月刊望月三起也タイトル画像
作品紹介

第12回

雨小僧

執筆者:   2009 年 7 月 1 日

『幻の‥‥‥』と言われるものは結構存在するものですが、今回ご紹介する望月先生の作品は正真正銘『幻の作品』だと思えます。さてご覧あれ。

今回、とある偶然(必然?)にて望月先生の漫画を入手しました。しかしこの本、先生の作品リストにも載っていなくて最初は「本当に先生の漫画?」という疑問がありましたが、ネットで調べると以下のサイトに行き着きました。
『ワイルド7 Forever』(http://takumi.main.jp/wild7/index.htm)
そのサイトにあります‥‥、
『Club 40ARIBABA』(http://takumi.main.jp/cgi/wild7_bbs/c-board.cgi?cmd=one;no=2232;id)というBBSにて、その作品が正真正銘、望月先生の作品だということを知りました。
     
     
     
定価の30円、3枚の10円玉との大きさ比較。
何とも小さい。
時は1970年(昭和45年)。今から約40年前、神奈川県に『和泉製菓』というお菓子メーカーがありました。
そこで発売されていた『ウインナチョコレート』というお菓子に『少年ページ』という『オマケ』が付いていたのです。その『オマケ』とは漫画の豆本。20ページ程の漫画本なのですが、縦6.6cm、横3.7cmという非常に小さい漫画本。
その30円のお菓子に付いていた読み切り漫画の中に望月先生が描かれた作品もあったのです。
(その他の執筆された先生については後述の『金魚屋古書店』参照で。)
      
タイトルは 

『雨小僧』

     
表紙には『スバル360』であろう車が、土砂降りの雨に打たれているシーンから始まります。
‥‥‥もうこの表紙からワクワクものです。
どんな話が展開されるのか?
『雨小僧』とは一体?
ページをめくるといかにも怪しい風体の3人組が雨の中を駆けてきます。
     
この豆本の特徴は、雑誌みたいに各ページに『あおり』が入ります。ほとんどが和泉製菓のお菓子の宣伝なのですが、漫画の内容に触れたものもいくつかあります。それらの『あおり』もワクワクさせる要因を持っています。
(以下、印は『あおり文』抜粋、原文のまま。青文字はあらすじ説明。
     
●ドシャブリの雨の中、へんなのが出てきたね
●どうも、ひとくせありそうな男たち、なにものだろうね
     
ワクワク♪ワクワク♪‥‥おっと、作品紹介を忘れて読みふける所でした(笑)
     
土手の下で立ち往生している「スバル360」を発見した怪しい3人組は土手を駆け下りいきなり乗り込んできます。すると車内には今にも子供が生まれそうな妊婦と小さい男の子が‥‥。
「母ちゃん子供生まれそうなんだ」‥‥
  更にあおり文が入り、
     
●ボウヤとお母さん、ゾクゾクするね、君ならどうする
     
ゾクゾク♪ゾクゾク♪‥‥あ!度々失礼しました(笑)
この時にすっかり読者は騙されてしまうのですが、この時点ではまだその『騙し』に誰一人気付く事なく、話は進んでいきます。
     
なんでもこの母子の乗った車は、病院へ行く途中に土手から滑り落ちて立ち往生していた様です。父親が助けを呼びに行っている隙に乗り込んできた3人組の男たちは、母と子を車から放り出してかっぱらうつもりだったようで。しかし、その内の一人が言います。
「産院まで運転していってやろう」‥‥
  と。更にあおり文が、
     
●いいおじさんたちのようでもあるし、ようでもないし
ボウヤも「ほんといいおじさんたちでよかった」と。しかし次のページでボウヤが言うセリフ。
「さっき銀行強盗が三億円ぬすんで逃走中なんてニュースきいたから最初おじさんたちがそうかと思って・・・・」

     
‥‥‥段々と話が見えてきました。3人組は強盗で逃走用の『アシ』として車が必要だったみたいです。
しかしボウヤ、「でもこんな親切な強盗いないやハハハ」強盗は冷や汗を掻きながら苦笑します。そこへお母さんの唸り声。「ウウウウウ」ボウヤはおじさん達を急かせるのですが、タイミング悪く検問が。仲間の一人が強行突破をしようと提案するのですが、運転をかってでた強盗が静止します。調べに近付いてくる警官。
●なにか事件があったんだ、オマワリさんもごくろうさんね
     
のほほんとしたあおりとは裏腹に緊迫感が漂います。しかし、
取り調べかけた警官が、車内の妊婦に気付きます。ボウヤも「車の中でこどもが生まれたらどうしよう」‥‥と。それを見て慌てた警官は取調べをせずに車を行かせます。なんならパトカーを護衛につけましょうか?との提案に慌てる強盗(笑)丁重に断り走り出します。
     
