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作品紹介

第34回

秘密探偵JA『香港の黒い霧』

執筆者:   2011 年 7 月 3 日

望月作品の金字塔、このコーナーでも過去に何度か取り上げた超人気作品「秘密探偵JA」の第一エピソードをご紹介。あらためて時代を超えてなお親しまれている本作の魅力が分かります。

国家と名の付くところに諜報機関という組織が存在しない道理はない・・・・ などと勝手に思い込んでいる私だが、我が国日本では事実現在それを標榜する組織はない・・・・ 表向きは。
しかし、もし存在するならば「こんなのがあるといいネ」と子供たちにワクワクドキドキのアドレナリンを放出させてくれる娯楽作品が1965年週刊少年キング(少年画報社)第2号からスタートした『秘密探偵JA』。それはまさしくイアン・フレミングの創出した英国情報局秘密情報部(※)所属の007ジェームス・ボンドを彷彿させるスパイ活劇として読者の熱狂的支持を得た。

この『秘密探偵JA』は過去2度、このコンテンツ内で記述されている。第5話『赤い天使』と第14話『脱走列車』がそれだが、今回再度・・・・ との声があり、それではこの超の字のつく傑作の誕生となる第1話『香港の黒い霧』に触れずしては進まないだろうと己に言い聞かせペンを執った。いや、正確にはキーボードと格闘を始めた。
このシリーズの全体像や世界観に関しては、上記した作品紹介コンテンツをお読みいただくこととして省略させていただくが、それでも避けて通れないものが望月作品としてのスパイ物というカテゴリーである。
実は望月先生、スパイ物と断言できる作品の執筆はこの『秘密探偵JA』ただ一本、後にも先にもこれ以外は発表されていない。
もちろん作品中、任務遂行のため敵中潜入というエピソードは確かに諜報(スパイ)活動だが、そのような場合は別として数えていない。そうでないとあのワイルド7もスパイ物のカテゴリーに入ってしまう。また『隼』という旧日本軍下に於ける特務機関員ものもあることは事実だが、誰もがイメージするスタイリッシュな現代スパイものとしてのカテゴリーには、私の独断と偏見(?)を持って入れなかった。
なぜかって?独断と偏見だから(=^ o ^=)

―― 秘密探偵JA 香港の黒い霧 ――
さまざまなトラブル、敵から日本を守る影の防衛組織「J機関」。「大佐」と呼ばれる男をトップに優れた機関員(諜報員)が日夜その下で働く。そのJ機関の中でも選り抜きの機関員にのみ与えられる「JA」の称号を持つ者3人・・・・
事件は各国のスパイ網が張りめぐらされ、暗澹とする国際都市香港で起こった。日本に蔓延する変心薬と呼ばれる薬物殲滅に潜入中のJ機関員S3号が何者かに暗殺され、合同指令を受けていたS6号はS3号と懇意だった一人の青年と事件を追うことになる。その次郎と呼ばれる青年は街のあらゆる階層の人々と懇意というだけでなく、暗黒街にも精通しているという不思議な魅力と胆力を併せ持つ。そんな次郎の協力をする知人が次々と死を迎え、事件は香港の魔窟、九竜城へと移っていく。
次々と襲い来る危機を腕力と頭脳で脱する次郎とS6号、敵の正体と基地へと辿り着くがそこには益々強大な敵と罠が待っていた・・・・


ファンの多くは、この秘密探偵JAの大ヒットを強く認知するあまり、スパイ活劇(アクション)というカテゴリーを望月先生に重ねることもあり、またそれも当然のことかと思うが、実際はこの作品ただ一本のみ。
大ヒット作品の持つイメージ定着の威力を感じることのできるいい例かもしれない。

さて本編「秘密探偵JA」の第一章となる『香港の黒い霧』だが、そのタイトル通り全編を通して中国特別行政区“香港”を舞台として展開される。
連載当時の香港はまだ、イギリス統治の植民地として都市機能は存在し、東洋の妖しい国際都市としてある意味、魑魅魍魎(ちみもうりょう)が跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)するイメージが、少なくとも私にはあった。映画・TVドラマ・小説などの多くの娯楽の中でも香港がそのように形容され描かれていたという背景も私の記憶の中にある。
そういったことから私など、舞台が香港と認識した時点でもうすでにワクワクドキドキだった。
もちろん赤い天使編で記述させていただいたように、私個人は赤い天使編(単行本)が初見で他は後読み、出版元の少年画報社へ単行本を発注し配達されてくるまで、どれほど胸が高鳴ったか。今思い返せば「ヲタク」の気持ちが理解できるほどだ。 ・・・・って、これがヲタクか?(苦笑)

