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作品紹介

第44回

地獄の神話(後編)

執筆者:   2012 年 7 月 1 日

前回に引き続き、eddy-sさんがワイルド7傑作エピソードの「地獄の神話」をご紹介。今回はこだわりのメカニック編ということで、ますます力の入った解説になってます

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先日、初めて入間航空祭を見に行ってきました。

普段は静かな普通の街並みの上空が、その日だけは、航空自衛隊松島基地から
やって来たブルーインパルスが曲芸飛行を行い、各航空自衛隊所属の航空機が
お披露目を行うという、地元の人にとっては年に一度のお祭りです。

私も久々に胸が高鳴り興奮しました。それと同じぐらいの興奮を紙面上で表現し、
見る者を魅了した作品それが、これからご紹介する第13話「地獄の神話」です。


この第13話の冒頭シーンは航空ショーから始まります。ゼロ戦が、スピットファイアーが、東京上空を飛び、ユンカース、メッサーシュミットやB-17等も登場します。

冒頭からミリタリーメカニックが登場する本作は、まさに
望月ワールド全開とも言えるそれまでの望月作品の集
大成とも言ってもいいほどの、アイデアと興奮に満ち溢れた痛快娯楽アクション大巨編でした。当時中学生でミリタリープラモデルを作るのが大好きな私の趣味とドンピシャで、私の中ではワイルド7のベスト1の作品です。

第13話「地獄の神話」に登場するメカニック等は、とても一言では語れないほど大量に登場します。前回に引き続き今回は登場する「メカニック」にスポットを当てご紹介していきたいと思います。

まずは冒頭のシーンにも登場し、ストーリー前半の見せ場である「ゼロ戦」と「B-17」の空中戦。

ゼロ戦は日本人のある程度の年齢に達しておられる方なら、知らない人はいない程有名な海軍の艦上戦闘機です。正式名称は、「三菱零式艦上戦闘機(みつびしれいしきかんじょうせんとうき)」。三菱重工業が開発し、中島飛行機でもライセンス生産されていました。

米軍側の将兵は「Zero(ゼロ)」と呼ぶ事が多かったので、本編の中でもB-17の副操縦士が「ゼロだ!!」と叫んでいました。

こちらの本編に登場するゼロ戦は、濃緑色だったので五十二型と推測されます。

(望月先生が二世部隊の活躍を描いた「悪一番隊」の真珠湾攻撃シーンに登場するゼロ戦は灰色で一一型だと推測されます。)

本編では、「ワイルド7」がゼロ戦に搭乗し、神話側がB-17と時空を超えての日米の戦いと相成りました。

攻法も、いわゆる一撃離脱戦法(いちげきりだつせんぽう)という、戦争当時と同じ一般的に目標となる敵機より高空から降下しながら銃撃、そこからシュートアウト(銃撃していた敵機の前に出る)する前に旋回・離脱、再度急上昇し優位高度を回復するというものです。本編も当初この攻法で戦いますが、B-17側もただ手を拱いてはいません。戦争中ならともかく、平和国日本の上空でその方法で攻撃するとB-17の下にあるものまで一緒に攻撃してしまうことになり、地上の色々な物が被害を受けます。
そこで次に考えられるのは、B-17と同じ高さで左右から攻撃するサイドアタック法。

しかし、これはB-17の左右にある機銃から集中砲火を浴びてしまうことになり、ゼロ戦側にもリスクがあります。はたして、ワイルドに勝算はあるのか・・・!?この結末は?

さて、空中での戦いも圧巻ですが、地上でも色々な戦いが繰り広げられます。
まず最初は、菊川警部のギャランGTOvs神話モンスター装甲トレーラーとの鬼ごっこ。
ギャランGTOは、車マニアならご存知の、「三菱自動車」が1969年にモーターショーで発表し1970年から発売したファストバックスタイルの2ドアハードトップクーペ。
ボンネットの形状等から本編に登場するのは「GSR」でしょうか?

菊川警部の個人所有かと最初思いましたが、途中警察無線で話しているので、覆面パトカー仕様だったと思われます。
(GTOは少年画報社版ヒットコミックス「ワイルド7」「谷間のユリは鐘に散る」後編の表紙にも登場しています。)道路を外れて山肌をまるで4輪駆動のごとく縦横無尽に操るシーンは圧巻で迫力満点です。
一方の通称「モンスター」、装甲トレーラー。後部は特殊な機構の不気味な形ですが、牽引する前面の牽引トラクターは、クラッシックは面立ちで角ばった形状がミリタリーマニア心をくすぐります。正式名称は「スキャンメル・トラクターTRMU/30」。イギリス軍が第二次世界大戦中に戦場に残された戦車の回収用に使用していたトラクターです。

このスキャンメル、「地獄の神話」で初登場だと思われている方もいらっしゃるかと思いますが、実は、第10話「首にロープ」で既に登場していたんですよ!!どこかと言いますと、ぶんか社版文庫では、P.178の俯瞰のカット。積んでいた戦車もイギリス軍仕様のグラント戦車と、どうしてあそこでグラント戦車だったのかという理由が、イギリス軍繋がりだったという訳です。AFVマニアである、望月先生のこだわりですね!

