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望月マニ也

第54回

わが愛しのチャーシュー

執筆者:   2012 年 9 月 1 日

傑作「ワイルド7」メンバーの影のあるキャラクターか、初代ミソっかすか?・・・・・  いや、愛するファンがいれば、それはもうある意味、キャラクター冥利に尽きるのかもしれない。

■ワイルド7のメンバーの中でもっとも好きなキャラクターは?

主人公の飛葉ちゃんはもちろんのこと、仲間にしたら心強いヘボや愛嬌のある熱血漢オヤブン、男勝りながらメチャメチャグラマラス・ボディーの持ち主のユキ、知恵モノの世界、皮肉屋のテル、あるいは信頼できるリーダーの草波…いやいや、とても個性豊かで一人だけ選ぶのは難しい。
そんな中でもスタート時のメンバーで早期に殉職してしまったチャーシューを真っ先に挙げる人というのは、さすがに少ないんじゃないでしょうか?
ところがこのチャーシューという男、短期間の出演だけに実にミステリアスな存在で、とても興味深いところが多いキャラなんです。

ボクはこの謎めいた男が、昔からダントツで大好きでした。
今回は、これまであまり日の目を見なかったチャーシューにスポットを当てて、その魅力に迫ってみようと思います。

■チャーシューを語る上で一番の不思議は「ワイルド7」冒頭の衝撃的な“悪党退治”に、なぜか一人だけ参加してないということです。


もっともこのシーンでは7人描かれている箇所もあるので、ホントたまたま全てコマの外にいただけなのかもしれませんが、ワイルド7という作品の中でも象徴的な場面に全員で登場しないというのは、すごく気になります。

もしかしたら見た目の違うメンバーを後日追加するつもりでこの時点ではまだ出し惜しみとかイメージが完成してなかったのだろうか?なんて詮索もしたのですが、よく見てみると第1話では襲撃の様子を見守る草波隊長の頭の中に、既に7人のメンバーが登場してるんですよね。
どうやら当てが外れたみたい。

さらに謎の行動は続きます。
チャーシューはスナックVONにも顔を出したことがありません。

協調性のなさはメンバーたちが整列して集合する中で隊列を崩してバイクを停めたり、草波隊長の命令を一人だけ話も聞かずにそっぽを向いてるところなどからも充分うかがえます。
「コンクリートゲリラ」では話を脱線させてそれに思わず「そうそう!」なんて草波隊長まで乗っかってしまう、そんなユーモラスなシーンもあります。

どうやら、かなりマイペースでお調子者のようです。

子供の頃、どのクラスにもこういった生徒が一人や二人はいて、そういう子は必ずみんながワイワイやってるときには中心ではなく端っこの方でチョコっと顔を覗かせる感じではなかったですか?

ハイ!
彼は見事にそんな感じのようですね!

そのくせイマイチ印象が薄く、顔だって他のメンバーに比べどんな感じだったのかハッキリ覚えてないという方もいるのではないでしょうか?

ある意味、それは正解かもしれません。
大長編ロマン「ワイルド7」の中でチャーシューの登場カットは、それこそ米粒みたいな顔の表情が特定できないものまで全てひっくるめてもわずかに120コマ足らず。
それに加えて肝心の顔は大きなゴーグルで隠され素顔が晒されたのはたった2コマのイメージカットだけ。

さらに顔の造形もチョイチョイ変わるとなれば、そりゃ覚えてなかったとしてもいたしかたないですよね。
オッサンなのか子供なのかですら定かではありません。


■またチャーシューといえば、他のメンバーに比べて能力の足りない役立たず、という印象を持ってる方も少なくないかもしれません。
たぶんその印象は次の3つのシーンによるものが大きいのではないでしょうか?
(1)「バイク騎士事件」で病院に残り護衛をしていたところを襲撃され、飛葉ちゃんたちの居所をあっさり相手に吐いてしまう。
(2)「誘かいのおきて」で旅客機から逃げ出すハイジャック犯の一人の仕掛けた細工にまんまと引っかかり取り逃がしてしまう。
(3)同じシーンで今度は乗客に交じり逃げ出そうとする犯人を見事に八百が見抜いたのに対して、その理由が分からず慌てて制止する。

だからヘマをして早くに殉職したのではないか?という疑問すら沸いてきます。
それではチャーシューの役割は一体なんだったのでしょう?

