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作品紹介

第23回

ヘッド! 牙

執筆者:   2010 年 8 月 5 日

田舎の高校を舞台に美人教師との約束を果たすため、不良生徒たちが決死の試合に挑む! 記念すべき初の望月サッカー漫画『ヘッド!牙』の登場です。

1968年メキシコオリンピックにて輝かしい歴史を刻んだ日本サッカー。
その下馬評にも上がっていなかったチームが銅メダルを奪い取った。まさに奪い取ると形容できる3位決定戦での栄冠である。国中がこの栄誉に喝采を送りエースであった釜本邦茂選手はスターとなり当時の子供らの憧れとなった。
その第一次(?)サッカーブームが去り長らくサッカー人気の低迷期が訪れ、サッカー漫画と言えば私の記憶では、「サッカー番長(吉岡道夫/小島利明)」、「くたばれ涙くん(石井いさみ)」、そして「赤き血のイレブン(梶原一騎原作/園田光慶)」位しか思い浮かばない。(敬称略)
そんなところへ登場してきたのが、望月三起也作『ヘッド!牙』。師初のサッカー漫画である。

1971年週刊少年ジャンプ(集英社)第52号より翌72年2号までの1ヶ月集中連載という編集で発表された『ヘッド!牙』は、この尖ったタイトルに相応しく読者の胸をえぐる。

九州は小さな漁村にやって来た美人高校教師、小梅先生。経験のないサッカーを通し校内サッカー部監督として古くからの地元民と新興の移住民との間に起こったトラブル解消を託される。校内一の問題児(不良)次郎長グループを取り込み、いざスタートするが一朝一夕に事が進むはずもなく、トラブル解消どころか問題は大きくなる一方。なんとかチームの形を作り、試合にまで漕ぎ着けるが相手方の数々の妨害の前に試合の開催まで危うくなる。
全ての決着に帰結する試合を行わないことには全てが無駄になる、負ければ教師を辞めて村を出るという条件を小梅先生が呑んだと知った次郎長グループは、約束を守るため妨害を掻い潜り試合に駆けつけるが、チームはすでに敗色濃厚。
相手選手による反則にも耐えに耐え、豪雨の中すべてを掛けて戦う・・・・・


ここでのキャラクターのキャスティング、望月先生としては稀なパターン。主要登場人物が殆んど不良生徒・・・・
あら、昨今では不良たァ言わないか、ヤンキーか? しかしここでは敢えて不良、ヤンキーじゃニュアンスがチョイと違う、そう正義を行う好漢は出て来ない。出て来ないがこいつら不良どもが見せてくれる、泣かせてくれる。やっぱ「男」を描かせたら最高なんだよね、望月先生。

九州は大分の片田舎でのストーリー展開ということで、ほのぼのサッカー漫画かと思いきや、180度予想を裏切る壮絶な展開が待っている。
物語序盤こそ田舎高校の不良生徒と新任の若い女性教師「小梅」先生との噛み合わない会話にズッコケたり笑わせられたり、またよくあるサッカーを舞台設定とした青春ストーリーかと思わせるのだが、地元漁師村住民生徒と新興開発により流入してきた都会育ち(よそ者)生徒との軋轢から相次ぐトラブルを、サッカーというスポーツで事を収めよう、決着をつけようという対決ものへと変化していく。

この前半に於けるハイライトは新任小梅先生であろう、個人的に(笑)。
新卒で美人、その上かわいいという形容も被せることのできる女性教師が私の人生の上にも存在していたならば、私の人生も大きく変わっていただろうに・・・・ 多分見とれて勉強にはならず、もっと酷い成績で落ちこぼれ最右翼となっていただろう(笑)。それでもいい、あぁ 憧れるなァ、若い・・・・
あれ?本心さらしてどうする(苦笑)。
そんな小梅先生が、本人の勘違いもあってサッカー部の監督なんぞにされてしまう、結構笑える勘違いで。
ひょんなことで男気を見せる主人公「次郎長」率いる不良グループ一派が、そのサッカー部に入部することから物語りは転換していく。

後半、軋轢から分裂、新設された高校、移住民のボス的存在の息子「姿 星彦」率いるサッカー部との対戦に話しは一気に流れ込んで行くが、さてさて凄まじいのはここから。
敵の罠にまんまと乗せられ、試合当日、次郎長グループは警察署。気に入らないと暴力に訴える次郎長グループとの試合を拒否し続けていた相手が試合をする条件は正当な試合を成立させること、出来なければ小梅先生は辞職し村を離れなければならない・・・・ その事実を知った次郎長グループ、小梅先生を悲しませることはできないと試合参加のために大脱走。落ち合う場所は、そう 試合会場だ。
土砂降りの雨の中、約束を果たしに彼らはやってくる・・・・
クゥ~~ こんな設定、たまりません。

