月刊望月三起也タイトル画像
望月マニ也

第101回

ジャンプ愛読者賞受賞の歴史的事実

執筆者:   2018 年 5 月 7 日

50周年で盛り上がる「週刊少年ジャンプ」の大人気企画に望月三起也先生はその名を刻んでいた

週刊少年ジャンプは2018年で創刊50周年を迎えます。
創刊号には望月三起也先生の『ドル野郎』が掲載されていました。
50周年記念で復刊されたので、購入された方もいらっしゃるかと思います。
発行が1968年7月ですので1969年9月の『ワイルド7』連載開始の約一年前ですね。
『ドル野郎」の主人公ヘンリー・カワサキがどことなく『ワイルド7』の飛葉と雰囲気が似ているように思えました。


さて、創刊50周年を記念して【創刊50周年企画 週刊少年ジャンプ展】が六本木の森アートセンターギャラリーでVOL.1を昨年7月に、現在は6月17日までVOL.2が開催されており、7月にはVOL.3も予定しています。
内容は、名作の原画展示や、立体造作、映像展示が体感できる催し物で、私も友人と観に行ってきました。

VOL.1では我らが望月先生の作品も紹介されており、前述の『ドル野郎』はもとより『突撃ラーメン』、『ジャパッシュ』などの名前が年表にありました。

特筆すべきは、【ジャンプ愛読者賞】のコーナーで、第一回受賞作は望月先生の『ダンダラ新選組(※)』で、画像付で紹介されていました。
実は一位を獲得するまでにはドラマがあったのです!


その前に、ご存じでない方もいらっしゃるかと思いますので、ジャンプ愛読者賞について簡単に説明を。ジャンプ愛読者賞というのは、1973年- 1983年、1997年に少年ジャンプの読者アンケートで選ばれた10人の作家が45ページの読み切り作品を執筆するというもので、プロとして活動している漫画家全てにエントリー資格がありました。
雑誌掲載する順番はクジで決め、1位に選ばれた作家には海外旅行のプレゼントがあり、また、1位に選ばれた作品の感想文を募集し、優秀な感想文を書いた読者には、作家と一緒に海外旅行に行けるというイベントも行われていました。

当時望月先生は、『ザ・キッカー』の連載が終わりアンケート時点では連載作品はお持ちではありませんでしたが、既に少年キングで『ワイルド7』を連載中で人気を博しておられたので、当然代表に選ばれるものと思っていたのですが、読者アンケートの結果は惜しくも第11位でした。
私はその結果をリアルタイムで見ていた世代ですので、非常に残念に思っていました。
望月先生の作品を読みたかったのになぁ…。
さて、上位10位の先生方も決まり一同に集まった写真が週刊少年ジャンプの巻頭グラビアに掲載され、順次作品名を発表していよいよ執筆開始というところまで行っていた矢先、予期していなかった奇跡の出来事が起きました!!

10位にエントリーされていた水島新司先生が突然出場を辞退されたのです。
ご本人の辞退する理由のコメントとイラストが掲載され、その記事の欄外に編集部の言葉として
水島新司先生が辞退されたので、僅差で11位の望月先生が登場します。望月先生は猛ハッスルで、絶対いい作品を描くと自信まんまん。ご期待こう!
と書いてあるではないですか…!!
これは、神様のいたずらか?強運の持ち主なのか?
ダメかと思っていたまさかの望月先生登板の知らせに、やった!これで望月先生の作品が読める!と飛び上がって喜びました!
次の号で望月先生の作品は1973年17号に掲載されると発表され、果たしてどんな作品を描かれるのか発売日が待ち遠しくて、日めくりカレンダーを捲りながら今か今かと待ち続けました。
その後毎週「愛読者賞チャレンジ漫画家レポート」というコーナーが開設され、参加される先生方のコメントとイラストが掲載され、作品の進捗状況が手に取るようにわかりました。
望月先生は1973年12号のコメントで
準備完了。題材も決定、取材もバッチリだ。でも内容はまだまだ秘密だョ
と、ファンはじらされてヤキモキしていました。
なんでも京都に取材に行かれたと11号で書かれており、京都が舞台の話とは、はたしてどんな内容の作品なんだろうと、ますます期待に胸躍らして待っていました。

そして15号の次週予告欄に16号に掲載される吉沢やすみ先生の作品紹介の下に17号に登場する望月先生の予告も併せて掲載されており作品タイトル『ダンダラ新選組』が初めて発表されました。
『ダンダラ新選組』と言う事は新選組の話なんだな?そうか!だから京都に取材に行かれていたのだなと、やっと話が繋がりました。
ただ、その予告に主人公の顔らしきイラストも掲載されていましたが、どう見ても新選組の隊員には見えず、ちょっと?マークが頭を過ぎりました。
いったいどんな内容なのかは発売当日までのお楽しみかと思いつつ、やはりモヤモヤ感が…。
続く16号の次号予告に掲載されたイラストも浪人風の中年男性が描かれているだけで、新選組のメンバーは誰も出てきませんでした。
そしてついに17号が発売されました。