チャーシューの入隊はメンバーの中で一番最後。
しかもヘボピー、八百、オヤブンなどが草波隊長と飛葉ちゃんがペアで視察やスカウトをしてるのに対して、チャーシューは飛葉ちゃんの独断で、その特技が何かも草波隊長に打ち明けないまま入隊させています。
入隊後も、オヤブンが一ヶ月みっちりトレーニングを重ねたのに比べ、一週間そこそこでいきなり終了です。

入隊理由の特技は「頭のかたさ」いわゆる石頭。
しかし「同時にもう一つとっときの特技がある」と飛葉ちゃんの口から語られています。

この特技については連載終了後の’94に発売されたオリジナルビデオアニメ版では「薬物取締法違反、業務上過失致死など前科6犯の麻薬のエキスパート」と設定され、あるいは少年キング連載時に掲載された企画「7コーナー」や復刻版として名高いコンビニ(TFC)版のメンバー紹介では「熱に強い」という、彼の最後をご存知の方には信じられないようなものになっていますが、いずれも本編では最後までその謎が明かされることはありませんでした。


左)週刊少年キング’70.5.31(資料提供)sillazmanさん


左)週刊少年キング’70.5.31(資料提供)sillazmanさん


■こんな風に謎の男チャーシューを追っていくと、しばしば面白い発見をすることがあります。

例えば「バイク騎士事件」の中で、捕らわれたメンバーを救出して急遽かくまわなくてはいけないというシーン。

そのときチャーシューは、重体の仲間を乗せた救急車を運転して他のメンバーたちと一緒に飛葉ちゃんの先導で目的地に向かいます。
そこは敵の目をくらませるため飛葉ちゃんが知人に紹介してもらったというメンバーたちも知らされていなかった病院。
の、はずが
護衛のために残ったチャーシューは、ちゃっかりと自分のバイクをその病院に持ってきていたことが背後のコマから分かります。

どうやら飛葉ちゃんも彼だけとは打ち合わせをしていたということ?

このような「実は飛葉ちゃんに命令されて…」と後になって打ち明けられる指令は、他にも「誘かいのおきて」の中にでてきます。


草波隊長ではなく飛葉ちゃんの指令、そのことをよく表しているのが「コンクリートゲリラ」のあるシーン。
チャーシューが電話をかけているのは草波隊長のデスク、にもかかわらず受話器を取って話をしているのは飛葉ちゃん…ということは電話に出たであろう隊長から、わざわざ飛葉ちゃんに代わってもらったというのでしょうか?
しかも、そのときのセリフが「いやもう…そのタクシーを呼びだしちまったんですが……あんたがここへ着いたときにはそのタクシーからヘボピーのことを聞き出しておきますよ」と丁寧語で、口調こそ悪いですが上司への報告っぽい雰囲気です。
ちなみにチャーシューだけが飛葉ちゃんのことを「副長」なんて呼んだりします。

つまり彼の場合、ワイルド7という組織に所属しながら他のメンバーたちが草波の命令で行動してるのとは少し異なり、実は飛葉ちゃんの直接的な部下として指令を受け、作戦の裏で諜報活動をするために雇われた別働隊、といったところなのではないでしょうか?

だから最初の襲撃にも参加しなかった。
そしていつも作戦の終盤で忘れられた頃に唐突に登場する。
さらに決してフロントで堂々することはなく、いつも他人の背後で印象も薄く、素顔を相手に晒すようなこともしない。
銃やバイクの実技をあまり教え込まれなかった理由もそこにあるのかもしれません。

じゃあ、彼の持っているもう一つのとっときの特技というのは?
スパイ活動といったら変装の名人ってところでしょうか?
そこまでは判りませんが「バイク騎士事件」のラストには、今でいうところのコスプレイヤーの片鱗が見られるシーンだってあります。
もちろん、ちゃんとこれはチャーシューのアイデアだったと打ち明けられてます。
チョイチョイ顔が変わっていたのもそれが原因・・・と考えるのは、さすがにちょっと無理がありそうですね。

■そんなチャーシューも早期撤退のせいか、連載終了後にはフルメンバーが描かれるようなイラストにもほとんど登場することはありません。
かろうじて番外編的な「ワイルド7BEFORE」(ぶんか社コミックス文庫1巻収録)で、ヘルメットとゴーグルのみ描かれている、といったところ。

「外伝・優しい鷲」以降、パチスロの販促用作品「悪魔教編」、こち亀連載30周年記念「超こち亀」寄贈イラスト、あるいはトリビュート作品なども、最近は飛葉、ヘボ、オヤブン、八百、両国、世界、そこにユキを加えてワイルド7としいうのが割とスタンダードになってきてるようなのでファンとしては寂しい限りです。
もしかして三起也先生も、チャーシューの顔を忘れちゃってます?
だとしたら彼の任務は大成功、これこそ優秀なメンバーであるなによりの証かもしれませんね?

