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作品紹介

第29回

四つ葉のマック

執筆者:   2011 年 2 月 4 日

閉鎖空間で展開するハードな攻防と個性豊かなキャラたちが登場する本作は、まさに望月節の真骨頂!主人公は作中の大半を腕が骨折したまま過ごし、髪型も途中で変わる…全てが規格外なのダ

少年院・・・・ 漫画世界では良くも悪くも物語背景の一つとして使われる素材だが、望月三起也が取り組むとこういったカラーになるという見本のひとつであろうか。そこには読者の度肝を抜く設定と展開が網羅されているのだから、その作品世界に釘付けである。
『四つ葉のマック』・・・・ 1983年1月 少年KING(少年画報社)第2号より連載のスタートしたこの作品は、当時の荒廃した教育現場の様相なくして生まれなかったのかもしれないと思わざるを得ない。学校崩壊が叫ばれ始めた世相にいち早くアイデアの一端を見つけたのだろうか。

この作品の大きな“キモ”は、その極悪不良少年たちを収監する更正施設にある。
組織の背景は完全には暴露されないが、世に害をなす少年少女たちを夜ごと狩っては送り込むその施設は海に浮かぶ船舶、非行少年刑務艦。そこには過酷な毎日とこれまた極悪看守たちが目を光らせ、苛め、拷問が跋扈(ばっこ)し時には死の制裁が横行する獄門船。船が『密室』と化する壮絶な設定なのだ。
この密室の中で誰が味方で誰が敵なのか、その不安と恐怖が読む者をグイグイと引っ張っていく。
そして凄惨で救いようのない密室に於いて育まれる仲間意識と友情が、強烈なコントラストとなり読者の拠り所を作り、面白さを加速させる。

サスペンスに於いて『密室』というのは三大要素のひとつと定義され、古今東西のサスペンス作家が、あの手この手でその世界観を構築しているが、望月三起也のそれは広大な背景の中、描かれることが多い。
例えば『秘密探偵JA』では死は赤い骨編にて、サメが徘徊する海に浮かぶ孤島が“密室”として使われている。これもまた逃げようもない島にて、死の戦いを強いられる。
また大勢のファンの方々の知るところであろう『ワイルド7』千金のロード編では、作戦上迷い込んでしまったカンボジアのジャングルがひとつの“密室”としての効果を作り上げている。
その巧みさにため息の出る思いである。

して、今作に於けるこの密室というやつは、周りを海という格子に囲まれ、相手方、つまりは敵にとっても同様の密室であり、ここに着目した師は『ヌシ』という顔を隠した謎のキャラクターを設定、逆に悪辣非道な看守たちを狩るという新手を考案している。
益々もって読者を狂喜させてくれる。どうすれば読者が喜ぶかを知り尽くしている。
そう、海の向こうでは『スーパーマン(Joanne Siegel原作/Joe Shuster作画)』や『バットマン(Bill Finger原作/Bob Kane作画)』。そして我が国漫画界の金字塔的作品であろう『月光仮面(川内康範原作/桑田次郎作画)』で完成した読者の変身願望を刺激するという手法、それも密室の中でどうやって?という形で見せてくれた。
輻輳(ふくそう)するストーリー展開の中、その正体は秘匿され続け、消去法でも特定困難だったその隠された素顔だが、ラストにて「あァ~・・・・」と読者は唸らざるを得ない正体が明かされる。
「こんな手があったか・・・・」である。

またこの『四つ葉のマック』では、その密室と化した艦内に於いてのみほぼストーリーが展開するという特異な形態にて、ともすれば同じ場所、同じ背景が連続することで読者が飽きてしまいかねないという非常に困難な状況を作者自ら設定している。しかし実際にはそのような“飽き”など全く、微塵も感じさせられることはない。
そういった部分を頭のすみに置いて読み進めていってもらえれば、作者 望月三起也の漫画家としての力量が嫌というほど認知できるのではないだろうか。

