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作品紹介

第33回

「ワイルド7」
単行本徹底比較(後編)

執筆者:   2011 年 6 月 7 日

ワイルド7の足跡を圧倒的なビジュアルで堪能。単行本化でのさまざまな違いも見所です。かならず前・後編合わせてご覧あれ!

(前編)からの続きです。

【シリーズ紹介(6)~(9)】

21世紀に入ると(なんか歴史の講義みたいですね)、前回の最後に紹介しました雑誌連載時の状態を忠実に再現したTFC版の発売以降、ワイルドの単行本は単純に連載をまとめるだけの目的ではなく、付加価値を付けたオリジナリティのあるものが次々と登場してきます。
そんな中で、また日本以外で展開した珍しいものから今回は紹介していこうと思います。



(6)英語版
【シリーズ】WILD7(英語版)
【出版社】ComicsOneCorp.
【刊行】2001年11月~/絶版
【巻数】全6巻(未完)
【サイズ】B6
【総ページ数】1,160頁
【厚さ】9cm
【重量】1.1kg


左がオリジナル、右が英語版

■TFC版を英語に翻訳してアメリカで発売したシリーズです。
英語の場合、日本とは逆に左から右に読んでいくため基本的にページはすべて反転されます。
そのため登場人物はみな左利き。銃を握るのもバイクのアクセルも左、時計の針は右から12時の方向に近づいてきます。
といった妙な部分もありますが、セリフ以外の看板などに描かれた文字や書き文字も一つ一つ丁寧にCGで英語に書き直されているため、見事にアメコミっぽさが強調されています。
メンバーたちの名前は、
飛葉(HIBA)
ヘボピー(HIPPY TOM)
八百(OTTO)
オヤブン(DON)
両国(BACKFIRE)
世界(SEKAI)
チャーシュー(CHASHU)
のようにアレンジされてます。
TFC同様、こちらも完結には至らずわずか6巻「誘かいのおきて」途中で終了しています。
そのためユキは登場せずじまいでした。「YUKI」あるいは「SNOW」なのか、どうに呼ぶつもりだったのかがとても気になるところです。


(7)愛蔵版
【シリーズ】愛蔵版
【出版社】株式会社 実業之日本社.
【刊行】2002年11月~/絶版
【巻数】全12巻(完結)
【サイズ】B6
【総ページ数】11,083頁
【厚さ】74cm
【重量】9.8kg


■1冊あたり約1000頁というものすごいボリュームで存在感のあるシリーズです。
あまりの厚さに各巻オリジナルでキャラクターと名セリフが描かれた「しおり」が封入されていたくらいです。

刊行中には、カバー折り込みの応募券を送ると景品が当たったり、全巻集めて特製小冊子がもらえる(全巻セットBOXには封印済)などの企画が充実しており最終巻発売時に望月先生のサイン会も実施されました。
単行本の内容としては、初めてカラーページが入り、各巻の巻末には豪華著名人(望月三起也/土山しげる/赤塚不二夫/小池一夫/秋本治/夏目房之介/菊池秀行/ちばてつや/大沢在昌/萩尾望都/モンキー・パンチ)によるあとがきも加えられました。
背表紙は連続絵になっているため全巻揃えて並べると絵巻物のような壮大なイラストが出来上がる仕組みで、まさに愛蔵版として部屋に並べて飾っておくのにふさわしい豪華な作りとなっています。



(8)eBook版
【シリーズ】eBook電子書籍
【出版社】株式会社イーブックイニシアティブジャパン.
【刊行】2006年2月~//発売中
【巻数】全48巻(完結)
【サイズ】-
【総ページ数】11,089頁
【厚さ】-
【重量】-

■デジタルコンテンツとして紙媒体以外での初の単行本化です。
現在(2011/2)もイーブックジャパンのサイトより購入が可能です。
http://www.ebookjapan.jp/ebj/title/5520.html
閲覧には専用ビューワーソフトが必要になります。(購入サイトより無料でダウンロード)
内容は愛蔵版に準拠しているのでカラーページはありますが、本編以外のあとがきなどは収録されていません
また各巻の区切りはHCと一緒です。
個人的な印象ですが、電子書籍の魅力として単行本のノドにあたる紙のつなぎ目が無いため、見開きページは予想以上に迫力がある気がしました。
大好きなシーンが画面いっぱいに見られるのは感動ですね。
当然、場所をとらずiPadなどを使えば自由に持ち運びができるのもメリットです。


9)ぶんか社版
【シリーズ】ぶんか社文庫(完全版)
【出版社】株式会社 ぶんか社.
【刊行】2007年10月~/発売中
【巻数】全27巻(完結)
【サイズ】文庫
【総ページ数】11,388頁
【厚さ】60cm
【重量】7.3kg

