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望月マニ也

第40回・オリジナル解説「三起ヒイ記」第三回

「食」へのこだわり

執筆者:   2011 年 7 月 3 日

深く読み解くお馴染み解説シリーズの第三弾!
なんと今回は、一見アクションマンガとは縁遠い存在にも思える生活観溢れた「食」がテーマなんです。実に興味深いですね!

望月先生は食通としても知られ、最近はウェブ(大目録.com)上で「サッカー狂が食べる!望月三起也の一品絶品」というコラムを持っておられるなど、「食」との繋がりは深いです。

そんな先生の作品だけに、印象的なシーンには「食」が絡んでいることが多いですよね。

「ワイルド7」だけで見ても、「飛葉の下宿でのウドン会議」を筆頭に、「コンクリート・ゲリラ:トラック突入時のユキの家庭の食卓」「黄金の新幹線:冒頭の大臣との会食シーン」「同:両国の”スパゲッチ”大盛り注文」「緑の墓:腐りかけの生肉、ヘボピー涙の完食」「同:他人の見舞品を食べ尽くす”静養中”の飛葉」「死神を処刑:ゲリラ父子の食糧事情」「地獄の神話:刑務所所長宅での飛葉の”厚切り”羊かん要求」「灰になるまで:飛葉の女王へのウドンづくりムリヤリ教授」「同:飛葉のパスタうんちく」「魔像の十字路:飛葉の母親、栗ご飯の思い出」「同:八百の死の報せの動揺を隠しながらのヘボピーステーキ大喰い」などなど、次々と浮かんできます。

「俺の新選組」は、私にとって作品全体が「食」とは切り離せない存在です。土方が「これが武士か」と激高した「農民に虐殺された”竹光”の強盗」、江戸試衛館時代の「両国の川開きでの大食事」や、職を得るために近藤が奮闘する「野菜かつぎの芸」など、望月新選組のバイタリティの原点がこうした「食」(=職)への渇望にあった…と強烈に印象づけられました。

1970年の作品「突撃ラーメン」は「日本最初の料理マンガ」と言われていますし、比較的新しい作品では、「ロゼ・サンク」で30代となっている飛葉が、(侘びしく)鍋から直接料理を食べているという「生活感」にはクラッと来ました(笑)。

こうして列挙してみると、「食へのこだわり」とひとくちに言っても非常に多岐に渡っていることに気付きます。

やや強引になるかもしれませんが、それをいくつかに分類して考察してみたいと思います。

バイタリティの源、「生」の根源としての「食」

望月作品の「食」のシーンで、最も印象的なのがこれでしょう。「ワイルド7」の「緑の墓」は、飛葉の下宿のウドンのシーンから始まり、「静養中」の飛葉が他人の見舞品を食べまくるシーンで終わるという、「食」で始まり「食」で終わるエピソードですが、「生の根源としての食」がとりわけ鮮烈に描かれたエピソードとして、強く印象に残っています。

政治犯や凶悪犯を秘密裏に収容している、軍事産業の私設収容所「緑の墓」。「にせワイルド7」たちの策謀によって、この恐怖の監獄に投獄されてしまった飛葉たちは、虐待に耐えつつ脱出の機会をうかがいます。人間としての自尊心を棄てさせるための「食事」(「ブタのえさ」と呼ばれる)を拒否し、やせ我慢を続ける両国とヘボピーに対し、腐りかけの生肉を差し入れる飛葉ですが、その2人に与えるメッセージが素晴らしいです。

「ケモノになれっ いまはケモノになりきるのだ!! それがただひとつの助かる道だ わかったかワイルド7!!」

自尊心のために体力を消耗させるのではなく、今はケモノになって体力をつけ、来るべき反撃の機会に備えろ…という強烈な「生」へのメッセージ。地下牢からの逆光を受けた飛葉のワイルドな表情、ギラついた眼。「ワイルド7」屈指の名シーン&名セリフだと思います。

「緑の墓」のラストは、生死ぎりぎりの局面に追い込まれたワイルドたちの、まさにケモノの本領が発揮され、巨大な「檻」は食い破られました。このパワー、生の輝きの根源が上記の「食」であり、ここで示された「生のための食」という概念(これが本来の「食」の姿でしょう)が、飽食と呼ばれる現代、そして未来の読者たちにも強いインパクトを与え続けていくものと思います。

「ワイルド7」に続いて発表された「俺の新選組」も、ケモノのパワー、バイタリティが存分に発揮された快作でした。望月先生扮する弁士は、江戸試衛館編のイントロダクションとして「新選組の行動の原点とそのエネルギーの源の解明となろう」と語っており、特に序盤において「生の根源としての食」が描かれました。

前述の「川開きの大食事」とは、両国の川開きにおいて大商人や有力旗本らが盛大な宴会を行っている桟敷席で、試衛館一行が喧嘩騒動を自作自演し、その混乱に乗じて豪華な料理を頂戴するというとんでもない食事会で、バイタリティの原点としての「食」への思いが、普段の食事である「たくあんのしっぽ飯」との対比や、真面目に大暴れする土方たちの「演技」とともに強く印象に残っています。

