月刊望月三起也タイトル画像
望月マニ也

第28回

野性の七人 ― ワイルド7 another

執筆者:   2010 年 7 月 7 日

ファンならメンバー名くらいは知ってて当たり前という方、じゃあ、初めて彼ら全員の名前が勢ぞろいしたのはいつなのか分かりますか?sillazmanさんが荒業を駆使してその謎を突き止める!!

「野性の七人」のオープニング、ファンが集まれば、必ずといっていいほど、議論に花が咲く部分がある。以前、本サイトの掲示板でも熱く語られたことがあるので、ご存知の方も多いかと思うが、それは、ショット・ガン一閃、かの有名なシーンに続く、金塊強奪犯を取り囲んだ白バイ隊のリーダーとおぼしき人物の「トラとヘボピーは、このギャングカーと遊ぶあいだ交通止めをくらわしとけ」という謎のセリフだ。

すぐさま呼応して、チームを離脱していく2台のバイク。駆るのはヒッピー風の巨漢にキャッツアイ・サングラスの二枚目風。もちろん、我らが飛葉ちゃんの指示で、ヘボピーと八百が飛び出していくシーンなのだが…。
ちょっと、おかしくないか?「トラって誰だ?」

とはいえ、お手持ちの蔵書に、該当箇所が見出せない方もいらっしゃるかもしれない。
実は、この謎のセリフ、少年画報社から出版されたヒットコミックスでのみ、確認できる箇所であり、2001年に発刊されたコンビニ版のトクマ・フェイバレット・コミックス以降、最新刊のぶんか社コミック文庫まで、ここのセリフはすべて「八百とヘボピーは…」と訂正されている。もっとも、それはそれまでの30数年、この部分は「トラとヘボピー」のままであったということでもある。



さて、この場面、読み進めていくと、彼らの交通止めを不当だとする警官と揉めるシーンで、二枚目風がヒッピー風へ「きいた?トラさんや!」と問いかけ、ヒッピー風が「きいた。きいた。きいた。」とあり、続いて、片手で警官を持ち上げたヒッピー風が「ワイルド7、こちらトの字!!」と無線で連絡を取っている。

整理してみよう。つまり、現在、万人の知るところの八百が「ヘボピー」、ヘボピーが「トラ」と呼ばれているのだ。そして、「野性の七人」にはもう一箇所、最新刊のぶんか社コミック文庫においても、未訂正の不思議なセリフがある。

大団円も間近、MCプロ本部殲滅と意気込むワイルド7に、学生デモ鎮圧のために、現場を離れろとの指令が下る。ビル内部に取り残される主人公、友を残して現場を離れるのか、脳裏を過ぎる米軍基地襲撃事件、指令を無視して引き返す一台のバイク。それを追って並走してきた側車から静止の声が飛ぶ。追ってきた丸メガネの小柄な男に吼えるヒッピー風って、ややこしいな。ここで吼えたのはヘボピーね。
「パチ公!! きさままでとめる気かっ!!」…って、ちょっと待てぇ。誰が「パチ公」だって?なんと、ここでは両国までもが「パチ公」と呼ばれているのだ!



一体全体、私の知っているワイルド7は、何処へ行ってしまったんだろう。
こういう時は、慌てず騒がず、まずは、基本に戻って聖典たるヒットコミックスを精査してみよう。まず、各メンバーの見慣れた名前が最初に出てくるのは、どの時点かをチェックしてみる。

驚いたことに、ヘボピーは前述のMCプロ攻略の際の入隊エピソードの回想シーン、八百は「バイク騎士事件」の冒頭、オヤブン、世界はその後のVONでの会話のシーン、両国は箱根のレスキックジムで、遠井弁護士へ誤って飛葉への伝言を告げてしまうイコの口から、チャーシューに至っては、負傷した八百を水島総合病院へ預けて、ひと悶着あった後まで、作中で名前を呼ばれることがない。なんと4巻目の「バイク騎士事件」の後編にして、初めて七人すべてのメンバーの名前が明らかになるのである。



但し、掲載誌「少年キング」においては、一番の人気作品のこと、巻頭特集でメンバー紹介という企画が無きにしも在らず、とはいえ、もとより、ニックネームで呼び合っていて、フルネームの判っているメンバーの方が少ないという作品でもある。連載を開始するに当たって、名前が決まっていなかった、いや、もしかしたら、意識して決めていなかったのかもしれない、疑惑はさらに深まるばかりであった。

