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作品紹介

第36回

砂漠の狐

執筆者:   2011 年 10 月 10 日

単なる伝記コミックに終わらせないのが望月漫画の魅力!わずか30ページ弱の中にこれでもかとばかりに散りばめられたアイデアは戦記モノ以外のファンも虜になること間違いなし!

さて今回は一本の読み切り短編に焦点を当ててみようと思う。
実録ものというジャンルに入れることが出来るやもしれぬ一編なのだが、そんなカテゴリーを吹き飛ばす望月流エンターテイメント満載で描かれている。
時は1941年、第二次世界大戦下の北アフリカ戦線に跳梁し、一匹の『狐』と呼ばれた男の物語である。

エルヴィン・ヨハネス・オイゲン・ロンメル
(Erwin Johannes Eugen Rommel)
それは戦史に興味を持つ者、戦記好きには名の知れたドイツの名将ロンメル将軍、その逸話を小気味良く、望月三起也独自の推察眼と想像力によって描ききった佳作、短編の傑作。
砂漠の狐・・・・・ 敵連合軍から畏敬と恐怖の入り混じった形でそう呼ばれたというロンメル、当時史上最強と語られる北アフリカ戦車軍団を指揮したその男を描いたものは、映画、小説、ドキュメントと残されているものは多い。それほどこの人物を興味の対象として見る者は多いのだ。そんな中でも今作『砂漠の狐』は異色の部類に入るのではないだろうか。
物語はこのロンメルが、中将として北アフリカ戦線総司令官として赴任したころから描かれる。

太古の昔から人類は、他の動物たちと同様、そのテリトリー拡大と自己顕示のため限りなく戦いを繰り返し、その中で幾ばくかの頭脳を有する「ヒト」はその知恵を勝利のために駆使、戦略なるものを創造してきた。
古代ローマ時代、戦車なる戦いのための乗り物を考案したヒトは、近代それを鉄の塊で装甲した、攻撃、防御、両得の武器へと変貌させた。それは当時まさしく陸のモンスター的存在であったであろう。しかし両軍がそのモンスターを有した場合、戦いは一変する。数の力以外では戦力は均衡化し、モンスターはモンスターでなくなる。そんな中、全く新たな視点と発想で戦略を考案し自軍に活路を与えた人物がロンメルだった。

彼は平面に広がる地上戦に3次元的立体を持ち込み、それを駆使した。空間である。航空機により空から地上の全体像を俯瞰、自軍戦車隊を指揮した。
作中に於いても描かれるが、それはまるで将棋を指すさまに似ている。平面に垂直の思考を持ち込んだこの戦い振りは画期的、お陰で当時の北アフリカ戦線に於いて、ドイツ軍は破竹の勢いだった。
だがこの天才的戦略家だったロンメルに、実は致命的な身体的(?)欠陥があった・・・・・・ この望月三起也流考察が今作、物語最大のハイライト、後世伝えられる記録を検証したうえで語られるこの望月三起也流解釈は非常にリアルで大胆な推測として描かれる。
私の友人に戦史好きが高じてその知識が専門家はだしがいるが、その彼を以ってして「考えもしなかった・・・・」と当時言わしめた推論。
その部分は大いなる「ネタばれ」となり得るため、ここで記述できないが、戦史どころかロンメルという人物の名を知らぬ者でも物語として、一本の漫画作品としての完成度の高さもあり確信することとなる。
27ページ(扉絵を除く)という少ないページ数の中で、実在の人物の数年間とその裏側を描ききった構成力には舌を巻くばかりで、賞賛の言葉しか思い浮かばない。

※攻撃する戦闘機。その後、同遠近上より同機内部からのアングルでターゲットを描くことにより、その時間の流れと状況を見事に表現する。※

※攻撃する戦闘機。その後、同遠近上より同機内部からのアングルでターゲットを描くことにより、その時間の流れと状況を見事に表現する。※



師にしてみれば「大好きな戦車が描けて、元来『立て膝30分』の俺だから・・・・」などと仰るかもしれないが、それはご謙遜、照れ隠し。熟慮を重ね、熟考の末の出稿だったはずである。
少ないページ数だからといって全体のコマ割りが小さくなることもなく、ネームが多くなることもなく、ましてや売り物の望月流アクションが小粒になることもなく見事に収めきってしまっていることに、感嘆・驚嘆など以外のどのような言葉を選択できようか。
砂漠が多くの舞台であり背景でありながら、その無為な風景を感じることもなく、それはあらゆるアングルで構成し、ひとときも止まることのない構図を配してダイナミックに史実を展開していく。目線変化の多用が身上のひとつである望月作品の真骨頂、これもまた短編作品の見本的作品であろうと考えている。