さて、遅くなったがこの辺で簡単なアウトラインなど、紹介しておこう。
週に一度巡って来る金曜日、極悪不良少年少女を狩り集める灰色馬車と呼ばれる護送車の如きワゴン車があった。捕獲された不良たちが行き着く先は非行少年艦『海の檻』――。それは出航時の3分の1は更正教育と言う名の訓練と体罰により、その命を海の底へ沈めるという洋上の少年院。無実の罪で連行された四葉真記ことマックと艦内で交流をしたためたその仲間たちは、残忍な看守(艦守)と反マック派との戦いの中、遂にグループは行動を起こし、銃器を集め艦の乗っ取りを決行する。そんな中この非行艦に隠された真相が炙り出され・・・・ 思いもせぬ国家を相手に死の戦いを余儀なくされる少年たち。生き残ることは出来るのか・・・・

しかしこの『四つ葉のマック』、少年誌連載とは思えぬほど凄惨なバイオレンス描写のあるエンターテイメント。当時の少年画報社の心意気が感じられる。今ならば、さて、どこまで描写、連載が可能だろうか? と考えてしまう。
望月先生というか、少年画報社というか、両者のチャレンジ精神には拍手を送るしかない。
その心意気が前代未聞となるスーパー・バイオレンス・エンターテイメントを完成させたと言ってもいい。

作風で私が気がついたことと言えば、まずはその出だしの展開。
いや、そんな大層なことじゃないが(苦笑)、各々登場人物たちの名前がないまま物語は転がり始めるのだ。単行本で言えば第一巻の半ばほどで初めてそこそこ登場人物たちの名前が出揃う。最初に判明したのが最後までマックと生死を共にすることとなるワイルド7のヘボピー然とした脇役「ルル三条」で、これほど登場人物、それも主人公の名前さえ未公開のままストーリーが展開するなど、これまた前代未聞ではないだろうか。
次に「ふきだし」だ。
それまでひょうたん型の丸いふきだしが望月漫画の定番だったのだが、ここではひょうたんのクビレ部分のない四角型のふきだしが使われている。連載当初こそ従来のひょうたん型を見て取れるが、連載3回目ほどからまったく見掛けることはない。
この四角型のふきだしで統一した経緯(いきさつ)は、何だったのだろうか。
まァ、どうでもいいことなんだけど、 ・・・・気になる(笑)。

またこの作品には、小粋なセリフ、キメのセリフが網羅されている。一部を抜粋してみよう。
「こんな痛い思いはしたくない、逃げたいよ・・・・ けど、ここで逃げたら人間失格、男は一生に一度や二度、損得抜きでつっぱり通さなきゃなんない時がある」
う~~ん、感じるねぇ。
「理想のない生き方なんて死者といっしょだ!!」
う・・・ イタイねぇ。
「いじめを黙って見ていて、“俺たちはいじめてない”と言うのは、一番ずるいいじめだ」
そうだよねぇ。
「壊れた茶碗、いつまで眺めてもくっついて元に戻りゃしない。壊れた欠片をどう生かして使うかに頭を使う」
教えてくれるなァ。

教育の時事に物言ったようなこんなセリフもある。
「髪型なんて人の顔型で似合ったりするもので、他人様が決めるものじゃない」
そりゃそうだ。
「勉強ができることと頭の良さは別」
そうだ、そうだ。言って言って(笑)。
「親の育て方が悪かったという見本はあるが、てめぇの育ち方の悪かったのを親のせいにするな」
逆説的なこんなセリフも・・・・
「オトナがまともじゃなけりゃ、子供がまともに育つ訳がない」

先生得意の韻を踏んだものや洒落っ気たっぷりなセリフも・・・・
「無事か」
「生まれつき丈夫で盲腸もしっかり持ってる。怪我はマキロン吹きつけときゃ治る」
「ぼかァ、サビオの大判三枚ほど」

