のような「冒険マンガ」の要素が強い作品と言うことができると思う。

タイガー陸戦隊 敵対勢力この作品を語る上で、「舞台」と「敵」を外すことは出来ないだろう。戦時中の中国大陸が舞台なので、敵は「共産党軍」と「国民党軍」の両軍、そして国民党軍は様々な軍閥からなる。この軍閥が秘密兵器の噂を聞きつけ、自軍を有利にしようと狙ってくるのだ。馬賊の襲撃や日本軍からの追及も予想される。「舞台」も「敵」も極めて複雑なのである。

雄大な奇峰群や村の風景、民家の内部などが綿密に描かれており、作品世界の構築に大きな貢献をしている。後述する兵器類の描写もそうだが、舞台が舞台だけに資料収集には相当の時間をおかけになったと思われる。このような細部へのこだわりがあるからこそ、発表から40年以上経ってからも読み返せるのだ。クオリティ維持のためのこうした努力、そしてそれをしっかり描写できる作画レベルの高さには、ただ感心と感謝あるのみである。タイガー陸戦隊 迫力の爆撃シーンとしっかり描き込まれた集落

さて、小学生の私が衝撃を受けたシーンの説明に入ろう。この秘密兵器は1発で1キロ四方の人間を一瞬に白骨化するという恐るべき毒ガス兵器なのだが、逃避行の目的がその兵器の略奪・廃棄だとを知らされた時、メンバーからは「日本軍から見れば犯罪だ」という声が上がる。これに対し、関中佐は「これが犯罪なら あの兵器を使用することの方が よほど人類にたいして大犯罪だろう!!」と答える。隊長の長門がこれに同調、祖国を裏切る悪人になっても人類に対する犯罪を食い止めるカッコイイ役を演じよう、と仲間に呼びかけるのだ。

これまでに読んできた戦記モノでは一般的だった、カッコイイ兵器の活躍やヒロイズム、あるいは敗者の滅びの美学、ロマンといった要素は本作にはなく、テーマは「戦争犯罪と人間の尊厳」だった。この作品テーマに強く心を打たれたのである。

恐怖部隊の「レストラン」東軍の民間人に対する暴虐シーンもショックだった。「恐怖部隊」と呼ばれる部隊では「レストラン」と称して民家で食事をとる。拳銃を数発発射すると、立ち所に民家がレストランに早変わりするという訳だ。しかも兵士に心を棄てさせ、強兵を作るための手段としてこれを「励行」しているというのである。その他にも「恐怖部隊」による敵・味方の恐怖支配は強烈で、戦争というものを複眼的に見なくてはならないことを初めてこの作品から学んだのだった。

次にマニアックな話題を少々。久しぶりに本作を読み返して驚いたのは、兵器、装備類の描写である。執筆時の1968年はタミヤのミリタリーミニチュアシリーズがスタートした年であり、テレビでは「マイティジャック」や「巨人の星」が放映されているという時期の少年誌に、零式輸送機の機銃装備型(二二型甲)が登場し、九九式襲撃機が急降下爆撃を敢行している。

もっとスゴイのがAFV(装甲戦闘車両)。九五式軽戦車はまだしも、九四式軽装甲車という超マイナー車両まで登場するのだ(あっという間のやられ役だが)。「装甲車」と名が付くが実態は豆戦車で、汎用性が重宝されて歩兵師団でも使用されていたというから、登場場面の設定としては正しい。また、BT-2というソ連製の戦車が登場する(しかも連装機銃装備型)のだが、この戦車の特色である「装輪走行」(キャタピラを外し車輪で走れる)をするシーンが描かれている!詳しい人でも三号・四号戦車の区別がようやく付くようになったような時期に…望月マニ也、恐るべし。

タイガー陸戦隊に登場する個性的な戦車たちさらにスゴイのが、国民党軍の装備。「中独合作」の結果、主力部隊はドイツ式の装備をしていたのだが、ドイツ軍のヘルメット姿の兵士がキチンと描かれている。この徹底ぶりには本当に驚いた。先生の「資料へのこだわり」はこの頃から半端ではなかったのだ。

まとめに入ろう。本作は「ワイルド7」以前の作品であり、キャラクターの画風も60年代風のマンガ的なものである。このため一見すると「幼い」作品に見えてしまうかもしれないが、作品のテーマは極めて重く、シリアスタッチである。先生がこれまで培ってこられた「息をもつかせぬ展開」「工夫に満ちたアクション」にさらに磨きがかかっているだけでなく、リアル志向、シリアス志向という新しい領域へ踏み出そうとする、後の「ワイルド7」を予感させる内容になっていると思う。

すべての望月作品の基底には「ヒューマニズム」が流れていると思うが、本作は「戦争犯罪と人間の尊厳」をテーマにしているため、これがとりわけ色濃く現れている。子供時代に感銘を受けた立場から、現代の子供たちにもぜひ読んでもらいたいと願う良作である。

最後に望月先生にお尋ねしたいのですが、関中佐の顔にはモデルがいるように感じるのです。ひょっとして戦時中の中国を舞台にした痛快娯楽映画の主人公のひとりではないでしょうか…?

