
マンガとは、つまり作者の持つイメージが具現化した、ある意味で別世界です。
勿論、建物や風景だって、例外では有りません。むしろ、台詞の無い脇役とさえ言えます。
しかも、その存在感は大きい。
この名脇役、建物に焦点を当てては如何でしょう。違った世界が見えて来るかも知れません。

主人公の飛葉は、齢16歳にして、なんと警視長です。
恐らく、最年少記録でしょう。
他の隊員も警視正。
警視長に次ぐ第4位の階級で、主要警察署の署長クラスです。
ワイルド7は警察官の中でも、僅か一握りの上級国家公務員。
驚くべきエリート集団です。
しかし「キャリア組とは一味違うぞ」という所を読者に語り掛けます。
しかも台詞無しで。
それが、この喫茶VONです。
今は余り見かけなくなった喫茶店ですが、昔は日本一、数が多い会社でした。
出す物は主にコーヒーで、連載開始時は1杯100円位。同額でラーメンが食べられました。
それほど単価の高い喫茶店が流行った理由は「場所の提供」という意味合いの強い事でした。
当時は会議室の無い会社も多く、打合せに使われる等、なにかと便利だったようです。
しかし、警察が捜査本部を喫茶店に設置した話は、聞いた事が有りません。
それでは、機密事項がジャジャ漏れに成ってしまいます。

また、VONはオシャレが売り物だった当時の喫茶店の中でも、格別、粋な店だったと思います。
照度を無視した照明配置、厨房の構成、テーブルの広さは、どちらかと言えば、バーのような造りです。
店長も若い女性。その雰囲気を高めます。
斜に構えた者達の溜り場に屯している彼らのイメージは、高級キャリア官僚と異質な物を感じさせます。
型破りな組織です。ワイルドです。
ワイルド7の無法者ぶりを印象付ける名脇役。喫茶VON。
見事な演出です。

「法律で裁けない悪党はいっそ処刑してしまうべきだ」
草波の思想の基、組織されたワイルド7は、超法規的な死刑執行権を持ちます。
しかし、この特権こそがワイルド7、最大の弱点と思います。
孤立してしまうからです。
一般警察官の協力は期待できません。
故に、自ら軽装備での潜入捜査を余儀無くされます。
そんな彼らの立場を表現しているのが、この秘密基地です。
警察官の殆どは、殺人を経験する事無く、一生を終えます。
人を殺さないのではなく、殺せないのです。
ここら辺は、善良な市民と大差有りません。
作中でも、一般警察官の弱さが見えます。
が、私の空手の経験を鑑みると、そうは思いません。
弁護する訳では有りません。
が、警察庁は逮捕術を会得した、猛者揃いの組織です。
ところが鍛える過程で痛みも覚え、攻撃もある程度の段階で、精神的にブレーキが掛かるように成ります。
ワイルド7のような存在を嫌悪する警察官が居ても、なんの不思議も有りません。
むしろ、その方が自然な感情とさえ言えます。警察官に背かれる隊員達。リアルな展開です。
特権がワイルド7を孤立させます。高級官僚が持つ指揮権も役に立ちません。
そんな彼らの最大の武器が、些細な状況も見落とさない洞察力と行動力です。
銃でもバイクでも、ましてや金色の階級章でも有りません。
何でも有りの敵に対し、圧倒的に不利です。
対抗手段は、各人の能力と作戦だけ。時には、隠密裏に行動する必要も有ります。
そのサポート役が、秘密基地。駐車ビルと名乗り、外見をカモフラージュしています。
孤高の正義をイメージさせます。

許容積載荷重も、相当な物です。
秘密という割には目立つ設計です。しかも、不思議な構造です。
自動車運搬用のエレベーターは、運転手以外の人が乗る事を法的に禁じています。
しかも稼働中に自動車から出ては、いけない事に成っています。
実務的な運搬用は、運転手が乗る事も禁じており、あえて人が立てるスペースは作りません。
では、乗用エレベーターでしょうか。それも違います。
ドアが有りません。違法です。
どう見ても建築基準法、及び、労働安全衛生法違反です。
私では、確認申請を通せません。
私見ですが、草波隊長の配下にはワイルド7以外にも超法規的なメンバーが居るのではと考えています。
メンバーの中には超法規的設計士が居て、審査官の額に銃を突きつけ、「これで確認申請を下ろせ」と迫ったに違い有りません。
警察では孤立した立場の彼らも、意外な所に強い味方が居るようです。

建物なら敵も負けてはいません。
例えばM・Cプロ本社ビル。ワイルド7の秘密基地と違い、こちらは堂々としています。
かなり堅固な設計のようで「自衛隊が戦車をもってきても、びくともしないつくり」と有ります。
良い事です。
日本の建築物は震度6まで持たせなければ成りません。が、それ以上に堅固であるなら、申し分有りません。
良い設計士です。設計士の信条は、建築基準法第1条「生命、健康、及び、財産の保護」ですから。
しかし、褒められない所も多々有ります。それは、危険と思える設備です。