物語冒頭、JA飛鳥次郎はただ一介の青年(少年)として描かれる。香港の一地区を根城とする街の人気者で、地区の警察署長とも懇意な関係という描かれ方。後続編から読んでいた私は、この事件でJ機関へスカウトされたのか? などと思いつつ読み進めていたのだが、実は次郎にとってはこのエピソード、すでに事件の最終プロセスで、“前のり”として以前からここ香港へ潜入していたのだと明かされる。まるで忍者の「草」である。
さりげなく“土地”に住み着き、土地の者と同化し諜報活動をする・・・・・  うう~ん、深い。
連載当時をリアルタイムで接していた読者は、「タイトルにある秘密探偵って誰?」だったかもしれない。これは読者をも欺いていた感がする。
あれ? これってネタばれですか? まァ このくらいはいいんでねか?(笑)

漫画作品として、とにかくおもしろい、次から次へとクライマックスがやって来る。一難去ってまた一難、休みなくワクワクが連続する。
謎の登場人物出現に襲撃、カーアクションに拉致拘束、トリックでアッと言わせた後はもちろん銃撃戦。スパイ物には必要不可欠(?)な秘密の小道具と、まったく息もつかせない。カーアクションと一言で言っても手を変え品を変え、何度も描かれる。中には大型バスによるアクションシーンなど、まだハリウッド映画でも試みていなかったはずである。
舞台もまた地上戦から潜水艦出現、海戦と描かれ、戦闘ブイトール(垂直離着陸機)との重機による対戦と、これでもか! のてんこ盛り。
構図構成展開も当時としては群を抜いていたもので、一気に人気作へと登りつめ、ヒット作となったのは当然の結果だと思われる。
立体を認識させるパースの強い構図は、アクションのダイナミズムをさらに増幅させ、そのアングルは上方、下方、水平目線と常に位置の変化を繰り返し、特にアクションシーンでは目線をより下方へ置いたアングルから描き、その迫力を強調してみせる。
若きアクション漫画家「望月三起也」の大ヒット作第一章としての面目躍如である。

そして驚くべきは、やはりその描き込みである。物語が展開する場面設定が、こと細かく読者へと伝わる描き込みである。
しっかりと要所々のバックが手を抜くことなく描き込まれていることで、現状場所がどこなのか、昼なのか夜なのかなどで思案することはない。
日々数多く発表される漫画作品の中には人物のみが描かれ、背景はほとんど描き込まれることもなく、状況がまるで把握できない作品も散見できる。中にはその人物さえバストショットのみで全身像はない、ましてや場所の特定や状況示唆のためのロングショット画もない。なんて作品まで存在する。
若い作家たちはいったい何を参考として学習してきたのだろうと僭越にも心を過ぎってしまう。大いに望月作品に学んで欲しい部分と言えるだろう。
ネーム(言葉)で語る必要はない、漫画なのだ、絵があるのだ、絵で表現すればいいのだ。出来なければそれはちょっと違う・・・・ 若き師の声が聞こえるようだ。当時としてはまさに画期的な作品だったはずである。
それは望月三起也、作家人生のひとつのポリシーとして現在も同様、いや、益々強められていることはファンの方ならばお判りのはずであろう。またそれは発想の斬新さのみにあらず、確かなデッサン力あってのものだということを理解するのは容易である。

