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作品紹介

第25回

生還

執筆者:   2010 年 10 月 3 日

「月刊アーマーモデリング」で始まった新作にも期待が高まりますが
戦記モノの中には、かつて集中連載されたこんな傑作もありました。

今回取り上げる「生還」は、前回の「特だねを追え」と同様、ながらく「幻の作品」でしたが、ぶんか社さんの慧眼により31年の時を経て初の単行本収録(まさに「生還」!!)となった作品です。望月先生の作品には、本作のように「埋もれた名作」がまだまだあると思います。今後の出版に期待したいところです。

さて、本題の作品紹介に入りましょう。

本作は、1972年3月から4月にかけ平凡パンチに7回に渡って掲載された、総ページ112ページの戦記作品で、単行本収録は2003年発行の「望月三起也戦記コミック傑作選」全4巻の第3巻「生還ーSTILL ALIVE」になります。

望月先生の戦記コミックには「極限状況における人間ドラマ」や、「国家(組織)と個人」の問題が必ず織り込まれますが、本作は「組織における支配と従属」をメインテーマに据え、支配する者、支配される者の内面を複数の視点から描いた「群像劇」であり、「心理ドラマ」となっている点が注目されます。

では、物語の導入編である第1章「ヒッピー強盗出現」の粗筋を紹介しましょう。

1972年、グアム島を思わせる南方の島。28年前、奪還を図る米軍と日本軍との間で激戦が展開され、破壊された戦車などの戦跡がまだ残るが、今では平和な観光地となっている。
そのコテージでCM撮影の男女、新婚カップル、そしてフリーのルポライターが宿泊してパーティを開いている。
そこに突如、長髪、ヒゲ、軍服姿の「ヒッピー強盗団」6名が押し込み、食料強奪を図る。コテージ客は彼らを残留日本兵と知って28年前の戦闘終結を告げるが、日本兵たちは信じようとせず、かつての攻防戦を回顧する。


続く第2章「白旗が裏切られた日」は1944年の戦闘時の出来事、第3章「脱走者はトカゲを愛す」第4章「19年目の作戦行動」は、8年後の1952年。第5章「ホワイト・スターは戦争の証だ」は1970年から始まり、「現代」である1972年の第1章冒頭シーンに戻ります。そして「現代」を舞台に第6章「皇軍に敗北ありや…!?」第7章(終章)「命令が消え去った日」と物語は進行していきます。

次に登場人物を見ていきましょう。
先に「群像劇」と書いたように、この物語には固定された主人公は存在しません。降りかかる「状況」に応じて、各人がどのように感じ、対処していくかが作品の見どころです。

その中でも特に内面が深く描かれる登場人物が3人います。

まず七道伍長。中国戦線で7年間戦っていたという歴戦の勇士(マッド・ドッグのような擦り切れた左眉を持っている)ですが、彼が曲者であり、この小隊の実質的な支配者です。小隊長の権威を利用したり、非道な方法で恩を売り、自分に忠誠を誓う手下を作るなどして地位を固めています。

次に小隊長。大学出のインテリで、温厚な性格。ジャングルでの生活に辟易しつつあり、死ぬ前にビルが見たい、電車が見たいと願う都会人です。彼がこの組織の最上位者ですが、古参兵の七道伍長に精神的に支配され、「この先 何年 何十年 このいやな組織と一緒にジャングル生活せねばならんのか…」と、自らの組織を苦痛に感じています。

そして原一等兵。丸メガネの人の良さそうな人物ですが、歳月を経るうちに長髪、ヒゲとまるでヒッピーのような外見になってしまいました。過去30年近く命令に従うだけの生活をしてきたので、自らの意思を持てなくなっています。しかし彼はラストシーンで衝撃的な選択をします。

ルポライターも良い味を出しています。水着モデルのCM撮影に同行してきたフリーのライターですが、残留日本兵の登場に「やっと俺にチャンスが回ってきたんだ 元日本兵の取材一番乗り!!」と狂喜し、現地の警官隊に囲まれた日本兵たちの脱出に手を貸します。自らの野望のために…。

七道伍長と小隊長の主従関係(実質は階級とは逆)がついに破綻するシーンが印象的です。

日本の新聞を入手したり、コテージ客の話を聞く中で、小隊長以下、兵士たちも終戦を確信し始め、望郷の念を募らせますが、七道伍長は頑として終戦を受け容れようとせず、「戦闘」を継続しようとします。

警官隊に包囲され緊張感が高まる中、小隊長は初めて七道伍長に異議を唱えます。
「君は市民にもどるのが怖いから終戦を認めないんだ」「軍人以外とりえのないことを一番よく知っているのは自分だからな!」

