月刊望月三起也タイトル画像
作品紹介

第66回

Jドール

執筆者:   2014 年 8 月 7 日

家族から引き離され、世界を股にかけて活躍する孤高のヒーローは、お調子者で女好きのどこか憎めない男!アダルトな雰囲気も人気の傑作です

jd12望月Jシリーズの裏J作品、その名も『Jドール』!

【はじめに】

日本の影のエージェントが世界を股に掛ける傑作アクションマンガ、望月
三起也Jシリーズ3部作!
(僕が勝手にそう名付けているだけですけれど…)

まず1作目は『秘密探偵JA』です。まだ少年の主人公飛鳥次郎が、世界
各国のスパイを相手に大活躍。2作目は、『優しい鷲JJ』です。
大学受験を控えた高校生の乗寺飛浪が、学業を気にしながらこれまた各国のスパイと渡り合う。そして3作目が今回紹介する『Jドール』なのです。
JAやJJが未成年を主人公にした少年読者向けの表J作品だとすれば、『Jドール』は大人の男性を主人公とした少年向け制約を取っ払ったアダルトな裏J作品です。

日本の外務省から政治がらみの暗殺を請け負う謎の殺し屋Jドール。連作短編全8話、約300ページの作品で、JAやJJと比べるとページ数はかなり少ないです。しかしこの1冊の中には望月作品の魅力が凝縮されています。それでは僕が感じた『Jドール』の7つの魅力をお話しします。
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jd011.舞台の魅力…【世界放浪】

望月作品が他のマンガと違ってすごいところは、常に世界という舞台での活劇を描いているということです。JJ、JAのみならず「マッドドッグ」や『はだしの巨人』など、どれも海外が舞台となっています。基本は国内で活躍するはずの組織ワイルド7でさえも「千金のロード編」や「熱砂の帝王編」などでは海外を舞台とした作品でした。当然、国毎に風景や習慣、文化が異なります。どの作品でもリアルに読者を異境の活劇の世界に引きずり込めるのは、かなりの資料を集めてしっかりと準備されているからなのでしょう。その手腕は『Jドール』でも同様です。わずか短編8話ながら、主人公Jドールは、西ドイツ、アフリカ某国、アフガニスタン、香港、アメリカ、日本とめまぐるしい程に放浪します。どの国も、しっかりと特有の雰囲気が描き込まれていて、すんなりと「世界放浪」に浸ることができるわけです。初期の頃から、常に世界を舞台に描き続けてきた望月作品だからこそ味わえる魅力です。

jd052.アクションの魅力…【アイデアアクション】

望月作品と云えばアクションシーン。構図が上手いとかポーズがカッコいいとかはもちろんのこと、特筆すべきことは常に新たなアイデアが盛り込まれるということです。あれだけ数多くのアクションシーンを描き続けてきても未だ尽きることの無い溢れる程のアクションとアイデア。そのアイデアは『Jドール』の中でも飛び切りユニークです。第1話で、愛銃オートマグを撃ち込む見開き2ページのカッコいいアクションシーン。しかし、これだけではありません。実はこのページの直前がアイデアアクション。Jドールは、敵に身体検査をされていて銃を隠し持っていないはずなのですが、思いもかけないところからドでかいオートマグを一瞬で取り出すアイデアアクション!(あぁ、今ここでトリックを言ってしまいたい)第2話で、照準が壊れた戦車で砲撃する場面で、アダルト作品的な照準合わせのアイデア。第4話で、航行する旅客機内の銃撃戦。機体に穴を空けない様に弾丸の威力を弱める常識を超えたアイデア。どれも斬新で、もう脱帽です。

常に新たなものを創り出そうとする望月作品の貪欲さが、短い1編の中でさえもみなぎっています。

jd073.取り巻く女性の魅力…【次々と美女】

望月作品と云えば、女性が魅惑的。ボディの描き方が絶品です。少年向けの『ワイルド7』でさえも、ユキのボディの描き方とかは悩殺ものでしたもの。ましてやアドルト作品である『Jドール』は、少年向けの制約はありません。官能シーンが存分に描きこまれているわけです。現れる美女は、騙す女あれば助けてくれる女ありで、タイプも国籍もバラバラです。そしてJドールは、まるで趣味は女しか無いよ!と言わんばかりの女好き。どの女性ともしっかり関係してしまうのですよね(笑)。どの話も望月的アダルトサービスが満点です。