鮮烈な巻頭カラーで始まった『ダンダラ新選組』の鮮明な色使いとアイデアに脱帽しました。
新選組副隊長・土方歳三が鴨川?の中で斬り合うシーンからはじまり、おお!良かった新選組の話だったと感動しながら読んだ記憶があります。
予告の浪人風のキャラクターは本編の主人公でした。
一気に読み終わり幕府と薩長の対立間で時代に翻弄されながら侍としての誇りを持ちながら、決して犬死にではないと信じながら家族を守って死んでいく主人公千兵衛のキャラクターが、私の心をわしづかみしたのは言うまでもありません。
ラストの「利夫~ッ!!」と叫ぶ「千兵衛」の姿が脳裏に焼き付いて離れませんでした。
さて、今回の全10作品は、実にバラエティに富んだ作品群でした。「動物もの」、「アクション」、「人情もの」、「ギャグ」、「時代劇」…etc.
特に手塚先生の『ロロの旅路』は、『ジャングル大帝』を彷彿させるお得意の動物を主人公にした感動的な作品でした。私はこの作品が受賞するかと思っていました。

いよいよ投票の発表がされるジャンプ発売の日、書店で立ち読みした結果を見た瞬間、思わず飛び上がってしまいました!
次点と約2千票の差をつけて望月先生の『ダンダラ新選組』が堂々の一位に輝いていました!ちなみに次点は手塚先生の作品『ロロの旅路』でした…。

望月先生のコメント
読者が楽しめるものを!と作品作りに、励んできたボク。それが認められた形の今回の受賞は、何よりも嬉しい。どうも有難う!
と本当に嬉しかった雰囲気が伝わってきました。
1973年当時のジャンプの発行部数が約150万部で、その内投票数が全部で約10万通、その愛読者が望月先生を一位に選んだと言う事なのです!!コレはすごい事です!私は心の中で「やった!」と思いました。望月先生の作品への思いが読者に通じて心をわしづかみにしたのだなと。

その後、見事第一位を獲得された望月先生はヨーロッパ一周旅行に行かれたのでした。
後日その時の旅行の模様がジャンプの巻頭グラビアで紹介されました。

最近発行された『俺の新選組下巻』(宙出版)の巻末に当時のいきさつが一部掲載されています。
さらに「俺の新選組」のキャラクターデザインと「新選組、北へ」の作品コンセプトも掲載されており、函館の五稜郭のロケハンを楽しみにしておられた姿が目に浮かびます。もしまだ未見の方がいらっしゃいましたら、是非探して購入して読んでみて下さい。望月先生の思いを少しは感じる事が出来ると思います。


お亡くなりになられる一週間前の3月27日に、池袋の東武百貨店で開催された【ワイルド7 複製原画展】で望月ファンの前に現れた最後のお姿でした。
ファン一人一人と順番に丁寧に挨拶を交わされ、私の番になった時
「『新選組、北へ!』の執筆頑張って下さい。作品の完成を楽しみにしていますので頑張って下さい。」
とお声を掛けして、以前、土方歳三資料館で購入しておいた【誠】の手ぬぐいと【土方歳三の肖像写真】のクリアファイルをプレゼントしました。
おお!助かる、有難う!!
と弱々しい声ながら嬉しそうなお顔をされました。
それが、私が望月先生と交わした最後の会話でした。
今でもその言葉が脳裏に浮かびます。

望月先生は北海道にロケに行ってイメージを膨らませてから『新選組、北へ!』で土方歳三の最後を本当に描きたかったのだと思います。
出来ればそうさせてあげたかったです。
それだけが残念でなりません。合掌!!


(※)『ダンダラ新選組』についての詳しい解説、今回紹介された裏話や望月先生のコメントも読める以下のページもあわせてご覧ください。
作品紹介『ダンダラ新選組』


望月先生のコメント
投稿ありがとうございました。(事務局/yazy)

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コメント/トラックバック

  • エヌワイ :
    11位からの逆転劇は、まったく知りませんでした。
    読者のアンケートで1位はどんな賞より尊いと思います。
    ワニブックス「コミックを創った10人の男」では
    望月先生を「本格ハードボイルド&アクションを描く
    無冠の帝王」と紹介されていますが、あの巨匠を抜いての
    1位はもっと尊重されるべきでしょう。
    貴重な話どうもありがとうございまいた。

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