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望月マニ也

第50回

最高・最強のバイク乗りマンガ「ワイルド7」!

執筆者:   2012 年 5 月 7 日

漫画ファン、アクション派だけじゃない、バイク好きのバイブルとまで言われる本格バイク漫画のハシリ『ワイルド7』。
その一部をバイク好きの眼から語ってくれます。

今回はバイク経験者の立場から「バイク乗りマンガとしてのワイルド7」についてアレコレ語ってみたいと思います。
wild_iconバイクに乗る緊張感を凝縮した「手袋をギュッ」のポーズ

手袋をギュッ!(神奈川県警ポスター/魔像の十字路)

手袋をギュッ!(神奈川県警ポスター/魔像の十字路)



私がこの「月刊望月三起也」にやって来るきっかけは、先生が2008年に描かれた神奈川県警職員募集ポスターでした。街で見かけた瞬間に「あぁ!これは望月三起也の絵だ」とビビッと来ました。
この「ビビ」と来た理由は、独特の絵のタッチと、そして、この「手袋をギュッ」とやるポーズです。
「手袋をギュッ」は、バイク経験者の方ならお分かりになると思いますが、バイク乗りが一番緊張する、気持ちが入る瞬間なんですね。
50ccのスーパーカブと、1,700ccで車重300キロ超のVMAX。
車格が全く違う両車ですが、家を出て最初の曲がり角でクルマと出合い頭で衝突したら、どちらも即死する可能性があると言う点では、まったく同じです(VMAXの方が車重がある分、危険かも)。
バイクに乗るということは、それだけで命に関わる危険な行為です。
ヘルメットを被り、あごひもを締め、手袋をギュッ。その後、セルなりキックなりでエンジンを始動させたらもう「あちらの世界」入りなので、この「ギュッ」が日常世界から非日常世界へスイッチする瞬間なのだと思います。
先生の絵は、この瞬間を的確に捉えたもので、「常に危険と隣り合わせ」というバイクの宿命を感じさせる素晴らしいものだと思います。
まして、ポスターの白バイ隊員も飛葉もバイクに乗るのは「任務」ですから、「危険」のレベルが違います。キモチの入り方も違うでしょう。「出動!」という緊張感を十分に感じさせてくれる絵です。

wild_icon「無念無想」・・・猟犬の走りの境地
「黄金の新幹線」の終盤、飛葉が小針社長邸に向って首都高(恐らく)を走行するシーンがあります。
ピンチのユキ、逃亡する小針社長・・・読者の気持ちが高まるばかりの展開なのに、3ページに渡って描かれるこのシーンで、飛葉は何の言葉も発さず、まったく無表情です。

猟犬の「走り」(黄金の新幹線)

猟犬の「走り」(黄金の新幹線)



高速の出口を下りるナナハンは、読者に向かって飛び出して来るような勢いを感じます。そして、飛葉のクールな表情が最高にカッコイイ!
アセる読者に対してクールな表情の飛葉。この対比のさせ方、実に心憎い演出ですね。
この飛葉の「走り」は、まるで獲物に向かっていく猟犬のようです。
「無念無想」の、猟犬の境地。
これこそバイク乗りが感じる、究極の「走りの境地」だと思います。
前方の視界がどんどん狭まるけれども、周囲すべてが「見えて」いる気がし、音も風圧も振動も感じなくなる、「無念無想」の感覚。バイク走行の最大の魅力…。
このシーンは、そんなバイク乗りの境地を見事に表した「ワイルド7」屈指の名シーンだと思います。

wild_iconバイクと仲間(同志)たち
バイクは本質的に孤独でパーソナルな乗り物ですが、だからこそ同好の「仲間」との精神的な結びつきは強くなるもの。バイクと「仲間」は切っても切れないものです。


いまいくぜ!(バイク騎士事件)

ヘボピー、いまいくぜ!(バイク騎士事件)