七道伍長は「そのとおりかもしれんな…」と認めます。「うちでは農家の三男坊、一生ヨメももらえず飼い殺し」「都会に出りゃ田舎者あつかい」「勤め先といえば工員…それも重労働しかねえ。さんざん無能扱いしやがった」と、辛かった「市民」時代を回顧します。

しかし、「そんな俺に三度のメシ腹いっぱい食わしてくれて 人に命令する立場にしてくれたのはおそれ多くも陛下だけだ!! その陛下の軍隊を俺が裏切れると思うか?」と軍への思いを吐露、それを聞いた小隊長はついにこの組織からの離脱(「市民」への復帰)を選択します。

この組織でしか生きられない七道と、彼のために戦後28年間維持されてきたと言ってもいい、この「いやな組織」。

読者は「各自が疑問に思っているのに、なぜ合理的な選択ができないのか」と疑問を持ち、「これは軍隊だからだろう」と考えるでしょう。しかし、やがて、歴史のある大きな組織(会社、役所、etc…)には、このような問題はつき物であることに気付くと思います。

各自が気付いているのに、誰も中断させることができない「慣習化した悪事、怠慢」。「事実」を認めず、隠蔽しようとする体質。問題が表面化した場合、国民的ブランドが消滅するほどのダメージを受けることが分っているはずなのに、なぜ…?

それはその組織の中に、この物語の「小隊長」「七道伍長」「原一等兵」が大勢いるからではないでしょうか。

組織の中での生活に慣れ切り、「一個人」「一社会人」としての判断力を失ってしまった者たち。そして、そんな組織に寄生する者たち…。

彼らはいつの時代にも存在します。だから、この「生還」という物語も時代を超えた存在だと思うのです。

ご存知のように、1972年2月に元日本兵・横井庄一さんがグアムから帰国するという歴史的な出来事と国民的ブームがあり、本作はそれを踏まえたものと考えられますが、作品内容(地元警官隊との銃撃戦での「戦死」など)は、その後に起きた小野田寛郎さんと彼の部下たちの出来事の方をイメージさせます。

また、本作が描かれたのは横井さんの帰国直後になりますが、横井さんが帰国後、講演や出版に引っ張り回され、あげくは参院選に立候補するに至り、「ジャングルの方が気楽だった」と発言するような状況になること(「人間の本当の自由とは何か?」という問い)も、本作は予言していたように思います。望月先生の想像力のすごさを感じさせる部分です。

本作はこのように先見性、普遍性を持っています。また、先に述べたように「群像劇」であり「心理ドラマ」である点で、ドラマ向き、演劇向きの素材だと思われます。8月15日が近づくと作られる「終戦ドラマ」のひとつとして、また演劇作品としても見てみたい名作だと思います。

「生還」
1972年 3〜4月 平凡パンチ 掲載
2003年 「望月三起也戦記コミック傑作選 Vol3 生還ーSTILL ALIVE」収録



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望月先生のコメント

組織・・・・・ この紛らわしい、私にとって一番苦手なもの。つまり馴染まないのです。
人のため自分を抑え、相手を立てることで組織をスムースに動かすなんてこと、勝手もんの私には到底無理!だからこれまでも団体には縁がない。
漫画描いていても漫画協会の会員じゃないし、といっても協会から頼まれごとがあったりして、それに応えられる時間があれば気持ちよ~く協力するというスタンスで仲間付き合いしてます。

これが決め事で月一回集まりがあったりすると必ず守れるとは限らないのが私の性格。当然人様に迷惑たっぷり掛けてしまうわけです。
だから組織には入らない、というか入れない人間ですね。
逆にいうと外から組織を見てるから、組織を上手に利用し自分の立場を強化することに強い奴なんかもすぐに見つけてしまうのですねぇ。
上に喜ばれる“よいしょ上手”で自分は動かず下を働かせ、手柄は自分。そういうの、いるでしょ?思い当たらない?
とすれば、あなたは素晴らしい組織に身を置いているのですよ。

ってわけで好きな時、組織を脱け出せる今の世の中は幸せ。嫌いでも組織に放り込まれ、そこが絶対逃げ出せない組織だったら?
こんな悲劇は昔々あったのですよ。
という話を大人向け、というより今でいう「プレイボーイ(集英社)」と同じような青年誌というべき雑誌で、このくらいの心理劇、理解されるよねと描いてみたものです。





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    月刊望月三起也の作品紹介に「生還」が掲載

    「作品紹介」の方には、久々の登場になります。 月刊望月三起也 作品紹介「生還」

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