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作品紹介

第42回

風 〔続・風〕

執筆者:   2012 年 4 月 4 日

激動の時代に翻弄されながらも、己の腕と経験から得た知恵で生き抜くサムライが、亡き友人の娘と旅するチャンバラ活劇。 続編も描かれた望月イズムのたっぷり詰まった傑作です。

Gunアクション・・・・ 望月先生にとってこれは代名詞、望月漫画に於けるアクションに銃は必要不可欠であることは誰もが認めるところだろうが、実は先生、チャンバラ・アクション、刀が武器の時代劇剣術活劇も大好物なのだ。
望月三起也作品で名の知れた時代劇長編と言えば、幕末を生き急いだ実在の集団、新撰組を描いた『俺の新選組』くらいかもしれないが、短編は数多く発表している。
今回はそういった多くの時代劇作品の中から、私の大好きな作品である『風』とその続編『続・風』をご紹介してみよう。

初出は1970年週刊少年チャンピオン(秋田書店)12月7日第33号、読み切り40ページで「風」は掲載された。
少年チャンピオン1969年7月に創刊後、初連載にしてヒット作となった『はだしの巨人』連載開始の2年前、望月先生チャンピオン誌初登場だった『探偵ロク』に次いで執筆されたのがこの「風」である。

中年のおやじ「五代十兵衛」とまだうら若き10代の乙女「ユキ」の二人旅で描かれる時代劇アクション。
時代設定である幕末を巧妙に利用したエピソード作りによって新感覚な時代劇を堪能できる。
さて、そのストーリーであるが・・・・・

その権力を失った徳川幕府と解体に向かう武家社会、時は明治と年号が変って間もない頃、元徳川家旗本の五代十兵衛は亡き友の養女ユキと旅の真っ最中だった。ユキの真の父を探し出し邂逅させると、友と交わした約束を果たすべく十兵衛だが、すでに消滅してしまった武士の誇りを大上段に構える十兵衛であるがため、その日の食にも事欠く有様であった。
そんなとき、旅先で出逢った旗本仲間から邸宅へ招待を受けるが、現在貿易商として生きる彼の反勢力によってその夜、ユキが誘拐される。敵の組織に単身、刀のみで殴りこむ十兵衛に助っ人はいない・・・・・ 時代の新たな風の中、心の中に吹く風は・・・・・


とにかく素晴らしいのは、そのキャラクターの立ち方、生きたキャラクターの存在である。
まァそもそも、望月作品に於いてキャラクターの立っていない作品を探し出すこと自体が難しいのだが、この『風』のメインキャラクターである「五代十兵衛」と「ユキ」、そして悪役を含めたサイドキャラクターのどれを取っても死役が存在せず、ちょっと出の名も無きキャラクターまで出色の個性を発揮してくれる。
当然のことながら主人公である中年キャラクター十兵衛は特筆物で、少年漫画の世界にてむさい中年男を主人公にするという担当記者からすれば冷や汗ものの冒険をやってくれているのだが、この時期望月先生は好んで各誌にて、こういったキャラクターを送り出している。
まず最初は『ダンダラ新撰組』に於ける「千兵衛」であっただろう。この作品で、少年ジャンプ第1回愛読者賞を受賞したことに気をよくしたのか先生(笑)、次々とタブー的中年キャラクターで暴れ続ける。
週刊少年サンデーにて『突撃パリとうちゃん』で「ハム」を送り出し、パリの街を銃撃戦で熱くし、このチャンピオン誌ではアフリカくんだりまで着流しで出向き、闊歩し、主人公を喰ってしまうキャラクター「畑 権太」をお披露目する『はだしの巨人』の連載が始まる。
まさに縦横無尽、天衣無縫(笑)、大暴れである。

