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望月マニ也

第72回

ワイルド7・オールウェイズ

執筆者:   2014 年 4 月 7 日

時代を超えて愛され続ける名作には、つい読み飛ばしてしまう部分にも当時のリアリティが潜んでいます。アナタはこれを読んで懐かしむ?それとも新発見でしたか??

 ワイルド7は昭和40年代に連載を開始しました。
太平洋戦争の敗戦後、20年余り。
今から40年以上も昔の話です。
人々の暮らしは、良くも悪くも、今とは随分違いました。
ワイルド7だって例外では有りません。
最先端の技術を駆使する敵も、資金力に物を言わす黒幕も、携帯電話すら持っていません。
時代を知り、時代に遊ぶ。
そんな読み方は如何でしょう。
さあ、貴方も時間旅行に出かけてみませんか? 
題して、ワイルド7・オールウェイズ!

【チリ紙】
 本作で最も昭和を語っているのはチリ紙でしょう。
若い人。判りますか。チリ紙ですよ。チリ紙。
両国の持っている物が、そうです。
今は、とんと見かけなく成りました。
 チリ紙とは、トイレット・ペーパー兼、ティッシュ・ペーパーの低級紙の事です。
昭和40年代の便所は、水洗式が少なく、殆どの家が便層に汚物を溜め、定期的に真空式ポンプ付き自動車が来て、それを回収していました。ははは。知らないでしょ。
 その時代、用便後の拭き取り紙が、このチリ紙でした。
今のトイレット・ペーパーより厚くて丈夫。
しかし、水に溶けません。水洗式の普及で、姿を消しました。
 もう一つの使い方が吸湿紙です。
が、ティッシュ程の吸湿性は無く、濡れると繊維が崩れました。
これもまた、廃れた原因の一つです。
 今考えると、中途半端な存在でした。けれども当時は生活必需品。
大切な物だったのです。
昭和って、面白い時代だったでしょ。ね!

 因みに両国にチリ紙を渡したのは、古紙回収業者です。
自らチリ紙交換と名乗っていました。
軽トラックに拡声器を付け、街中をユックリ走ります。
「えー。毎度おなじみ、チリ紙交換でございます。古新聞、古雑誌、ボロ切れ等ございましたら、お気軽に声をお掛け下さい。チリ紙と交換致します」
なんて言いながら、古紙を回収していました。今で言う資源ゴミです。
作中は、このチリ紙交換屋が、実は敵の変装だった訳ですが、確かに怪しまれずに接触するには最適な職業だったと思います。昭和だからこそのトラップです。


【ガラス】 
 技術者にとって懐かしいのは、チリ紙よりも、ガラスです。
普通の方には意外かも知れません。
確かに見かけは、変わりません。ただの透明な板ですから。
ところが、強度が違います。
 見ての通り、オヤブンが、ガラスを突き破っています。
そんなバカな、と思うのが平成生まれ。
違和感が無いのが昭和生まれです。え?私?昭和です。
だから、納得しています。
 昭和のガラスは磨きガラス。ガラスの表面を削って、平面にします。ところが、ガラスの中で最も強度が高いのは表面です。そこを削ってしまう為、昭和のガラスは、脆かったのです。
今のガラスはフロート・ガラス。高振動で平らに仕上げます。削る必要は有りません。強固です。
オヤブンの大胆な行動は、昭和のガラスだからこそ、できた技です。勿論、危険ですが。
 昭和の建物には、大きなガラスの隅に「ガラスに手を触れないで下さい」と書いた貼紙をよく見かけました。
文学的にも、ガラスのように繊細な・・・なんて表現も有ったくらいです。
フロート・ガラスしか知らない世代には、意味不明な感覚でしょう。
オヤブンの派手なアクションに懐かしさを感じるのは、私くらい・・・かな。


【電話ボックス】 
 今は少なくなった電話ボックスも、昔は至る所に有りました。
この場面では悪徳政治家が、電話を掛けようとしています。
何故、公衆電話を?自分の電話番号を知られない為?
違います。携帯電話が無かったからです。
それで、町中に電話ボックスが有った訳です。

 因みに当時の通信回線はアナログ式で、発信番号が乗りません。
つまり受信側は、発信側が何処から電話して来たのか判らないのです。
他の場面でも、慎重な敵役が不用意に電話を掛ける所が有ります。が、これも無用心と言う訳では有りません。
昭和の人々は電話による接触を、むしろ身を隠した通信手段と捉えていました。
ここを理解していないと、切れ者が間抜けに見えてしまいます。

 電話ボックス自体も、今とは相当違います。窓が小さい。昭和のガラスは脆かったからです。
見方によっては、都会の死角です。
 電話器はダイヤル式。プッシュ式では有りません。使った事、有りますか。ダイヤル式電話。
ダイヤルは、各番号ごとに穴が有り、そこに指を入れて所定の位置まで動かします。
電話器は、ダイヤルの戻る時間で番号を認識します。単純なメカ式で、記録が残りません。
 通話料は現金。10円玉しか使えません。足が付く心配は皆無です。
昭和の電話の立ち位置が、御理解できたでしょうか。悪役には大変便利な小道具でした。

 また、普通の家庭では未だ電話が普及しておらず、郵便の方が一般的な時代でした。
電子メールじゃありませんよ。葉書です。時間が、かかります。不便でしょう?
けれども、その不便な時代にワイルド7の隊員達は、機転と洞察力で連絡を取り合います。
そこが、ストーリーに厚みを加えています。