■現在購入可能な最も新しいバージョンは2度目の文庫版です。
完全版だけあってTFCからさらに、これまで未収録だった原稿を発掘しています。
また同社文庫シリーズではワイルド以外にも「新ワイルド7」「続新ワイルド7」、外伝となる「ROSEⅤ(短編集)」「飛葉」なども発売されている上に、愛蔵版の全巻購入特典だった番外編的な前日談「ワイルド7BEFORE」を1巻本編冒頭に収録するなど、【ワイルド7=飛葉ワールド】を完全網羅したサービス度になっています。
ファンにとって嬉しいのは、書き下ろしで各巻の表紙、そして恒例にもなっている背表紙の連続絵(第一期1~6巻、第二期以降7~27巻)、裏表紙は書き下ろし以外にも過去イラストに加筆をしたコラボイラストなど新しいことづくしという点。

カバー折り返しでは著者近影代わりに望月先生自身がモデルとなり、カラー写真でコレクションの披露や秘蔵写真公開といった企画を実践しています。
巻末には、望月コラムが毎回収録されています。
各巻には初出の記載があり、モノクロですがイラストギャラリーなどが収録された(17、18、27)巻もあるので資料性の面でも非常にレベル高いシリーズです。
特に18巻は、収録エピソードが「朝食に死を」と比較的短い分、秘蔵のメンバーバイクの初期設定図案やイラストギャラリーで60Pもの巻末特集が組まれ、とても贅沢な内容になっています。


(番外編)ミニコミ「ワイルド7」
【発売】株式会社 セガトイズ(2007年)

■見た目は全くHCと一緒なのですが、コミックスを約1/6サイズにした精巧なミニチュア。
ということで、セガトイズから発売された「ミニコミ」という玩具です。
1~10、11~20巻がそれぞれセットになって発売されました。
実際にHCと並べてみるとその小ささにビックリします。

ですが、やっぱり中身もホンモノ、ワイルド7!……ということで、小さいながらも中を開けば描かれていいる内容は忠実に再現してあり、実際に読むこともできます。
「750ライダー」「あばしり一家」「キューティーハニー」「タイガーマスク」「デビルマン」といった名作コミックスと一緒にセットとしても販売されました。

【バージョン違いの楽しみ方】

連載開始から40年以上、多くの読者を楽しませながら何度も我々の前に登場してきた「ワイルド7」ですが、誤植や掲載ミスを訂正したり、そのときどきの必要に応じてセリフを変化させたり、以前発売されていたものとの差別化を図るため未収録原稿の発掘や新企画など、バージョンによってさまざまな特徴があることが分かります。
また、このように同じ作品を比べていくことで、思わぬ面白い発見をすることもあります。

上の図は3つとも「魔像の十字路」の中でメンバーが××するという重要なシーンの最後に不気味に登場する預言者の、同じページを並べたものなのですが、当初「少年キング」掲載時も含めたHCや愛蔵版では、一番左のように意図的にページ全体の天地を逆転させてキャラクターの視点とともに不安をあおるような効果も出していました。
絵も逆ならセリフも逆で非常に印象に残る演出です。
これが真ん中のトクマDX版ではページが通常通りなので違和感はありませんが、このバージョンだけを読んだ人はココの仕掛けには永久に気づかないかもしれません。
単に間違えただけということも考えられますが、今度は右にある現在発売中のぶんか社バージョンを見てみると、これが絵の方は逆転しながらもセリフは普通どおりに。
演出効果と読みやすさ?意見や好みは分かれるところではないでしょうか?
こういうことに気付いてしまうと、また新しい「ワイルド7」が出たときにも密かな楽しみがグッと増えてくるというわけです。

最後に今回ご紹介した中から、是非みなさんそれぞれの一番お気に入りの「ワイルド7」シリーズを見つけて愛読書にしてください。

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月刊望月三起也ではみなさんからの投稿をお待ちしています。
「望月マニ也」「作品紹介」のほか書式や内容は自由、採用者は「月刊望月三起也」で掲載。
また掲載された方には、望月先生書き下ろし特製ポストカードをプレゼント!


是非、月刊望月三起也事務局までメールを送ってください。
お待ちしております。

info@wild7.jp
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望月先生のコメント
【望月三起也先生より】
yazyくんの部屋って、本の隙間で生活をしているのかなって想像してしまうくらい、まァ、よくも集めているものです。
彼と話をしていると、もう博士だね。私の忘れていること、すぐに的確な答えが返って来る。それだけ資料としても集めているってことじゃないかな。
今回この単行本の集め方も半端じゃない、英訳版までどこで手に入れたのやら、とんでもない人だ。
私の手元にも同じ英訳版、当然あるのですが、実は目も通していない。だからキャラクターの名前が変えられているって初耳、よくもまァ出版元も断りも無く変えてくれること。と目くじら立てるほどのことでもないけど。

ヘボピーの「ヒッピー」はそのまんま、八百は「オッズ」、つまり賭けに引っ掛けたのかと。
オヤブンの「ドン」はイタリア・マフィアの親分そのまんまなんですねぇ。
いや面白い、今度改めて読んでみようっと!!