この「モンスター」神話一味の秘密兵器としてその後何度も登場します。荷台の部分は、取り外しが可能で、シコルスキー社で開発された双発クレーン・ヘリコプター「CH54  TARHE(タルヘ)」で急送出来るようになっています。
神話の悪事を謀る時に使用される、ある時は移動社長室、またある時は移動指令室となっていました。話の後半は出ずっぱりでした。「TARHE(タルヘ)」の意味は、18世紀のアメリカ原住民の酋長の名から付けられたそうです。(彼のあだ名が「ザ・クレーン」であった為)

その後「新・ワイルド7」でも、米軍から拝借して「ワイルド7」が使用するシーンがありましたが、最新作「ワイルド7R(リターンズ)」ではついに、「ワイルド7」の正式装備として登場しています。後部にワイルド7のマークがデカデカと施してしてありました。そして、クライマックスの「モンスター」vs「セブンレーラー」。接近戦も見ごたえがありました。一瞬モンスターに破壊されたかと見えたその時、セブンレーラーから飛び出た物は・・・!?

そうそう、10月号の作品紹介、「砂漠の狐」にも登場した「フィゼラーFi156シュトルヒ」が、本作にもチラっと登場してます。それもストーリー上かなり重要な役割りで。

さらに本編中に、バイクの展示会のシーンが登場しますが、先日青山にあるホンダのショールームで実際に、映画「ワイルド7」に登場した7台のバイクの展示会が開催され、ホンダ以外のメーカーのバイクが一堂に展示されることなど、一生のうちで有るかないかの大イベントでした。原作のシーンと比較してみて面白かったです。


繰り返し読んでも、とても言葉では言い表せない程のカッコよさ。何度も言いますが、「地獄の神話」をまだ
未読の方がいらっしゃいましたら、騙されたと思って一度読んでみて下さい。決して後悔はさせません!!

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望月先生のコメント
【望月三起也先生より】
ゼロ戦の型式に詳しい・・・・・ って、日本人なら当たり前だと思っちゃいけない。
この作品を描いていた当時のファンってのがそういった意味で“当たり前”で、今は「灰色だから前期タイプ、グリーンは後期タイプ」なんてことすら判る人、多分少ないと思いますね。
あの当時のファンは、ミリタリーブームってのもあって、かなり手強い。描き手の方も調べに調べ尽くし、登場させる以上ツッコまれないように手を尽くしたもの。言わば読者との攻防戦があったわけ。
そこんとこがまた描き手の楽しさでもあり、マニアックに英軍トラックなど使って、“そこ”を判ってくれる読者に当たると、大魚を釣ったような楽しさを味わえるのです。
お互いマニアなんですねぇ。

と、まァ、読者に喜んでもらえる趣味で良かった。
これが「日舞が趣味で・・・・」とか、バレーだ、タップダンスだってことだと、漫画に活かし、読者にウケたかどうか。
サッカーって趣味の方、漫画の上では“ウケ”より“コケ”の方が多かったかねぇ。

そのサッカー、海外リーグやワールドカップ見学で何十回渡航したか覚えてないのですが、ついでに戦記ものネタにドイツの古戦場、レマーゲン鉄橋跡を取材し、作品一本モノにしました。
ノルマンディもいつか描こうと現地へ行ってますが、未だ実現せず。フランス、イギリス、ドイツと武器や軍装の博物館巡りは数知れず、この溜め込んだ資料で大戦もの、いずれやりたいと思っています。

eddy-sさん・・・・・ 『地獄の神話』をワイルド7のエピソード中、トップに挙げてくれて嬉しいねぇ。自分でもメカもの、とことんやれて、さらにキャラクターも結構描き分けできて楽しんだ一編です。




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コメント/トラックバック

  • 黄金銃を持たない男 :
    この作品紹介を読んで、地獄の神話を買いました。
    飛葉大陸は何度も大怪我を負いますが、それでも敵に立ち向かっていく姿は本当に素晴らしいです。
    「007慰めの報酬」の空中戦のシーンを観て、古い飛行機に少しだけ興味が出た私ですが、地獄の神話の空中戦はそれ以上の迫力がありますね。しかも、ゼロ戦を操るのはワイルド7のメンバー。彼らに不可能は無いんですね。
  • eddy-s :
    黄金銃を持たない男さん

    私の記事にコメント有難うございました。

    飛葉は「地獄の神話」中だけで、二回も入院してますものね・・・。
    しかも植物園の戦いの後の入院は3ヶ月も入院する羽目になるほどの大怪我・・・・。
    余談ですが一説によると、植物園の対決で飛葉は出血多量で既に死亡しているはずだと、望月先生のお知り合いの医師の方が検証されて先生に言われたそうです。(苦笑)

    零戦とB-17の空中戦は、もし実写で映像化されたら過去にない大迫力になる事間違いないでしょうね。原作通り東名高速道路?から水族館までのルートを忠実に再現すれば。

    ワイルドのメンバーに不可能はない!ヘボピーはヒッピー時代に米軍基地に忍び込んで行くほどの猛者で、B-52の操縦をマスターして盗もうと画策仕掛けたと記述があります。
    ただ、今回肝心のヘボピーは零戦に搭乗してないので事の真意は定かではありませんが・・・。(苦笑)
    逆にオヤブンが、元予科練?だっと本人が行っているので、ゼロ戦の操縦に関してはオヤブンが八百と両国に教えたのかもしれませんね?

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