というのも、私の場合、ワイルド7との遭遇は、幼い頃の床屋さんでの順番待ち。ふと、手にした少年キングにあったのが、「器用な…まるで飛葉ちゃんみたい」というオヤブンのセリフ、「誘拐の掟」シラブ自治領での飛葉ちゃんの背面走行のシーンが初体験。

それ以前の「野性の七人」「バイク騎士事件」「誘拐の掟/前編」に関しては、後追いでヒットコミックを購入して読んでいる。つまり、八百は八百であり、ヘボピーはヘボピーで、云わば、新規の読者が見返しページなどによくある、登場人物の紹介記事に目を通してから読んだのと同じ状況。こうなると、マニアとしては、どうしても確認しなくては気が済まなくなってしまう。

方法はただ一つ、40年前の少年キングを手に入れるしかない!
みよ!これぞマニアの執念!「野性の七人」に関しては、69年47号を残して、運よく入手することが出来た。



すると、現在、コミックスで「野性の七人」としてまとめられているエピソードは、’69年9月21日・39号からスタートして、同年の12月7日・50号までの12週分、3ヶ月に亘って掲載されている。そして、少なくとも、手に入れた範囲では、予想していたような人物紹介のコーナーは無い。

そこで、初登場のシーンで八百が「ヘボピー」、ヘボピーが「トラ」と呼ばれたことに対する仮説を立ててみよう。

まず、新連載開始号において、縞模様で顔を隠した刑事と称する人物、草波さんのことネ、彼のバックにある私服姿の7人のコマに、八百がGIANTSのユニフォームを着ているのが見てとれる。
つまりは、「ヘボピッチャー」を縮めて「ヘボピー」。たとえ狭くとも、空き地を見つけては、バットとボールで三角ベースに勤しんだ当時の子供達は、相手のピッチャーをよくこう言って野次った、至極、身近な単語でもある。

そして、秘密探偵JAの時代から少年キングに連載されていたのが、「巨人の星」で一世を風靡した梶原一騎氏のもう一つのペンネーム、高森朝雄氏の原作によるところのプロレス感動まんが「ジャイアント台風」。
ここで、ジャイアント馬場の半生を描くのは、ファンの間でヘボピーのモデルともされている辻なおき先生。このコンビが69年の春に、「ぼくら」で連載をはじめたのが、のちに少年マガジンへと移行し、TVアニメとしてもヒットした「タイガーマスク」である。

望月先生と辻先生の交流に関しては、ファンの知るところでもあるから、「辻先生、虎覆面のプロレス漫画始めたの?」などという会話があったとしても不思議ではない。従って、ヘボピーが「トラ」と呼ばれたのは、辻先生の「タイガーマスク」からではないだろうか。

‘69年9月21日・39号で、「トラ」と「ヘボピー」として登場した2人は、11月23日・48号のMCプロ攻略のときに、飛葉を除く6人のメンバーとともに再び登場する。そして、この時点では「パチ公」と呼ばれる両国の「むりもない…ヘボピーの思想は学生たちに近いんだ…」のセリフを経て、初めて、なじみのヘボピーへと落ち着く。

さて、「トラ」がヘボピーになったということは「ヘボピッチャーのヘボピー」だった八百は、どうなってしまうのか?

「バイク騎士事件」のスタートは‘69年12月14日・51号。
カラー扉を開いた欄外の煽り文句に、★ワイルド7の隊員の前に、無残にかわりはてた八百が!! はたして、八百をおそった者はだれか!! とあり、ページには、眼光するどい草波の背から崩れ落ちる「ヘボピー」改め八百の姿が描かれている。



あぁ、ここで、初めて、なじみのヘボピーと八百が帰ってくるのか!!
そして、この号の続くページの欄外には、7人のメンバーの名前が小さな顔のカットとともに記入されている!! 短くコメントがあるのは、草波勝、飛葉、ヘボピーの3名、八百、両国、親分、チャーシュー、世界の5名は顔のカットと名前だけ、2週前の号で「パチ公」と呼ばれた両国は、何事も無かったように両国になっている。



少年キング‘69年12月14日・51号!! 7人の顔と名前が初めて一致した記念すべき瞬間であった。


望月先生のコメント
【望月三起也先生より】
『ヘボピー』って「ヘボなピッチャー」から来た名前だったとはねぇ、それなら『八百』の方だ。多分、最初名前をつける時、そういうことだったんでしょうねぇ、それが八百長って過去の印象が強くなり、『八百』に収まったのでしょう。ヘボピーって名もどこか捨てがたく別の人物で使った、それが現在の『ヘボピー』ってことでしょう。
もう40年以上も前のこと、指摘されて「そうかもね」ってくらい。