しかし、この描き込むこだわりが逆に仇となったシーンもある。
望月三起也真骨頂、魅力の銃器であるが、敵から奪取した銃はUSルガーであったはずが、次のシーンではワルサーP38へと変貌していた。これなどは当時だれも描き分けることのなかった銃を一種々こだわって描き分けた師なればこそ、そのミスが露呈してしまったと言える。いい加減なL字型の物体を描いていれば、判りゃしなかったのだ。私に言わせれば賛辞したいものである。
またカーアクションは何度か展開されるが、そこには英国車アストンマーチンが描かれ、カーアクション以外でもちょくちょく登場してくる。映画ファンならば007シリーズに於いて主人公ジェームス・ボンドの愛車としてその初期に、主人公並みに話題となった小道具満載のスパイカーとして有名である。
この記念すべき秘密探偵JA第一話に登場させた師の思いはどんなところにあったのだろう。単に愛すべきクルマだったのか? または挑戦だったのか?
そう言えば・・・・ JA飛鳥次郎が作中メインで使用する銃はドイツ製「ワルサーPPK」、これもジェームス・ボンド愛用の銃だった。
うん、やはり一種のオマージュ的要素は強そうだ。
また、J機関に於いてJAの称号を与えられし者だけが成し得る技、映画では有り得ない、漫画だからこそのワクワクする夢の設定として「雷鳴撃ち」なるものが披露される。銃弾4発で敵10人は倒せるという必殺の技。作中JA次郎がその技によって窮地を脱するシーンがあるのだが、その妙技は擬音のみの世界に隠され描かれることはなく、その全貌はここから五年後の最終話「黒い手の商人」まで読者は待たされる。引っぱられたなァ(笑)。

そして事件は落着し、諜報員の宿命として世界各地を転々とせざるを得ないがゆえの別れがラストには描かれるのだが、ここはまさに東洋(日本)的虚無感溢れるシーン、欧米のスパイ映画などでは決して描かれることのないシーンであろう。
読者は今エピソードの余韻と次に来るであろう新たな活劇に思いを馳せることができる。いいラストである。
雨の中、去っていく次郎の姿に往年の日活無国籍映画を彷彿とさせる。

日本に於ける本格スパイアクション漫画の草分け的存在、秘密探偵JA。
もちろん先生を一気に人気作家へと押し上げた傑作、名作であるわけで、過去7回と再販を繰り返しているその登場編、第一話。ファンを自認するならば、ここは完全読破しなければならない。
だが私も最近知るところとなったのだが、この「香港の黒い霧」というサブタイトル、実は単行本化に伴って改変されたもので、連載時は『変心薬』というサブタイトルだったらしい。
また単行本初版編集には一巻目を表す巻数『1』が本の背に印刷されていない。これは次巻にも同じく『2』の数字は存在しない。
これもまた謎で、その理由なりは望月先生の記憶にないと言う。いやそれ以前に巻数が印刷されていないことにすら気づいてなかったという。まさしく望月三起也、その人らしいと言えるかもしれない。

『秘密探偵JA』  (雑誌掲載時は「ひみつ探偵JA」と平仮名タイトル)
1965年 少年キング(少年画報社)2号~1969年34号
第1話「香港の黒い霧」(変心薬 改題) 1965年同誌2号~15号

1967年~ キングコミックス(少年画報社)
1972年  キングコミックス新版(少年画報社)
1976年  ヒットコミックス(少年画報社)
1982年  秋田漫画文庫(秋田書店)
1992年  スターコミックス(大都社)
2000年  漫画文庫(ホーム社)
2009年  コミック文庫(ぶんか社)
(現刊行中の「ぶんか社コミック文庫」版は初の完全版、過去未収録ページ収録、
ページネーションの正確再現とマニア待望版である)


2011.7.JUN/アスカ記



※映画作品内では英国海軍情報部と呼称されることが多く、多分「MI6」のことだろうと推測されている。



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お待ちしております。
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望月先生のコメント
【望月三起也先生より】
USルガーが次のシーンでワルサーに変ってた? なんてGunマニアの読者にあってはそこまで突いてくるか、恐ろしいねぇ。
私、根がいい加減。銃はいい加減に描きませんが、登場人物が多くなると誰が何を持っていたか、勘違い、思い違いが始まるんです。
ひどいのはワイルド7でヘボピーが「トラさん」って名前だったなんてのもある。

そもそもこの「秘密探偵JA」もそうだけど、ストーリー作りが大好き、ペン入れしながら次の展開考えてるもんで手元が頭と切り離されることしばしば。
特にこの秘密探偵JAは、トリック、新兵器、擦れ違い等々、面白がって一番ノリの良かったころ。描いている本人が楽しんで前へ前へと駆けるように描いていた気がするのです。
一番漫画らしい漫画、楽しんで描いていた気がします。つまり、「フィクションの魅力はこうだ!」って具合で。