今作「風」に於ける十兵衛は武士としてのステータスである徳川家旗本の威光と矜持、自尊心、誇り・・・・・ それらを忘れられず維新の波に呑まれていく姿をみせてくれる。その反面、この国古来から積み上げてきた日本人としての精神文化を武家消滅の中でも簡単に失うものではないことも体現してみせてくれるキャラクターを演じさせている。
この部分に我々読者の心を惹きつけて止まない魅力を内包し、熱くさせてくれるのだ。
決して若くなく、体力の衰えを口にする中年男の言動によって、沈みゆく太陽=徳川幕府の凋落と重ね合わせるように、変わりゆく“風”を描き、物語りは構成されていく。
思春期を迎えていた多くの読者たちは、この作品を手にしたとき、言葉で言い表わせられるほど理屈なんて理解できずとも、日本人のDNAに刻み込まれたこの“風”を感じ取り、時代に吹かれる中年キャラクターに胸を熱くさせられたのだ。

加えてこの十兵衛、どうやら剣の腕はそれなりだが、信じられないことに前述したように体力の衰えを何の抵抗も無く口にする。少年漫画作品としてハナから自分の弱点を開示しているキャラクター、ヒーローなど有り得ず、これもまたタブーのひとつであったはずだ。
しかしこの息切れ中年十兵衛、不足してしまった実力部分は知恵でカバーするカッコ良さ、ここに少年漫画の王道を組み込んでくる。如何なる状況下にあっても、前しか向かない、必ず克服する!「決して諦めない!」というやつだ。
カッコいいねぇ。
でも、前しか向かず知恵も使わず飛び道具包囲の敵陣に、二本の脇差持っただけで飛び込んで行っちゃうなんて無茶もしてくれる。これもまた王道だねぇ、望月漫画は本当に漫画の教科書だ。

カエルぷろと縁の深いギャグ漫画家「ばらさかき」氏がモデルであろう雑魚キャラ(笑)



この中年キャラクター十兵衛と戦うことになる敵キャラもまた個性満点、強くていやらしい。
まァ、極端な話、敵キャラというヤツは主人公よりも個性強烈で強くて、ある意味魅力的でなくてはならない。そうでなくては主人公が引き立たないのだ。望月漫画に於ける敵キャラというヤツはドブ臭いほど一見して見分けのつく外見に台詞回しで迫ってくる、変化球など投げたことがない。数多い読み切り作品、そのどの一作でも決して手を抜くことなく作り上げられる敵キャラの素晴らしさはこの短編でも際立っていて、「風」、「続・風」共に秀逸、主人公十兵衛を向こうに回して見事な敵役を演じてくれる。
そこに絡んでくる雑魚キャラたちにも捨てキャラはない、きちんときれいにメインキャラクターたちに絡んできてくれるのだ。
こう言っては先生に叱られる覚悟で言うが、登場人物の中で最もキャラクターとして立っていないのは、主人公十兵衛と旅するメインキャラクターの一人、『ユキ』であるかもしれない。
彼女の成している主要事項(?)は、お色気担当・・・・・ くらいのもので・・・・・ (苦笑)
だがしかァ~し、この色気がまた只者じゃァない、2次元を超えた感覚で読者に迫ってくるのだから当時思春期真っ只中だった私らは作品を読む目が、ユキが出て来る度に止まるのだ。物語の流れを阻害している、なんとも宜しくないキャラクターだったのだ(爆)。
が、言ってしまえば、右も左もわからない新人女優ユキを際立たせるために、脇をベテランで固めた、お色気で目立ってくれれば充分、よくあるそういった映画という風情かな。

ところでこの『ユキ』という名だが、望月先生のファンならば決して忘れることのない名として浸透している。「ワイルド7」のみそっかすユキ・・・・・ 足掛け11年という長きに渡って連載をし名作の誉れ高いその作品ラストで、主人公飛葉を救うがために己が命を投げ出した名シーンがファンの脳裏には焼きついているはずだが、もしも同じ女優のユキならば、いやはや名女優と成長してくれた訳だ。

毎度のことながら、読み切りという少ないページの中で、物語を構成する必要要素がコンパクトに無駄なく調理され熱々(あつあつ)の状態で読者に提供される。そう、この「熱々(あつあつ)」が最も大切で、最も驚くべきものとなっているのが望月漫画なのだ。
言ってしまえば「古くならない」、いつでも新鮮さを失わず、発表時を知らない若い読者にも熱々状態を提供できるのだからその作品の完成度の高さは半端ではない。我々古いファンにとっては10年単位の時間が経過していようと新たな想いで読むことが出来るという奇跡がここにある。
それはなぜか?
普遍的なテーマである正義であったり、友情、絆、希望、挑戦などなど、頑固一徹よそ見は一切しない作風を一途なキャラクターに背負わせて送り出しているからだ。
例えるならば漫画の金太郎飴だね。←違うか?(朝が近くなってきている時間に書いているのだ、訳の判らんことも書くだろうと許容してくれると有難いのだが・・・・・ 苦笑)