なにしろストーリー作りが好き、登場人物の名前は後から付ければいいってんで、どんどん先へ進めてしまうから、しょっちゅうこういうミスが起こる、そういったミスをチェックするため担当編集さんがいるのに、どこを見てるの? なんて人のせいにしちゃ男として卑怯だ。
ハイ、私のミスです。

『新ワイルド7』ではこういったことのないよう、登場人物の名前とキャラクター、オーディションのように何人も作り、そこから主要人物絞込みました。
でも基本的に私、名前は思いつきで付けてます。凝りに凝って悩むなんてことはない。
だから同じような名前「エンジェル」なんて、何度も使ってしまうんですねぇ。

これが自分の子の名前なら、ヘタにつけて成人したのち散々に言われますけど、紙の中から声は聞こえません。
みなさん満足なさっていると信じて描き続けているわけです。



  固定リンク   |   トラックバック(10)


コメント/トラックバック

  • hydek :
    す、凄いっす。(笑 

    sillazmanさんとかeddy-sさんの執念には恐れ入りました。 40年前というと雑誌の紙質もそんなに良くないと思うし、裏が透けて見えたりしませんか? 良く残っていたと思うし、良く見つけ出したと思います。

    多くのファンは掲載当時のままが一番見たいんですよね。

    でも本当に脱帽しました。
  • sillazman :
    〉hydekさん

    紙質って、どうなんでしょう。最近、週刊少年誌を手にしてないので判りませんが、トリビュートのヤングキングとは明らかに違いますね。グラビア頁なんかは顕著です。

    ただ、裏映りが気になったものは、今回、ご紹介した分にはありません。他に、1冊だけ厳しいのがありましたが、デジタルデータにすれば、素人でもそれなりに調整できますから、おいおい、こちらで、ご紹介出来ればと思っています。

    リアルタイムの世代なので、ワイルド7はもちろんですが、裏表紙や見返しの、今は無き、今井科学や日東だののプラモの広告やらなにやら、私にとってはお宝の山みたいなものです。
  • 匿名 :
    すげぇ、この思い入れ。
    俺もこの魂を小学生の息子に伝えます。
  • ぐりゅーん・へるつ :
    「トラとヘボピー」の話題は、中学生時代に友達とした記憶があります。

    その時も結論は「ヘボなピッチャーでヘボピー。初めは八百のことを指した」で、「その後、ヘボピーはヘボなヒッピー(仲間を見捨てたヘタレだから)ということになった」という解釈になりました。

    今思えば...ですが、お山の大将だったヘボを仲間が「ヘボピー」と呼ぶわけはないので、これは訓練中にワイルドメンバーから名付けられたニックネームなんじゃないですかね。

    だとすると「コンクリート・ゲリラ」で、昔の同志から「ヘボピー」と呼ばれるのはおかしい。

    あそこは「辻」と呼んで欲しかったですね。姓の実名が出てくるのが伏線になったのに...。
  • JUN :
    うん、私らも学生時代に「ヘボピーと八百」の解釈は上記に準じた解答を勝手に出してました~(笑)。
    懐かしいなァ‥‥‥

    で、ここで「重箱のスミ」コーナー、やっても良かですか?sillazmanさん(笑)。
    辻先生の「タイガーマスク」、「ぼくら」の廃刊によって掲載誌が移行する訳ですが、「少年マガジン」連載前に『ぼくらマガジン』という雑誌に移行、ぼくらマガジン廃刊ののちに少年マガジンだった‥‥‥
    まァ、ここは望月先生に関するページなので、このような細かいことは記載することはないンだけどね(苦笑)。
    なんか全てが懐かしくなっちゃって(笑)
  • sillazman :
    〉ぐりゅーん・へるつ さん
    〉あそこは「辻」と呼んで欲しかったですね。姓の実名が出てくるのが伏線になったのに...。

    望月先生にその手の伏線の回収を期待しては…イカンでしょう。
    八百の死に様だって、後付けでなんとかフォローが入ったくらいなんですから。

    〉JUN さん
    『ぼくらマガジン』ありましたねぇ。
    もともと、私の投稿自体が「重箱のスミ」なんですから、どしどし突っ込んでやってください。

    もっとも、40年も経ってから突っ込まれて、望月先生も災難でしょうけど、微に入り細に入り、読み込んだ挙句に想像を逞しくしちゃうところ、そして、ストーリー優先の展開ゆえに、こういった想像が出来るところも先生の作品の魅力の一つかと思っています。