「野菜かつぎの芸」は、高慢で嫌味な旗本が、召し抱えることを条件に、滑稽に野菜をかつぐ芸を見せるよう近藤にけしかけるもので、近藤は「職」か「名誉」かの厳しい選択を迫られます。結局近藤は、二度の機会とも「芸」を貫徹できませんでした。一度目の時は息子に寿司を食べさせたいがために恥辱に耐えた浪人に破れましたが、二度目の時はその芯の強さを見込まれて京都守護職配下になることができました。「食」=「職」→「職への渇望」…と言ったところでしょうか。

家族、仲間との団らんの象徴、家族の記憶とリンクとした「食」

食事は単に栄養を取るためのものではありません。家族や仲間と食べる食事は、お互いの絆を深め、なごやかで楽しい時間を過ごすふれあいの場であり、「団らんの象徴」でもあります。

そのような家族団らんの場に大型トラックが突入、それがきっかけで「家庭」が崩壊する悲劇に見舞われるのが、「コンクリート・ゲリラ」のOL時代のユキです。このシーンで素晴らしいと思うのは、「母の得意なイモ汁」「弟の大好物のたきこみごはん」「妹が好きなメザシの食卓」と、家族それぞれの記憶と「食べもの」が並行して具体的に列挙されていることです。家族の思い出は、食べ物の思い出とリンクし、一体化していることが多いですよね。

「魔像の十字路」に出てくる白井記者と飛葉との「栗の思い出話」も同じです。飛葉の母親は栗が好きで、小さい頃よく栗ご飯を作ってくれたそうで、そんな母親に白井記者はよく甘栗を届けてくれた…と思い出が語られます。白井記者の飛葉に対する思いやり、細やかな心遣いが読者にヒシッと伝わってくる素晴らしいエピソードだと思います。

ステイタス、格差の象徴としての「食」

「食事」には「家族の団らん」とは正反対の、「ステイタス」「格差」の象徴としての面もあります。「黄金の新幹線」の冒頭、都心の高級フランス料理店での運輸大臣との会食シーンで、それがとても良く描かれていますね。

保安係長からさんざん差別的な言葉を浴びせられ怒り心頭の飛葉ですが、セブンのチームワークで大臣を刺客から守り、最後に「肉片発言」でやり返します。高慢なエリートたちを、非エリートの飛葉たちが「行動」で見返す姿は、実に痛快でした。

このほか、前述の「川開きの大食事」や、「灰になるまで」の月校河面師の会食シーンでの「飛葉のパスタうんちく」もこの類型の例としてあげられると思います。

生命感、生活感の演出としての「食」

マンガやアニメのキャラクターは線で描かれた「絵」に過ぎませんが、これにどう「生命感」を持たせるかが、2次元作品を魅力的なものにするキモのひとつだと思います。「食べる」という行為は生命の基本的な営みですから、この「食」のシーンを印象的に作品に登場させることで、キャラクターに「生命感」「生活感」を与えることが出来ます。

望月作品の食事シーンはどれも本当においしそうに見えます。それは「料理」がうまく描かれているだけではなく、食べているキャラクターの「表情」が素晴らしいせいだと思います。彼らは実に幸せそうに、そして旺盛な食欲でモリモリと食べます。紙に描かれたキャラクターが「生命の輝き」を放ち、生きた存在になっています。これは印象的な「食」のシーンによる効果だと思います。

「食」表現のルーツ

先生の貴重な自伝的マンガで「カエルが燃えるとき」(ぶんか社文庫判「ロゼ・サンク」所収)という作品がありますが、ここに描かれている少年時代の「食」の苦労が、上記のような食表現の「原点」になっていると思われます。

「飽食」と呼ばれる現代ですが、先生の作品を通じて、改めて「食の本質」「食とは何か」について考えてみたいと思います。


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望月先生のコメント

食へのこだわり・・・・・
あるでしょうねぇ、意識的に作品(シーン)に登場させるというより、食べるって行為、人間性表現するのにこんなわかり易いものはないんです。
食べ方でも品も下品もあるわけだしね。その人柄も食の好みで読者に伝わりやすい。
漫画はセリフで説明するのが一番ヘタと偉い編集さん方に教わってきました。セリフなしでキャラ立てろ!!ってのがその方々の教えです。未だに原点だと思ってます。
と同時に自分自身、喰い意地が張ってるから食で迫るのは楽なのかもね。

中でも麺好き、そば、うどん、スパゲティ。
特にイタリアンは粉ものパスタだけで3~4皿注文したい人ですから。
ジャガイモに小麦粉まぜて煉るニョッキの歯ざわり。もちろんソースとの絶妙絡み合いの名人芸のできるお店を選んで行きます。 って、私の個性が少し表れているでしょ。