4.アイテムの魅力…【日本人形】

望月作品では、作品を貫くベースとなるアイテムが見逃せません。例えるなら、「水戸黄門」には欠かせない印籠の様なアイテムです。『ワイルド7』の警察バッチを「チラッ」や、JJでの仲間を証明する秘密マークなどがありました。jd03

『Jドール』では、とびきり粋なアイテムが出てきます。毎回殺しの現場に日本人形を置いていくのです。だから彼は、「J(日本)ドール(人形)」と呼ばれるわけです。どの話も殺しの舞台は常に外国なのですが、その異境の風景の中に殺しの痕跡として日本人形だけを残していくという余韻。洋風の景観に対峙する1点の和風アイテムのコントラスト。何てカッコいいアイテムなのでしょう。さらにこれだけではありません。Jドールは小さな一人娘を日本に残してきているのですが娘とは会ったこともなく、父親とも名乗り出ていません。せめて父娘の絆の代わりに、殺しのひと仕事を終える度に、その国の人形を買って足ながおじさん的に娘に贈り続けるのです。殺しの現場に置いていく非情な「ドール」と、娘に贈り続ける愛情の「ドール」。Jドールが扱うこの2種類の「ドール」のコントラストが、非情な殺し屋の顔と、愛情深い父親の心を合わせ持つ主人公の悲哀を表現しているというわけです。

『Jドール』の呼び名の意味は深いのです。

jd085.チームの魅力…【ドール部隊】

望月作品の魅力はまだまだあります。その中でも外せないキーワードはチーム(あるいは仲間)でしょう。数々の戦記ものや、『ワイルド7』、『俺の新選組』など、どれもチーム(仲間)の素晴らしさ、友情の尊さを熱く描き切っていました。さえない一匹狼の殺し屋で、女のことしか頭に無いという主人公Jドール。チームや友情等の熱いものが出てくるムードでは全くありません。しかし、そこは望月作品。期待以上にしびれるエピソードが用意されています。実はJドールは、ベトナム戦争で活躍した外人寄せ集めチーム「ドール部隊」の生き残り。隊員のコードネームは出身国の頭文字を付けて呼ばれていたという過去なのです。
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彼は日本人だから、コードネームが「J(日本)ドール」。名前にもう1枚、過去の伝説という重みが加わってきます。そして、このエピソードでは、危険な仕事を成すために昔の戦友と再びチームを組みます。何というしびれる設定でしょう。過去の伝説をさりげなくほのめかして、登場人物に重みをもたせる。こういうくだりは、望月作品の中でも最高にワクワクする部分です。

『新ワイルド7』の「暗雲のツーペア編」で、悪党が飛葉の伝説をほのめかされておびえるシーンとか、『学園シャンプー』で、ローニンが関東第7騎兵の生き残りという伝説をほのめかしているとか。もう本当にしびれます。できることなら望月先生に、ぜひ現役中の「ドール部隊」の活躍を描いていただきたいぐらいです。

jd116.望月キャラの魅力…【今回は草波キャラが登場】

手塚治虫先生の作品についてよく言われる言葉で、「スターシステム」というものがあります。手塚先生がいつも好んで描くおなじみのキャラクターが、色々な作品の中で、その作品毎の登場人物として描かれるというものです。(もともとはハリウッド映画で使われていた言葉らしい)望月先生が抱える俳優陣(?)の中では、総ちゃん(「俺の新撰組」、「学園シャンプー」など)とかが、とても魅力的だと思います。そして「Jドール」では、大サービス!なんと望月俳優プロダクションが抱える中でも、大スターと言える『ワイルド7』の草波キャラが登場するのです。

