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作品紹介

第37回

ワイルド7「首にロープ」

執筆者:   2011 年 11 月 8 日

「ワイルド7」の中でも特にサスペンス色の強い人気のエピソード。作品に散りばめられたさまざまな魅力をひとつずつ紐解いていきましょう

シリーズ中期の佳作、「ワイルド7」第10話「首にロープ」。
前作第9話「緑の墓」が「要塞(緑の墓)」という、閉ざされた空間を舞台にした壮大な一大スペクタクル巨編だった為、一見見劣りしてしまいそうですが、サスペンスドラマタッチで進んでいくストーリー展開は、今までのワイルド7と少し違う魅力です。
今回「ワイルド7」に与えられた指令は、謎のカルト集団「シシ座一味」の処刑。ところが、「シシ座一味」を陰で操る謎の黒幕の存在が浮上し不気味に「ワイルド7」に迫る。
連載当時、毎回息つけぬ展開の連続で、ハラハラしながら読んでいた記憶があります。はたして、飛葉達ワイルドのメンバーは、謎の黒幕の正体を突き止めて見事「シシ座一味」を退治することが出来るのか…?

飛葉を始めワイルド7メンバーのバイクアクション等も随所にちりばめられ、さらに望月先生お約束の「ミリタリー・ウエポン」類もさりげなく大勢登場します。
今回は「ワイルド7」をまだ読んだ事がない人にも十分楽しめる内容になっています。
私個人的には、「ユキ」の見せ場が少なかったのがちょっと残念でしたが…。(苦笑)

さて、それでは作品に登場するミリタリー・ウエポン類の解説を中心に話を進めてまいります。ここではその触りの部分だけをさらっと紹介いたしますので申し訳ありませんが、詳しい内容をお知りになられたい方は、ご自分で文庫本等で確認していただきたいと思います。
ぶんか社文庫なら書店で注文すれば簡単に手に入ります。もしくはネットオークションなどで…。

さて、まず一番バッターは、実は今回のエピソードの影の主役ではないのか?と言っても過言ではない「新型セブンレーラー」です。それまで登場していた「セブンレーラー」は、単なる草波隊長の移動式指令室という感じの位置付でしたが、今回は2号、3号、4号と3台も登場し、それぞれしっかり見せ場があります。(まるでサンダーバードみたい! 若いファン、サンダーバード知らない?)
あくまで私の勘ですが、これだけ登場した理由として考えられるのは、当時某プラモデルメーカーから「セブンレーラー」や「ワイルド7」メンバーのプラモデルが数種類発売されていた事が関係しているのではないかと思われます。鉄球を装備したタイプ(浅間山荘事件がヒントか?)やカノン砲を装備したタイプ(ドイツの88mm砲?)等、バラエティーに富んでいました。今回の新作映画でもセブンレーラーが登場しています。かなり本格的な迫力のあるアクションが売りですので、どういう活躍をするか今から楽しみです。
続いては、冒頭のシーンで出てくる「シシ座一味」のバイク。このバイク、画像をご覧いただくとおわかりになる通り、ハンドルの部分が、弓の弦をハンドルとして使うという奇抜なアイデアで、これは望月先生お得意のものですね。実際に実車が作れそうな感じのバイクです…。あっ、でもアクセルとかブレーキとかどうするんだろう…?(苦笑)こまかいことは気にしない。

そして極めつけは、「ジェネラル・グラント戦車」。アメリカ軍が第二次世界大戦中の初期に製造した「M3中戦車」(通称M3リー戦車)を「イギリス軍」用に砲塔部分を変えたもので、南北戦争時の北軍将軍ユリシーズ・S・グラントの名からとった物です。違いを見分ける方法は砲塔の後部のふくらみがあるかないか(イギリス軍仕様はその部分に通信機材を収納されている)
ところでなぜ、1972年(連載当時)の現代に第二次世界大戦(1941年~1945年)の戦車が突然登場したのかって?それは本編を見ていただければ、なるほどと納得してもらえるニヤリとする理由がちゃんとあるのですよ。
これがいかにも望月漫画らしい理由(笑)
それにしても、この辺の奇抜なアイデアには毎度の事ながら本当に脱帽します。
ちなみに望月先生はよほど、「M3リー戦車」がお好きのようで、そのいきさつを以前ぶんか社文庫「ワイルド7」12巻「地獄の神話」前編の巻末コラムにもお書きになられておられましたが、なんでもハンフリー・ボガード主演の1943年アメリカ映画「サハラ戦車隊」に登場した「M3リー戦車」がお好きだそうで、わたしも最近そのDVDを見ましたが、本物の「M3リー戦車」が登場していて迫力が違います。現在、「月刊アーマーモデリング」に望月先生が好評連載中の「バサラ戦車隊」はこの映画へのオマージュですね。(ちなみに、余談ですが、やはりその映画に感動した某監督が、自作の映画に「サハラ戦車隊」に登場した「M3リー」とまったく同じマーキングをほどこした戦車を登場させた映画があります。それは、巨匠スティーブン・スピルバーグ監督の「1941」です。DVDを両方お持ちの方は確認してみて下さい。マーキングまったく同じですから!)
ついでに、今回とほぼ同じアングルで、登場の仕方も似ているオリジナルの米軍仕様の砲塔を搭載した「M3リー戦車」が登場する望月漫画があります。それは二世部隊を主人公にした「悪一番隊」という作品です。過去に単行本にもなっておりますので、単行本両方お持ちの方は見比べてみて下さい。