で、そのパスタですがロングとショートに分けますと、断然ロング派。
中でもこれからの季節、冷たいスパゲティと言われるものが、世の中幅を利かせていくと思うのですが、あれ、季節ものだけにその旬にしっかり何度も喰いに掛かりたい大好きなもののひとつ。
ただしあれは、上にイチゴを乗せようが桃を乗せようが、涼しさ売りならスパゲティはいけません。「カッペリーニ」使うべきなんです。
つまり日本の夏は、そうめんですよ。そばやうどんの太さではなく、そうめんの細さが涼しさを呼ぶのです。カッペリーニは0.9㎜以下の麺のこと。スパゲティは1.8㎜~2.0㎜の太さ、この違い判って食べて欲しい。
イタリア人って麺の太さで決めるってのも食にこだわる国民性かね。

こだわると言えば1.8㎜以下だと「スパゲッティーニ」って、少し名前が変る。この辺もこだわるなァ、イタリア人!!って感じだね。
さらに麺の断面が楕円形だとスパゲティと呼ばず、「リングイネ」ですよ。いちいち断面を確認しながら麺、喰うのかねイタリア人は。
さらに平たい麺だと「タリアテッレ」。日本で言うきし麺だね。それがより幅広になると「パッパルデッレ」だと。
より細く2~3㎜で「タリエリーニ」って、おいおい、細かく分けすぎだろ。天気予報じゃあるまいし、ミリでいちいち分ける必要あるの?
つり銭なんか大まかだし、時間の観念ものんきな国民性なのに、この食へのこだわりはさすがと言うか、まさに食が人生ってイタリア人らしいね。
私もたいがいこだわるけど、イタリア人には負ける!!

実はなぜ太さにこだわるかっていうと、ソースの絡み具合なんです。
濃い目のトマトベースには太め、薄いさっぱりソースには細めが合うわけで、太さだけじゃなく、メインはソースの美味さをいかにアピールするか、そこなんです、こだわっているのはね。
日本のラーメンだってスープは秘伝、それぞれを生かすには、太、細、縮れと麺が選ばれてくるわけで、主役は洋の東西問わずスープでありソースなんですねぇ。
人もまた同じ、それぞれの個性を生かす会社は伸びる。麺はのびちゃいけないけどね。
人はみな違う個性を持ってる。良い、悪いの前にどう生かすか、それで人生美味しくも不味くもなるんじゃないかな?
って、絵が好き、ネタを練るのが楽しい。それを食べてほしい、美味しいと言わせてみたいと、私はシェフとして三ツ星もらわなくとも、ファンの笑顔をもらいたくて、ネタの仕込みをじっくりやってまいりました。お口に合うといいけどね。
時々辛すぎたり、尖がりすぎたりと色々ありますけど、この先もトライしたいね、新しい味に。




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  • トクT :
     望月先生,ぐりゅーん・へるつ様,初めまして。
     皆さんに負けす劣らず望月作品の大ファンだったトクTと申します。
     中国における高速鉄道事故の報道を見ていて,ワイルド7『黄金の新幹線』のことが頭に浮かびました。そこでストーリー細部を思い出そうと検索するうちに,ここにたどり着きました。
     こんな素晴らしいホームページがあったなんて!! 高校生のとき,ワイルド7最終章『魔像の十字路』以来遠ざかっていた望月作品への愛が一挙によみがえりそうです。しばらく時間をかけてこのHPを拝見したいと存じます。

     さて,このコラムで『緑の墓』“腐りかけの生肉”のことを書かれていますが,同じモティーフがケネディ騎士団の始めの章にあったような記憶があります。たしか隊員の初期教育期間中に,食事として差し出された腐って凍った動物の頭部を,同じく「体力を保つにはこれを食うしかない」というようなことを言いながら源少年が食い始めるシーンがありました。何せ小学生だった40年ほど前に読んだ記憶ですので,多少曖昧な記憶ではあります…。
     ところで,1968年1月にプエブロ号という米海軍調査船が北朝鮮に拿捕されるという事件がありました。この時,囚われの身の米将兵は,食事として差し出される臭い魚の燻製のようなものを,やはり「体力を保つためには…」と鼻をつまんで口に放り込んで味あわずに呑み込んだというエピソードがあります。
     望月先生はこの話をヒントにされたかな? と思ったのですが,今あらためてケネディ騎士団の連載開始を調べるとプエブロ号事件より2年も前でしたね。さすが望月先生,アイデアの豊かさは現実に先行していたんですね。
     …中国の高速鉄道事故に付随して,『黄金の新幹線』のようなセメント水増し工事等も噂されています。こればかりは
    あまり現実になってほしくないですね。

    これからもよろしくお願いいたします。
    トクT
  • ぐりゅーん・へるつ :
    トクTさん
    コメントありがとうございました。

    僕も高架から落ちかかっている高速鉄道の映像を見て「黄金の新幹線」を思い浮かべました。

    あの国の武装警察とか当局の態度を見ていると肉鉄ガードマンや神話の隠蔽工作を思い出しますし、3.11大震災の自衛隊の活躍報道では「魔像の十字路」での大地震のエピソードを思い浮かべたり・・・と改めて望月先生の鋭い洞察力に感服している次第です。

    今後もよろしくお願いします。

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