●望月三起也先生にお手紙を書こう、住所はつぎのページ
●東京都千代田区神田錦町‥‥
     
おっと、危うく『ファンレター』を書いてしまいそうに!(笑)記載されている郵便番号3桁に時代を感じます。
     
頭のきれる強盗は「女と子供をのせたわけわかったかい?」と得意そう。
「さすが、あにき頭がするどいや」「まァね」
     
パーン ザザッ
一難さってまた一難。タイヤのパンク。横滑りをしながら停車する、スバル360‥‥。
     
その内、アミダくじでパンク修理をする者が決定。運転をかってでた『あにき』がパンクを修理する事に。
ギッチ、ギッチとジャッキアップ。「くそクジ運わるいや 修理させやがって もー」
雨の中、ずぶ濡れになりながらパンク修理をする強盗にボウヤがそっと耳打ち‥‥。
「ね‥‥おじさん 中の二人がおじさんぶっころしたらわけまえふえるなんていってたよ なんのこと?」
驚く『あにき』の背後に仲間の一人が‥‥「なおったか」と、その瞬間!『あにき』は持っていた拳銃を握りしめた拳で仲間の顔を殴り倒し、驚いて出てきたもう一人の仲間を「先手だッ」と撃ち殺してしまう。
     
ガーン ガーン

     
ここでも望月先生お得意のガンアクションが冴え渡る!
1ページ平均3コマ、20ページの豆本。凄いスピードで話が展開していく。しかし話は途中で失速をする事無く、クライマックスへ進んでいく‥‥。子供が読むオマケ本のレベルを遥かに凌駕する迫力。シリアスなシーンにコミカルな要素も入り、グイグイと作品に引き寄せられていく‥‥。凄い!!
     
仲間を殺った『あにき』は、ボウヤにお礼として口止め料を含んだ札束を渡す。‥‥程なく産院に到着。しかしボウヤが「あのう うちびんぼうでこんな大きい病院はいれないの」と、『あにき』に言うと、
(今、貰った札束があるやん!という疑問は置いておいて‥‥笑)
「かといってほかの病院へつれていくヒマないんだオレ」と、『あにき』のセリフ。そこへ追ってのパトカーが!
近付くサイレン!切羽詰った『あにき』は、「どうだこの車売ってくれないか 三百万はらう!」と言うと、ボウヤに札束を更に渡して雨の中に消えていく‥‥お礼を言うボウヤ。雨の中産院の前に放り出された母子。

要するにこれだけあれば大きい病院でも大丈夫だろうという『あにき』の心遣い(?)。
     
●チョッピリ親切で、よわきな強盗ちゃん ‥‥あおり文が笑わせてくれます。
     
ここ迄で18ページ、あと残り2ページで大どんでん返しが待っているなどとは誰も思わない。最後までストーリーを紹介しようと思ったのですが、勿体無いのでここまでにしておきます。
     
結論から言うと、悪は必ず滅びる‥‥望月作品の根底にあるテーマが垣間見えた傑作でした。しかし、一番得をするのは『雨小僧』のボウヤ。いや~やってくれます、大人顔負け‥‥(笑)当時の子供は『ウインナチョコ』を食べながら、こんな質の高いオマケ漫画を読んでいたんですね~。
もうすっかり読んでいる間は、当時の子供の気持ちになって読んでしまっていました。
     
食玩ブームの昨今、色々なメーカーからオマケとして豆本なんかが付いているのですが既に40年近く前にそれを実践していた『和泉製菓』は、時代の先取りをしていました。ですが新書版の書籍と違って大事に保存される事なく、現存数はかなり少ないといえるでしょう。今回、入手できたのは運が良かったというしかありません。
     
望月先生の膨大な作品の中には、雑誌などには掲載されたもののコミックスで発売されていない『名作』が少なからず存在することも事実です。そういう作品をどんどん掘り起こして陽の目を見せてあげたい‥‥なんておこがましくて言えませんが、このコラムを読んで頂いた方で是非とも紹介したい望月先生の作品があればどんどん投稿して頂きたく思います。
     