続いては、話中に登場する火器について簡単にご説明いたしましょう。今回悪党側が使用する銃器も個性的な物がいくつか登場します。ベトナム戦争で米軍の正式装備「M16A1」(「爆破105」で一度登場済)。今回の登場シーンは短いながら、セミオートからフルオートへの切替えの描写と、マガジン連続装填のカッコよさが描かれています。そして連射後に発生する火薬の硝煙が見事に描写されており、これらを見てモデルガンを購入した読者もいたのではないでしょうか?(かくゆう私もその一人です(苦笑))
もう一方、イスラエル製の傑作マシンガンピストル「UZIサブマシンガン」も登場するのですが、望月漫画の中でこれほど克明に描かれているのはこれが初めてではないでしょうか?一見重たそうで使いずらく見えますが、見た目に反して意外と軽量で小回りも利く接近戦で効力を発するGunでした。(「ルパン三世 カリオストロの城」でも、「峰不二子」が迷彩服姿で、派手に撃ちまくっていましたね)。
こちらもあまりにも印象的な登場の仕方だったので、これを読んだ後にやっぱりモデルガン買っちゃいましたよ、あはは。
その他、悪党の乗る黒のビークル(フォルクスワーゲン)も第6話「灰の砦」以来の登場で、まるで生きているかのごとく巨大な口を開けてワイルドの連中を苦しめます。

ワイルドのメンバーも負けてません。もはや飛葉ちゃんの体の一部とも言える「M31ライアットショットガン」で悪党を「2発で6人」を退治します。これは「ひみつ探偵JA」の主人公「飛鳥次郎」が「雷鳴撃ち」で「4発で10人」退治するのにほぼ匹敵しますね。
「八百」の愛銃は「陸式南部(通称パパ南部)」。全長23cm口径8mm8連発。日本が作った傑作銃の一つです。前期型との違いはトリガー部分の形の違いです。八百の射撃の腕前はワイルドの中でも1、2位を争う程です。
「オヤブン」の愛銃は「コルトパイソン6インチ」。全長28.5cm口径357マグナム6連発。TVアニメ「シティーハンター」の主人公の愛銃としても有名ですが、こっちの方がそれより十数年前から愛用してたんだぜい!
「両国」は愛車のノートン・コマンド750㏄改造「ロケット弾付きサイドカー」で派手に撃ちまくってくれます。

最後に、これまで単行本化された全ての本に残念ながら未収録のページが数多く存在します。初めて「首にロープ」の単行本を買って読んだ時、何とも言えない「間」が悪い違和感をずっと感じていたのですが、つい最近その謎が解けました。扉絵兼1ページ目がまるまる欠落していた為だったのです。これがあるとの無いのでは、ストーリーの深みが全然違うのですよ。見ていただくとお分かりのように、まるでテレビキャメラのアングルから見たTVのサスペンスドラマのような始り方なのです。
いつか完全収録版が刊行される際には、是非とも収録してもらいたいものです。

もうひとつ、本編に当時のお弟子さんがお二人、とても重要な役柄で登場されておられます。今や「食漫画」の巨匠といっても過言ではない「土山しげる」先生と「北海のクマ」さんです。左が「土山先生」右が「北海のクマ」さんです。





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お待ちしております。
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望月先生のコメント
【望月三起也先生より】
困るよなァ eddy-sさん、
深読みというか、紙の裏まで読み取る眼力というか、私が狙った以上を読み取ってくれて感謝ですが、少々つらい。これだけ褒め上げられると、今そこまで描けているのだろうかと考えてしまうね。
何百何千とカラクリを考えてきて、よくまァ新しいこと次々とアイデア浮かびますねとファンに言われ、「好きで描いてますから」と答えるしかないのですよ。
コツがあるわけじゃなく、頭に浮かぶままコマワリしていくだけ、思いついたらそのまんまって・・・・・・
だから時々“穴”がある。
それも笑いながらツッ込んでくれるファンは優しいねぇ。

それにしても私の「リー戦車」大好きってところまで見抜かれてる。なんとも私って単純なんだなァと改めて認識。
さらには銃の操作、マニアックさを褒めてもらったりすると赤面の思い。自分の趣味ですから。
私ほど「趣味をそのまま仕事にしてる人はいないでしょう」と編集さんによく言われますが、その通りで、好きな趣味だから、読者により深く伝えたいンですねぇ。
読み手の方に、トリックを描けばより重く、拳銃描けばその口径に合った破壊力、マシンガンならその発射速度まで表現したくなるわけですよ。
自分が好きだからヲタクの話を聞かせたい。それが私の漫画なんでしょうねぇ。

戦車もそんな趣味のひとつですから、戦車を登場させたら、それが一般車両とどう違うか語りたいわけですよ。聞いてくださってありがとう!という気持ちですね。
うちの弟子ふたりのキャラクター登場にも触れてますが、映画スターのキャラクター使ったりするのもやはり映画マニアですから、こっちも同じく趣味。

そういえば赤レンガ倉庫前での神奈川県警安全PRイベント時に、あるファンの方から「エド・ローターも似顔として使ってませんか?」との質問、驚くね。
私、エド・ローターって脇役大好きですけど、ハッキリ言います、未使用です。
が、この名前出すこのファンの方の映画好きにも同好の士を感じ、嬉しいですねぇ。
エド・ローター、知らない? いいんです、知らなくても。マニアックな趣味ですから。




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