Jドールに命令をくだす外務省のお偉方の「青柳」という役で出演します。『ワイルド7』でのクールな冷徹キャラの魅力を維持しつつ、加えてJドールの元恋人を奪って妻としてしまうアダルト作品的な悪役ぶりが加わります。この青柳のせいで、Jドールは日本国籍を抹消され、愛すべき女性や実の娘も奪われて、危険な殺し屋稼業として外国を放浪させられているというわけです。

草波キャラの配役は、『ワイルド7』ファンにとっては、本当にニヤリとしてしまう、まさにハマり役です。

jd097.主人公の魅力…【ジャン=ポール・ベルモンドのような愛すべき男】

主人公Jドールが超魅力的なのです。非情な殺し屋であるべきなのに、全くクールでもなく、全くハンサムでもなく、全くカッコ良くもなく。やたらと無駄にペラペラと口数が多いお調子者で、何よりも女が大好きという一見軽目の二流の殺し屋です。しかし、ここ一番の土壇場では、しぶとく戦い抜く奴。そんなアダルト作品によく似合った、愛すべきキャラクターなのです。そして、望月先生がこの作品に寄せた巻頭言を読んで驚きました。先生曰く「きっとJ・P・ベルモンドが三度笠をかぶったら、こんな調子になるんじゃないかと思いながら」描いたとのことなのです。おぉ!と喝采をあげてしまいました。僕が大々好きな、愛すべきフランスの大俳優ジャン=ポール・ベルモンドをイメージして描かれていたとは! きっと望月先生は、ベルモンドとかフランス映画がお好きなのですね! 

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それは超嬉しいです!僕はベルモンドの映画は60作以上観ている程の大ファンなのです。本稿、ここから僕個人の映画趣味の、あくまで妄想の世界に浸らせていただきます(笑)ジャン=ポール・ベルモンドは、昔のフランス映画界の国民的スターで、名作出演が多く、アクション、コメディ、シリアス、戦争物となんでもこなす幅の広い大俳優です。望月先生は、どのあたりのベルモンドをイメージされていたのかしら。Jドールの年齢やファッションや、作品自体がアクションものであることを考えると、「華麗なる大泥棒」(1971)あたりのベルモンドが、かなりしっくりくる様に思います。偶然にも、どちらも波止場で船荷のコンテナに飛び移るアクションが出てきたりしますし。

Jドールがお調子者の女好きであることを考えると、(ベルモンドはその手の役どころが多いですが)「交換結婚」(1972)あたりを思い浮かべます。偶然にも、どちらも入院シーンが出てきたりします。そうかと思えば表紙では、本編の中では見られない蝶ネクタイをした渋いJドールのスーツ姿。こういうダンディな姿は、「薔薇のスタビスキー」(1974)とか「追悼のメロディ」(1976)での円熟ベルモンドを思い出させます。第5話の中では、脇役のセリフにアーシュラ・アンドレス(初代ボンド・ガール)の名前が出てくるのですが、彼女は昔、ベルモンドの公然の恋人だった女優なのですから、これも面白い偶然です。

jd10こうなると、僕の妄想はますますエスカレートしていきます。『優しい鷲JJ』の乗寺飛浪の中折れ二丁拳銃の射撃ポーズのカッコ良さは、ベルモンドの傑作「ラ・スクムーン」(1972)の射撃シーンを彷彿とさせるとか、同じくJJの「アフリカの星」の話では、「相続人」(1972)に出てくるエピソードをイメージできるとか、もう偶然の関連が色々です。これらは、自分が見たい情報が見えてしまうというカラーバス効果的な妄想ですので、笑ってお許し下さいませ。(笑)

昔のフランス映画は、それがアクション映画であっても、どこか影の様なものがあって、そういうところが僕はとても好きなのです。そして僕が一生大好きな望月作品の中にも、そういうフランス映画のエッセンスが、少しでも融合していたりしたのなら、これから望月作品を読み返してみて、また一段と味わい深く楽しめるのではないかと思ったりしています。

はい、僕個人の映画趣味はここまで。(笑)