無知って恐ろしいね、香港って舞台、こういう恐ろしいところって自分なりのイメージで描いたものだから、その数十年かのち香港へ旅行したときは驚いたね。
そもそも初の香港行はサッカーの試合をしに行ったのですよ。私の草サッカーチーム『ワイルドイレブン』引き連れて、相手は香港野菜組合チームだったり宝石商チームって具合。
その対戦相手チームが夜になるとパーティをやってくれまして、そのときの一人がやたらサッカー通の香港人、馬が合う。改めて晩飯に招待するからと申し出があり、喜んでサッカー話の続きをしたいってことに。
で、待ち合わせ場所、「とりあえずうちの店へ」とその宝石屋さんの住所、地名書いたメモと電話番号を書いてもらいました。それを見て「ゲッ!」 驚いたのなんの。
なんと住所は『九龍城』ですよ!! 秘密探偵JAの中で治外法権的街とした舞台ですよ。そこの宝石店だって?マフィアか!!

約束の日、地下鉄に乗って行きましたよ。駅に着く、地上へ出て間違えたかと。
どこにも怪しいところはない、ごく普通の商店街。通行人もどう見ても普通、さらに観光客と思える人もいっぱい、にぎやかな香港そのもの。
彼の店はすぐに判りました、近代センスの明るい店。これならついでにお土産もここで買っちゃえと1万円出して母親の分を含めて5人分「よろしく見繕って」と頼んだところ、色々と熱心に見繕ってくれました。不精モンの私ですから良いようにと五つのパッケージを作ってもらいました。
香港はニセモノ天国でもありますけど、ちゃんとした店では変なものは置いてないのです。“金細工”はメッキじゃない。
帰国して更に驚かされたのは、なんと1万円じゃ手に入らない品物だったそうで、日本の半額だそう。
つまり彼は大サービスをしてくれていたんです。

その夜は彼の招待で一流中華飯店でのVIPルームで腹一杯。その後、香港の若いもんが集まるクラブなんかへ連れていってもらいました。

参ったな、冷や汗ものです。怪しげな街「九龍城」として私は彼の町を漫画に描いちゃったンですねぇ。
「I'm sorry」ですねぇ。

でも過去は、香港でも観光客は近づくなと言われていた場所だったのは間違いなかったそうで。ただしそう言われていたのは、JA次郎の活躍した時代よりももっと前の時代だったそうです。

その後も香港には縁があり、10回ほど行っています。その都度彼とは夜遊びやってます。いい男なんだよ、同じ趣味を持つと何国人でも関係ないんだよね。
さらに地元民だけに顔が広い、取材したいところ、色々面倒をみてもらいました。
香港の人ってファミリー感覚で商売でも付き合うからとにかく顔が広い、一度なんか香港刑務所にまで入りました。捕まってじゃなく、取材ですよ、もちろん。

とまァ、秘密探偵JAの思い出は書くこといっぱい。
またの機会に、さらに深く・・・・・



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コメント/トラックバック

  • eddy-s :
    まったく偶然ですが、昨日「週刊少年キング」の1965年2号の「ひみつ探偵JA」連載開始号から15号まで通しで見ました。(笑)

    当時の漫画は、「忍者物」や、「戦争物」がまだ主流で、その中で秘密兵器を駆使して悪をやっけるスーパーヒーロー「JA」は、同じ「少年キング」に連載されている他の漫画と見比べても、飛びぬけて面白い漫画で、毎回息をつかせないストーリーが面白いと改めて体感しました。


    「007」ブームが日本で起き、いち早く迫力のあるカーアクション、実在するGUNを自由自在に操る漫画を描かれておられた望月先生の職人肌の匠とも言える才能には脱帽です。 
  • :
    初めまして。
    家の大掃除していて、大昔に愛読していた
    秘密探偵JAを見つけました!
    全15巻、懐かしく再読しています。
    本当に最高の漫画ですね。アニメや映画化してくれないかなぁ・・・と改めて思う今日この頃です。

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