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作品紹介

第81回

新・最前線 ワンプカプカ

執筆者:   2016 年 3 月 13 日

苦境にも決してくじけることのない「佐藤」や、曲者「サム・雷田」が活躍するもうひとつの二世部隊ストーリー。

w00太平洋戦争が始まった1941年、連合軍は真珠湾攻撃をした日本軍がまずハワイに上陸して来ると考え、もし攻めて来た場合に日本軍とアメリカ国籍を持っている「日系二世」と区別がつかないのではないかと懸念し、徴兵制を理由に日系二世の高校生たちをアメリカ本土へ送還しました。

そして作られたのが、「ハワイ出身の日系二世だけで編成された部隊」つまり「第100歩兵大隊(ワンプカプカ)」でした。

『ワンプカプカ』の意味はハワイ語で「ワン」は「1」、「プカ」は「穴」または「ゼロ」、「100」だから『ワン(1)プカ(0)プカ(0)』という事です。

これまで、『二世部隊物語(約束)』『悪一番隊』『白い罠』と「日系二世」が主人公の望月作品をご紹介してきましたが、今回ご紹介します『ワンプカプカ』は、これまでの望月先生のミリタリー作品の集大成といってもいいと思います。

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w06お得意のアイデアとウエポンの特性をうまくし複合させつつ、人間模様を巧みに織り交ぜ、戦争の非情さ、無情さ、残酷さ、人種差別などを漫画でリアルタッチに表現していると言えるのではないでしょうか?そして決してストレートではありませんが、戦争を二度と繰り返してはいけないという反戦というメッセージが強く込めれられた作品だと思います。

あらすじは、最前線に送り込まれた主人公「マイケル佐藤」、「サム雷田(さむらいだ)」他、『ワンプカプカ』達が同じアメリカ国籍を持ちながら白人兵から差別と裏切りを受け続けながらも、俺たちは「アメリカ人だ!!」という誇りを持って、ひたすら再び故郷ハワイの土地を踏む事だけを願って戦っている儚くも悲しい物語です。

w04戦場の舞台は、ある時はフランスの田舎村、またある時は孤立した山岳部にそびえたつ古城、アフリカの密林など、苦境の中で戦友たちが次々と砲弾に倒れる中で、アメリカ兵であるという誇りを捨てず、それでいて生粋のアメリカ人では考えつかない、体の中に半分流れる日本人としての「大和魂」と「侍精神」それと「とっぴなアイデア」で困難な場面を切り抜けていきます。

さて、今回のミリタリーウエポンはドイツ軍の「88ミリ砲」と「ユンカース(Ju52)」です。まず88ミリ砲ですが、『ワイルド7/首にロープ』で、セブンレーラー2号に搭載された事がありますので、望月マニアには既にお馴染みのウエポンですね。

w0788ミリ砲の最大の利点は4キロ先の標的も狙える事が出来て、アメリカ軍のシャーマン戦車などのどてっぱらにも簡単に穴をあける事が出来るところです。簡単に説明しますと、戦争映画『フューリー』の戦闘シーンにおいて、ティーガーⅠ戦車がシャーマンのどてっぱらに簡単に穴を空けていました。あのティーガーの砲身が88ミリ砲なんですね。ドイツ軍はついに戦車に88ミリ砲を搭載し最強の戦車を作ってしまったのです。ただ、そんなティーガーにも弱点はあるのですが…。

この作品でも向かうところ敵なしの88ミリ砲を如何に攻略するかは読んでからのお楽しみ。毎度の事ながら望月先生のアイデアには脱帽です。次に後半の陰の主役とも言うべきはドイツ空軍が誇るユンカース(Ju52)です。『eddy-s Collection`s vol.3/ミニカー・模型コレクション(ドイツ編)』でご紹介した事がありますので、ご一読された方はご存知かと思います。

w02ドイツ空軍の兵士たちからは、Tante Ju(タンテ・ユー =「ユーおばさん」の意味)と呼ばれ親しまれていました。ホーム社刊の文庫本『二世部隊物語(7)』のP190で、マイケル佐藤が「がんばってくれ、ユンカースのおばさん!」というセリフがありますが、この愛称の事です。本来ドイツ空軍の輸送機ですが、多分戦利品として連合軍の持ち物となって登場した物と思われます。

