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作品紹介

第35回

へい、お町!!

執筆者:   2011 年 8 月 7 日

蕎麦屋を舞台に繰り広げられる人情喜劇。と思いきや、とんでもないドタバタコメディの幕開けだった快作。破天荒な展開に読者もドタバタ、主演が「狸奴」だけに上手く莫迦された。ってか。

私が幸せを感じる時…、それは蕎麦(そば)を食べる時ですね。

それも、よく冷えた腰のある、のど越しのいい手打ちのざる蕎麦を一気に食べる時ですね。
そんな読んで気分が良くなる、のど越しのいい漫画をこれからご紹介したいと思います。





と、その前に…、まず「ワイルド7」最終章
「魔像の十字路」のひとコマをご覧下さい。

飛葉ちゃんが、蕎麦屋で狸蕎麦を食べているシーンですが、そば屋の女将と厨房の男性の顔をよ~く見て下さい…、なっ、なんと!これから紹介しようと思っていた小学館ビッグコミックに連載の下町人情コメディ「へい、お町!」の主人公の狸奴とお町さんじゃないですか…!!

これまで「ワイルド7」もどきが他の望月漫画(うるとらSHE等)に登場した事は、過去に何度かありましたが、「ワイルド7」に他の漫画のキャラクターが登場した事(しかも他の出版社の物)は、私の記憶ではこれまで一度もなかったような気がするのですが…。

それに飛葉ちゃんは、私の記憶ではたしか「うどん派」?だったように思うのですが、いつから「そば派」に
なったのでしょうか????理由が気になります…。

前作「ごくろう3」の連載が終わり、ファンは早くも次の望月作品はどんな内容か楽しみにしていたと思います。当時のビッグコミックに掲載された次号予告によると、どうやら新作は東京の下町が舞台の人情痛快ギャグ・
コメディのようです。

連載は小学館「ビッグコミック」昭和50年12月10日号~昭和52年8月25日号。

(ちなみに「ワイルド7最終章「魔像の十字路」連載開始は少年キング昭和52年10月17日号から)つまり
「へい、お町!」は「ワイルド7」の最終章開始の約2ヶ月前に連載終了していた事になり、これが最初で
最後のコラボレーションだったのかもしれませんね。)



さて、お話の舞台となるのは赤坂の老舗蕎麦処「節忠庵」。東京の下町らしい江戸情緒をふんだんに
感じさせる静かなたたず佇まいです。ちなみに一番左が初代店舗です。



真ん中がアラビア風の店舗になった二代目「節忠庵」、一番右が三代目「節忠庵」です。
どうして三回も店舗が変わったかって?それがアナタ聞くも涙語るも涙の苦労話があるんザンスョ。

しいてヒントを言うと「ウズラの卵」が原因かな?それ以上言うと話が長くなるのでこれくらいにして、真相は
いつか単行本が発行になった時にその目で確認してみて下さい。そういえば三代目の外見が「ワイルド7」の
「セブンレーラー」そっくりですね。その中身は最先端のコンピューター内蔵の移動式指令室!…って嘘です。
ただの移動式蕎麦屋です。その代わり神出鬼没、縦横無尽に全国津々浦々どこにでも出前に走り回ります。
蕎麦好きの人の為なら、たとえ火の中水の中、時には競馬場の中にでも…、ってそんな馬鹿な!!

とにかく、抱腹絶頂!殺伐した現代社会を鋭く風刺して、読む者の心を釘づけにする下町痛快人情ギャグ・
コメディ!それがこの「へい、お町!!」なのです。・・・さて、それでは登場人物の紹介です。

【メインキャラクター】

この漫画の主人公「お町」。赤坂の老舗そば屋の「節中庵」の二代目。器量良し、スタイルも抜群。毎日テレビ局や雑誌社が取材に来るほどの引きてあまた数多の江戸小町の女将。一見古風だが、実は見た目に似合わず革新的な考えの持ち主。

「狸奴」、先代から仕え「節忠庵」の味を守り続けている昔ながらのそば職人。そばは打ち立て、湯がき立てでないと食べさせない信念の持ち主で、出前は一切しないという頑固一徹の江戸っ子。そして…狂がつくほどのサッカーファン。サッカーの試合となると仕事そっちのけで駆けつける程の熱くなるタイプ(あれ?何処かで聞いた事のある、・・あの有名な方とそっくりの性格のようですね?(苦笑))

「狸奴」の一人娘「トモ子」。現役高校生。学業そっちのけで色々な事に首を突っ込むお転婆な現代っ子。
途中から出番が一切なくなったのがちょっぴり残念でした。

【その他の登場人物等】

「節忠庵」の床の間に飾ってある先代の遺影。
どこかで見たようなこの顔は「ごくろう3」の「ローリーばあさん」と顔が瓜二つですね。もしかして双子の姉妹?


高利貸しの吉良じいさん。毎回厄介事を・・背負ってくる困ったじいさん、とにかく金に細かい。
顔の造りが、ワイルド7第7話「灰の砦」に登場する松田乱風にどこか似ています。


「節忠庵」再建の為にしばらく働く事になった同業の「四庵橋」の女将。

事あるごとにお町達をいびりまくる、TVドラマなどでよくいる、いじめキャラ。





中東石油産出国の大使館の方々。蕎麦が好きなのは、万国共通なのですね。


謎の猿軍団。
一見遊園地のようなのどかな光景に見えますが、実は人間顔負けの荒技をやった直後のシーンです。


下町純情コメディなのに、なぜかウェポンがたびたび登場、はたしてその理由は…?(笑)