今や敵チームの12人目の選手となってしまっている審判に好き勝手に試合をコントロールされてしまい、殴られる蹴られるは当たり前、骨肉は砕け歯は折れ飛び散り、凄まじい反則の中彼らは必死に戦う。
まさにファイナルスポーツ、サッカーはルールとスポーツマンシップと審判のコントロールなくしては危険この上ない戦いになると教えてくれる。

耐える、耐える、耐える・・・・ 小梅先生との約束のため、男としての約束のため、彼らは必死に耐える。暴力も反則もなくして勝つために、正当な勝利を手にするために・・・・
浪花節大好き日本人、ページを捲る指先にも力が入る。
いやいや待てよ、物語中挿入されている一節がある。
『踏まれたり蹴られたりしながらも、ただひたすら目的に向って突き進む。ハードボイルド小説の本質は苦しみにいかに耐えるか、それが男の価値・・・・』
銃弾雨あられの中飛び込み、ストイックに生きる主人公を描くハードボイルド小説。可憐な小梅先生によって語られるハードボイルド小説考だが、これは当然のことながら望月三起也が語っているのだ。「真の男のカッコよさはここにあるのだ!」と。
ハードボイルドと浪花節は同義だったのだね、クゥ~~ たまりませんPart2。(笑)

しかし先生の作品には雨のシーンが多い、実に多い。これほど雨のエピソードの多い漫画家は稀有であろう。個人的には真崎守氏と望月先生が双璧だと感じている。これは先生が大好きな黒澤明監督作品『七人の侍』の影響もあるのでしょうかねぇ。 などと勝手に思い込んでいるのだが、雨という流動的な対象を描くことで動速度倍増、迫力倍増、読み手は完全に取り込まれてしまう。
でもね、あの頃のサッカーボール、雨が降ると大変、表皮が雨(水)を吸い込んで重くなることこの上ない。蹴っても飛ばない、蹴ったら足が痛い、ヘディングなんてしたくない(笑)。首の後ろ辺りにズシリとくるだけじゃない、水飛沫がすごい。サッカー経験者なら物語の凄まじさに圧倒されてしまう。リアル!

感動のラストはみなさんで読んでもらうとして、実はこの作品、脇の登場キャラクターにも妙味が隠されている。当時の望月先生率いる「カエルぷろ」のスタッフが次郎長グループの面々として描かれているのだ。真鍋氏に小針氏、そして土山先生、敵方ゴールキーパーにはギャグ漫画家のばら・さかき氏まで配されていて、マニアならば結構楽しめるかもしれない。果てはあのA・ヒトラーまでも出演しているのだから。

さてさて師お得意の銃弾が飛び交うことが無くとも、それに匹敵するような“サッカー漫画”、ありきたりなスポーツ漫画になることはない。取りも直さずそれは望月三起也という作家の一貫したテーマの置き方にある。男の美学をこれでもかと具現化して見せてくれることに他ならない。以前にも書いたが、女だけではない、男も惚れる男が望月漫画の世界には存在している。これこそ望月漫画、人気の源泉である。

最後に、ファンの方々にとっては余りにも知れ渡っていることだが、望月三起也先生、“超”が付くサッカー好き。いや清水圭氏によれば“狂”が付くサッカーおじさん(笑)。そんな師がそのサッカーを描いた最初の作品、ファンならばぜひ押さえておかないといけない、見せてくれます、その面白さ。

『ヘッド!牙』
1971年 週刊少年ジャンプ(集英社) 第52号~翌72年2号。
1976年 HIBARI HIT COMICS(ひばり書房)発行『ザ・キッカー』併録

                      2010.8 JUN記
 




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望月先生のコメント
【望月三起也先生より】
これまた困った、ほとんどストーリーを覚えていません(笑)
サッカーは大好き、自分でやってる試合で点を獲ったシーン覚えているし、記録にも点けているのにねぇ。
必死で点を獲りに掛かることと同じくらい、面白がってもらおうという姿勢でストーリーを作っているのですが、完成したらもう忘れて新しいアイデアへのめり込んでるって人間なので。

ただこの『ヘッド牙!』でうちの弟子連中が出演だったってねぇ、他人事みたいですが。
で、場所は大分とか? 実は大分は弟子1号の田辺節雄の故郷なんです。顔としてのキャラクターだけじゃなく弟子スジから色々と話を聞いてると自分が行った気分になるんですねぇ、だから取材もせずに舞台にしてしまう。不精じゃなく、忙しくて現地取材できなかった作品のひとつであることは確か。
少年ジャンプでの作品は『ザ・キッカー』も『ダンダラ新選組』も現地へ行っております。また別のコーナーでeddy-sさんが「ダンダラ新選組」の京都取材時のグラビアページを載せてくれていますね、
お茶屋さんで遊んでいる写真って‥‥‥ 確かジャンプって青年誌はないですよね、当時は。
担当さん共々、取材の幅広げて遊んでいたんだなと、改めて想い出に耽っています。


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