8.おわりに…

最初に書いた様に『Jドール』は、たった1冊、300ページあまりのJ作品です。そこに、縦軸として、8編の面白いストーリーが収められています。そしてさらに横軸として上述の7つの魅力が描き込まれているのです。たったの300ページあまりですよ!よく1冊の中に、これだけの縦軸、横軸のサービス要素を、惜しげも無く詰め込んだものだと思います。これ程のネタ、1冊だけで終わらせてしまうのはもったいないと思うのですけれど。

まさにいつでも全力投球で、読者へのサービス精神に溢れている望月作品だと思います。はたしてJドールは、生きて日本の土を踏めるのか。愛する家族と幸せに暮らせる日はおとずれるのか。・・・・・家族と暮らせる様になっても、女好き過ぎて、トラブルが絶えなかったりして(笑)
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Jドール

1980年 月刊グッドコミック(少年画報社)8月1日号新連載(創刊号)

1981年 コミック54(少年画報社)(6月15日初版発行)全1巻

1988年 ハードコミックス(大都社)(7月1日初版発行)全1巻

★追記★
現在『Jドール』は電子書籍・eBookJapanで購読する事が出来ます!
http://www.ebookjapan.jp/ebj/book/60013923.html


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是非、月刊望月三起也事務局までメールを送ってください。
お待ちしております。
info@wild7.jp

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望月先生のコメント
【望月三起也先生より】
私の中で『成人向け』という内容のものがありまして、『マッドドッグ』がそういうタイプの初だと思いますが、若いころは少年漫画というものにこだわって、そのマッドドッグも望月三起也ではなく別にペンネームを使ったくらいで、望月三起也イコール少年誌だったのですよ。
ところが、いざ成人向け作品をやってみると、少年誌ではタブーなことがアイデアとして使える。これは魅力でした。私は新しいもん好きですから、そういったものにすぐ、のめり込むわけでして、そのうち「別にペンネームを使うこともないか・・・・・」、漫画という括りの中で読み手は色々、少年、青年、ミドルエイジから女性に至るまで、それぞれの年代向けも面白いとノッてきましたねぇ。
そうなると色っぽいシーンも成人向けには欠かせない。少年誌では添え物程度の登場だった女性だから、まァ一応女の子に見えるレベルの描き方。むしろ出来るだけ登場させないストーリー構成だったのですが、青年誌ではそうはいかない。色っぽいシーンも売りですからね。それでまァ、女性を描き出したのですが、これがなんとも意外に“アタリ”だったンですねぇ。苦手としていたはずの女の子、描いてみると、描けるじゃないですか。

中学生のころ、大人のサークルへ潜り込んで裸婦デッサンって、絵の基本中の基本をやってたのが生きたようで・・・・・ 何事も基本を疎かにしちゃいけませんね。
私の人物の基本は小学生のころ、ある彫刻家の先生のところへ週一で通ってその基礎を教わったこと。と、この裸婦デッサンサークル。
やっとくもんですねぇ。

私は個性を大切にというのがモットーですから、漫画家の模写(似顔絵描き)って、やってません。
手塚治虫大先生大好き小学生の私、手塚先生の『新宝島』って作品を見て漫画家を志したのですが、作品は好きでも、その作品も絵のタッチも真似たらその人を抜けないって、生意気にも思ったわけです。私の中で手塚治虫先生は神なんで、抜けるとは思えないンですが、ガキのころから個性大事に“俺”を主張してきたイヤなガキだったようで・・・・・ と、前置きが長いね。

『Jドール』、細かく見てくれてますねぇ。料理のレシピどころか素材の産地まで見抜かれてる。それも上手に褒めてくれて嬉しいねぇ。
ほとんど私の言うところはないのですよ。凝って舞台を外国にしたところ・・・・・ 私は純日本人、ハマっ子(横浜生まれ)ですから古い男の良さを描きたい。小道具も江戸を思わせるものを使って・・・・・ と他にも凝った作品で、自分でも気に入っている作品の一つです。が、こうまで分析されるとはねぇ、鋭い!
と同時に、ここまで打つ手を喜んでくれるとは幸せなことです。
また、続編でも描きたくなるなァ。



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