「バイク騎士事件」の終盤で、ヘボピー救出に向かう飛葉たちが激走するシーンがあります。
草波にバッジを叩き返しての集団行動ですが、これは「バイク&仲間」を感じさせる最高のシーンのひとつですね。
同時にこれは、ワイルド7が、草波が集めた「ならず者傭兵部隊」から、飛葉を中心とする「悪党と戦う同志集団」に変貌した重要な瞬間でもあります。

wild_icon乗り物であり、武器であり、チームの象徴でもあるバイク
ヘボピーの最後のセリフ「バイクの上で死なせてくれ〜ッ」は、本当に心に響きますね。何度読んでもこのシーンでは涙を我慢できません。

乗せてくれ!(魔像の十字路)

乗せてくれ!(魔像の十字路)



この「任務を全うしてバイクの上で死にたい」というヘボピーの言葉は、「ワイルド7にとってバイクとは何か?」を考えさせてくれます。
「谷間のユリは鐘に散る」の飛葉のセリフで「侍は馬上で死ぬことこそ ほまれだったそうだが…ワイルド7もおなじことが いえるんじゃねえかな…」「ワイルドの死にざまはバイクの上だっ!!」というものがあります。
侍にとっての、あるいはカウボーイにとっての馬。それがワイルド7にとってのバイクだったのでしょう。
ワイルド7にとってバイクは、乗り物であり、武器でもあり、チームの象徴でもありました。
先ほどのヘボピーのセリフの後、5台のバイクで炎の壁に向かってダイブするわけですが、発進直前、5台がアクセルを吹かすシーンが最高ですね!

バウ!バウ!バウ!(魔像の十字路)

バウ!バウ!バウ!(魔像の十字路)



このページ、完璧なレイアウトにも感心しますが、最終章の終盤に来て「バイク乗りのマンガ」らしさを再度描いてくれたことが、何よりも嬉しいです(飛葉ちゃんのバイクがCB750に戻ったことも嬉しかったです)。
wild_icon「バイクでデート」は男子の(永遠の)夢!
「誘拐の掟」冒頭の、飛葉とイコの「横浜〜多摩川デート」のエピソードは微笑ましくて実にイイですね。2人を追跡して世話焼きをするオヤブンと両国のペアも、とても良い味を出していました。

飛葉とイコのナナハンデート(誘拐の掟)

飛葉とイコのナナハンデート(誘拐の掟)



「バイクに乗りたい!」と思う男の子の心には、(外面では硬派を装っていても)「(実は)女の子とのデートにも使いたい…」という願望が少なからず含まれているはずです。
この飛葉とイコの2人乗りのコマは人物が白い影になっているので、読者はそこに自分と好きな娘を自在に投影することができ、あれこれ妄想に浸れるのが楽しいです。
ドリームCB750、ノーヘル、女性の横座り…時代を感じさせ、懐かしい気分に浸れるシーンですね。
「バイクで女性とデート」と言えば、「谷間のユリは鐘に散る」でのエメロンちゃんとのシーンも忘れられません。

wild_iconバイクのメカニズム、特性への理解
望月先生は吉田竜夫さんに師事していた時代にすでにバイクに乗っておられ、その経験を作品のバイクシーンに活かしていたそうですが、「ワイルド7」でのバイクのメカニズム描写にも、その豊富なバイク経験を感じることができます。

スロットルワイヤー(野性の七人)/2気筒エンジン(緑の墓)

スロットルワイヤー(野性の七人)/2気筒エンジン(緑の墓)



「野性の七人」での飛葉の入団テストで、スロットルワイヤーを直接手で操作してトラブルから脱するシーンがあります。冒頭の金塊強盗とのバトルでは「バイクはバックできない」という局面が、「誘拐の掟」では「右手首が使えない状態で、バイクをどのようにして操るか?」という局面が設定されます。
いずれもバイクのメカニズムや「特性」(弱点)を知っていたからこそ描くことができた名シーンだと思います。
バイクのメカニズムに関して強く印象に刻まれているのが、オヤブンのバイク(スズキ・ハスラー)が「2気筒エンジンを搭載している」という設定です。
オヤブンのハスラーのオリジナルは250ccの単気筒ですが、「野性の七人」(1969年)での登場時から2気筒で描かれており、別冊キングの解説によると「500ccの2気筒」なのだそうです。
飛葉のナナハンに付いていくには200キロ以上出す必要があるでしょうから、最高速アップのために、この改造が必要だったのでしょう。
国内初の本格的なオフロードバイクであるヤマハDT-1が登場したのは1968年。それまでは通常のバイクにアップマフラーを取り付けただけの「スクランブラー」しかなく、軽量でトルクフルな2サイクル単気筒エンジンを搭載、専用の軽量フレーム、アップマフラーを装備したDT-1は本当に画期的でした。
そんなオフロードバイクの黎明期に、今日のビッグオフローダーやモタードに繋がるような(イメージは「KTM」か?)、オンロード性能を重視した大排気量・2気筒エンジンの搭載を考えてしまう先生の先見性には驚くばかりです。
それにしても、現代の眼で見るととても小さなハスラーに500ccエンジンとは、オヤブンのバイクは凄まじいジャジャ馬だったと思います。これを乗りこなすには相当なテクニックと体力、そして度胸が必要だったことでしょう。