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望月先生のコメント
【望月三起也先生より】
映画同好会・・・・・ なんてのがよくありますね。
そう、学校の中での小さなクラブ活動。一応、組織としてプロデューサーから監督から役割分担が決まっていく。中でも一番揉めたりするのが演技者の部門。
シナリオは完成しているんだけど、演技者としてキャラの使いにくい生徒・・・・・ そうなんです、実はワイルド7連載第一回目までに、まず7人のキャラクター作りから始めたのは演出家として私の役回り。
6人まではスッキリ個性派作れたのですが、この『チャーシュー』ってキャラクターがイマイチ自分の中でも作りきれていない。「両国」ともダブるキャラでもあるし、なんか妙に暗さが出て、私の中で“現代忍者”ってのをキャラクター付けしたかったってのも返って無個性風になってしまったンでしょうね。

まァ、そのあたりを見抜くところがyazyくんだねぇ、鋭い!!
構図の取り方、コマのすみとか、変にカットされた顔だったりした登場の仕方も目立つようで目立たせない。 ・・・・・実のところ私としては困ったキャラクターだったのですよ。
そこんところが映画同好会の演出家の悩みと同じで、当人から「出して、出して。どんな場面、どんな役でもいいから!」と、せっつかれて、取り合えず映画には出すのですが、見るからに中途半端、忍者風を生かせなかった、私の失敗キャラクターだったのですねぇ。
今ならこういう暗い癖のあるキャラクター、独り仲間から離れた位置をキープって、返ってヲタクっぽくていいキャラクターに出来るンですが、若き日の私には、ただただ使いにくいキャラクターだったなァ。

しかし、そのキャラクターに注目したyazyくんみたいな個性派、いるんだねぇ、だから手は抜けない、漫画に「マ、いいか」ってことはないんですよねぇ。
一度描いたら40年後だって紙の上に存在し、消えるわけないんだから。
読者は作者以上に登場人物に愛情を持ってくれてるって、有り難いこと、
それを忘れちゃいけないな・・・・・
反省!!



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コメント/トラックバック

  • ぐりゅーん・へるつ :
    ご無沙汰しております。
    チャーシュー論、良いですねぇ〜。

    最初の殉職隊員。で、あの死に様。少年時代初めて読んだ時は本当にショックでしたね。
    あの「あっさり度」が世界の死に様と対になってお互いに引き立て合っている気がします。すごい効果的!

    その後の草波のセリフ「あの腕ききのふたりの隊員を・・」。
    これ、読者としてとっても嬉しかったです。

    隊長はチャーシューも認めていたんだ、漫画には描かれなかったけどきっと「特技」で活躍していたんだ、お荷物隊員じゃなかったんだ・・・と自らを慰めることが出来ました。
    作者のキャラクターへの愛情がうかがえて嬉しいセリフでしたね。

    最近映画「アベンジャーズ」を観て来たんですが、ヒーローチームは隊長を含めて7人なんですね(「7人もの」は大抵そうなのでは?)。

    ワイルドセブンは隊長を入れて8人でスタート。
    8人のキャラクターを創造するのはさすがの望月先生でもちょっと難しかったのかな、と思ったりもしました。
  • yazy :
    > ぐりゅーん・へるつさん
    ■ありがとうございます

    世界もショッキングでしたね。
    彼らのあっさり感が対比となって、後半で殉職するメンバーの最期もそれぞれ強烈な印象として残ってるのかもしれませんね。

    他人事ながら、チャーシューが期待されてる部分を見つけると、ちょっと嬉しくなりますね。
    他にも「いきなり最終回PART3」(JICC出版局)でワイルド7を取り上げたときの望月先生のコメントで「…ところが、チャーシューたちを殺したら読者からの反響が殺到しまして。」とあったのも嬉しかったです。

    連載期間中には草波隊長を含めて7人だった時期もありますが、難関だったとはいえ、知性派のリーダー+7人の個性豊かな実行部隊という形式でスタートしてくれたおかげで、今なお我々が親しみ続けているスタイルが確立したのかと思うと、ただただ感心してしまうばかりです。

    時間ができるようになったらまた、ぐりゅーん・へるつさんの新作解説も読ませてくださいね!
    楽しみにしてます。
  • 匿名 :
    徳間コミック版のワイルド7を最近読み始めました。
    チャーシュー氏の登場人物紹介に、「麻薬に関する知識は専門家クラス。元コック」とあります。
    しかし、本作中にそのような描写は見られませんでした。
    作品外で、そのような描写があるのでしょうか?
  • ミケロ :
    >作品外で、そのような描写があるのでしょうか?
    数年前の話に対する返答になりますが、「コック」設定の方は、最初からあります。
    上の方のチャーシューの顔が小さく並んでいる奴の左から3つ目の白い帽子は、新連載開始のところでワイルド7のメンバーが並んでいる場面の物でこの時点からコック姿です。

    ちなみにチャーシューが一番目立ってたのは実写ドラマ版で、「石頭と爆発物の扱いに長ける」が得意技だと明記されているんですが・・・
    これのチャーシューは両国(中盤で殉職)のポジションを引き継いでいますので「チャーシュー」として目立っているのかどうか微妙です。

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