〔日本の治安を日々守る警察官の皆さん〕昼に夜に寝る間も惜しんで命がけでパトロールをされています…?!(この警察官たちの姿などが次回作「Oh!刑事パイ」へと続きます。)


四代目「節忠庵」…。とうとう夜の埠頭で流す屋台になってしまいました…。
その屋台の客、太鼓持ちに大工に占い師。一見ただの普通の客達ですが、実は…!!という落ちです。


この辺は落語というか、ショート・ショートに通じるブラックユーモアです。

どこにでもいそうな下町の主婦。しかし、その正体は…!!聞いてびっくり見てびっくり…。
最後は最終回に登場したキャバレーの客引き…。
あれ、この顔は…、「ワイルド7」の「草波」じゃないですか?
もしかして極秘潜入捜査中だったりして…。(笑)




お色気シーンもちょっぴりあります。お町さんの珍しい水着姿のサービスカット&サッカーウェア&太腿チラリズム、トモ子も負けじと水着姿を披露します。


その他、お町さんの太モモを見る会の面々?などなど…個性的なキャラクターのオンパレードで、毎回
下町を舞台にほのぼのとしたゆる~い一騒動が毎回起きます。前半までは…

しか~し、それじゃ望月漫画じゃないと思っているそこのアナタ、そう、その通りアナタの読みは正しい!!
回を重ねるうちに段々脱線していくのが望月漫画のセオリーです。後半少しづつ騒動が大きくなり、ついには
町内から飛び出して、しまいには国際問題にまで発展する始末…。このドタバタの結末ははたしてどうなる事
やら…?

ここでまた残念なお知らせが…、ビッグコミック連載終了後「へい、お町!!」は一度も単行本化されておらず、
現在読みたくても読む事が出来ない状態なのです。嫌な事件ばかり起きている世知辛い今こそ、日本情緒を
ふんだんに取り入れながらも痛烈な社会風刺で現代社会に問題提議をする本作を一人でも多くの望月ファンの方、いやそうでない方にもぜひ読んでもらいたい!!
ここは是非とも単行本化して欲しいものです毎度の事ながら各出版社さん宜しくお願いします!

…追伸
本誌で最終回を迎えたその後、彼らがどうなったのかというと、実に興味深い作品がありまして・・・
それは「ビッグゴールド1993年4月号」掲載の「佃島トラベル」という作品なのですが、登場人物の台詞の中に「節忠庵」という言葉が…。顔をよく見てみたら…これはもしかして、「狸奴」と娘の「トモ子」? どうやら「へい、お町!!」から15年後のお話のようで、舞台は、赤坂から佃島に移ったようです。事務所の内装をよ~く見ると、あきらかに蕎麦屋ですが、どうやら蕎麦屋から旅行会社に鞍替えしたようですね?タイトルも「トラベル」と「トラブル」の一字違い、これまた何かが起こりそうなお話のようですね。
こちらの話もこれまで単行本に収録された事がないので、「へい、お町!!」の単行本発刊時には合わせて収録してもらいたいものです。






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望月先生のコメント
【望月三起也先生より】
ワイルド7の飛葉はウドン派だったのに、いつからソバ派になったのかな?
なんてツッコミを入れてくる深いファン、恐れ入ります。
有難い反面、油断できない。なんたって思いつきで面白いだろうと思ったら、そっちへストーリーを持って行くのが私の方針というか、実は勝手に話がひとり歩きしているだけなんですけど、他タイトルの漫画に別キャラクター登場させるって、なんかゲストみたいで楽しいよねってくらいのもんですが、自分のものだけではなく、かつては秘密探偵JAで水島新司先生にもコラボで登場、4ページも描いてもらったこともある。
多分いまだにそういったことギョーカイではないと思うんですが、つまりイタズラ好きなんです、私ってものは。
ですからワイルド7そのものも他の作家さんたちに描いてもらうって企画、即OK。面白がって一ファンとして楽しむ側に廻るんですねぇ。
それはヤングキング(少年画報社)で昨年やりましたから御存知の方も。
これに私の描く分50ページ描き下ろしを追加して、今年の12月か来年1月に別冊として出版予定。
このアイデアにはウドンやソバ、さらにスパゲティと麺ものを、さらにさらにバージョンアップして楽しみます。
期待してください。

で、肝心の『へい、お町!!』ですが、タイトルも「へい、お待ち!!」と客の前に出す掛け声を洒落てみたってのは、すぐに判りますよね。
なんたってダジャレ好きなんで、今はおやじギャグとか言われて肩身の狭い思いをしているようですが、なんの、ダジャレは日本の誇る文化ですぞ、バカにしちゃいけない。日本語のボキャブラリーの豊かさがあって始めて可能なんですから。
シェークスピアだって“死ぬべきか生きるべきか”とか、舌ざわりの良い言葉を並べても、英語じゃダジャレはできないでしょ。
と言ったら文学ファンに怒られるか。
そこへいくと漫画ファンはダジャレすら楽しんでくれるところが嬉しい。

この一編もそんな私の私生活、夢、みたいなもの・・・・・ 日記かもね。
ソバ好き、サッカー好き、そのまんま『狸奴』は私自身。

こういう作品はアイデアを考えるということがない、勝手にペンが走る。アタマ抱えてアイデアに苦しむってことがゼロ。
ダジャレも同様、実に描いていて楽しい漫画だった。

私の中ではビッグコミックでのこの一連のお色気ギャグ路線、描かせてもらえたのは幸せ、担当さん、よく勝ってをやらせてくれました。
ワイルド7とはまったく違った分野と自分では分けて描いていました。
それだけに、気持ちよく楽しめたなァというところ。

実は単行本化したくとも、この原稿、行方不明なのです。
私もぜひ単行本として纏めたいのですが、残念。



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