ところが、このビルの手摺は中央監視で外せるようです。
違法です。実際にも、人が落ちてしまいました。
基準法第1条の信条は、何処へ行ったのでしょう。
因みに私なら、この仕掛に磁石を使います。片方は永久磁石。片方は電気を通していない電磁石。外す時は電気を通し、N極同士、又はS極同士とすれば、僅かな外力でも簡単に外れます。
機械動作よりもメンテナンスが簡単ですし、何よりイニシャルコストが安価です。
は・・。変な癖が出てしまった。私は、そんな違法な事は考えません。法1条が信条です。
まだ有ります。天井から、コンクリートを打設する設備も有るようです。
どうやって、生コンクリートを固まらない状態で保存できたのかも疑問ですが、このように建物が無駄に重く成る設備は構造的にも感心しません。耐震構造上、不利です。
それよりも、ハロン等の窒息消火設備の方が、簡単に殺せるし、軽量です。あ・・。又、癖が出た。
えーと、心を入れ替えまして・・・この建物も、私では確認申請を通せません。
M・Cプロにも腕利きの設計士が居るようです。彼らの得意技は、アメとムチ作戦です。
危険極まりないM・Cビルも、その手法で確認審査を受けたに違い有りません。
例えば、こんな感じです。
設計士 「このお金で、確認申請を通して下さい」
審査官 「バカを言うな。賄賂など受取らんぞ」
設計士 「では仕方ない。この写真が出回りますよ」
写真には、キャバレーでホステスのお尻を触って喜ぶ審査官が写っています。
審査官 「・・・判った。決裁しよう」
設計士 「有難う御座います。決して悪いようには致しません。ははは」
審査官 「・・・うう」
悪徳設計士です。遠井弁護士的キャラです。でも、見事な手口です。
秘密基地VS要塞ビル。脇役同士の戦いも必見の価値有りです。
その裏には、ストーリーには出て来ない、設計士同士の技術力争いが有ります。
超法規的設計士VS悪徳設計士。勝つのはどちらか。
結果はワイルド7第1話「野性の7人」と第2話「バイク騎士事件」をお読み下さい。
既にお読みになった方も、再読で違った部分が発見できると思います。
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「望月マニ也」「作品紹介」のほか書式や内容は自由、採用者は「月刊望月三起也」で掲載。
また掲載された方には、望月先生書き下ろし特製ポストカードをプレゼント!
是非、月刊望月三起也事務局までメールを送ってください。
お待ちしております。
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神田雅治 さんのプロフィール