『ごくろう3』では活き造りのように解体されていましたが、今回も途中ドイツ軍から攻撃され次第に機体がボロボロになりながら、最後の最後まで役に立って、最後に戦友としてマイケル佐藤が敬意を表するのも頷けます。あと、ミリタリーウエポンではありませんが、「西洋鎧」と「ゴンドラ」が大活躍します。西洋鎧は『ワイルド7/バイク騎士事件』で悪役側の武装兵器として登場した事がありますが、今回はまた違った登場方法で連合軍側の兵器として役に立ちます。


w03ゴンドラは『ワイルド7/谷間のユリは鐘に散る』で有効的な登場をしていましたが、今回はさらに本来の使用方法をうまく利用した活躍で小火器ぐらいしかない状態でゴンドラを使用して、キングタイガーの編隊を見事撃退します。

そしてこの作品が連載されていたのは白泉社の『月刊コミコミ』という雑誌なのですが、連載開始前の予告がすごい!!
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通常、次号から始まる作品の予告は当然ありますが、小さいものから大きくても雑誌のB5サイズ一杯が限界(例外としてワイルド7では見開き1ページという時もありましたが・・・)で、いずれも白黒ページでした。

しかし、この『ワンプカプカ』の予告は何とカラー1ページ!!しかもこの為だけに書下ろされたものだと思われ、その後一度も単行本等に使用された事がありません。さらに別の白黒予告ページでも書下ろしの違う絵でやはり他では使用されたことが無い貴重なもの。

「コミコミが変わる熱く厚くなる」

この煽り文句でもわかる様に、『月刊コミコミ』がいかにこの作品に力を入れていたかが伺えます。

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新・最前線 ワンプカプカ

連載時のタイトル『愛と青春の百大隊(ワンプカプカ)』

1984年6月~1985年6月 月刊コミコミ(白泉社) 

1993年 大都社STコミックス 新・最前線ワンプカプカ
(番外編「血の日曜日」併録)

ホーム社漫画文庫版「二世部隊物語愛と青春の100大隊」
(6)の話数のみ収録(10月5日初版発行)

2001年 ホーム社漫画文庫『二世部隊物語(6)(7)「愛と青春の100大隊」』(ホーム社)(2月21日初版発行) (7)で文庫本初収録8話分あり

「ワンプカプカ」は『eBookJapan』でも購読可能です。

ホーム社漫画文庫版「二世部隊物語愛と青春の100大隊」(6)の話数のみ収録

『eBookJapan』でも購読可能です。コチラまで。

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望月先生のコメント
【望月三起也先生より】
ワンプカプカ・・・・・ 懐メロですねぇ。
この作品の出版元に白泉社さんやホーム社さんがあったなんて。二世部隊シリーズはすべて少年画報社で、なんて私、思い込んでたんですねぇ。
何十年か経って、気付かされました。

『二世部隊』、私、好きなんですねぇ。なぜかって?

当時、アメリカって国の中で、二世と言えど日本人、日本人同志は戦わないのではないか? と、アメリカ政府のお偉いさんは考えたンですね。アメリカって国に忠誠を尽くすかどうか問う“忠誠登録”なんてものがあって、「アメリカ人です」といえる日系人のみで部隊が作られたわけ。差別です。
アメリカには敵対するドイツ系もイタリア系も日系よりも多くいたのにね。
日系人だけを一塊にした部隊を作って、将校クラスは白人を任命し管理してたンだね。
後に戦闘能力の高さと優秀さから日系人の将校も任命されるようになるのですが。

つまりこれ、現在の学校、教室内のイジメと同じですよね。二世部隊の兵士はイジメにもめげずパワフルに戦った。
そこが好きなんです。

また私、作品描くにあたって、自慢じゃないけどドイツ側兵士の制服や兵器などの資料がそこそこ揃えてあった。しかし、さすがに描き始めのころは今のように資料があった訳じゃなく、作品を見返すと恥かしい。
あのころ、ファンからのハガキに手描きの資料が届くようになり、これは有り難かったです。
同じドイツ軍でも『SS(ナチス親衛隊)』と『国防軍』の制服の違い、袖のバッジ、SSの階級章は?・・・・ その辺りを絵に描いて送ってくれて。一級の資料ですね。

そういう運の強さもあって、私の中では『ワイルド7』『新選組』もの、そして『二世部隊シリーズ』は、気分が乗って描いた作品BEST 3でしょうか。
eddy-sさんも、Tante Ju(タンテ・ユー)なんて、マニアックだなァ。



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