特に目を惹くのはやはり上記にも記した構図構成。ドキュメント的内容を含むこの作品で、少ないページ数を補うべき的確に読者を理解させる構図が選択される。が、それはお仕着せ的な図解風にはならず、しっかりと“漫画”としての態を逸脱することはない。どのページもどのコマも、望月流テイスト満載で娯楽に富み、かつスペクタクルにダイナミックに読む者は作品世界に釘付けにされる。
作品の一部をご覧になっていただきたい。決して奇を衒ったようなコマ割りなどはしない、到ってノーマルである。そこに望月三起也の持つ力量が溢れている。
最近の漫画の作風に、やたらと・・・・ いや、全てのページの余白部分、専門的には「天」「地」「小口」「のど」というが、その本の綴じ部にあたる「のど」以外の3方にまでペンを走らせ、よりコマを大きく無駄なく使おうとする風潮がある。決してこの風潮(テクニック)を非難するものではないが、私などは常時そういった作画をなす意味を理解できないでいる。
見せたいもの(部分)を見せる、より見せる・・・・・ 「ここ、見せたいシーンなんだよねぇ!」的なときにコマからはみ出して描いたり、余白部分を全部使って描き込むことで、よりその主張は大きくなり読者に伝わる、伝えることが出来るのではないだろうか。
ここぞと言うときにそういった作画をすることで、作品にも読者にも、よりインパクトを与える手段として利用した方がよいと私は考えている。
先に述べたように常時ダラダラと描き込まれた作品は、せっかく使えるテクニックのチャンスを自ら放棄してしまっているとしか思えないのだ。勿体無い。
逆にコマ内であってもコマの中心にのみ必要部分を描きこみ、コマの四方は紙白(白部)のまま残すなどという大胆な省略画もこのテクニックの発展形と言え、これもまた望月漫画の特徴となっている。
最近は「開き」「起こし」というページネーションを利用するテクニックもどうもお座なりのようで、ちょっと寂しい感の私なのだが、これなどはまた今度機会があったら語ってみたい。
とにかく望月作品の全ては、私の考える漫画技法の正攻法、王道だと認識している。
いや、“私の考える”ではない、“私の教わった”が正しい言葉の選択だろう。
話が少し『砂漠の狐』からズレているようなので困ったものだが、好きに書かせてもらえるこのコンテンツならではと流してもらえると在り難い(笑)。

絵的にも当然、戦車や自走砲がたくさん出てくる。三号戦車に四号戦車、ハーフトラックにシャーマン戦車。おまけにタイガー戦車とね、いっぱい。
私など四号戦車の側面、キャタピラ部分に乗員が出入りできるドアスペースがあるなど、この作品を読むことで初めて知ったような気がする。前方フロント部分にそのようなドアスペースがあることは知っていたが、側面、それもキャタピラ動輪横に存在するなど全く知らず、この作品で初めてそのような車体構造だと知った次第。
またロンメルが指揮車とした「無線指揮車Sd.Kfz.250/3 グライフ」と、空からの指揮に愛用した「フィゼラーFi156シュトルヒ」という飛行機、しっかりと描き込まれているのだ。
グライフはすでに見本となるプラモデルが存在したのかもしれないが、シュトルヒまであったのだろうか?私はプラモ・マニアではないのでこういった物の詳細は知り得ないが、資料の乏しかったであろう当時に、これほどしっかりと描き込まれたものを見せてくれたことに驚いた。
特に短滑走離陸機シュトルヒなる飛行機は望月先生、お気に入りの一機だということで、それを描く思い入れなんてものもあったのかもしれない。

さて、そのラスト付近ではゲシュタポ(秘密警察)隊長ハインリヒ・ヒムラーらしき人物も登場し、名将ロンメルを描くこの物語、非業のラストへと向かう。
史実上なんともソクラテス的選択をしたロンメルなのだが、これも武人(騎士道)としての哲学だったのだろうか?悔しさの残る何とも言えないラストが胸に迫る。

しかし私には読後ひとつの疑問が沸いていた・・・・・
ロンメルが指揮機として愛用した「フィゼラーFi156シュトルヒ」、それは間違いなく小型の航空機で、その乗員スペースは決して広いとは言い難かったはずである。そこに師の推察するロンメルの持つ心身的欠陥との符合があるだろうかという疑問。なんとも私ごときが風波を立てるようで恐縮至極ではあるが・・・・・
アレ? これってキモとなる部分のネタばれヒントになっちゃう?

ここで問題です。
さて、望月先生が推理したロンメル将軍の心身的欠陥とは、いったい何でしょう?
・・・・って、もう開き直り(笑)。
答えはみなさんが、『砂漠の狐』を読んでみるべし!

2011年10月 アスカ/JUN記


さてさて、どうでもいいネタ話だ。
初出オリジナルを読んだ私だが、そのオリジナルでは2ページ目にあるロンメル将軍の紹介ページにて、フルネームである『エルウィン・ヨハネス・オイゲン・ロンメル』と写植が打たれていたのだが、過去2度の単行本化では何故か『エルウィン・ロンメル』とフルネームではない。これはどういう意味があるのだろうか?