この(私の思う)傑作シリーズ、2007年よりぶんか社によってワイルド7完全文庫版刊行から始まった望月作品の新規編集出版。その一連の作業の中にて担当編集者によって、『ダンダラ新鮮組』=短編読切時代活劇選集=に収録されることで、初出から7年後の単行本併録から32年という時を経て再び表舞台に登壇、ファンにとっては正真正銘、待望の刊行となった。
古くからのファンにとっては懐かしく、新たなファンなら知られざる望月作品の魅力に触れていただくためにも、ぜひお手にとっていただきたい。
その面白さは、私が保障させていただく!

『風』
1970年 週刊少年チャンピオン (秋田書店)33号掲載
『続・風』
1971年 週刊少年チャンピオン (秋田書店)19号掲載

1977年  パワーコミックス(双葉社発行)『ジャパッシュ』併録
2009年  ぶんか社コミック文庫(ぶんか社発行)『ダンダラ新鮮組』=短編読切時代活劇選集=併録

2012.4 JUN/アスカ 記

※資料協力 マンチュウ氏






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望月先生のコメント

中年キャラクター・・・・ 多分、自分が中年になって心理的にも描きやすかったんだと思うね。

確かに少年誌の主人公は、読者の共感得やすい同年代の方が人気が出ると、安易に考えやすい。そこがへそ曲がりの私、ドラマチックな舞台に読者を引っ張り込めば“歳の差”なんて!って言うのが私の生き方。そんなパワーで描きまくっちまうんですね。
そういう時の絵の方、今見返してみて「おォ、おォ~、そう来るか」、そういう描き方あるんだと、変に一読者に戻って楽しんでます。

プロは読者あっての立場、常に読者を意識してなくちゃいけないと、編集の方々に言われ続けてきました。が、どうも私、自分が好きなモノは読者も好きなモノと平気で思い込む。性格的に困ったヒトなのかもね。
つまり、ほとんど、どう思われようと俺はこう描きたい!ってだけで突っ走って来たようで、この一作も好きな時代劇と殺陣(たて)に、工夫は銃撃シーンを交えたところかな。

主人公のキャラクター、実は頑固な時代遅れの正義漢。
私の描く中年キャラクターは共通してます、不器用な世渡り下手って、ほとんど私のキャラですから描くのが楽なんですねぇ。

ヒロイン「ユキ」は、敵役ほど個性がないとアスカ君は言っとりますが、お色気担当、いいじゃないですか。辛すぎしょっぱ過ぎはよろしくない、甘さが加わって美味しくなるのですよ。

実は女の子描くって、ポーズを作るのに時間が掛かるんです。
綺麗な色っぽさを作りたい、品の無い色気は避けたいからデッサン何度もやり直す。
線(描線)は微妙、一本のタッチで嫌らしくもなるんですから。

今回はこれを含めて、ヒロイン特集みたいですねぇ。




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コメント/トラックバック

  •  ばらさかき :
    初めまして ばら、さかきです 
     三起也先生とは よくあってます パソコンにがてなので
     今度会いましょうか?あすかさんとは初対ですね 
     羽沢に住んでます 先生とは52年の付き合いに
     なります 私の電話番号は先生にきけばわかります
     パソコンはやだ。。。。。。。
  •  ばらさかき :
    初めまして ばら、さかきです 忘れてた名前を名前を思いださせてくれてありがとう 望月先生
  • JUN :
    ばらさん、アスカです。
    何言ってンですか、“あの”ばらさんでしょ? ほんっとにお久し振りです。
    お初じゃないですからね、まったくも~、あまりに長い時間が経過したからって、忘れないでくださいよォ。

    詳細は個人メールにて送っておきましたんで、そちらを読んでくださいませ!

    連絡、ありがとうございました。

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