wild_iconリアルなライディング描写
バイクは乗り手と一体化して初めて成立するメカニズムなので、バイクの「走り」をリアルに描くには、バイクだけでなく乗り手のライディング・フォームもきちんと描く必要があります。
「野性の七人」のハイウェイ追撃戦での、飛葉の車上射撃シーン。「谷間のユリは鐘に散る」におけるユキのドゥカティでの追撃シーン。

腰を浮かせて(谷間のユリは鐘に散る)/崖を駆け登る(運命の七星)

腰を浮かせて(谷間のユリは鐘に散る)/崖を駆け登る(運命の七星)



いずれも腰を浮かせていますが、これは重心を下げてバイクを安定させ、下半身全体で路面からのショックを吸収している様子を表現しています。
ユキは後ろに身体を反らせていますが、車体前部に装備した対戦車ライフルによってバイクが相当なフロントヘビーになっているためなのかなぁ?などと想像をかき立ててくれます(単純に「ポーズ」として見ても大変美しいです!)。
「運命の七星」での、飛葉がBMWで急な崖を駆け登るシーン。
上体をバイクの上に立てるような飛葉のライディング・ポジションがリアルです。
このような急坂を登る時に身体が落ちてハンドルにしがみつく形になると、意図せずアクセルを開けてしまうことになり、バイクはバク転して大変なことになってしまいます。この後、追跡者がこの状況に陥ってしまいます。
飛葉には女の子が同乗してハンディが与えられているところ、そして敵対していた女の子が飛葉のライディングに心酔して惚れてしまうところも素晴らしい演出だと思います。円を描いて宙に舞う草も効果的な表現ですね。

wild_icon「バイク族」と「暴走族」
1970〜80年代、「暴走族」と名付けられた集団暴走行為が大きな社会問題となりました。
その影響は多くの善良なバイク乗りにも及び、バイク乗り全体が世間から白い目で見られ、学生の免許取得の制限やバイクの様々な規制の名目に「暴走族」という言葉が頻繁に使われました。
そのため、当時のバイク乗りは「暴走族」という言葉(レッテル)にはとても敏感です。
「ワイルド7」の「熱砂の帝王」に登場するバイク軍団は「バイク族」、「サムライ教師ボギー」などに出て来るニッポンのゾクは「暴走族」・・・と、望月作品においては、これがきちんと使い分けられています。
「この人もバイク乗りなんだ!」と「仲間意識」を感じ、とても嬉しくなったものです。

wild_icon「バイク」のすべてがある!
以上見てきたことの結論としては、「ワイルド7」は最高・最強のバイク乗りマンガであり、「バイク」に関するすべてがある…そのようになると思います。
いずれも、バイクに実際に乗って体験し、本質を深く理解していないと描けない内容ばかりです。
映画「ワイルド7」では、隊員役の役者さんは「大型バイクの免許所持者」であることが必須条件だったそうです。
このコダワリには、バイク乗りの大先輩である原作者・望月先生への畏敬の念が感じられます。この作品、原作と同様、必ず最高のバイク乗り映画になってくれることでしょう!
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お待ちしております。
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望月先生のコメント

まァまァ、なんとも細部にまで眼を配って見てくれていること。描き手としては油断できない読者だこと。
ぐりゅーん・へるつさんのような読者にも納得してもらえるってのは嬉しいけど、疲れるんですよ。その疲れがまた心地よい、スポーツやったあとの疲労感にも通じるンですがね・・・・・