ワイルド7もこうして何度となく出版されてきてますが、中でも印象に残っているもの・・・・
まずは「愛蔵版(実業の日本社)」。この分厚さ!、驚かされます。
全巻パッケージされた特別パッケージセット、お持ち帰りしましょうと持ち上げたとたん、腰の悪い人はぎっくり腰にもなろうかというヘビーな重量。宅配が望ましいって売りも驚かされます。
個人的には背表紙、全巻揃えてひとつの絵になるという構図、楽しめましたねぇ。
これは一巻でも見ることのできる絵になっていて、そこに続く絵もまた半端が許されないという制約の中で、まるでパズルのように一冊づつ本の厚みを計算しながら絵巻物のようにこなすっていう別の大変さ。
だから挑戦のし甲斐があり楽しいわけです。

壁のクリア。
人生の中で色々な壁が来ると言われていますが、わざわざ壁を作るってのも私の生き甲斐。難しいテーマを与えられるのを喜びにしてしまうんですねぇ。
壁に向かっているとき、頭抱えるよりアイデア考えられるのが楽しいのですよ。
単純に原稿料計算したら、掛かった日々から考えても、絶対損してます。でも、それより楽しさ優先なんですねぇ。
多分、壁の設定、低いのかもしれませんがね。

この版ではあとがきに友人総出で協力してくれました。
みなさん、よいしょではなく、楽しんでるコメント寄せてくれて、これも私の方が毎回楽しませてもらいました。

文庫版では「コミック文庫(ぶんか社)」かな。
オリジナルで全巻描き下ろしたカバー、これまた少し大人バージョンで美女を並べるってテーマもお気に入り。
さらに著者近影といって作者の写真を使うのが一般的ですが、30数年それを断って著者は顔を出さない。というのを通して来ていました。
どうしてもというときは、27歳のときに撮った写真を使ってたりしてね、道で逢っても判らないってとこが、いいのですって。
これを面白がって、いっそ仮装大会ってどうですか?と担当編集者にノセられて、スタジオで撮ったわけ。
いやもう楽しめましたねぇ。
編集の人って、人をノセるのが上手くないと一流じゃないんですねぇ。

高荷義之(※)先生の大ファンの私としては、「徳間コミック文庫(徳間書店)」発行時にカバー絵をお願いできたとき、これも嬉しかったねぇ。
高荷先生の戦車の絵、もう最高。一日見ていても飽きません。
自分の本のカバーや表紙は、本編を含めて自分の作品。誰にも描かせたくないという信念ですが、高荷先生だけは特別。
ファン心理です。



※高荷 義之(たかに よしゆき、1935年12月18日 - )
イラストレーター。
群馬県前橋市出身。少年雑誌、架空戦記の挿絵・表紙絵、プラモデルのボックスアートなどを数多く手がけ、師匠の小松崎茂と共にメカニックイラストの専門家として知られる。
多方面に渡るメカニックの知識は凄まじく、資料の欠損しているものは知識で補い、設計のミスまでも指摘するほどである。※




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コメント/トラックバック

  • 健太郎 :
     後編をとても楽しみにしていました。

     どのシリーズも、それぞれの特色があっていいですね。フアンとしては、全部欲しくなってしまいます。作品の仕掛け(演出)も、初めて知りました。

    >また新しい「ワイルド7」が出たときにも密かな楽しみがグッと増えてくるというわけです。

    仰るとおり、ほんとうにそうだなぁと思いました。

    >電子書籍の魅力として単行本のノドにあたる紙のつなぎ目が無いため、見開きページは予想以上に迫力がある気がしました。大好きなシーンが画面いっぱいに見られるのは感動ですね。

     ほんとうにそう思います。パソコンと大画面液晶TVをつなげば、50型以上の大画面で、大好きなシーンが見れますね。凄い迫力だと思います。

     それぞれのシリーズ、それぞれのよさ・魅力をたくさん感じることができて、とても楽しめました。
     本当にありがとうございました。(^▽^)
  • yazy :
    > 健太郎さん
    ■ご覧いただきありがとうございます!

    みなさんそれぞれの中に、馴染み深いお気に入りのシリーズはあると思いますが、他のシリーズの中にもきっと違う魅力はあると思うので、比べて読んでみるのも楽しいと思います。

    とはいえ、どれもかなりのボリュームになってしまうので集めるのが大変だったり置き場に困ってしまうのが、ファンとしては嬉しくもありツライところでもありますね!

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