追記
芳崎せいむ先生作『金魚屋古書店』の抜粋(©小学館)今回、『少年ページ』についての知識が無かったワタクシは資料として先述の『Club 40ARIBABA』というBBSに書かれていました、芳崎せいむ先生の『金魚屋古書店 / 小学館 IKKI コミックス』を参考にさせて頂きました。5巻のP185、コチラが参照ページになります。(実は同書2巻の11話にはワイルド7も少し出てきます、ファンの方は必見!)
そしてその『少年ページ』について記載されているページを使わせて頂けないかとコンタクトをさせて頂いた処、快く了承して下さいました。芳崎せいむ先生及び小学館担当記者、佐藤様に心よりお礼を申し上げます。
本当にありがとうございました。
     
更に追記
『Club 40ARIBABA』。その中にあった『シラズマン』さんの投稿で、『カバヤ製菓』として、とあるオークションに出品されていたというお話。
調べてみますと出品者の方がカバヤの表記は間違いで和泉製菓の物だったそうです。なのでカバヤ・バージョンは存在しません。
     
前記しましたように、今回この執筆にあたり芳崎せいむ先生には楽しいお話とご協力をいただき心より感謝申し上げます。
と同時に芳崎先生より、望月三起也ファン、マニアには延髄のお申し出をいただきました。
芳崎先生ご所有の豆本『雨小僧』を「月刊 望月三起也」を楽しんでいただいているファンの方にプレゼント してくれるというのです。
全国にどれほどが現存しているのでしょう。こんな素晴らしいサプライズに大感激です。
詳細は追って「月刊 望月三起也」事務局よりなされますので、みなさんドキドキしてその内容を待っていてください。
毎月隅々まで月刊 望月三起也を読んでいないと、損をしますよ(笑)。
     


芳崎せいむ先生 【プロフィール】

ビッグコミックオリジナル(©小学館)、IKKI(©小学館)
1989年『あかちゃんと天使』でデビュー。

主な作品には

『金魚屋古書店』(IKKI)
『うごかし屋』(ビッグコミックオリジナル)
『テレキネシス(原作・東周斎雅楽)』(ビッグコミック
 スピリッツ)  以上 ©小学館

『デカガール(原作・長崎尚志)』(KISS PLUS(キス プラス)) ©講談社

『鞄図書館』(ミステリーズ!) ©東京創元社
                                        など。

芳崎せいむ公式サイト(http://www.seimu.net/)




望月先生のコメント
【望月三起也先生より】
そんなマンガ、描いたことも忘れてました。
特に私は短編を多く描いてまして、これ、多分、漫画界の記録ホルダーだと思ってます。
ヒマな人、調べてみて下さい。
今もJAを再販してますが、長編のページのあわせで、出版社は読み切り短編を載せます。
何を載せるか、その都度担当編集さんと打ち合わせるのですが、こんなのどうですとタイトルを云われても、私、記憶がない。
どんな内容だっけ?ってくらい。
私の若い頃は、今と違って連載の長編の他、各社から頼まれるのが短編読み切り。
長編は一度スタートしたら、構成かえられません。
時代劇連載してて、途中バイクもの描きたいと思っても、新選組にバイクは出せません。
そこで、喜んで短編にトライするわけ。
SFも描きたい、戦争モノ、怪奇モノ、サッカー、ボクシング、少女モノまでトライしたことがあります。
新しいことを思いつくと、すぐ具体的にやりたくなる。性格なんですね。
ですから、今まで描いたものも、リストを見せられてもタイトルだけでは内容、思い出せません。
雨小僧も、そうした一本なんですね。きっと、豆本が流行った時代だったんでしょう。
それにしても、超短編、よく描いたもんだと思います。
それも、そういうものも今見つけ出してくれるファンがいるってこと、有り難いですねえ。
常に前向き、あれもやりたい、これもやりたいと思って描いてきましたから、やってしまった事は過去。
だから頭の中のゴミ箱へ入れてしまうんでしょうか。
時に、忘れてた過去の短編読み切りを読み返す機会があると、ほとんど初めて見る気分。
この次どうなる?こうオチがつくのか、こりゃいけてるアイデアだと、他人が描いたものを読むように楽しんでます。
ただし、絵のヘタさ加減には、ガッカリですけどね。
   

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  • 芳崎せいむ*カレンダー :
    [コラム]月刊望月三起也さんにご紹介いただきました

    ダンディーでワイルドでセクシーでアバンギャルドでアウトローで、つまり一言で言って「かっこいい」漫画を描いたら右に出るもののいない望月三起也先生のオフィシャルサイト「月...
  • サイト事務局 :
    芳崎先生、わざわざありがとうございます。
    色々とご迷惑をお掛けしたにも係わらず(執筆者ちっち氏ではなく私JUN個人ですが)、万事快く対応していただき本当にありがとうございました。
    その上、大きなサプライズもいただき感謝に耐えません。
    本当にありがとうございました。

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