直後に銃撃・・・・
「サビオの大判じゃもう間に合わねぇ・・・・」

巧いねぇ。
「得になる方にベタベタくっつきやがって、出来の悪いバンソーコーだ」
薬箱シリーズかね(笑)。
「ものには順ってものがある。鼻かんだあとの紙で尻は拭けるが、尻拭いたあと鼻はかめまいが」
絶対嫌だ。
「グラマーは女にとってデブ、男が喜ぶだけ」
確かに・・・・ (苦笑)

セリフだけの抜粋で、状況を読むことができず理解は難しいかもしれないが、この他にも物語展開上に於ける名セリフが多くあり、みなさんもそういった自分好みのセリフを探してみてはいかがだろうか。

最終的に物語はひとり、またひとりと命を落とし、密室という空間に於ける発想を転換した『アラモの戦い』の様相を呈していく。
心やさしい少年マックを通じて、真の勇気とは何か、真の男とはを問い続ける・・・・

この体勢から重機を片手で投げ渡す? む、無理っす(笑)

この体勢から重機を片手で投げ渡す? む、無理っす(笑)



さて最後にここのところお決まり(?)の「重箱のスミをつつく」=「重スミ」だが、先生は苦笑いをしてくださっているのだろうか?
などと殊勝な気持ちも持ちつつ突っ込んでみたい(笑)。
ときには死なせることもあるっていう『赤玉』って武器はどんなヤツなんだろ?二度ほど使用される寸前までいったが結局使われじまい・・・・ き、気になるンですけど。

そもそもどうやってヌシの操る大型のバイクや銃器、燃料を持ち込んでいるのか?艦内備品を少しづつ横領しているなんて推察はできるが、バイクはチョロまかせないんじゃない、二台もあるっていうし・・・・

この非行少年刑務艦の第一期収容者「イの1号」って、いったい何年この刑務艦に拘束されているんだろう?
当初『33年』と紹介され、次の機会では『10年』・・・・ 三度目は『30年』だって(笑)。
こりゃ多分、誤植かなァ(笑)。

・・・・なんてね、まァ細かいことよりエンターテイメント。
この作品もしっかり、たっぷり、楽しませてくれます。ファンなら必読の一作。

                             2011年2月 アスカ(JUN)記
 

―― 追 ――
その昔、スパルタ教育や他、色々な意味で問題、話題となった私設更正施設『戸塚ヨットスクール』を想起したのは私だけなんだろうか?

『四つ葉のマック』
1983年  少年KING(少年画報社)
     1月28日号(No2)~1984年8月24日号(No16)連載

1983年~ ヒットコミックス(少年画報社)全7巻



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望月先生のコメント
【望月三起也先生より】
現実は変えようがない、仕方がないと現実の事件に腹を立てるのが私ら。
かと言って明日から警官になって不良どもを取り締まるってのは現実的じゃないよね。 そういうとき、鬱憤晴らすのが漫画、これぞ本道。みたいなもんでしょうね。
こんな少年院があったら不良、つまり社会のゴミだから毎週一回、ゴミの収集日があっていいってのが、そもそもの思いつき。
連れてった先が艦(船)、その中での話。

大変なのは背景の変化が乏しいってこと。
その中で人間ドラマだけで見せていくのは結構つらいはずなんですが、ノリのいい時期だったんで、そこはコマ割りの変化で切り抜け、結構長い話になっちまいました。

今、読み返せば人物の個性がそれぞれ描き分けが出来てたところがおもしろかったんだと、読者の目でみて思いますね。

絵に関しては、いいスタッフがいたんだなァ、と。
拳銃の重量感、しっかり出してるところがいいなんて、他人事(ひとごと)みたいですが、冷たい話だけに、とぼけたマックの明るさが、より光って見えたら成功なんですが。



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  • 山梨の稲妻 :
    こんにちは山梨の稲妻です。今回は四つ葉のマックですかこれまたなっかしいですね。リアルタイムに読んでいた作品ですね。でもどうやってバイクと燃料と銃器を持ち込んだんですかね。(疑問その一)でも舞台設定の刑務艦はTRPGゲームの舞台設定につかえますねえ。それともメタルギアみたいな潜入型のアクションゲームですかね。

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