その一 ポスター
あの神奈川県警のポスターは、実際県警の白バイ隊員の方にポーズをとってもらって写真撮影したものを元に、イラストに仕上げたもの。ポーズにはこだわって50パターン以上撮ったかなァ。
一番やりたかったポーズ、本当は拳銃を構えた白バイ警官!!って案だったのですよ。
県警の方々も「それが一番かっこいいよね!」って、盛り上がったのですが、実際そういうポスターを仕上げたら、アタマの固い上司の方々がボツにする可能性がでかいよねってことでキャンセル。で、次はこれ!っていうのが、手袋ギュッのキメポーズとなったわけ。

さて、そのポスター完成し、各駅、ポイントに配布、貼られました。
とても反響があったそうで、その中でもおもしろかったのが、「望月三起也のパクリだ!!」ってクレームが県警に来たって話、笑っちゃいます。
私の名前は入れてあったのですが、あまりにも小さくて見落としたんでしょぷね、クレームをつけた方。
でも嬉しいですよ、私の味方なんですから。

その二 カウボーイにとっての馬
そうなんです、バイク好きにとっては、愛馬=愛車なんですねぇ。
クルマではない魅力、同じ座るでも“跨る”馬なんです。だから馬に乗るカウボーイを表す「ライダー」という言葉がバイク乗りにも使われてきたんですねぇ。
ですから、ワイルド7のメンバーたちは愛車にこだわり、死ぬときは一緒・・・・・ じゃないけど、愛馬と共に!って思いがあるわけ。
西部劇好きの私としては、はみ出し者のテキサスレンジャース、または騎兵隊ってのがワイルド7なんですね。

その三 バイクの構造
すごく詳しいように思われていますが、それほどのもんじゃない。好奇心からスターター分解、エンジンの掃除したりと、バラして組み立てて、その後なぜかナットがひとつ残ってたりして、という、いい加減なメカ好きですから。
まァ、それがネタにもなる。この部分をこう改造したら・・・・・ と、ちょっとリアル感、説得にもなるわけで、デタラメとの違いですね。実車で排気量を変えるのは大変、でも絵の上では簡単改造です。
拳銃も同じで、型は同じでも弾丸の大きさ変えることで、迫力が違って見せられることで、22口径のウッズマンも38口径改造バージョンなのです。

生の体験を生かすってのも時に褒めてもらえるようで、急坂を登るときの姿勢、前のめりになりほとんど立ち乗り状態。これは以前にも書いていますが、HONDA400ccのバイクで崖を登ったとき、理想の姿勢がとれず背後へコケてしまったその体験から、より前傾姿勢とるのがベストと、絵の上では描いているってわけ。

まァ、そういうわけで、作者の体験を生かすと言えばカッコ良く聞こえますが、作者のボケを作中の主人公等がカバーしているといった方が正しいですね。



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コメント/トラックバック

  • sillazman :
    私も県警のポスターを見て、こちらに来たクチです。

    実は、ポスターの話題、昨年の赤レンガでの交通安全キャンペーンの時にも出ました。その時は、実際にモデルになられた警察官の方もお見えになられて、撮影時の苦労話などを交えてお話されました。具体的には、俯瞰のアングルが取れないので、バイクを台の上に載せて、地面すれすれから撮影したそうです。

    それでも、さすがに初めのアイデアが拳銃を構えているところだったというのは、イベントの内容を考慮されてのことか、話してはおりませんでした。

    年明けから、幾度かのトークイベントにも馳せ参じておりますが、TPOのみならず裏方の方々にまで、配慮の行き届いた先生の粋なトークに改めてファンで良かったと思う、今日この頃です。
  • 映画-アニメ,ガジェットをマニアへ(海外情報含む)紹介|(nOObs) :
    神奈川県警察の「ワイルド7」採用ポスターの制作秘話が・・・

    2008年7月に
    「神奈川県警の採用ポスターは「ワイルド7」だぜぇ」で紹介した あの神奈川県警察の「ワイルド7」採用ポスターの制作秘話が明かされた!?

    本当は別バージョンのア...

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