【コンピューター】 
 昭和の時代にもコンピューターが有りました。
けれども、これも電話同様、立ち位置が大分、違っています。
主な違いは2つ。1つは大きさ。当時ICチップが無かったので、やたらと大きな物でした。
もう1つは外部との通信。当時の通信技術は、電話ボックスで触れました。
故に、送受信可能な情報量は少なかったのです。
だから、昔のコンピューターは難しい事ができませんでした。
代わりに多用されていたのが、シーケンス制御です。
基本は、電気配線のON・OFFで構成された物です。
 この場面では宿敵が中央監視室で、武器を操作しています。
これもシーケンス制御だったと考えられます。
今、貴方が見ているPCの方が余程、高度な操作が可能でしょう。
でも、この絵の方がPCより迫力有りますよね。
 現実の建物でもエレベーターが、シーケンスでした。
繊細なコントロールが困難で、エレベーターと停止階の床に段差ができる事も普通でした。


 【専用エレベーター】 
 悪者が専用エレベーター。
若い人は不審に思うでしょう。
セキュリティーは、高いようで低い。
その通りです。
専用エレベーターが動いている時は、その悪者が乗っている時です。
見張りにも、待ち伏せにも都合の良い事、この上ありません。
 実はこれ、警戒を意味しているのではなく、贅沢を意味しているのです。
昔のエレベーターは、昇降速度が遅い上、止まる時、動く時、ガクンと振動しました。
つまり、途中階の停止は結構、イライラさせる状況だったのです。
故に日本では余り流行りませんでしたが、アメリカのペントハウス等では専用エレベーターを売り物にしていた例も有ったくらいです。
 悪事で大金を稼ぎ、ホテルのエレベーターを1つ独占。ふてぶてしさを表現しています。
昭和ならではの演出です。
 あ。因みに飛葉が階段をバイクで駆け下り、エレベーターを追いかける場面が有ります。
昔のエレベーターは遅いので、不可能とは言い切れません。
意外と現実味の有る展開だったのです。勿論、今は無理。昭和的なアクション・シーンです。



 昭和は捜せば、まだまだ有ります。
ここで取り上げたのは、若い世代が読み進めていく内に、恐らく躓くだろうなと思った所です。
また、リアルタイムで読んでいた方には「ああ、昔はそうだったなあ」と思える所でも、あります。
昭和を知れば、思い出せば、ストーリーも一段と深く楽しめます。
貴方も昭和を探してみませんか。そこは今とは別世界です。
みんなで行こう。昭和の時代。ワイルド7・オールウェイズ!



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望月先生のコメント

こういうコメントをされると、私も長く漫画を描いているなァって、実感です。普段、そんな思いはどこにもないのに、人間、何かのきっかけで歳を感じさせられるもの。
例えばサッカーの試合中、フェイント掛けて抜こうとしてバランス崩してコケることもある。背後から駆け抜けざまボールを奪われる。シュートが柔らかくなっちまってキーパーに笑顔でキャッチされる・・・・・ きりがない。歳を、時代を感じさせるんですねぇ。
でもまだ若いつもりでやってますが、神田さんのような漫画の見方されると、実感!“昭和は遠くなりにけり”ですねぇ。改めて気付かされます。また気付かせる神田さんの見方が新鮮、こういうツッコミって楽しいですよ。描き手(作者)としては、「へぇ~!」って思い。さらに深いところが凄いね。
ガラスがそれほど強化されてるとは・・・・・ フロートガラスというとは知らなかった、これから身体をガラスにぶつけたら、跳ね返るってシーンを描くことにしましょう。
また、電話ボックスの薀蓄(うんちく)も楽しい。昭和の頃のガラスは脆かったから電話ボックスのガラス窓は小さかったなんていいなァ。さらにコンピュータ、ICチップが有ったか無かったかで大きさが違ってくるという指摘が、さらにシーケンス制御等専門的知識のうえで漫画を見るひと、そんな知識も常識も無視して描いてるひと、俺だ。
立場の違いで漫画も見方が何通りにもなる・・・・・ いいなァ。
また、バイクとエレベーターの競争のコメント、ここもいい。

漫画というのは上手に嘘をつくと偉い編集さんに言われて育った私、可能性が10%でもあれば、それを100%らしく作品の中で見せる。それが漫画だと思ってやってきました。
まったくの嘘はリアリティがありません、少しの可能性。それを「漫画じゃあるまいし」ってセリフで読まれないためのこだわりかな?

と、この原稿、フリクションペンで書いています。 ・・・・・って、それほど時代先取りでもないか。



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  • 塙 数人 :
    小学生から読みだして、キングの連載が終了したときは、高校三年でした。W7はいまでも、私の大好きな作品です。所有している一巻一巻に思い出が詰まっています。オヤブンのパイソンの破壊力に憧れ、なかなかモデルガン化されないコルトウッズマンを夢にまで見て!そんな青春時代を過ごせた五十過ぎのおじさんです。
  • 神田雅治 :
    早速の御投稿、有難うございます。
    そして、塙様、初めまして。
    今回の執筆者、神田です。

    察するに、塙様は私より1才か2才、年下と存じます。
    私?
    明日から、54才です。

    私達の子供時代って、今と随分、違いましたよね。
    これからも、宜しく、御願い申し上げます。

    敬具

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