『タイガー陸戦隊』
初 出:少年画報社「少年画報」1968年10月号〜69年5月号
単行本:少年画報社(キングコミックス)1969年、若木書房(BIG ACTIONシリーズ)1976年、
大都社(スターコミックス)1983年、eBookJapan(電子書籍)
http://www.ebookjapan.jp/ebj/book/60015544.html


望月先生のコメント

戦争は悲惨、無いほうがいいのです。
国と国の利益・権益の盗り合いが暴力に発展したものが戦争。だから国の正義が優先され個人はひとつの数字になってしまう。勝利のための犠牲者が兵士、戦死者は数
何万死んで一つの島、一つの国を盗った。それが国の利益になれば多くの国民が幸せになる。と、国家の指導者は信じている。
それが何百何千年もの人類の歴史ってことでしょう。

でも生きて幸せ味わえる方はいい、死んだ方は独りじゃない、家族がいる。親、兄弟、子供も含め一人の死の哀しみは一人じゃすまないのです。そういう悲劇はあってはならないのです。でも国家がある限り、この先の世の中も世界各地で形は違っても戦争はなくならないでしょう、いくら個人が反対を叫んでも。

でもね、形を変えて叫びたいのです、私としては。
私が叫んでも所詮は『ごまめの歯ぎしり』。つまり小魚の歯ぎしりなんてほとんど聞こえやしませんが、無言よりはまし。意見の表明という自己満足と言われればそれまでですが、私の歯ぎしりが形を変えて漫画という手段で表されていると思ってほしい。

これまで戦争ものといわれる分野、たくさん描いてきました。
主人公は皆カッコいい‥‥ はず、カッコよくなければ読者も喜んでくれませんよね。でもそのカッコよさは常に上からの権力の押し付けに反発するカッコよさでありたいのです。
主人公に共通するのは「反権力」、人間本来の正義感なのです。
タイトルは変わりストーリーや戦場は別でも、そこはブレずに描いてきたつもり。
その一般市民は常に戦争の犠牲者って思いが時に上司に上官に盾突く、逆から見ればどうしようもない暴れ者、はぐれ者の兵士と映る訳。
漫画は楽しんでもらうのが一番。それは今も昔も変わりません。
ただ、その中に自分のメッセージを隠し味で入れてきたつもり。メッセージは大上段に振りかぶって斬りつけちゃ野暮、漫画としておもしろくなくなる。密かに、又それを解かって読み取ってくれるのがファンだと信じて描いてきたつもり。
この作品もそんな一編です。


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コメント/トラックバック

  • Sadami :
    Dear ぐりゅーんへるつさん、望月先生,

    ぐりゅーんへるつさん、とてもいい作品と丁寧な解説をありがとうございます。 おかげで何倍も深く味わえました。

    望月先生のタイガー陸戦隊についてのコメントいいですね。
    正直, いつ、これが出るかと思っていました。でないと、望月先生の作品を上っ面読んだ煽り言葉は先生をバイオレンス漫画の権化の様に言うからです。また、私がかつて "先生の作品って社会のマイノリテイにいつもスポットライを当てて味方をする" というのと重なってて嬉しかったです。

    私、実際に日本に居るとき、先生が描いた史実をかなり深く調べてぞっとしました。果たして、幾人の日本の若い世代がこの恐ろしい事実を知って居るでしょう。ぜひ、もっと取りあげて欲しい作品です。政治と社会正義が絡むと出版では、難しいですしょうに。だからこそ、先生のいう、"隠し味" という表現、分るのです。先生、勇気あります! えらい!!

    望月先生, あなたの『ごまめの歯ぎしり』は、聞こえる人には聞こえ、社会の警鐘としてみごとに役をはたしてきてると思います。

    Kind regards,
    Sadami
  • ぐりゅーん・へるつ :
    Sadamiさん

    コメントありがとうございました。
    画像でも紹介しましたが、「恐怖部隊」が市民を脅して食事をとるシーンが子供心に衝撃的で、このシーンで使われている拳銃「南部十四年式」がトラウマになってしまいました。拳銃としてのデザインは面白いと思うのですが、このシーンのインパクトが強過ぎて、十四年式のモデルガンが買えないんですよ。八百の使っている「陸式南部」の方は平気なんですがねぇ・・。

    今回の私の「作品紹介」は、「望月先生の戦記漫画の特徴」を強調したつもりです。

    望月先生の戦記漫画の主人公は、「一般市民」の感覚を持った人が多いと思います。一般的な戦記漫画だと、主人公は「職業軍人」(プロフェッショナル)か、そういう意識を持った人である場合が多く、先生の漫画の主人公とはかなり違うのです。

    また、望月先生の漫画の場合、普通の人の生活、市民生活が戦争に巻き込まれるような話が多いのです。90年代の作品もそうですよね。主眼が「兵器どうしの戦い」ではないんですよ。

    それなのにどうも世間での認知は違うようで、Sadamiさん同様、とてもおかしいと感じています。
    望月先生は「漫画は面白いといけない」という主義をもつサービス精神に溢れた方なので、読み手も迫力のアクションシーンに目が行きがちですが、偏見を廃し「心」で読めば、先生のメッセージを受け止めることが出来ると思います。

    漫画評論家の方には、こういう視点から先生の作品を取り上げて欲しいのですが...。
  • ワイルド7 FC :
    「タイガー陸戦隊」の十四年式拳銃

    ひさびさの更新。「月刊望月三起也」2月号に、私が書いた「タイガー陸戦隊」が掲載さ

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