【望月三起也先生より】
面白いですねぇ、
どの視点から見るか?こういう見方もできる、より深く味わえる。建築屋さん的ワイルド7の見方、新しい! 作者も嬉しい!
以前にも医学的見方をしてくれた方がいました。
飛葉が怪我、負傷したシーンを集め、怪我の程度とその全治が何週間かって。本職のお医者さんのチェックを受けたところ、「飛葉は死んでいる」って。そんなに怪我させていたかなァ。
主人公(ヒーロー)は不死身で、連載の都合で中々殺せないのですが、やっぱり十年間の連載は長かったンですねぇ、それほどの怪我を負っていたようです。
で、今度はプロの建築家の方、いちいち納得。
エレベーターの中の件(くだり)は「へぇ」と思わせる新鮮な驚き、人は降りてはいけないなんてねぇ。そういう約束事、無視するから秘密基地なんです。
実は約束事を守っていたら秘密でもなんでもない。建築許可申請した時点でお役所は知ることなり、市民の問い合わせがあれば公開される。どこが秘密基地だって、笑っちゃうね。
MCビルも実は係官を脅迫して許可を取っていたんだろうというご意見、鋭い!!
そうなんです、そうでなけりゃ要塞じゃない。
大阪城も真田丸って出城の持つ意味、徳川方に知られてなかったから意味があったんでね。
神田さんのVONの照明の件も鋭い。
今でも上野に近いアメ横のガード脇に、こういう喫茶店があるんです。懐かしい。ただし、イコもシノベェも見当たらず、やる気のなさそうなオッサンがいるだけですが、メニューも昔風で、私は心落ち着くね。
MCビル、手摺の仕掛け、私はボルトも抜き差しで設計しました。今から40年以上前ですから、今だったら電磁石を使うってアイデア、神田さん、40年前に教えてくれていたら最先端を行ってましたよ。
何を隠そう私、実は学校、建築科だったのです。ですからワイルド7に登場する建物に参考はあっても、ほぼデザインは自分でやりました。在学中もデザインは褒められたンですが、構造上絶対に建たないそうで、私、重量計算が不得意、ラーメン構造なんて考えただけで頭が痛くなる。
ラーメンは味噌がいいです。
そのかわり、私の爆発シーンはこだわりです。
普通けむりモクモク描けば一応爆発ですが、新人のころからどんな構造の建物か、コンクリートなら鉄筋が剥き出しになる、鉄骨なら鋲が吹っ飛ぶ。その外が木造モルタルならば・・・・・・ と、爆発により吹き飛ぶモノが違うはず。飛行機、クルマ、船等々、これらも構造を調べ上げ、爆発シーンをよりリアルに描きました。
そこんとこは私の個性かな。
面白いですねぇ、
どの視点から見るか?こういう見方もできる、より深く味わえる。建築屋さん的ワイルド7の見方、新しい! 作者も嬉しい!
以前にも医学的見方をしてくれた方がいました。
飛葉が怪我、負傷したシーンを集め、怪我の程度とその全治が何週間かって。本職のお医者さんのチェックを受けたところ、「飛葉は死んでいる」って。そんなに怪我させていたかなァ。
主人公(ヒーロー)は不死身で、連載の都合で中々殺せないのですが、やっぱり十年間の連載は長かったンですねぇ、それほどの怪我を負っていたようです。
で、今度はプロの建築家の方、いちいち納得。
エレベーターの中の件(くだり)は「へぇ」と思わせる新鮮な驚き、人は降りてはいけないなんてねぇ。そういう約束事、無視するから秘密基地なんです。
実は約束事を守っていたら秘密でもなんでもない。建築許可申請した時点でお役所は知ることなり、市民の問い合わせがあれば公開される。どこが秘密基地だって、笑っちゃうね。
MCビルも実は係官を脅迫して許可を取っていたんだろうというご意見、鋭い!!
そうなんです、そうでなけりゃ要塞じゃない。
大阪城も真田丸って出城の持つ意味、徳川方に知られてなかったから意味があったんでね。
神田さんのVONの照明の件も鋭い。
今でも上野に近いアメ横のガード脇に、こういう喫茶店があるんです。懐かしい。ただし、イコもシノベェも見当たらず、やる気のなさそうなオッサンがいるだけですが、メニューも昔風で、私は心落ち着くね。
MCビル、手摺の仕掛け、私はボルトも抜き差しで設計しました。今から40年以上前ですから、今だったら電磁石を使うってアイデア、神田さん、40年前に教えてくれていたら最先端を行ってましたよ。
何を隠そう私、実は学校、建築科だったのです。ですからワイルド7に登場する建物に参考はあっても、ほぼデザインは自分でやりました。在学中もデザインは褒められたンですが、構造上絶対に建たないそうで、私、重量計算が不得意、ラーメン構造なんて考えただけで頭が痛くなる。
ラーメンは味噌がいいです。
そのかわり、私の爆発シーンはこだわりです。
普通けむりモクモク描けば一応爆発ですが、新人のころからどんな構造の建物か、コンクリートなら鉄筋が剥き出しになる、鉄骨なら鋲が吹っ飛ぶ。その外が木造モルタルならば・・・・・・ と、爆発により吹き飛ぶモノが違うはず。飛行機、クルマ、船等々、これらも構造を調べ上げ、爆発シーンをよりリアルに描きました。
そこんとこは私の個性かな。
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2013/06/12 at 10:04 PM
で、以前から、ちょっと気になってた大角産業、駐車ビル800台ってのは、どのくらいのスペースなんだってのをググッてみました。
ヒットしたのは、西銀座駐車場・・・って、
http://www.nishiginzaparking.co.jp/
場内マップを確認すると、銀座の5丁目から8丁目までって・・・恐るべし「大角産業」というか、さすが秘密基地というべきか。
ともあれ、お陰で楽しめました。ありがとうございます。
2013/06/16 at 6:24 PM
私は、Yazy氏と同じで、褒められると舞い上がるタイプです。
また、書いてしまいますよ。
ところで、モデルの西銀座駐車場って、すごい施設なんですね。
さすが、秘密基地。
木を隠すなら、森の中ということでしょうか。
2013/06/19 at 10:59 PM
yazyさん、そういうタイプなんですか?そういえば、昔、秘密基地の上階にあるらしい、草波さんの部屋と同じ間取りのマンションが売り出されたら、本気で考えるって云ってたような・・・。
神田さん、一級建築士でいらっしゃるとのこと、図面引いて売り込んだら、結構、話題作になるかもしれませんよ。
2013/06/20 at 12:20 AM
> sillazmanさん
■ハハ、まーボクの話はもういいでしょうから、その辺で勘弁してください。
今回の建物特集は、望月先生コメントのお医者さんの話も含めて、読者がそれぞれの知識や経験で、同じストーリーを読んでも捉え方や注目ポイントはさまざまなんだと感心しながら楽しんで読みました。
警察官が、大学教授が、映画監督が、海外の人が……いろんな職業や立場の人が、どんな風にワイルドを読んで魅力を感じるのかとても興味がありますね。
2020/09/01 at 2:42 AM
デカさんの話が面白く今更ながら過去記事からこれを読んでみたくなり…
姉羽事件が頭に過りました。あれより後記事だったのでしょうか。
作品自体は随分前ですから望月作品にはあらゆる先見性、話題性があります。
話題は逸れますが、背景描写に関しては先生が不調になられた頃まで手伝われていた方(今名前が判らずすみません)の背景、建築物が非常に緻密で凄かったです。
失礼しました。