    そこで、本来はヘボっちいピッピーってことなのかもしれませんが、個人的にはヘボピーは、思い入れがあるキャラなので、彼の名前から想像を逞しくした新説をご披露します。
    実は、在日米兵と日本人女性とのハーフで、ヘボピーのヘボは父親の名前をもじったところから付いたなんていう設定はいかがでしょう。人並み外れた巨漢だったり、女性でさえあそこまで明るく髪を染めることのなかった時代に、思いっきり脱色系の長髪をなびかせていたり、なにより、基地周辺にたむろしていた理由とか、米軍基地襲撃の動機に深みが出ると思いませんか。
  • ぐりゅーん・へるつ :
    sillazmanさん

    ストレートに「ヘヴィなヒッピー」が転じて「ヘボピー」...というのはどうでしょう。

    ヘボピーって、一番のパワー系なのに女性に弱いし、飄々としているし、「ヘボ」なんて呼ばれるし、進歩主義者のインテリだし...とっても複雑で面白いキャラクターですよね。

    そして飛葉に対して「絶対服従」というスタンスが特徴ですが、そのきっかけ等がまったく描写されていないところが望月作品らしくて僕は好きです(笑)。
  • sillazman :
    〉ぐりゅーん・へるつ さん
    〉ストレートに「ヘヴィなヒッピー」が転じて「ヘボピー」...というのはどうでしょう。

    冷静に考えてみれば、元はヘボピッチャー転じて八百の名前として用意されたのですから、「ヘボなヒッピー」ってのも出典不明の後付け解釈ですものね。
    読者がそれぞれ納得のいく解釈でOKってことですよね。いいなァ、こういう、ゆるいところ。

    もっとも、八百の設定に関しては、当時、日の出の勢いだった「巨人の星」へのアンチテーゼなんだろうなァって、子供心にニヤリとさせられたのを覚えています。
    我ながら、こまっしゃくれたガキだったんですねぇ。「巨人の星」もちゃんと楽しく読んでたんですけどね。
  • ぐりゅーん・へるつ :
    sillazmanさん

    日本プロ野球界の最大のスキャンダル「黒い霧事件」って、ワイルドの連載開始の時期と重なるので、「八百」の由来は「八百長」だと考えられますが(ファンの解釈?)、テレビ版だと自粛されたのか「嘘八百の詐欺師」という設定(ニックネームの由来)に変わってた...と記憶しています。

    元プロ野球の八百は草波隊長の評価が高く、彼の推理がたびたび採用されるし、厳しく叱責されるシーンもないのに、元サッカー選手のテルは滅茶苦茶冷遇されています。

    望月先生と、先生の分身である草波の趣味はサッカーなのに、なぜなんだ。

    これ、自分のなかでは「ワイルド七不思議」のうちのひとつです。
  • sillazman :
    ぐりゅーん・へるつ さん
    〉望月先生と、先生の分身である草波の趣味はサッカーなのに、なぜなんだ。

    テルはモデルがいるようですから別として、八百に関しては、元プロ野球選手なんて設定は、完全に忘れて描いてたのではないでしょう。

    一時、だいぶパロディのネタにされたので、世代によって印象が違うでしょうが、「巨人の星」って、漫画にしろアニメにしろ、ある意味、社会現象みたいに大人気だったんです。
    で、その頃、主人公が「消える魔球」ってのを投げるわけですが、何故、消えるかっていう謎解きで、毎回、物語を引っ張ったわけですね。

    ストーリーテラーとしての望月先生のスタンスとは違いますよね。
    そこで、連載中のサブキャラを使って、そもそも、野球で球が消えるってのは反則だろう。そんなものは催眠術かなんかで…1ページでまとめちゃえるだろうってのが、やりたかったんじゃあないでしょうか。
    折りしも、世間ではプロ野球の八百長事件が発覚して、連日、紙面を騒がせてるし、ちょうどイイやって感じで「八百」になったと。元々は、「巨人の星」への挑戦状だと思いますよ。

    TV版の方は、上から「八百長由来は、まずいよ」みたいなことが、あったんじゃあないですか。飛葉ちゃんですら、兄弟揃って、名前が違ってるし、
    それと、ワイルドの連載当初は、先生、ボーリングにはまってて、サッカー狂を自認するのは、もう、ちょっと後じゃあなかったですか。

コメント


トラックバックURL


表紙 » 望月マニ也