またロンメル(Rommel)、実際の発音は「ロメル」に近い。
そこでこれを濁点を付けたイメージで発声してみる。「ドメル」・・・・・・ お判りだろうか? アニメ「宇宙戦艦ヤマト」(東北新社)に登場するドメル将軍とはロンメル将軍を模したキャラクターである。

もっとどうでもいい情報だ・・・・
11月15日が誕生日となっているロンメルだが、これは我が国に於いてもヒーロー的な人物『坂本龍馬』の誕生日であり、命日なのだ。

『砂漠の狐』
1972年1月26日号 ヤングコミック(少年画報社)
1983年        「メコンの鷹」サンコミックス(朝日ソノラマ) 併録
2003年        「地獄の予感」戦記コミック傑作選2 BUNKASHA COMICS(ぶんか社) 併録

※一度きりしか登場しない名も無き兵士の描き方もカッコよさ満載!※

※一度きりしか登場しない名も無き兵士の描き方もカッコよさ満載!※



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お待ちしております。
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望月先生のコメント
【望月三起也先生より】
映画でも『砂漠の鬼将軍』というロンメル将軍を主人公とした作品もありました。
確か20世紀FOX制作のはず、FOXが砂漠の狐撮るって、シャレかな?
ってことは、MGMならライオンキングか?
本題に入ります。

ロンメル、好きですねぇ。知り合いじゃありませんが会ってみたい歴史上の人物では、(織田)信長とこの人。新しいことに次々と挑戦していくところが共通してますしね。
もっとも対談できたら多分ビビッて質問できないと思うし、両者ともカリスマ的オーラ出しまくりだろうし・・・・・
信長さんに、アナタは新しいモノ、珍奇なモノを取り入れることに熱心なようですが、特にマントや甲冑にかなり興味をお持ちのようですから、一度海外で直に見てみたいと思いませんか? また行きたい国、食べたいモノは?
「スペインはマドリード、鎧のデザインがいい!! ついでにパエリア喰ってみたい!」
と言うか? 「そりゃフランスだな、ワインとチーズ、パリジェンヌも見たい。可能なら“ヤスケ”のように、身の回りの世話頼んでもいいかも・・・・・」

いかん!! ネタに入ってる!!
私、こういう妄想癖があるんです。その癖がアイデアの基となり、次々と膨らんで作品になるわけで・・・・・
今回のテーマから外れてる、元に戻してアスカ君、細かい読み込みと、まァ褒めてくれること、くすぐったいね。
確かにこういう作品って自分が描きたいから、凝りに凝って妄想走らせ、自分の意識があっちの世界へ飛ぶんですよね。その意識は砂漠に暑さであり、喉の渇きなんです。
それを素直にペンの先へ乗せるってとこでしょうか。

さてアスカ君の最後のツッコミというか疑問というか、フィゼラーFi156シュトルヒに乗る、または乗れないのではないか?心身的に有り得ないと突っ込んでいます。
残念、よォ~くこの飛行機の特徴を見て欲しいね。
他の飛行機と違い窓が外へ張り出しているのが最大の特徴、そのうえ頭上もまたガラス張り。席(シート)は狭くともここへ座ると空中に居るような気分、開放感が味わえるのですよ。
また降りたいと思えば15m四方の空間があれば着陸できる性能をシュトルヒは持っているのです。
「自由」なんですねぇ、「自由」「開放感」、だからロンメルはこの機を常用したのです。
そこんとこ当時描き込んでおいた方が読者には親切だったかもねぇ、再販のとき描き加えておこうと思う。

ネタばれになるからと、抑えて書くのも難しいもんですねぇ。

この一編、読んだことのある方なら納得して貰えたと思うのですが、未読の方はぜひ手を尽くし探し回って見て欲しい。私としてもお気に入りの初期作品です。



※ロンメルの名前、単行本では短くしてあるってことですが、困ったもんですねぇ。
今度担当者に会ったらよく言っときます。
この長々とした名前が貴族的、というか騎士的でいいのですからね。
エルウィン・ヨハネス・オイゲン・ロンメル・・・・・



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  • JUN/アスカ :
    さすがフィゼラー・シュトルヒ大好きの先生、たしかドイツのある展示物に乗った経験があるんでしたねぇ。
    私らァ そこまでの経験はない、現場検証(?)までして確認した作品です、いちゃもんつけた私が浅い、甘い、悪い(笑)。
    とっとと尻尾巻いて「恐れ入りました‥‥‥」で、ございます。

    そうかァ、そうなんだァ。
    外見からだけじゃ判らないもんなんですねぇ、小型機だから普通に“小型機”と判断していました。
    またひとつ先生に教わりました(笑)。

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